ウォームの習性とは
「ねーお兄ちゃん、そのウォームってどんな時に地上に出てくるの?」
「俺も聞いた話と本で読んだことしか知らないけど、日頃ウォームは地中で魔力を吸い取りながら生きてる。いつも穴を掘っているのは地面の下で魔力の濃い場所を探してるらしい」
「穴掘って進むなんて面倒くさそー」
「ウォームは生まれつき穴掘りの魔法が使えるのさ」
「土魔法みたいなモノ?」
「そうだろうな...自分の前にある土でも岩でも魔法で溶かして吸収しながら進むから、進んだ後にはトンネルが出来る。そして、たまに獲物の気配を頭上に感じると喰おうとして地上に姿を現すらしい。だから犠牲になるのは放牧されてる牛や羊が多いそうだよ」
「じゃあさー、そのトンネルを見つけて歩いて行けばウォームに辿り着くってコト?」
「おおっ、それだパルレア!」
「ピクシーの狩人は地上で遭遇してるんだから、その場所にはトンネルの出入り口が有るよな?」
「だな! そこから中に入り込めば絶対にウォームに辿り着けるはずだ」
「えっと、その、ヌメヌメしてネバネバした巨大ミミズのトンネルの中に入るのですか御兄様?」
シンシアの顔色が猛烈に悪いな。
と言うか泣き出しそう。
「それにライノ、そのトンネルが崩落したらヤバいんじゃ無いのか?」
「あんまり深いところまで行かなければ防護魔法でなんとかなるだろう。それにウォームは大型の動物が地上を歩くときの振動を察知して獲物を見つけているらしいから、そんなに深いところには行かないような気もするんだ」
「なら大丈夫か。でも俺はドラゴンの姿じゃトンネルに入れないだろうから、中での戦闘はライノにお任せになるかもしれんぞ?」
「いや、トンネルに入るのは俺一人でいいよ。真っ暗だろうし、誰かが周りにいたら光魔法で足下を照らしたりしないと進めない。光を灯していると近づく前にウォームに察知されると思う」
「暗いのはライノだって同じだろ?」
「俺は真っ暗闇でも気配だけで動けるから問題ないよ」
「凄いな勇者」
「いや、これは破邪の修業で得た技で、逆に周りに人がいると使えないんだ。だから一人で入る。それに暗くて狭いところで複数が刀や魔法を振り回したら、うっかり同士討ちになりかねないからね」
「まあ、それもそうか...」
「それでは現地までは皆で行くとして、私と御姉様とアプレイスさんは地上を警戒して、トンネルの中に入るのは御兄様だけということでしょうか?」
「アタシは革袋に入って一緒に行くー」
「ダメだよ。誰かと言葉を交わすと集中が途切れるからね」
「ちぇー」
「シンシア達には周囲を警戒しいて欲しい。ウォームが一匹とは限らないし、他の邪魔が入ることだってありえるからね」
「はい、御兄様!」
シンシアの顔色が少し良くなったな。
「じゃあラポトスさん、俺たちは魔力が回復次第にでも、そのウォームに攻撃されたって場所に行ってみたいので、現場を知ってる狩人さんに案内して貰えますか?」
さすがに今日は無理だな。
少しでも魔力を回復しておかないと戦うどころの騒ぎじゃ無い。
それどころか、シンシアの魔力収集装置が無かったら、きっと一週間くらいはここでノンビリさせて貰うことになってただろう。
「はっ、それでは勇者様方にアレを退治して頂けると?」
「ええ、約束は出来ませんが、そのつもりです」
「ありがとうございます!」
「いえ。で、ウォームの目撃場所まではみんな一緒にアプレイスに運んで貰えばいいので、そのつもりでお願いします」
「かしこまりました。すぐに集落に戻って準備をさせます」
「ライノ、あの輿をまた使おうぜ。ピクシーの連中には背中をウロウロされるより箱の中にいて貰う方が面倒が無い」
アプレイスは、根本的にピクシー族が突拍子も無いことをやらかす連中だって認識なんだな。
「それで、御礼はどのように用意すればよろしいでしょうか? あいにくピクシー族は外界との交流が希薄で金銀貨幣の持ち合わせは少のうございますが、勇者様の仰る通りになんなりとご用意致します。一代でなせぬ事であれば、子、孫に受け継がせてでも必ずや!」
「え? いやいやいや、御礼なんか貰う訳ないです。勇者は破邪とは違うんで、金銭で討伐を請け負ったりしませんから」
「しかしそれでは我々の感謝の気持ちをどうお伝えすれば良いのか...」
「感謝されるならそれで十分なんです。報酬とか御礼の品とか、そういうのは忘れて下さい」
「あのね、お兄ちゃん...」
「ん? どうしたパルレア」
「えっとね、御礼とかじゃ無いんだけど、ピクシーの人達に用意して貰えたらなってモノがあって...もちろん対価は払うから」
「なんだ? とにかく言って見ろよ?」
「えっとね。この身体に合う服と肌着が欲しいの」
「ああ!」
あー、そういうことか・・・そりゃもっともだ。
しかも完全に忘れてたけど、顕現したときの事情でパルレアはいま肌着を着けてないんだった・・・ごめんな。
幾ら中身が大精霊でも、ガワは普通の人族の身体を錬成しているのだから服は必要だし、魔力の余ってるドラゴンみたいに、複雑な構造の服を創ることに毎回魔力を使うなんてのも馬鹿馬鹿しい。
パルレアの言葉を聞いたピクシーの女性が二人、列の中からさっと進み出てラポトス氏と目配せを交わし、こちらにやってきた。
「大精霊様、すぐに衣服をご用意致しますので、失礼ながらお体の寸法を測らせて頂けますでしょうか?」
「え、いいのー?」
「もちろんでございます。いえ、光栄でございます!」
「わーい、お願いしまーす」
「かしこまりました。ではこちらへ」
進み出てきた女性がパルレアを誘導して隣の部屋へと連れて行った。
『小さくなったパルミュナ』が、同サイズの女性に両脇を付き添われて歩いているのはシュールな光景だ。
これがお伽話だったら、はぐれた同族に出会ったみたいな感じかな?
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少しだけ細かな段取りを話した後に解散し、キャランさんから宴会の準備が整ったら声を掛けると言われて俺たちは借りている部屋に戻った。
ともかく・・・問題はウォームだ。
「浮かない顔をしてるなライノ? さっきのウォームの話か?」
「ああ。エルスカインに関係あるってのは確定だとしても、なんでウォームがこんなところにいるのかってのが気になる」
「さっき言ってた『犀』ってのも南方大陸の産なんだろ? だったら同じように武器って言うか兵力として連れてきたんじゃないのか?」
「仮にそうだったとしても、アプレイスならエンジュの森で何を攻めると思う?」
「うーん...」
相も変わらずエルスカインのやることは一貫して『目的が良く分からない』っていうのが気に入らない。
「それにな、ウォームってのは肉食で凶暴だけど普段は地中にいて、家畜みたいな大きな動物がすぐ上にいると察知したときだけ襲ってくる魔獣だ。熊や虎みたいにそこらをウロウロして縄張りの中にいたものには問答無用で襲いかかってくるって言うのとは違うんだ」
「でも支配されてたら?」
「それはアプレイスの言うとおりだな。ただ、ウォームは陽射しの下にいることを嫌うって聞いてるから、兵力としては使いにくそうだけど」
「地面の下から奇襲できるなら攻城兵器にはなりそうだけど、どうだろう?」
「城攻めか...確かにな」
「いや自分で言っててなんだけど、エンジュの森で城攻めはないな!」
「なにか別の使い道があるんだろうさ。それと本で読んだ限りだとウォームは簡単に防げるそうだ。奴らは地面を伝わってくる振動で餌を探すから、音や振動のノイズを嫌うらしい」
「へぇー」
「南方大陸でウォームの棲む地域にある牧場とかは、柵の周りに風車を立てたりすることで四六時中音を鳴らして近づかせないようにするらしいな」
「風車で音を?」
「風車を動力にして、棒かなんかで地面を叩き続けるんだそうだ。もともとウォームの棲む地方は乾燥地帯だから、水車より風車の方がいいんだってさ」
「御兄様、他の魔獣達のように兵器として使役されていないとすれば、地下のトンネルを掘らせること自体が目的ではないでしょうか?」
「その可能性はあるな。出来上がったトンネルを何に使う気かは分からないが」
「トンネルか。つまり洞窟だよな」
「ええ、長い洞窟ですね」
「だったら元々ウォームが棲んでる地方じゃ、長い穴を掘らせてなにかに使うとかって事はしてないのかライノ? 地下に宝物庫を作るとか?」
「そもそもウォームは、エルスカイン以外に使役できるようなモノじゃないと思うよ。超巨大な虫みたいな魔獣だし」
「それもそうか...」
「現地で、なにか手掛かりになるモノが見つかれば良いのですが...」
そうなるとウォームは兵器じゃなくて土木作業員って事なるのかな?