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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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気配を隠す手段


「どうぞ!」


ノックに返事をすると、キャランさんとパリモさんが数人の少年少女と一緒に・・・って言うか、俺の目から見たらキャランさんとパリモさん含めて全員が少年少女にしか見えないんだから若いとは限らないな・・・


まあとにかく里人らしき男女を連れたキャランさんとパリモさんが入ってきた。


部屋に入った一同が俺たちの前に並び立ってお辞儀する。

エルフ族以上に年齢が分からないけど、この人達は里の重鎮とかだったりするんだろうか?

だとしたら、別にワザワザ感謝なんか言いに来なくて大丈夫なのに・・・


「アプレイス殿、勇者殿、妹君殿、さきほど魔獣が押し寄せてくる理由について話されていた時に、その原因となっている魔法陣を潰すというような事を仰っていましたな。それが危険だということも口にされていたかと思います」


「ええまあ...」


「実はあの後、里の長老数人も集めて相談したのですが、私らにも、なにかお手伝い...いや、本来は自分たちの里の事です。自分たちでやらなければならない事を皆様のお力に縋ろうとしている状況、せめて私らにも同道させていただき、僅かな手伝い程度でも出来ないかと考えたのです」


「キャランさん、お気持ちは本当に嬉しいんですけど相手が悪すぎるんですよ。原因となった魔法陣を設置しているのは恐ろしく邪悪で強力な魔法使いです。一緒に来られた方の安全はとても保証できません」


「勇者殿とドラゴン殿が共にいて、なお危険だと仰るほどの相手です。それは当然でございましょう。ですが、このまま皆様を見送ったのでは、私らはこの森と里を守ってきた先祖に顔向けできません」

「いやしかし...」

「これも我が儘とは存じております。しかし、私ら一族の誇りの為に、どうか、この者たちの同道を許可願えないでしょうか?」


それは、いくらなんでも危険すぎるだろう?


「うーん...」


実際のところ、この里の人に一緒に付いてきて貰っても意味があるのか?

いくら暗殺者のように気配を隠して素早く動けると言っても、彼らは只の里人・・・せいぜいが狩人だ。

戦闘経験なんかある訳無いし、そもそも今回は対人戦闘を想定してない。


「なあライノ?」

「なんだアプレイス」


「思ったんだけど、お前とシンシア殿が山に上がってきた時、俺は大精霊の気配に気が付いたんだよ」

「ああ、そう言ってたな」

「それにコリガンの里長(さとおさ)たちも、最初は二人の事を大精霊だと思い込んでた」

「うっ...」

「それがどういうことか、分かるよな?」


パルミュナと違って、まだ俺もシンシアも気配を消す事に長けてない。


これまでは、ほとんどの時間を俺が勇者だと知っている相手に囲まれてきたから気にしなかったけど、野に生きるコリガン族やドラゴンの様に気配に敏感な者たちにしてみれば、勇者の気配は精霊の気配とほとんど同じなのだ。


「そうか...精霊魔法を使わなければ罠を起動させる心配はないって考えてたけど、罠の起動以前に、そもそも俺たちが近づく事を感知される危険性が高いんだな...」


「そういうことだ。姉上みたいに気配を消せるならともかく、今のライノとシンシア殿じゃあ、長時間気配を消し続けている事は難しいんじゃ無いのか?」

「確かに...」

「牧場周辺が完全に無人のままならいいけど、ヘタをすれば魔力井戸に浸かってる最中に無防備な状態で露呈する可能性もあるぞ? つまり二人が『罠』の中心部にいる時に、だ」

「それは避けたいかな...」

「なら、コリガン族にも手伝って貰おうぜ」

「えっ!」


「彼らは待ち伏せ型の狩人だから、気配を隠して隠密に動く事に長けている。それに俊敏で、なにより種族の固有魔法で重いモノを平気で持ち歩けるからな」

「つまり?」

「さっきシンシア殿が作り直していたのは、元々が結界隠しの魔道具なんだろ? だったら、それを元に精霊魔法の魔力を隠すんじゃ無くて、『精霊の気配そのもの』を隠蔽できるようには作り替えられないか? どうだろうシンシア殿?」


「そうですね...少し時間を頂ければ...きっと出来ると思います」


「なら、その魔道具で二人の気配を隠してコリガン族に魔力井戸の真ん中まで運んで貰うんだよ。二人が自分で動くと気配が漏れ出る可能性が高まるからな」

「しかし...」

「魔力と気配は違うんだ。魔力を感じるってのは力の波動そのものを感じ取るけど、気配って言うのは『力』それ自体じゃ無い。魔法でも肉体でも、それによって乱された周囲の『気の流れ』を感じとるものだろ?」

「それは分かるよ」

「だから、やつらに精霊の力が存在してることを認識させない為には、ライノとシンシア殿はギリギリまで動きを控えるべきだな」


「そうなるか...」


「で、二人を乗せた板でも箱でも何でも良いけど、気配を隠したまま魔力井戸...要は、罠の転移門のど真ん中において貰う。シンシア殿の魔道具は内側の魔力や気配は外に漏らさないだろうけど、外からの魔力は入ってくるから魔力収集装置を動かす事には問題ないはずだ。これでどうだ?」


「理屈は分かるよアプレイス。だけど、コリガン族の魔法も察知される危険性はあるんじゃ無いのか?」


「そりゃ向こうの手札が分からないから絶対に無いとは言い切れん。でも、ライノとシンシア殿が自分で歩いて行くよりは安全だと思うぜ? シンシア殿はどう思う?」


「失礼ながらコリガン族は、かつてエルフ族から枝分かれした種族だと聞いています。ですから種族固有魔法と言っても人族の魔法である事に違いはありません。魔力そのものを検知されればダメですけど、精霊魔法やドラゴンの魔法と間違われる事は無いかと...」


「勇者殿、是非とも私らにその役目をお申し付け下さい!」

キャランさんがグイッと一歩前に踏み出した。


「本当に危険なんですよ。と言うか、俺たちと一緒でも生きて帰れる保証は出来ないんです!」


「先祖伝来の森を去らなければならないかどうかの瀬戸際に、何を迷う事がございましょうか? それに私とて里の若者を捨て石にする気はございません。生きては帰れぬかもしれぬと仰るのであれば、ならばこそ私が一緒に参ります!」


「そうですとも、私もご一緒します!」

パリモさんも一歩前に出る。

「コリガンの強みは膂力(りょりょく)では無く俊敏さです。女も男も同じように動けますから、子供を育てていない時は狩りに出る女もそれなりに多いのでございます」


「里長たち、そりゃダメだよ」

キャランさんとパリモさんが熱意を込めたセリフは、後ろに並ぶ男性の一人にアッサリ却下された。

「言っちゃあ悪いが、もう歳なんだから俺たちに較べれば力も速さも落ちてるさ。ここは俺たちに任せてくれ。それに万が一の時に里に長たちがいなくちゃ、みんなが困るよ」


見た目はまるっきり少年のままで、木々の間をムササビのように走り抜けたキャランさんでも、もう歳だから俊敏さが落ちてるって言われるのか?


コリガン族ってどんだけ・・・


「勇者殿、ぜひ俺たちを一緒に連れて行って下さい。ドラゴンさま...アプレイス殿に近くまで運んで貰えれば、その魔力井戸とか言うモノのある場所まで責任持って俺たちがお二人を運んでみせます!」


「ああ、そうだとも。狼の真横を通り過ぎても気が付かれないくらいに気配を消して動いてみせるよ!」

「お願いします。我々をお供に!」

「何があっても覚悟は出来ていますとも!」

「ええ!」


後ろの男女が口々に捲し立てる。

みんな自分たちの里と故郷の森を守る為に必死なのだ。

彼らの見た目が年端もいかない少年少女だなんて言う事は、他種族の目線で視た偏見に過ぎないのだろう。


「...分かりました。俺からも皆さんにお願いします。ぜひ皆さんの力を貸して下さい」


「ありがとうございます勇者殿!」


お礼を言うのはこちらのような気もするけど、そんなのは今ここで言っても詮無い事だな・・・


「よし、決まりだ。ここにいる六人のコリガンに俺たちと一緒に来て貰おう。で、先行して二人が牧場を偵察して怪しい影が無いかを確認する。問題無さそうなら残りの四人がライノとシンシア殿を運ぶって段取りがいいだろう」


「そうだな。もしも転移門の近くに見張りがいるようなら、一度撤退して別の方法を考えよう」


「その時は、間髪入れずにレンツの街とやらを急襲する事も考えといた方がいいかもな。ダメで元々だ、上手く魔力を収集できても出来なくても街の広場の井戸をぶっ壊す。エルスカイン側は混乱するだろうから、その足で牧場に戻って罠もぶっ壊せば奴らの計画を少しは遅らせられるだろう」


「確かに。しかし、アプレイスも良く色々と気が付いたな、助かったよ」


「ああ。やっぱり自分でも思うけど、この姿をしてる時の方が頭が回るもんだな! 力は無くても、人の姿をとっているのは悪くないぜ?」


なるほど・・・アプレイスが『考え事をしたい時に人の姿をとる』って言っていたのはこういうことか。

正直、納得だよ。


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