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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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罠の解除方法


指通信を試したアプレイスがニヤニヤしながらも嘆息する。

「まったく...でもこいつは便利だな。ドラゴンがギャザリングを招集する時よりも便利だ」


「へえ、ドラゴンもこういう手段で仲間と話すのか?」


「いや、話すって言う感じじゃあ無いな。ギャザリングをやるぞという意思と、それを発信してきた仲間のいる方向が分かるだけだ」


そう言ってアプレイスが両手を顔の両脇に掲げ、そこからすっと腕を伸ばして自分の頭から外へ、なにかが広がっていくようなジェスチャーをしてみせる。


「ギャザリングの意思は波が通り過ぎるようにって言うか、その意思を発したドラゴンを中心として、波紋のように広がっていくんだ。それが自分の身体を通り抜けていった時に、呼ばれている方向が分かる」


「じゃあ凄く広い範囲に広がるんだろ? かなり力を使いそうな魔法だな」


「ああ、だからよっぽどの事が無ければギャザリングを招集しようと思う奴は出てこないね」

「そうだったんですね! いつもは互いに遠く離れて一人きりで過ごしているドラゴンが、どうやってギャザリングの時に集まれるのかも、実はちょっと不思議だったんです」

「言われてみれば確かになあ。まあとにかく、シンシアもアプレイスと『系』を結んでくれ」

「はい!」

さっそくシンシアとアプレイスが指同士をくっつけ合う。

指先が光り出すと、アプレイスがニヤニヤしながらこっちを見た。


「これで、今後はライノに聞かれずにシンシア殿と内緒話が出来るな!」


「やかましいわ! それとこの指通信は空間魔法の原理を使ってるだけあって相当な魔力を消費するから、使うのは緊急通信のみだ。日常会話は禁止! 私語厳禁!」


「ちぇっ!」

アプレイスが俺に向かって小さく舌を出して見せた。

ったく、そんなジェスチャー何処で覚えたんだよ・・・


「ライノは厳し過ぎるな!」

「魔力の無駄遣いは良く無いからな。必要の無い魔石ランプは家中消して回るくらいで丁度いいんだ」

「勇者セコい」

「ドラゴンの基準で考えるんじゃない。俺達は魔力を出来るだけ溜めなきゃならんのだぞ?」

「でも使って鍛えないと身体に保持できる容量が増えないぜ?」


「そこが悩ましいんだよな、今みたいな状況ってのは」

「まあそうだな...」

「ん?」

ふと気が付くと、アプレイスと下らないやり取りをしている間に、シンシアが目を閉じて考え込み始めていた。


あー、これはアレだ。

なんかとんでもない事を思いついた時のアレだな。

口には出さずにアプレイスと視線でやり取りして、そのまま触らずに待っていると、やがてシンシアはパッと顔を上げて喋り始めた。


「御兄様、ふと考えたのですけれど...アプレイスさんにも指通信が使えたのは、つまり御兄様が看破(かんぱ)したように精霊魔法とドラゴンの魔法は同じ系統、根源を同じくする魔法だという証拠です」


看破って言うのは大袈裟すぎないか?


「だから、高原の牧場に置かれている罠...ドラゴンの魔力で起動するように作ってあった罠が、御姉様の使った精霊の魔力で起動したことにも不思議は無いと思うんです」


「まあそうだろうな。実際にパルミュナの精霊魔法で罠が起動したんだし、ドラゴン用に作っていた罠を、わざわざ俺たち相手に流用したとは考えにくい。俺たちの接近をそんなに早くから知っていたのなら、もっと色々な攻撃手段がとれたはずだしね」


「はい。どうやって忍び込むかはともかく、御兄様が井戸の魔力を吸収した後で、なにがしかの精霊魔法を発動すれば、それで転移門の罠を起動させる事が出来るんじゃないでしょうか」

「えっ、だとすると?」

「そうすればアプレイスさんを危険な目に遭わせずに罠を発動させられます」


「いや、なんでワザワザ罠を発動させるんだシンシア殿?」


「そうすれば、罠を逆手にとって井戸の魔法陣を破壊できるかもしれないと...」

「ほう?」

「ただし、そのままでは今度は御兄様が転移門に引き込まれかねませんから、転移門を離れてから精霊魔法を転移門の真上で発動させるんです。そうすれば、罠に対しては飛んできたドラゴンが転移門の中心に降り立ったように誤認させられるかも知れません」


「なるほど...シンシアの言う理屈は分かるけど、どうやってその場を離れてから転移門の真上で魔法を発動させるんだ?」


「それには、これを使います」

そう言ってシンシアは、俺の首に下がっている出来たての『魔力収集装置』を指差した。

「魔力収集装置をもう一つ作って井戸に入り、それを囮にするんです!」

「これをどう使うんだい?」


「転移門の中心にこれを設置して魔力を中に集めた後、離れた場所から『人族の魔法』を撃って魔力を解放します。そちらの装置には、人族の魔法を引き金にして起動する精霊魔法を仕込んでおけば、遠くからでも発動させる事が出来ます。


なるほど、超高効率防護結界の応用か。

人族の魔法で精霊魔法を起動させる、シンシア独自の合成魔法でのみ可能になるやり方だから、まさかエルスカインもそんな方法があるとは想像してないだろう。


「発動する精霊魔法はどうする?」

「そこは御兄様と相談なのですが、石つぶての技と熱魔法を組み合わせてみるのがいいような気がします」

「それは俺がパルミュナと一緒に使ってた技の事か?」

「ええ、石つぶて自体に高温高圧を封じ込めて相手にぶつけるって言う技を、グリフォン討伐や犀の魔物を相手にした時に使ってましたよね?」


「ああ、ただ熱を込める方はパルミュナ任せだったからね。まだ俺が一人で生成、加熱、射出を全部うまく出来るかどうかは自信が無いよ」


「いえ、御兄様ご自身での射出は必要ありません。あらかじめ作って貰っておいた大型の石つぶてを、改造した魔力収集装置と組み合わせます。魔力収集装置には熱魔法の魔法陣を組み込み、魔法が起動したら石つぶてを高温高圧な状態にするようにしておきます」


「えっと、撃ち出さなくていいと?」


「私の目論見通りであれば、罠が発動すると爆発寸前になった石つぶてが勝手に転移門に吸い込まれて、エルスカインがドラゴンを取り込もうと企んでいた向こう側に送り込まれる事になります」


「おお、そうか! それで転移門の向こうに届いた頃には、限界を超えた石つぶてが勝手にドカン!と大爆発...」


「はい。もし向こう側が危険物だと気が付いても、すぐにこちらに送り返す事は出来ないでしょう。むしろ、触れた瞬間に吹っ飛ぶと思いますから」


「凄いアイデアだなシンシア...」


「この方法なら、転移門と井戸の魔法陣を同時に破壊する事が出来ます。上手く行けば、転移門の向こう側にあるはずのエルスカインの拠点にもダメージを与えられるかも知れません」


まさかそんな方法があるとは、と言うか、よくまあシンシアもそんな方法を思いつくなあ。

どこの国の魔導軍師だ。


「上手く行くかどうかは、実際にやってみないと分かりませんけど。ダメだったら三人でダッシュで逃げるしか有りませんね。その時はアプレイスさんのスピードが頼りです」


「でもコリガン族達のことを考えると、あの牧場の魔法陣は放置しておけないよ。シンシアの方法がダメだった場合は、なんとかして物理的に魔法陣を破壊するしか無いだろうな」

「でも、近寄ったら吸い込まれてしまいますよ? 御兄様でもアプレイスさんでも同じ事でしょう?」


「アプレイスの背中に乗って、離れた空の上から石つぶてで転移門を攻撃するんだ。地面の下に隠してある魔法陣にどれくらいダメージを与えられるか分からないけど、やってみる価値はあるだろう? 転移門の機能を阻害できれば、あとは土魔法で岩が出るまで掘り返してやる」


「そうですね...他に罠が隠されていなければいいのですけど...」


「そこは現地をもう一度よく観察して判断だね。いずれにしても最優先はシンシアのアイデアを実行する事だよ」

「では、そういう計画で」


「それでシンシア、一つ質問があるんだけど?」


「はい?」

「魔力収集装置って、身に着けていることで持ち主の魔力が通じて作動する仕掛けだよな?」

「はい」

「じゃあ二つを身に着ければ二つとも同じように作動するのか? 単純に、一つに集められる魔力が半分ずつに割り振られるんじゃ無いのか?」

「ええ、そうです」

「ダメじゃん!」

「いえ、ですから一つを私が身に着けて、御兄様と一緒に井戸に入ればいいんです。御兄様が吸収した分はそのまま御兄様自身の魔力として変換し、私が身に着けている方で吸収した魔力は装置から出さずに持ち出します」


「ダメだダメだダメだ、それはダメだシンシア! 危険すぎる」


「御兄様、心配して下さるお気持ちは嬉しいですけれど、牧場まで行く以上は危険度も変わりませんし、井戸は破壊しなければなりません。絶対にアプレイスさんを転移門に触らせる訳にもいきません。これが、御姉様も顕現させてクレアさんも救い出す、唯一の方法だと思います」


「うぅ...しかしなあ...」

「御兄様、一緒に戦おうと二人で並び立ったのは今朝の事ですよ。もうお忘れですか?」

それを言われると辛い。

しかも、もうシンシアを残していかないとさっき約束したばかりだ・・・


「分かったよシンシア。それでいこう」


「じゃあ残る問題は、どうやってライノとシンシア殿がこっそり井戸に浸かるか。つまりエルスカイン達にバレないように、そして罠の転移門を起動させないように、魔法陣の真上に居座って魔力を吸収するかだな...」


俺とアプレイスがシンシアの卓越した一連のアイデアに感心していると、ドアをノックする音が響いた。


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