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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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ギャザリング


「そう言えばアプレイスさん、実は以前から、もしもドラゴンと知り合えたら聞きたいと思ってた事があるんです」

シンシアが思いきったようにアプレイスに話しかけた。


「なんだいシンシア殿?」


「ドラゴンは普通一人きりで行動しますが、ごく希にギャザリングと言って皆で集まる習慣があると聞きました。差し支えなければ、そのことを教えて頂けませんか?」

「シンシアはギャザリングの事を、アルファニアの王宮図書館にあった記録で知ったって言ってたよな?」


「はい。でも、もし種族の秘密に関わる事とかだったら聞きません」


「いやあ...あれは別に秘密とかじゃないだろうなあ...単にギャザリングに参加した人族なんて過去に存在してないから、内容がよく知られてないってだけじゃないか?」

「そうなんですね!」

「ああ。ギャザリングって言うのは、人族の概念で言うと...種族の会議と裁判と宴会を全部合わせたようなモンだな」


「おおよそシンシアの言ってた通りか。でも会議と裁判は分かるけど、宴会まで一緒なのかよ?」


「言っちゃあなんだけどドラゴンってのは縄張り意識の強い存在だろ。だから普通は他の奴と一緒にいる事が滅多にない。親子だって子供が少し大きくなればすぐバラバラになる」

「一緒にいると、その土地の魔力の取り合いになるって聞きましたけど...」

「そんなもんだな」

「では、集まるのはギャザリングがある時だけということですか?」


「絶対じゃ無いけどな。で、なんで集まるかって言うと、一つはドラゴン族全体にとって目新しい話が出てきた時だ。未経験っていうかな? 見た事もない魔物が現れたとか、奔流が動いて縄張りの勢力図が塗り変わるとか...大抵は当事者同士が決闘して勝った方が負けた方を従えるってやり方で収まるけど、それが一対一の決闘で済まない時は話し合いになる」


「普通は一対一のほうが話し合いしやすいだろ!」

「むしろ一対一なら勝ち負けを決めやすいだろ?」

「ああ...そうなるのか」

「大勢のドラゴンが入り乱れて戦うみたいな状況になってみろ? 誰が勝つやら勝負がどうなるやら...ヘタをすれば参加者が全滅とかも無いとは言い切れんからな?」


「そういうところは、さすがドラゴンだな。話し合いで決着が付かないから決闘するんじゃ無くて、決闘で決着を付けられないから話し合いになるとは...」


「そんで、ギャザリングで集まる理由の二つ目は裁判だ。裁判って言葉でピッタリ合ってるかどうか良く分からないが、とにかく掟に反したり道義に(もと)る行いをしたドラゴンをどう扱うかを決めるんだ」

「うん、それは裁判と言っていいだろ」

「例えば決闘で負けたくせに逃げて復讐しようとしたとか、無意味に野山や街を焼いて回ったとか...滅多にはないけど、そういう輩が出てきた時にも皆で話し合って裁く」


「そういう裁きとかルールって、決闘の延長で一番強い奴が王になって決めるとか、そういう風にはならないのか?」

「ならないよ。そもそもなんで『王様』が必要なんだ?」

「なんでって...頭数が増えればまとめ役がいるんじゃないのか?」

「王様が必要なのは集団の力で戦う為だろ? じゃあなんで集団で戦う必要があるかっていうと、そうしなきゃあ他の集団に勝てないからだろう?」


「んー、そうなるのかな?」


「そもそも集団で暮らさないドラゴンに王は必要無いんだ。ドラゴンには大まかに種族としての繋がりがあるだけで、自分の集団も別の集団も無く、みんな独りで気ままに生きてるだけだからな」

「そうなのか」

「だから自分より強い奴には従うしかないし、そいつが苦手なら自分が何処かに逃げるか、力を付けて勝つしか無い。いずれにしても、普段から誰かと一緒にいる事はないからな」


喉元まで『例えばエスメトリスとか?』という言葉が出かかったけど止めた。

アプレイスにとって、あまり楽しい話題じゃ無さそうだし・・・

でもエスメトリスなんて、まるっきり女王のごとき風格だったけどなあ。


「で、三つ目が宴会なのか?」


「これも宴会って言うか、情報交換って言う方が近いのかな? 別に飲み食いする訳じゃ無いけどね...懐かしい奴と会って最近どう過ごしてきたかを互いに教えたり、久しく見てない奴の消息を尋ね合ったりとか、そういう情報を交換し合うんだよ」


「つまりアプレイスさんが宴会と言っているのは、普通なら顔を合わすことのない同胞と世間話をする機会、という事でしょうか?」


「ああ、そういうことだよシンシア殿。あとは顔見せかな...これも滅多にない事だけど、新しく生まれた子供を見せに来たりとかもする」


「へぇ、ドラゴンは種族全体の個体数が少ないと聞いてるけど、やっぱり子供の生まれる数も少ないのか?」

「他の種族に較べたら少ないんだろう...その、アレだ。単に生まれにくいって言うよりも、そもそも相手に出会う機会が少ないからな。だけど、それを言うなら人族の増え方が異常だと思うぞ?」


「そこは見る立場によるだろうさ。特に人間族なんかは寿命が短い分だけ子供が多いって事らしいし、種族として強いのと個体として強いのと、どっちがいいとも言えないよ」

「...違いないな...まあ、そんな訳でギャザリングは相手に出会う機会が少ないドラゴンにとって、時に連れ合いを見つける場になったりもする。連れ合いと言っても子供が生まれて少し育つまでの一時(いっとき)に過ぎない関係だがな」


「ふーん...ひとときだけの関係か...」


「おい待てライノ、なにか言外に含ませてないか?」

「いや? 気のせいだな」

「ドラゴン同士の場合は、って事だからな? 相手がドラゴンなら誰と一緒にいようが、その場にある魔力の取り合いになっちまうんだから仕方ないだろ!」

「ふーん...」

「ヤな感じだぞライノ!」


「ですがアプレイスさん、子供が少し育つと家族もみんなバラバラに離れてしまうのだったら、以前にアプレイスとエスメトリスが一緒にいたというのは珍しい事なのですか?」


「ぅ...」


明らかにアプレイスが言葉に詰まった。

シンシアは、アプレイスとエスメトリスの間に、なにか複雑な関係性がある事は全く気が付かず、純粋に不思議に思ったんだろうけど・・・

時には純朴さも鋭い刃物になるんだな・・・


「そ、それはその、あれだ。珍しい事だけど俺と姉上は年が近いって言うか立て続けに生まれたんだ。だから、俺が世界に出た時にはまだ姉上が一緒にいて、俺の世話を焼いてくれてた」

「親代わり...じゃないか、親も一緒にいたんなら」


「普通、ドラゴンの親が子供に対してする世話ってのは、基本的には魔力を渡す事と魔法の使い方を教える事だけだ。だから、その子が自分で奔流の魔力を吸い上げて魔法を操れるようになったら、もう世話をする必要は無くなったと見做すんだ」


「でもエスメトリスさんは自力で魔力を得られるようになってからも、ご両親とアプレイスさんの側を離れなかったんですね? どうしてなんでしょう? 弟さんが可愛かったからとか? ご両親もそれを許してたんですよね?」


シンシアの無自覚な追撃が酷い。


だけど指摘するのも無粋だし、普通に人生を送っていればまず出会う事のないドラゴンと知り合ってテンションが高いというか、知識欲的に色々な興味が湧き上がっているのも仕方ないと言えるからな・・・


「姉上は単に世話焼きなんだよ」

「雰囲気で分かる気がする」

「それに身体も大きいから後から生まれた俺に対して、最初から親みたいな気分だったんじゃ無いかな?」

「昔からエスメトリスは大きかったのか」


「姉上は先に生まれた分、その地に湧き出ていた魔力を存分に吸い取った。で、続けて後から生まれた俺のほうが吸収できた魔力が少なくて、姉上に較べると身体も小さいってワケだ」

「そういうことか」

「ま、これでも他のドラゴンと較べれば小さいどころか少し大きい位なんだけどな? 姉上が桁外れにデカいんだよ。俺もあそこまでになるには相当に魔力を吸収する必要がある」


それで、エルスカインの束ねた魔力に惹かれてやってきたんだな?

早くデカく強くなって、エスメトリスを見返したいってところなのかも。


「なるほど、それでエスメトリスさんはアプレイスさんを守ろうとして可愛がっていたんですね!」


「そーだな。姉上は俺を可愛がってくれた、という事だな。さっきも言ったようにドラゴンには年の近い兄弟姉妹なんて滅多に生まれない。だから物珍しかったって言うか、両親もそーゆー状況は初めてだから姉上の好きにさせてたって言うか...まーそんな感じだ」


なんだか牙の奥にモノが挟まってるような言い方だなアプレイス・・・


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