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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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魔獣の追撃


感動している俺を横目にシンシアはさらに爆弾発言を繰り出してきた。


「だから、その実験という訳でも無いのですけど、魔法理論が正しいかを試す為も兼ねて、この方位魔法陣に開発中の人の魔法も組み合わせてみたんです」


「え? 他にもまだ工夫があるのか?」

「近くにいないと使えないかもしれないので、御兄様に会ってから試そうと思っていたんですけど...この魔法陣に人族の探知魔法を重ねて...」


そう言いつつシンシアが指で魔法陣をなぞる。

さっきとは違って別の魔法が重なり合うように起動し、シンシアの手の平の上に二重のリングを形作った。


「それは?」

「そこで止まって見ていて下さい」


言われたとおりに立ち止まり、シンシアの手の平に注目する。

シンシアが悪戯っぽい顔をして俺に向けて手を差し出し、そのまま横に移動する。

いったん背中のギリギリまで回り込むほど移動したら、今度は反対側へ移動・・・


「ん? シンシアの手の上の魔法陣が指し示しているのは、ひょっとして俺じゃないのか?」


「正解です!」

「おお、これはどういうことだ?」

「御兄様はいま、お母様が送った探知魔法のペンダントを身に着けてらっしゃいますよね?」

「ペンダントか! ペンダントを指し示してるのか!」

「はい。探知魔法を改良して地図上で場所を現すのでは無く、この魔法陣に直接ペンダントのある方向を示すようにしてみたんです」


「凄すぎて言葉が継げないぞシンシア!」

「これで、もしも離れ離れになっても、御兄様のいらっしゃる方向がいつでも分かります!」


これほど立て続けに驚かされるとは・・・

いやー、それにしても『お兄ちゃん』としては素直に感心するし、妹が成し遂げた偉業が誇らしいね!


それと、シンシアの才能を瞬時に見抜いたパルミュナもやっぱり凄い!


++++++++++


感動的なシンシアの方位魔法を活用して森の奥へ向けてしばらく進んでからのこと、俺は背後にゾワッと来るような異様な気配を感じ取った。


「ん?」

「どうされました御兄様?」

「なにか後ろから、こっちに向かって来てるな...凄い勢いだ」


シンシアが慌てて振り向くけど、森の木々に遮られて何も見えないだろう。

それに、気配の位置はまだ遠い。

ここが仮に平原だとしても、そいつらは地平線の向こうにいて目視できない、というぐらいの距離感・・・

逆に言えば、それほど遠くても感じ取れる気配なんだから、相当な物量だ。


俺たちの存在に気が付いたエルスカインが、レンツの街か高原の牧場から手下の魔法使いに俺たちを追わせ、逃げ場の無い森へ踏み込んだところで転移門を開いて魔獣達を呼び出したと・・・そんなところかな?


「たぶんエルスカインの放った魔獣の群だろう」

「どうします?」


どう、と言われても転移は厳しいから、走って逃げるか迎え撃つかの二択だ。

深い森の中をシンシアと一緒に魔獣から走って逃げる?・・・あり得ないな。

迎え撃つ以外に選択肢は無いだろう。

この辺りはまだ道の名残が直線的だし、両脇も草地が開けていて見通し最悪ってほどでも無い。


「この前、シンシア達を襲った連中のような気がするな...迎撃は俺がやるから、シンシアはここから動かずに防護結界の維持に力を注いでくれ」


「分かりました!」


エルスカインは、この前の襲撃で俺たちが転移魔法を使えることを知ったと同時に、そこに何らかの限界があることに勘づいたのかも知れない。


「エルスカインはあの時まで俺たちが転移魔法を使えること自体を知らなかった。だから俺とパルミュナを罠に掛けると同時に一気に囲んで襲ってきたんだ」


「タイミング的に、ほとんど同時だったんですよね」


「うん。あの場では俺たちを取り逃がしたけれど、距離か、人数か、俺の存在か、とにかく何か制約が有ることに気が付いたんだ。この襲撃は、それを確かめる為だって気もする」

「私がすぐに飛ばなかったから...」

「いやいや。どのみち、あの場所から八人全員一緒には跳べなかったはずだ。その弱点を確認する為に襲ってきたんだとすれば、ここで俺たちの動きを見ようとするだろうな」


「つまり逃げるどうか、でしょうか?」

「だとすればコレは、襲撃って言うよりも『威力偵察』みたいなものかもしれないね」

「なんですか、それ?」

「威力偵察って言うのは、こっそり敵を探るんじゃ無くて、あえてちょっとだけ攻撃してみるっていうやり方なんだ。それで相手がどう反撃してくるかで、敵の戦闘力や隠れ場所なんかを探る」


「へえ、そんな方法があるんですね!」


ぶっちゃけ、『威力偵察』って言うのは完全な軍事用語で、俺もスライに教えて貰うまで知らない言葉だった。

いま訳知り顔にシンシアに説明している内容も、実は全部スライからの受け売りなんだけどね。


「ここで俺たちが踏ん張って迎撃するようなら、なにかの理由で転移が出来ないと見なせるし、サッサと転移して逃げたとすれば、それならそれで邪魔者を追っ払えるだろ? いまのエルスカインにとっては、どちらの結果でも良さそうな気がするな」


ただし転移が出来ないと判断したら、ここでカタを付ける為に一気に魔獣を大量投入してくるかも知れない。


それならそれで、全てを迎え撃つだけだが・・・


「でも御兄様、それでは闘うだけでエルスカインに手の内を見せることになってしまいますけれど...」

「そりゃ仕方ないな。俺たちの転移に限界があるのは事実だ」


「確かにここから『屋敷まで跳ぶ』のは無理がありますものね」


「いや跳べても跳ばないよ? どうせ目的地点はバレてるんだから逃げ続けても意味が無いもの。ここには俺とシンシアがいるんだから、どれだけ送り込まれてきても全部返り討ちにするさ」


「はい!」


「転移に弱点があることは気付かれてるから油断は出来ないけど、ともかくシンシアが一緒に来てくれた以上は二つの魔法を同時に動かしても魔力量に不安は無いだろ。俺は戦闘に魔力を全振りするからシンシアは防御だけに集中してくれ。ただし防護結界の反発力はゼロでな」


「それにも意味があるんですね?」


「これまでエルスカインに襲撃された時、俺自身はみんなを守る防護結界を使って見せたことが無いんだ。いつもパルミュナかシンシアか、どちらかと一緒にいたからね」


ガルシリス城ではパルミュナが一緒だったし、ポリノー村のグリフォンもギュンター邸の犀も、それに先日のキャラバン襲撃でもシンシアの防護結界が崩される前に決着が付いたから、俺はエルスカインが見ているかも知れないところでは広い防護結界を動かしたことが無い。

せいぜいスパインボアからダンガ兄妹を守ったのと、襲撃後の街道でケネスさん達と行動した時くらいだから、あれをエルスカインが見ていたとは思えない。


「あ! ひょっとしたら、御兄様と私は同じ精霊魔法が使えるって事を隠しておこうと?」

「うん、通用するかどうか分からないけど、さも『役割分担』してるように見せたらどうだろうと思ってな。防護系は誰かに頼る必要があるから、わざわざシンシアと二人で行動してるんだってエルスカインが思い込むかも知れない」


「なるほど、了解です!」


シンシアは杖を腕にもたせかけて両手を空け、腰のポーチからアスワンの小箱を取り出すと、そっと蓋を開けて砂糖菓子を一つ口に頬張った。

これは一種のおまじないか景気づけ、ってところかな?


お菓子を食べて魔法を使うとか、なんだか可愛いぞ。


「結界を張ります!」

シンシアが元気よく声を上げて、二人の周囲に広めの防護結界を張った。


すでにシンシアも気配を感じ取っているだろうから、百や二百を下らない魔獣が俺たちの左右に回り込んで、四方八方から襲いかかろうとしていることは分かっているはずだ。

だけど、微塵も動じていない。

さすがシンシア・・・


周囲の空気に、ビリビリと震える感じが高まってくる。

本当に空気が奮えている訳じゃ無いけど、殺意の塊みたいな興奮状態の魔獣達が押し寄せてくる気配だ。

だけど、向こうがこちらの手の内を探る威力偵察のつもりでいるのなら、こちらも実体のある敵を相手に試してみたいことがあるんだ。

お前たち魔獣に恨みは無いけど、それを試させて貰うとするよ。


「シンシア悪いな。ちょっとお前の頭の上に乗るぞ?」

「えっ?」

「よっと!」


俺は頭の中の魔法陣を少し弄って自分の防護結界の反発力を調整し、その場からジャンプして、正確にシンシアの張った防護結界の真上、その中心に飛び乗った。

ポリノー村の湖で、ダンガたちの頭を踏み台にさせて貰った時の応用だ。


ただし今回は、シンシアの張った結界を『バネ』では無く『台』として使わせて貰っているし、個人用結界じゃ無くて周囲を覆う防護結界の上に乗っているから、かなり位置が高い。

そのお陰で、あの時とは違ってシンシアの頭を踏みつけている気持ちにならないですむのが何よりだな。


「御兄様、浮いています!」

「ホントは浮いてないよ、防護結界の上に立ってるだけなんだ」

「ええぇっ、それでも凄いです!」


このやり方は、実はギュンター邸で犀の魔物を斃した時に『水刃』(すいじん)の技を使ったことで思いついた。

水刃を振るえるだけの心の平穏とバランス感覚、そして研ぎ澄ませた力の集中があれば防護結界の上にだって立てる。

ただし今回は『綱渡りをしながらガオケルムを振るう』のでは無くて、魔法だけで闘うつもりだけどね。


「シンシア、この場から動かないでくれな?」

「はい、任せて下さい。この防護結界は微塵も揺らさせません!」

「頼んだぞ」


その場から動かずに周囲を見渡す。

猛り狂った魔獣達が木々の間から飛び出してくるまで、あと少しと言うところか。

恐らく俺たちがどう反撃するか、あるいはどうやって逃げ出すかを知る為に、全方位から一斉に飛び掛かってくるに違いない。


逃げるでも刀を構えるでもなく十分に飛びつける高さにじっと浮かんでる俺とポツンと一人で立つシンシアは、転移門で逃げようとしている風に見えるだろうか? 

それとも妙な体勢で防御に全振りしてる様に思えるだろうか?


・・・どちらも外れだぞエルスカイン。


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