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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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二つの魔法を同時に


シンシアの実力が飛び抜けていることはともかく、逆に言えば普通の人族には『それ以外』の防護結界など使いようが無いのだ。


「確かに。って言うかシンシアも伯爵家の魔道士として、そうやって防衛任務を受け持ってきたんだしな」

「エルスカイン相手には力不足でしたけど...」

「それは特別だよ」


「でも転移門は人の魔法では動かせません。というか、私たちが知る現代の魔法には存在していません。そして精霊の転移門を稼働させている間は、そちらの魔法の構築と制御に魔力をほとんど持って行かれてしまうので、大規模な防護結界を張ることが出来ません。各自に移植した個人用の防護結界に魔力を流してあげることがせいぜいです」


それこそ、先日のエルスカインの襲撃で発生した状況だな。


「害意や邪気を弾く結界は、周囲に集まってきたちびっ子たちの力を借りて動かし続けることが出来ますが、この前みたいな...物理と魔力の合わさった激しい攻撃を防ぐための防護結界は、そういう訳にはいきません」


「そりゃあパルミュナが本城や別邸に張ったような結界は、その場で長く動き続けることが前提だろ? 害意を防ぐ結界は悪意を入らせないのが目的の『関所』であって、攻撃を防ぐ『盾』とは役目が違うんだから比べられるものじゃ無いよ」


あの飽和物量攻撃を前に、防ぐか、逃げるか、シンシア一人では咄嗟にどちらかしか選べなかった。

そして一度に全員で逃げることが難しかった以上は、守りに徹する以外に選択肢が無かったって訳だ。


「ええ、それに一度に必要な魔力の量も全然違いますから」


「奔流から魔力を引き出すにしても、集まってくれたちびっ子たちから力を借りるにしてもね」

「はい、害意を防ぐ方は細く長く効果を保たせるって言う感じですよね。キャラバンの移動中に幕営地で私たちが張っていたような結界は規模が小さいから、ちびっ子さんの助力だけで成り立っていましたし」


あー、ハーレイの郊外でシンシアが始めて精霊の結界を張ることに成功した時に、誰もいない空間に向かって、ちびっ子たちへのお礼を言っていた姿を思い出すなあ・・・


「ただ、稼働に必要な魔力は小さくても長い年月を動き続けるから、大規模な物になると奔流から水路を敷くように魔力を引き出し続ける必要が出てきますけれど、それに対して防護結界は稼働時に消費する魔力の瞬間最大風速が高い、みたいな感じですね」


「つまり一時的に大量消費するから、パルミュナでも奔流から汲み出してる暇が無いし、ましてやちびっ子を集めてなんて不可能って話だな」


「です。結局、一人一人の中に移している防護結界でも、その場全体を守るような大きな防護結界でも、結局は魔力の供給が途絶えると用を為さなくなってしまいます。それに、いったん組み上げて稼働させた結界ならそのまま動かし続けることは出来るとしても、一人で二つの魔法を同時に起動させることは出来ません。優先順位が出てくるんです」


ああ、シンシアがここに跳んできた時に言ってたことだな。

そこが核心か・・・


「もう御兄様にはお分かりだと思いますけど私が言いたいことは、転移門に限らず精霊魔法を起動してちゃんと稼働させつつ、同時にその周囲を人の魔法の防護結界でくるんで守る...それだったら二人がかりになるんじゃ無くて、一人でも両立させることが出来るんじゃ無いかって事なんです」


「なるほどな...ただ、人の魔法で組み上げた防護結界は精霊魔法の物ほど強くはないだろう? それこそ、さっきシンシアが言ってた通りだよ」

「それは、その通りです」

「ん? でも当然シンシアもそんなことは百も承知だよな? その上で思いついたって事は、なにか抜け道があるんだな!」

「さすが御兄様鋭い!」

「いや、俺のは知恵じゃ無くって、単なるシンシアへの信頼だからね?」


「えへへ。ありがとうございます。私が思いついたことは、人族の防護結界をそのまま防衛に使うんじゃ無くて...精霊魔法を起動する切っ掛け? 引き金? そんなふうに利用することなんです」


「へ?」


人族の魔法で精霊魔法を起動する?・・・ どういうことだ?


「えっと、まず人族の魔法による防護結界なら詠唱も不要で、瞬時に構築することが出来ます」

「いやそれはシンシアだからでは?」

「え、ま、まあとにかく、魔道士なら強度の差はあっても簡単に防護結界を動かすことが出来ますよね?」

「あ、うん」

「ただ先ほどの話通り、人の作る防護結界はエルスカインの魔獣みたいな敵が相手だと強度が足りませんから精霊魔法が必要です。ただこの時に、先に広域の防護結界を張ってしまうと、そちらに魔力を注ぎ続ける為に同時に転移門を開くことが出来なくなります」


「そうだな...」


「更に、いったん広域の防護結界を解いて個別の防護結界に切り替えたとしても、転移門を起動した後は魔力の供給が減少して結界の強度も弱まります。それが先日の私の状態です」

「でも最適解だったと思うよ?」

「だけど...もし魔法を起動する順番が逆だったらどうなったのか、あの後かなり悩みました」

「いや無理だったんじゃ?」

「ええ、やっぱり魔獣達の押し寄せてきたスピードと数を考えると、私が自分とみんなを個別結界だけで守りながら転移門を開く事が出来たか、かなり微妙だとは思います」


「うん、俺も難しかったと思う」


「それで考えたんです。人族の魔法で防護結界を張ってから転移魔法を起動すれば必要な魔力はあがなえます。だけど...ここで最初の話に戻るんですけど、人の作る防護結界は弱すぎる、と」

「そこがミソなのか?」

「はい。対抗力は弱くても結界は敵の攻撃に反応します。その反応を検知した瞬間だけ、局所的に精霊魔法の防護結界が自動的に起動するような術式を組み込んでおけば、必要な魔力は最低限に抑えられます」


「お? おお?」


「私や御兄様にとっては、人の魔法を起動する魔力は微々たるものだと思います。詠唱も不要ですから瞬時に...事実上、精霊魔法と同時に起動させることも出来ます」

「でも、攻撃を検知するだけなら意味がある?」

「そうです!」

「そこで検知した瞬間、そこだけに小さくても強い精霊魔法の防護結界を張る...そういう意味かシンシア?」


「はい! 精霊魔法の起動は術者の意志に関係なく自動的に行われますから、意識を集中する必要はありません。魔力さえ足りていればいいんです。しかも精霊の防護結界は受けた攻撃分だけに反応した大きさと強さですから、消費する魔力も最小限で済みます」

「凄いな...いやでも攻撃に反応して自動的に精霊魔法を起動するって、人の魔法でそんなことが出来るのか? 考えてみるとそこが一番難しいような...」


「はい、凄く難しかったです。でも工夫して出来ました!」


過去形!

もう立証済みか!


「もちろん、そもそも精霊魔法と人の魔法の両方が使えなければ、この術式を動かすことは出来ません。だから、決して普通の人族の魔法使いが精霊魔法を使えるようになる方法では無いんです」

「なるほど」

「つまり私たち兄妹にしか使えない...あれ? パルミュナ御姉様って人族の魔法が使えましたっけ?」


「あ...どうなんだろう?」


考えてみればパルミュナには『人族の魔法を使う』って発想がそもそも無かったはずだ。

その気になったら使えたのかどうかは分からないけど、俺の前で使って見せたことは一度もないし、まったく使えないか、使う為には人と同じような修行が必要だって可能性もある。


「うーん、ひょっとしたらダメってこともありうるな...」


「その場合は、この方式を使えるのは世界中に私と御兄様だけと言うことになりますね...」

「俺も怪しいぞ? 破邪の修業の中じゃあ大規模な防護結界なんて出てこないからな。そういうのは頭から魔法使いの仕事って決めつけてたよ」


「その時は私がお教えします! とにかく私と御兄様が二人一緒に戦えば、精霊魔法と人の魔法を二つずつ、合わせて四種類の魔法を同時に操って戦うことも出来ます。それにいくつか新しい魔法も考えているので、おいおい御兄様にも見て欲しいんです」


そう言ってシンシアは快活に笑った。


シンシアは本当に凄いな。

人の魔法に関しては貴族家の筆頭魔道士として卓越した実力を持つ上に、いまや精霊魔法も使いこなせる。

その魔法の才能は、魔力の豊富さや並外れた機知と共にパルミュナのお墨付きだ。


それにしても、なぜ俺の妹になるのは俺よりも優秀な人材ばかりなのか?

『縁』というものの不自然さについてアスワンと討議したい。


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