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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第四部:郊外の屋敷
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古井戸と記念碑


「あ、はい。俺たちは王都から来ました」


「やはりそうじゃったか。この記念碑に興味を持たれるのは余所から来た人じゃろうと、そう思いましてなあ。それに貴方は破邪の服を着ていらっしゃる」

「レンツには今日初めて来たんです。ここが昔は自由都市だったって事も、来るまで知りませんでしたよ」


「街の経緯はそこに書いて有るとおりなんじゃけど、なんせ古い話ですからのう。昔から住んでるものでさえ自由都市だった時代なんぞ意識する事はありませんな」

「それを忘れないようにこの記念碑を建てた訳ですか」

「いやいや、そんな大袈裟なモンじゃなくただの飾りですじゃ。昔はここには井戸があったらしいそうでの」

「井戸ですか?」

「そもそもは最初は泉だったそうじゃ。その泉を中心にしてこの地に人が住むようになり、やがて街として整った時に井戸を掘り下げて、こっから街中に水道を伸ばしたんだそうでの」


「ほお...」

「それが昔...ゆうても儂が生まれるよりもずーっと前の事じゃけど、とうとう井戸が涸れてしもうて...ここは街の中心の広場なんで涸れ井戸をほったらかしとるのも良くないっちゅうことで、井戸を埋めて代わりに記念碑を建てたんじゃと、そう聞いとりますな。ま、『格好つけ』ということですじゃ」


それで穴を埋めて塞いだか・・・


リンスワルド城離れの裏庭にあった古井戸・・・ゲルトリンク王国時代に掘られていた井戸を埋めさせたのは初代リンスワルド伯爵のシルヴィアだったという話だったけど、この街でも偶然ではなく、誰か天然の魔力を『視れる』人物が狙って主導した可能性もあるのかな?


ついでにここからシュバリスマークへと伸びていたという昔の山越え道についても尋ねてみたけど、ご老人の知っている事は門番さんと大差ないようだった。

山崩れの後もいまではすっかり深い森に覆われて、どこをどう道が通っていたのかさえ定かではないそうだ。

峠を越えられた唯一の場所にも恐らく辿り付けなくなっているだろうと。


まあ、当時の交易路の動脈というか生命線とでも言える街道の復旧を諦めざるを得ないほどだったんだから、よほど酷い山崩れだったに違いない。

それで、偶然存在していた奇跡のコースが潰れたとかって感じだったんだろうな。


++++++++++


世話好きな地元老人との世間話で、広場の中心にあった記念碑の意味と、かつて魔獣を呼び寄せていた魔力が染み出てくる元がなんだったかは分かった。


取り敢えず用は済んだので、精霊目線ではそこそこ殺伐とした雰囲気の広場を離れて馬屋への道を戻る。

行き道は漂ってくる魔力の気配を追って地面ばかり見て歩いた感じだったから、街の様子にほとんど注意を払っていなかったけど、こうして普通に歩いてみると大きな建物も多くて広い街だ。


ただ、街並みの立派さの割に活気はない。

なんて言うか・・・建物は多いのに人が少ないというか、街の雰囲気をスカスカに感じる。


「なあ、ちょっと思い出したんだけど、さっきの広場の記念碑って、雰囲気があそこに似てないか?」

「あそこってどこー?」

「ガルシリス城だよ。廃墟でもないし地下でもないけどな、岩塩採掘場よりはあの城跡の扉をこじ開けた時の雰囲気を思い出したんだ」

「あー、焼け落ちてなかった木の扉ねー」

「そうだ。もちろん、さっきの広場に変な仕掛けや魔法を感じたとかじゃないし、あれはただの石碑だ」

「うん、井戸を埋めたから吹き出してた奔流が弱まった。でも、まだ微かに滲み出てる...まー言っちゃえばそんだけよねー」


「そうだ。そうなんだけど、滲み出てくる魔力が弱まったのは、単に井戸を埋められて石碑で蓋をされたってだけじゃなくて、そもそも奔流の流れがその頃は一時的に弱まったか外れたかしてたんじゃないかなって気がするんだ」


「じゃー、いまはまた戻りつつ有る感じ?」

「ああ。最近になってまた滲み出し始めたんだと思う」

「そー思う理由はなーに?」

「なんて言うか、勘なんだけどな。ガルシリス城で村長を乗っ取ってたエルスカインは奔流が戻ってくるのを待ってたみたいな台詞を口にしてただろ?」

「手間暇掛けたのに! みたいな事言って怒ってたっけねー」

「で、この前アスワンが見せてくれた奔流の変化...パルミュナが五週間も不眠不休でまとめてくれた奴な?」


「うん、頑張ったーっ!」

愛い奴め、一応のヨイショは効いたな。


「あれを思い出してみたんだけど、このレンツの街ってな、よく考えるとシュバリスマークの旧王都だったサランディスとリンスワルド領を結ぶ直線の、ちょうど真ん中辺りにあるんじゃないか?」

「あっ!」

「ガルシリス城はあの菱形からは少しズレてるけど、むしろ、あそこは奔流をずらす為の『杭』だろうって思うんだ」


「んー、ちょっと待って」


パルミュナがそう言って両手を体の前に広げて突き出すと、その手と手の間に、アスワンに見せて貰ったのと同じ絵図というか地図が浮かび上がった。

リンスワルド領、シュバリスマークのサランディス、メルス王国のアンケーン、そしてルマント村に近い南部大森林の四つの『渦』を繋いだ直線的な図形もそのまま再現されている。

菱形の中央にあるのはアルファニア王国の首都ラファレリアだ。


「おいパルミュナ! こんなところで出しちゃマズいだろ」

「アタシとお兄ちゃん以外には見えてないからダイジョーブ」

「そうなのか、それならいいけど」

「ガルシリス城の結界は奔流を吸い上げて合成して余所へ送って...言われてみるとさー、リンスワルド領から南下してた奔流を、ミルバルナの大森林の方に捩じ曲げるためにあったよーに思えてきた! そうなると転移がセットになってるのは術者の管理用?」


「やっぱりそうか! そうなると、エルスカインがここにも何かを仕掛けようとしてるのは納得がいくな」

「確かにレンツって、だいたい北西の一片の真ん中辺りだよねー。えーっとサランディスとリンスワルド領の中間って感じ...そりゃー魔力も濃いわけかー!」

「だろ?」

「でもそれってさー、ドラゴンを手に入れる話とは関係なくない?」


「そこは微妙だけど考えてみてくれよ? ドラゴンがこの近くの山に飛んできた。しかも大山脈全体では二頭もだ。で、もう一頭のドラゴンがいるらしい場所は北部大山脈の奥でシュバリスマークとの国境近く、森林地帯の真北ってなると...この辺りだろ?」


パルミュナが空中に浮かばせている地図に描かれた直線的な奔流の一本を指差す。


「真ん中とは言えないけど、こっちはサランディスからアルファニアの首都のラファレリアに真っ直ぐ伸びた線の上に乗ってるよな」

「おーっ!」

「な? コレ、全部が偶然だと思えるか?」

「ムリ!」

「確かに何がどう繋がってる話なのかは分からない。だけど、なにかが繋がっているとしか思えないんだ。ドラゴン達も奔流の魔力に惹き付けられたって気がするし」

「そっか。うん、アタシもお兄ちゃんの意見にさんせー」


「しかもエルスカインは、なにかドラゴンを支配して使役する為の仕掛けを作る為に、ここの領主を動かそうしている気配がある。そして領主は、魔獣に追われて山から逃げ出した人々をこの近くに住まわせて、先々はなにかの工事をさせるつもりだ」


「仮にガルシリス城の地下にあったような大規模な魔法陣をさっきの広場に作ろうとしたらさー、領主の許可なしで工事できないよねー? それともー」

「それとも?」

「街を支配しちゃうか」

「エルスカインなら住人を皆殺しって言うことだってやりかねないよ」

「そーよね...」

「とにかく、奴はやっぱりここで何かをやろうとしてる。そこはレビリスの読み通りだろう」

「じゃーどーするの?」


「みんなとも相談したいけどな...ここでエルスカインの行いを止めようと思っても、そもそも何をしようとしてるのかが分かってないんだ」

「まーねー」

「それよりも、いまは一刻も早くドラゴンを探し出して会う方が優先だと思う。エルスカインがドラゴンに仕掛けるよりも前に、俺たちが会って話し合うんだ」

「分かったー! じゃあ宿、馬屋? に戻ったらみんなと話そー?」


「ああ。この地図を見せて説明すれば、みんな分かってくれるだろう...あ。えっとパルミュナ、いま気が付いたんだけどな、この地図って俺たち以外には見えてないんだよな?」

「そーだよ」

「だったら、周りの人から見るといまのパルミュナって、何か良く分からないけど両手を広げて突き出しながら歩いてる人に見えてるんじゃないのか?」


俺がそう言うとパルミュナは立ち止まり、いきなり地面にしゃがみ込んだ。


「おいっ、どうした? 腹でも痛くなったのか?!」

「ちがーう! お兄ちゃんがそんなこと言うから、急に恥ずかしくなっただけーっ!!!」


確かにその姿って、端から見れば変な人だよなパルミュナ。

俺のやっちまった『声を出してる指通信』と、どっこいどっこいだと思うぞ・・・


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