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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第四部:郊外の屋敷
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次のステップ


ただ、もしもレビリスの指摘した通り、仮にヒューン男爵を手中に収めておく事がドラゴンを支配する手順として『必須』なんだとしても、その理由は分からないな。


まあそれ以前に、そもそもヒューン男爵がエルスカインの配下に下っているということ自体が、いまはまだ俺たちの『空想』に過ぎないけどね。

大公家に上げられたドラゴンに関する報告が大袈裟で、その理由はヒューン男爵がなにかを企んでいるからじゃ無いか? って言う、冷静に考えると甚だ心細いというか根拠の薄い論理がよりどころだし・・・


「ライノ殿、いったん話を戻しますと、ジュリアのところに『凶暴なドラゴン』という報告が上がった事には、なにかの理由...それも良からぬ理由があるはずだ、と言うことでございますね?」


「ええ、そういう話です。人を近づけたくないという意志を感じるっていうか...この先ドラゴンの居場所を探っていこうとする時に、障害になるようなことが起きたら困るなあって思うんですよ」


「誰かがドラゴンに絡めて悪巧みを考えてるならさ、そりゃドラゴンに近づこうとする人間は警戒するよな。領主に関係なく、直接エルスカインが罠を張ってる可能性もあるさ」


「ああ、その可能性も要注意だな」


レビリスが心配しているように、『すでに領主にエルスカインの手が回っている』としたら、迂闊にドラゴンの情報を尋ねて回ると、藪の蛇をつつくことになるかもしれないんだよね・・・


騒ぎが起きればそれだけ俺たちの存在が目立つし、エルスカインに行動が露呈するリスクも高まるだろう。


「もしもヒューン男爵が人払いを狙ってジュリアに大袈裟な報告を上げていたのだとすれば、わたくしたちの仮の身分...『大公陛下の勅命でドラゴンの調査に来た一行』というのも却って逆効果でしょう。むしろ、なんとしても近寄らせないようにするという可能性もあるかと」


「確かに、一番警戒される事になるかもしれませんね。ここでの情報収集は見合わせて、とにかくドラゴンの居場所へさっさと向かうべきかも...」


「じゃあさ、俺たちは最初の目論見通りに『王都の商家一行』ってことにしといた方がいいか?」

「ああ、『商家のお嬢様方が、お家騒動で出奔した親族捜しの途中だ』というシナリオで話を合わせておこう」


「あら、お嬢様方だなんて...」


姫様が両手を頬に当てて『ポッと頬を染めてはにかんでる仕草』を見せてるけど、これも絶対に演技だな。

最近だんだんと姫様の演技が分かるようになってきたぞ・・・

それに俺と一緒にジュリアス卿と会って以来、姫様が屈託なく可愛い仕草を取るようになってきた気がする。


って言うか姫様、余裕だな!


「お母様、私は『お嬢様方』に入りますか? それとも護衛の魔道士でいた方が良いでしょうか?」


おっと、シンシアのセンシティブな問いかけだ。

でも役柄としてそれはブレない方がいいだろうから、シンシアも冗談や嫌みで言ってる訳じゃあ無いだろうな。


「え...あ、それはシンシアの好きな方と申しますか...その...」

余裕を見せていたはずの姫様が、不意を突かれて珍しく動揺している。


「ライノ殿は、どう思われますか?」


姫様、俺に振ったよ!

マジか!

こっちを向いたシンシアが真っ直ぐ俺を見てくるんだけど?

なぜにプレッシャーを感じるんだろう・・・


「え、ええぇっと...護衛役はダンガたちが演じてくれるし、レミンちゃんがいるから女性の護衛もいる風に見せ掛けられるよね?」

「そうですね...」

「これで魔道士まで護衛に付いてるとしたら大袈裟すぎて却って目に付く感じがするから、シンシアは魔道士学校の制服姿でいるのがいいと思うんだけど、どうかな?」


「はい! では御兄様の意見に従ってそうします!」


おお、明るい声で元気よく返事が来たぞ。

セーフだ。

魔道士学校の制服自体を知ってる人はあまりいないだろうけど、曰くのあるお仕着せのようにも見えるし、誰かに尋ねられた時に、シンシアが魔法を使うことの説明はしやすい。


「じゃ、姫様とエマーニュさんは従妹同士、シンシアはアルファニアの魔道士学校から遊びに来た知人の娘、なんていう設定でどうでしょうかね、姫様?」


「はい。見た目的にもやり取りの自然さからも、そういう位置づけが無理ないと思います」

「そうすると私は、人前でお母様や叔母様をなんと呼ぶのがいいんでしょうか?」

「レティさん、エマーニュさん、でいいんじゃ無いかな?」

「ちょっと、恥ずかしいです...」


まあ、実の親をファーストネームで呼ぶのは違和感あるよね。


「だったら、これまでの表向きと同じように姫様とエマーニュさんのままでいいでしょう」

「それなら魔道士として振る舞う時と同じですので、はい」

「それでよろしいのですか?」

「ええ。貴族家じゃ無くて大きな商会なんかでも、家の者たちは主の娘のことを『姫様』と呼んだりするもんなんですよ。だから庶民が耳にしても違和感ないと思いますね」


「承知しました...ではシンシア、これまでと同じように私には姫様と呼びかけてくださいね。そういう役目と言うことで」

「はい」


「パルミュナは姫様達の従者って言うか小間使い役でな?」

「りょーかい、まかせてー!」

「よろしゅうございますか?」

「うん、その方が御者台に座ってても変じゃないしー」

「確かにな」

「雨が降ったらアタシは中に入ってるけど、お兄ちゃんは風邪ひかないでねー」

「はいはい。馬車でも革袋でも好きな方に入ってろ」


勇者の躯が風邪をひくかどうかはともかくとして、実際に王都を離れて大山脈に近づくにつれ天候が崩れやすくなってる気はするから、この先は日々の天候にも要注意だろう。

その点では破邪も狩人も山慣れしているのが心強いけどね。


「ところでクライスさん。このままレンツに向かうとしてですな、牧場の家畜を屠ったのが本当にドラゴンなのか魔獣なのか、まずはそこだけ確かめてみては如何でしょうか?」


「でもウェインスさん、本当にドラゴンの仕業ならそれこそ誰も喋らないでしょうし、さっきの話ですけど、ドルトーヘンでドラゴンの事を嗅ぎ回るのは裏目に出るかもしれませんから...」

「いえ、ドラゴンについて聞き回るのでは無く、魔獣についてです」

「魔獣の噂ですか?」

「牧場の家畜を屠ったのが魔獣なら、ドルトーヘンの破邪に討伐か調査の依頼が出ていておかしくないでしょう?」

「おお!」

「被害は魔獣のせいだと言う噂があるのなら、破邪衆の寄り合い所にも伝わってるはずですからね。私達のような破邪が寄り合い所にその話を聞きに行くのは不思議でも何でもありません」


「確かに!!」


ヤバい、レビリスもウェインスさんも一緒なのに、自分が破邪だって事を失念しつつあったぞ俺!

そもそも『北部の森には魔獣が多いという話を心配したお嬢様方から御者兼魔獣対策で雇われた』って設定だったはずなのに・・・


いま俺が着ているのは破邪の装束だよね?

恥ずかしい!!!


「じゃあ、これからレンツに向かうに当たって、そっちの方で魔獣が暴れてたりしないか情報収集に来たって建前でいいですよね?」

「それが妥当だと思います」

「牧場の家畜が魔獣の群にやられたって話が本当なら調査か討伐の依頼が出てるし、ゴニョゴニョ言いづらそうなら怪しいってことさ」


「でも、仮にドラゴンだとしても破邪同士で隠すかな?」


「そこはなんとも言えませんな。破邪は国家や領主に囲われている存在ではありませんが、クライスさんのような生粋の遍歴破邪と違って、いまの私やタウンドさんのように大きな街に定住している破邪は、その地域の一員という意識があるものですから」

「だよねえ...」

「そうか...そこはまあ人付き合いが優先だもんな」

「ですので、あくまで道行きの状況を聞きに来た、という軽い感じで訪問するのが良いかと」


「分かりました。寄り合い所の場所はここの番頭さんに聞いて見ましょう。明日、話を聞きに行くのはウェインスさんにお願いしていいですか?」


なんか、俺が行くと色々なボロが出そうだもん。


「ええ、承知しました」

「じゃあ、そういうことでお願いします。破邪衆寄り合い所の動向を探ってから、そのままレンツに向かいましょう」


ふう・・・我ながら情けない話だけど、レビリスとウェインスさんが一緒で本当に良かった!


「ライノ殿、この後は手紙箱のやり取りをする予定かと思いますが、それはわたくしとエマーニュがお借りしている部屋でも構いませんか?」

「ええ、もちろん」

「さっき静音や防護の結界と一緒に転移門も張っといたからねー!」

「さすがでございますパルミュナちゃん。ライノ殿から誰かに伝えることはございますか?」

「そうですね。牧場のスライに馬屋で斥候班の報告を受け取ったので俺たちはこのままレンツへ向かう、と伝えて貰えますか?」

「かしこまりました」


「それと、ジュリアス卿に確認して欲しい事があるんですけど」

「なんでございましょう?」


「ここの領主のヒューン男爵の消息です。領主が今どこにいるのか。ドラゴン到来の報告があって以降、彼が姿を消していたりする時期は無いのか? そういう事を確認したいんです」


「ホムンクルスにされている可能性が高いかどうかでございますね?」


「ええ。いやな予想なんで外れたらいいなって思ってますよ。でも、ヒューン男爵の行動がドラゴン到来の直後から不明確になっているとすれば、その可能性は高い...その場合はレビリスの推測が当たってるって事でしょう」


「分かりました。では、わたくしは一足先に部屋に戻ります。手紙にお伝えすべき内容があればまたここに顔を出しますので、皆様はごゆっくりどうぞ」


そう言って姫様とエマーニュさんが席を立とうとした時、ふいにパルミュナが手を挙げて二人を制した。


「ちょっと待ってー。変なのがきてる!」


え、変なのって、なんだ?・・・


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