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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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盗賊に宣誓魔法


とりあえず襲ってきた五人の盗賊をぶっ飛ばしたのはいいが、さて、こいつらどうするかね?


死んではいない気配だが、完全に伸びているのが三人。

盛大に鼻血を流しながらピクピクしているのが一人。

腹を抱えてもぞもぞと苦しんでるのが一人。

これは、俺がパンチを脇腹にお見舞いした二人目の男だな。


脇腹を押さえてる男はとりあえず放置しておいて、五人の剣を集めて回り、まとめて岩に立てかけた。

全員、他にも刃物類はいくつか持ってる様子だが面倒なので無視。

剣を集めたのは武器の没収と言うよりも、こいつらのなけなしの財産っぽかったからだ。


「俺はさっき、お前らを捕らえても生きたままで衛士隊に突き出すのが面倒だって言ったよな?」

脇腹を押さえていた男がそれに答えようと口を開けたが、痛みでむせ込んで声が出せない。

俺は慌てずに、その男が落ち着きを取り戻すのを黙って待った。


「ちくしょう...」

「ほう、まだ暴言を吐ける力が残ってるか。なら...」

「ま、待ってくれ! いまのは痛みで言った台詞だ。アンタに言ったセリフじゃねえ!」


「まあいい、お前ら夕方頃に俺たちを追い抜いた乗合馬車の中にいたよな? どっからなにしに来た?」

「エドヴァルだ。ミルシュラントのフォーフェン辺りじゃ誰でも稼げるって聞いて、仲間と行ってみようってことになったんだ」

「大きな街なら盗賊で稼げるって思ったのか?」


「ち、違う。俺たちの雇われてた店の主が不法取引で捕まって店が閉まっちまった。俺たちはその男のやってる宿屋や酒場で用心棒やら取り立てやらやってたんだけどよぉ、エドヴァルじゃ他に雇ってくれるところもないし、フォーフェンってところはどんどん大きくなってる街だって聞いたんで、なんか仕事にありつけるだろうと思ったんだよ」


はー、典型的なゴロツキかあ。

この腕前じゃあ次の雇い先がないのも無理はない。

しかし・・・見逃すのも悪手だな。


「だったら、余計なことに手を出さないで、素直に仕事を探せばよかったろうに...」


誰かが主導したのか、全員一致なのかは分からんけど、パルミュナを見て悪い気を起こしたんだろうな。

馬鹿どもめ・・・


そうこうしているうちに、地面に突っ伏してる四人目と、仰向けで転がっていた五人目も呻き声を上げて身じろぎし始めた。


「とりあえず他の連中も起こせ」


そいつが静かだった三人目の肩を揺すると、目を覚ましたようだ。

喉に手を当てて呻いている奴はその場に座らせ、最後にうつ伏せたままのリーダーっぽい男に声を掛けると、その一人目の男は自分の右手首が折れていることに気づいていなかったのか、起き上がるために手をつこうとして絶叫した。


「チキショウっ! あのガキぶっ殺して刻んでやるぞ! お前がやったのか? それとも、もう逃げやがったか?」

自分が仲間に助け起こされたので、勝ちが自分たちにあると勘違いしたらしい。

「おい、落ち着けって!」

「やかましい!」

「あいつならアンタの後ろにいるよ...」

「なっ!」

慌てて振り返って俺と目が合うと絶句した。


「誰をぶっ殺して刻むんだって?」

「あ、いや...」

「さっきそいつにも言ったんだけどな。俺は『お前らを捕らえても衛士隊に突き出すのが面倒だ』って先に言ってあったよな? ならそうするか?」


「あ、いや、待ってくれ! 謝る! 謝るから!」

「お前なあ...金と荷物を寄越せってだけだったら、まあ気を失わせるぐらいで勘弁してやったかもしれないけどな? 俺の妹を置いていけって言ったんだぞ。許されると思うのか」

「ぐ...そ、それは...」


「なあ、パルミュナ」

「ん、なにー?」


毛布の下から寝ぼけた声がして、のそりとパルミュナが上半身を起こした。


「こいつら、どうするのがいいと思う?」

「お兄ちゃん、きっと殺さないだろうなって思ってたー」

「ああ、なんだかお前のいるところで人を殺したくなくってなあ...こいつら取り憑かれてた訳でもない本当の悪人だし、自分でも甘いかなって思うんだけど...」

「いいんじゃないかなー。そう言うの、お兄ちゃんのいいところだと思うよー?」


「ですよねっ!」

「やかましい!!」

「すんません!!!」


思わぬところで合いの手を入れてきた二番目の男を叱責し、全員をじろりと睨めつけた。


「ただ、こいつらを縛り上げて衛士隊に突き出すにしてもなあ、コリンもフォーフェンも連れて行くには遠いし、エスラダさんのことを考えると、途中の村に迷惑は掛けたくないしなあ...やっぱり、ここでバサッと?」


「ヒッ!」


「じゃー宣誓魔法でも掛けちゃう? そうすれば、ここで宣誓したことには絶対に背けなくなるよー? 普通なら本人の意思に反して掛けたりはしないけどさー、場合が場合だしー」


「あー、そういう手もあるのか...そうだな...」


殺すのも嫌だが、こいつらを野放しにしたら絶対に同じことを繰り返すだろうな。

もしそれで誰かがこいつらに酷い目に遭ったり殺されたりしたら、防げることを防がなかった俺にも責任があるのかも知れない。


「お前ら、ここで死ぬのと、宣誓魔法を受け入れるのとどっちを取る? 一人ずつ選ばせてやる」


「宣誓魔法だ!!!!!!」


凄い、五人全員でハモッた。

エルフの双子も真っ青だ。


「じゃあ、じっとしててねー」

パルミュナが言うと、地面に座り込んでいる五人それぞれの下に、鮮やかな魔法陣が浮かび上がる。


「これから、私やお兄ちゃんの言うことには、全部『ハイ』って答えてね。答えなかったら魔法陣の反応で分かるから、その人はお兄ちゃんが首を落とすねー」


完全にただの脅しだって分かってるけど、意外にエグい言い方するなあ・・・いつものパルミュナ風の、のんびりした言い方が余計に怖い。


「はい!!!!!」


そりゃあみんな、声に勢いもこもるよな。

確かに、答えた瞬間に各自の魔法陣がフワッと青く光った。

あれが承認したってことの反応なんだろう。


「じゃあ、お前ら、これから俺とパルミュナには絶対に従え」

「はい!!!!!」

「二度と盗賊みたいなことはするなよ」

「はい!!!!!」

「人のものを盗むのは禁止な」

「はい!!!!!」

「ズルや人を騙すのもダメだ」

「はい!!!!!」

「自分より弱い奴に暴力を振るうなよ」

「はい!!!!!」

「女性と子供には優しくしろ」

「はい!!!!!」


勢いで『身体洗えよ!』とか言おうとしたけど止めた。

どうも、この前のオッサン五人の影響で盗賊は物理的に汚いっていう印象がこれまで以上に根強くなってるな。


「パルミュナ、他になんかあるか?」

「アタシたちのことを人に言うのも禁止ー」

「はい!!!!!」


おお、それもそうだな!


まあ、大体こんなところか。

俺たちを襲おうとした罰として、今後、悪いことや暴力的なことさえできなければいいのであって、それ以上、こいつらの人生をどうのこうのしたいわけじゃないからな。


「よし、以上だ」

俺がそう言うと、パルミュナがサッと手を振り、五人の下の魔法陣がひときわ明るく、赤く輝いてから消えた。

五人はそのまま動かないが、別に放心状態とか目が虚ろとか、そういう感じでもない。

単なる指示待ちかな?


「お前らな、これは指示じゃないけど一つだけ覚えとけ。妹が宣誓魔法を使わなかったら、お前たちはここで死んでた。自分が襲って酷い目に遭わせようとしていた相手に命を助けられたってことを忘れるな?」


「あ、ああ。わかった...」

リーダー格だった男が素直に返事をした。

「じゃあ、もう行っていいぞ。とにかく、まともな堅気の仕事を探して暮らせ」

「ああ」

五人が頷いて立ち上がり、気が抜けたように動き始めた。

足下が少しふらついているし、二人は確実に利き手の骨が折れてるけど、このくらいはペナルティだよね?


「おい待てよ!」

本街道へ向けて丘を下り始めた五人を呼び止める。

「なにか...?」

「それは持っていけ」

俺はさっき、五人から集めておいた剣を指差した。

「いいのか?」

「悪いことに使わなきゃいいんだよ。自分の身を守るなとは言ってない」

「...わかった」


実際、こんなもの貰っても困るし、こいつらとしては貴重な財産だろうから、売って今後の生活の足しにでもして貰った方がいい。


おずおずと剣を腰に差し直した五人は、丘を下っていった。


あの魔物に取り憑かれてた破邪のオッサンたちもそうだけど、五人くらいで仲間とつるんでると、随分と気が大きくなると言うか、負ける気がしなくなってくるんだろうな。

たとえ相手が一人でも、強い剣士や魔法使いだったら瞬殺されるだろことも考えて、まず一番大切なことは自分が対峙している相手の力量をはかることなのだ。


まあ、これはいつか自分にも当てはまるかも知れないから、自戒を込めてってところだけどね。


俺もせいぜい用心するとしよう。


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