また盗賊かよ!(怒)
双子と別れた後、パルミュナと二人で日当たりの良い本街道をてくてく歩いて数刻。
エスラダ村長に貰った紹介状に書いてある一つ目の村があった。
あったのだけど、まだ日が高いよなあ・・・
陽の翳り具合で言えば、あと数刻は歩いても問題ないのだが、そうすると、もう一つ先の集落に着くのが夜になってしまうらしい。
うーん、微妙に悩ましいな・・・
「なあ、もう、ここで今日の宿をお願いするか、あと数刻歩いて街道の脇で野宿するか、お前はどっちがいい?」
「えー、ライノの好きな方でいいよー」
「いや、一応は女の子優先で意思決定したい」
「一応ってなにさー。こんな愛くるしいレディに!」
「顕現してるガワの女性体には気を遣うけど、中身は大精霊だからな?」
「ガワって、人をまるで作り物みたいにー! 顕現してる間はこの身体が本物のアタシなのー!」
「はいはい、分かったよ...で、どっちがいい?」
「うーん、村長さんに貰ったお弁当がまだ沢山残ってるしー、野宿でいいんじゃないかな? 特に不便ってことも無いでしょー?」
「そうだな...街道の雰囲気も明るいし、濁った魔力の気配もないよな。じゃあ、陽が陰るまでは歩いて、適当な場所を見つけて野宿にするか?」
「おーっ!」
やっぱり分からんテンションの大精霊だ。
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本街道ではたまに行き交う人や馬車もあるので、歩きながらの精霊魔法の練習は自粛する。
一度だけ、荷馬車ではなくコリンとフォーフェンの間を結ぶ乗合馬車らしきものに追い抜かれたが、ほとんどの馬車は荷物を満載してフォーフェンの方から南下してくるので、俺たちとはすれ違うばかりだ。
俺たちも、どこか途中からフォーフェンまでの乗合馬車を探してもいいんだろうけど、乗合馬車は同乗者に気を使うので苦手なんだよな・・・
まあ、パルミュナも急ぐ必要はないと言ってるし。
それに今回は、ある意味で目立つパルミュナ連れということもあって、色々質問されたり詮索されたりする可能性も高いからな。
ラスティユの村のように、歓迎されての一夜限りの滞在ならともかく、同じ人たちと何日も一緒に過ごしたりするのはできるだけ避けたい。
だって嘘をつき続けるのも、善悪以前に辻褄合わせとか考えるのが面倒だから嫌なんだよ。
サラサラと口から出まかせを流しながら平然としているパルミュナの胆力が羨ましい!
ともあれ、さらに数刻歩いて、いい感じに陽が傾いてきた辺りで野宿することにした。
街道の西側にある緩やかな丘に少しだけ登り、大きな岩がいくつか固まっている影に、街道を通る人の視線や吹き抜ける風から遮られている場所を探しあてた。
こういう片側が大きく開けた土地は、夜中に風が吹き抜けやすいからね。
周辺に木が少ないから、薪がないのは承知の上。
歩く旅をしている破邪が、重たい魔石コンロを持ち歩くことは無いが、麓に降りてきたから空気も大分暖かいし、熊肉と山菜のお弁当がたっぷりあるので、火が無くても大丈夫だ。
一夜を過ごす場所を決めて、寝床の地面を平らに整えたりしているうちに暗くなってきたので、背負い袋から携帯用の小さな魔石ランプを取り出して明かりを灯した。
野宿の最中にランプを使うと焚き火よりも眼が暗闇に慣れにくくなるから、一人の時は滅多に使うことがないんだけど、パルミュナと一緒に暗い中で食事をするのはどうも味気ない。
岩の上にランプを置いて小さな明かりを灯しただけでも、少しは寛ぐ気分になれるってもんだ。
メニューは昼と同じ内容だが美味しいので文句はないし、簡単な食事を終えて、手先を綺麗にしたらもう特にすることはない。
天気もいいし焚き火も熾してないから、俺のケープを下に敷いて、二人並んで一緒に毛布を被れば、後はゆっくり眠るだけ・・・
だったんだけどね!
さっきまでは!
「ん、どうしたのー?」
軽く身を起こした俺に、パルミュナが毛布の下で姿勢も変えずに問いかけてくる。
ああ、そうか。
この気配は魔物や魔獣じゃないから、パルミュナも気にしないんだな。
「ちょっとな、嫌な気配が近づいてる。魔獣とかじゃなくて人のだ」
「あー、それって盗賊とか?」
「多分な。そのまま毛布を被って、しばらくじっとしててくれるか?」
「わかったー!」
当然パルミュナは動じることもなく、そのまま横になっている。
毛布を完全に撥ね除けるとパルミュナが寒がるかも知れないので、縁を持ち上げて、そっと自分だけ滑り出る。
俺は一旦ガオケルムを抜きかけたが、考え直して鯉口を元に戻した。
恐らく相手はただの人族だ。
街道側からそろそろ上がってくる人の気配が数人。
さっきまで灯していた魔石ランプの明かりを目印にしていたのだろう。
音を立てないよう、そして自分たち自身も転ばないようになのか、暗い中を本当にゆっくりと近づいてくる。
文字通りに這い上がってくるというスピード感で、寝込みを襲う気満々だな。
はあ・・・面倒。
背にした大岩に寄りかかったまま待っていると、ようやく、俺と向き合っている岩陰に、こちらの様子をそろりと覗き見ようとした男の顔が現れ、俺と目が合った。
「なにか用か?」
と、そのままの姿勢で問いかけてみる。
男は俺が待ち構えていたことに驚いているが、されど慌てて逃げていくということにはならなかった。
剣を抜くと、岩陰から歩み出てくる。
それに続いて他の男たちも出てきて、総勢五人。
典型的な旅人風の装束だが、なんというか油で薄汚れているし、腰帯だの首巻きだの、妙なところだけが派手。
これは、酒場の用心棒でもやっていた口か・・・
全員すでに剣を抜いて臨戦態勢だけど、お前ら、お互いに近寄りすぎてるよ?
「余裕をこいてるんじゃねえよガキがぁ。おめえは見逃してやるからよぉ、荷物と財布と、そこの小娘置いて、とっとと消えやがれ!」
「なあ、お前らに脅されて言われた通りにした奴なんて、これまで一人でもいたのか?」
「んだとぉ!」
俺は指先に強めの光り魔法を灯して、その場を明るくした。
五人の野盗が眩しい明かりに照らされて眼を細めるが、この五人、どっかで見覚えあるな・・・
思い出した。
夕方頃、俺たちを追い抜いた乗合馬車に乗っていた男たちだな。
ちらっと目が合ったので覚えてるよ。
だってパルミュナの方をジロジロ見てたもん・・・
それで、次の集落で馬車を降りて、途中で野宿するだろう俺たちを襲うために戻ってきたのか・・・
よし、徹底的にぶっ飛ばす。
こいつらは、あのオッサンたちみたいに魔物に取り憑かれてるわけでもなく、自分の意思と欲望で盗賊やってる奴らだからな。
「たった五人で破邪に喧嘩を売ってただで済むと思うなよ?」
「やかましいっ! 一人で五人相手に勝てるわけねぇだろうがっ!」
だから、『盗賊になるのはマヌケだけ』って言われるんだよ。
以前の暮らしに何があったのかは知らないが、街の喧嘩レベルの腕っ節で、盗賊になって喰っていけると勘違いしてる。
「いま俺が気にしているのはな、お前らを生かしたまま捕らえても治安部隊の衛士に引き渡す手間が面倒だなってことだけだぞ?」
「ガキがほざいてんじゃねえぞっ!」
そう叫びつつ、最初に顔を出した男が大振りに斬りかかってきた。
だけど遅い・・・
正確に言うと、人間族の基準でも特に素早いほうじゃない。
よくこの腕前で盗賊になろうなんて思ったな?
どんだけ切羽詰まってたんだ。
俺は自分から前に出ると、両手で上段に剣を構えて振り下ろしてくる男の右手首を掴んだ。
そのまま手を放さずに身体を捻って、男の身体を地面に引き倒し、手ごと剣を地面に叩きつける。
男の手首の骨がポキッと折れる感触が伝わってくるが、その衝撃に、ぐわっと声を上げかけていた男は、次の瞬間には地面に顔を埋めて気を失った。
それを見て他の四人があっけにとられたのが視界に入るが、誰一人逃す気は無い。
俺はすぐさま前に出て、右端にいた男のボディに拳を打ち込んだ。
構えていた剣を振り上げるまもなく、そいつが後ろに吹っ飛ぶ。
三人目の手首には手刀を叩き込んで剣を落とさせ、殺さない程度に軽い突きを喉に当てて気絶させた。
さすがに四人目と五人目は、剣を振り上げるに至ったが、そこまでだ。
四人目が振り上げた剣の柄頭を握って手前に引き倒すと、簡単によろめいてきたので、うなじに手刀を入れてそのまま地面に突っ伏させ、その身体を乗り越えて五人目の顔に掌底を突き込んだ。
真後ろに吹っ飛んだ五人目の男は、そのまま後頭部から倒れ込んで気絶してしまう。
こいつら・・・
勇者の力どころか、魔法のまの字も使う必要が無かったよ。
スピード遅すぎ!
俺が知ってるエドヴァルの破邪の中で、この五人に負けそうな奴が思い浮かばないレベルだぞ?