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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第四部:郊外の屋敷
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自力転移で屋敷に帰還


銀の梟亭の美味を全力で堪能しながら『シンプルな料理が好きだ』なんてフザけたセリフを口にしても説得力は欠片も無いんだけど、逆に言えば、この店やリンスワルド家専属料理師達の美味絢爛な料理を味わっていられるのも、後しばらくの話だ。


「でもなあレビリス、ドラゴンキャラバンが出発したら、逆に凝った料理は絶対に食えなくなるぞ?」


「考えてみりゃあ、それもそうだな...またしばらくは堅パン生活に逆戻りか」

「まあ姫様達が一緒だから堅パンは厳しいって言うか、もう少しは持ち込む食材とかに気を遣った方がいいんだろうけど、それにしても調理人が一緒って訳じゃないからなあ」


いくら材料が良くて豊富でも、それを食事とする際の問題は『誰がどう、それを料理するのか』だからね。


「さすがにさ、毎食ごとに転移門を使って食べに行くって訳にも行かないか!」

「出来るかそんな事。食事の(たび)に十人で往復して魔力疲れの最中に襲われたりしたら目も当てられんわ」

「だよなあ...」

「それに冗談はともかく、屋敷からどの位遠く離れても問題なく転移が出来るのかは行ってみないと分からないからね」

「だったらさー、料理し終わったモノをお兄ちゃんの革袋に入れとけばいーじゃん?」

「ある程度ならそれも有りだな。でも道中の全部とか何日分になるか分からないけど凄まじい量だぞ?」

「この店にそんなお願いしたらさ、目を回されそうだよね」


以前、南の森の調査にダンガ兄妹と出かけようとして準備したとき、四人の食事を日に三食で六日分って感じで揃えたら、途轍もない量になった事を思い出す。

まあエールの小樽とかジャム壺とかも買い込んでたけどね。


「それになあ、決まり切ったメニューを食べ続けるよりも、材料だけ持ち歩いといて、その場その場で食べたいものを作った方がいいんじゃ無いかって思うんだ」

「あー、そうかも...料理になってるモノよりも食材の方がいいってことねー」

「ああ、臨機応変に融通が利く方がいいんだよ」


ただし、俺やレビリスの調理技術に味は期待しないで欲しいけどね。


「じゃあ食材を沢山持っていこー。いまのお兄ちゃんなら量は幾らでもダイジョーブだと思うし」

「そう言って貰えるのは嬉しいけど、革袋に頼りすぎるのは良くないからバランスを考えながらって感じかな?」

「え、そーかな?」

「仮に俺がほとんどの食料や消耗品を革袋で運べたとしてもだ。もしも、みんなとはぐれたり状況次第で別れて行動しなきゃいけなくなったりしたら、すぐに全員困る事になるぞ?」


「そっか!」

「確かにライノが近くにいないと飯も食えないってのはよくないな」


「そーだよねー。知らない森の中でいきなり自給自足は厳しそー」

「破邪と狩人が一緒なんだからなんとかなるだろうけど、それでも、ある程度の食料はちゃんと馬車に積んで運んだり、行く先々で買って調達する方がいいと思う」

「分かったー! じゃー革袋に入れておく料理は甘いもの系で!」

「やかましいわ」


でも実際どうなんだろう?

馬と荷馬車を収納できたんだし、トレナちゃん達のまとめていた荷物をほとんど一気に運べたって事を考えると、馬車で二〜三台分に載る程度の量なら何の問題も無いだろうとは思える。


革袋は女性組の甘味と男性組のエールなど多方面に活用しつつ、必要最低限の物資はちゃんと馬車に積んで緊急時にも困らないようにするって方向で考えてみよう。


++++++++++


目立たないようにさりげなく出しておいた大鍋に三人前の塩茹で豚を、そして小さい鍋に腸詰めと葉野菜を入れて貰い、フライパン兼用の蓋を大皿にしてチェリーの載ったクリームのケーキを載せた。

ついでにホップの苦いエールと燻し風味のエールも小樽で分けて貰ったから三人で両手に大荷物だ。


給仕の娘さんは、俺たちが二階の部屋で食べると思っているから皿ごと渡そうとしてくれたけど、返しに来るのが面倒なので適当にゴニョゴニョと辞退する。

自分たちの食事の分とまとめてお代を払おうとしたら、『代金は一切受け取る必要が無いと、先ほどの書状に書かれておりました。別枠になるそうです』と受け取られなかった。


姫様、ごちそうさまです!


さて・・・

とにかく帰りはアスワン屋敷まで自分の魔力で跳ばないといけない。


パルミュナの説明によると枯渇寸前で屋敷に着いても、すぐに魔法陣から魔力が供給されるから心配ないって事だし、実際に戻る度に供給される事は実感できてる。

でも、枯渇寸前じゃなくて、『枯渇しきった』状態で到着したらさすがにダメだろう。

その場合って、死んだ状態で屋敷に到着するのかな?


うーん、考えるとちょっと怖い。

どれくらいまで遠く離れて大丈夫なのかは、自分の体で実験しながら様子を見るしかないないんだよな・・・

屋敷と王都を往復する事に較べると、フォーフェンはさすがに段違いの距離だ。


もしも転移に使う魔力が完全に距離に比例するのなら、フォーフェンから屋敷に戻るときには、王都の別邸から屋敷に行く時の数十倍の魔力が必要だって事になる。


たぶん大丈夫だろうとは思ってるんだけど・・・


「まず試しに俺一人で跳んでみるから、悪いけどパルミュナとレビリスは、ちょっと待っててくれないか?」

「分かったー。でもお兄ちゃんならダイジョーブだよ?」

「そう思うんだけど、念のためにな?」

「なあライノ、屋敷に戻れさえすれば魔力は回復できるんだろ? 結構疲れるとしてもさ」

「ああ、大丈夫だ」

「でさ、一回跳べばギリギリか、それとも俺を連れ帰る余裕があるか分かるよな?」

「そこは大体把握できると思う」


「じゃあこうしようぜ。まずライノが一人で戻ってみる。パルミュナちゃんも一人で戻ってライノの様子を見守る。俺はこの部屋で待ってるからさ、もし大丈夫だったら休んでから改めて連れ戻しに来てくれ。キツそうだったらすぐに来なくてもいいさ」

「そうか?」

「俺はこの部屋で寝てられるし下の食堂で飯も食える。なんなら住んでた部屋だってそのままあるんだしさ、ウェインスさんを一週間待って一緒に馬車で王都に向かうってことだってできるんだ」


「あー...じゃあとにかく跳んでみるよ。レビリスを連れ戻るのが無理っぽかったら、そのことを伝えに今日か明日、ここに戻る。それでいいか?」

「了解だライノ。寝て待ってるから慌てなくていいさ」

「よし、じゃあ行ってみるか!」


意を決して部屋の魔法陣を起動し、屋敷の地下に意識を集中する。


地下室の光景がリアルに感じられるようになるまで、行きよりも時間が掛かってる気がするな・・・

それでも徐々に周囲の景色がすり替わるようにして宿屋の一室から地下室へと変化し、やがて完全に入れ替わった。

そして空間のズレる感覚、転移。


地下室に転移した次の瞬間、俺は魔法陣の上に膝をついていた。

ごっそりと魔力が抜けた感覚・・・

すぐにパルミュナが後ろに転移してきて俺に抱きつく。


「大丈夫っ!?」

「ああ、大丈夫だよ。抜け具合が大きくてクラッときたけど倒れるほどじゃない。膝をついたのも精神的なもんだな」

「なら良かったー!」

「魔力の抜け方っていうのかな? それが予想してた感じと違ってたからウワってなっただけだよ。むしろ魔力量自体は心配してたほど使わなかったし、もう充填されて元通りだ」


「そっかー。魔力量は大丈夫だと思ってたんだけどさー、ちょっと心配したー!」

「ありがとな。だけど、いまの転移で、遠くに跳ぶときにどれくらい魔力が必要か、なんとなく掴めそうに思えた」

「そうなの?」

「ああ、転移する前に、転移先の周りの景色がどんどん鮮明になっていくだろ? 別邸と往復するときよりも、フォーフェンから戻るときの方がそれに時間が掛かってたんだよ」


「おーっ!?」


「別邸と牧場なら差はなかった。だから、その時間の掛かり具合で使う魔力量が測れそうに思うんだ。究極はヤバいと思ったら直前で止めるって事も出来なくはないかも?」


「それが分かると、遠くに行ってもかなり安心だねー!」

「全くだな。この感覚を忘れないようにしとこう」


転移先に意識を集中し始めてから跳び先の情景が鮮明になるまでの時間で、『転移に消費する魔力量』をおおよそでも掴めるとしたら、初めての長距離にトライする時でもかなり気が楽だからね。


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