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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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双子とよもやま話


俺とパルミュナ、それに俺たちを見送りがてらに街道沿いの村へ買い物に行くというラキエルとリンデルの四人でラスティユの村を出て本街道へ向かう。


天気も良くて、さっきの村長のセリフじゃないけれど、本当に爽やかな雰囲気だ。

山道の両脇は風通しの良い明るい木立に挟まれていて、そこに朝日が横から射し込んでいるから、木々の葉が薄い緑色に光って美しい。


ここから一刻ほど歩けば街道に突き当たり、そこから先はポツポツと村や集落が点在しているので、ちゃんと考えて歩けば、毎日、日が沈む前にどこかの集落には立ち寄れるそうだ。

人通りもそれなりにあるので宿屋もあるし、宿屋のない小さな集落でも、少しのお金をもらって客を泊める程度のことはやってくれるらしい。


エスラダ村長のくれた紹介状には、おおよそ一日ごとに辿り着きそうな村の名前ごとに、そこにある宿屋や泊めてくれるであろう農家などの名前が書いてあった。

これがあれば、少なくともフォーフェンまでの間で路頭に迷うことはないな。もしもいまが冬だったら、この書状は値千金というところだ。


あれこれ話しながら歩いていても、二人ともさすが狩人だな。道すがらに色々なものを見つけては、俺たちにあれこれ教えてくれる。


途中、リンデルが道の脇に生えているシダを指差して、『これが鳥の羽って呼んでる山菜だよ』と言った。


昨夜の美味い山菜はこれか。

うーん、普通のそこらでよく見るシダと見分けがつかん。


「大抵は明るい場所にまとまって生えてるから、見慣れると、すぐにわかるんだけどね。どこが他のシダと違うか、言葉で説明するのは難しいなあ...生え方っていうか、生えてるカタチ? 雰囲気? かなあ」


まあ、見分け方なんてそんなもんだろうな。

地元の人には、子供の頃から当たり前すぎて、わざわざ考えたこともない、みたいなことだろう。


「でもアラリアなんて、一度見たら絶対に忘れないよ」

「ああ、そうだとも。山菜って言っても草じゃなくて木の芽なんだけどね、その木っていうのが悪魔の棍棒みたいに棘だらけなんだよ!」

「へえー」

「若木なんて本当に『針の木』みたいな感じさ。ラキエルが子供の頃に斜面から滑り落ちそうになって、咄嗟に掴んだのがこのアラリアの木だった時の悲鳴ったら、すごかったね!」


「あれはなあ、死ぬかと思ったよ。痛いっていうのとびっくりしたっていうのと。握った手のひらに棘がガシガシ突き刺さってきてるのに、体半分は崖から落ちかけてるんだから手を離せないしさあ。もう地獄!」

「あれは慌てたよな!」

「全くだ! リンデルが反対側の手を掴んで引き上げてくれなかったら、俺はきっと泣いてたぞ」

そう言ってアッハッハッハと、二人で豪快に笑う。


ホントに人生が楽しそうだよね君たち・・・


ラキエルはすぐにミレアロさんとの結婚生活だからな。

昨日の話だと、里のはずれに新居を建ててるって言ってたし、幸せいっぱいって感じだろうな。


「ところで街道に出たら、何を仕入れるつもりなんだ?」

「ああ、俺たちは鏃と食器だ」

「へえ、鏃とかは村で作ってるのかと思ってたよ。村に鍛冶屋はいないのかい?」


「金物の加工ができる者はいるけど、作るのは人から頼まれた小物や髪飾りとか、そういう類のものだけだ。武具や農具を作ってる鍛冶屋はいないよ。まあいないっていうか、いまのところ、村に鍛冶屋はいらないっていうのが合ってるかな?」


「そりゃまたどうしてだ? 全部、外から買うよりも、村の中で作った方が安くつくだろう?」


「うーん、『外から買えるものならできるだけ買え』ってのが昔から村の方針でさ...麦だけじゃなくて、鉄製品、焼き物、大きな布、そういうあたりは、ほとんど外から買ってるかなあ。もちろん自分達用に手慰みで作ったりするものはあるけどね」


「なんでそんな方針になったんだ? それでいいことでもあるのか?」


「まあ村長からの受け売りで説明すると、周りの集落とかと互いに金を使いあった方がいいってことらしいんだ。こっちだって、山で獲った獣や山菜みたいな山の幸を外に売ったりもするだろ? あと、ラスティユの村で作る特別な紙や山絹はすごく人気があるから、それもいい稼ぎになる。で、その金で今度は麦を買ったり、鉄製品や焼き物を近くの村から買ったりするわけだ」


「うんうん」


「定期的に沢山の買い物をするから、近くの村も俺たちには良くしてくれる。通りすがりの商人に売りつけるような値段は出さないし、いい物を取って置いてくれたり、細かく選ばせてくれたり、色々と融通も利かせてくれるんだ」

「ほー」

「それに向こうだって、俺たちの村が持ち込む毛皮や紙や山絹を買い叩こうなんてしないし、互いに持ちつ持たれつってわけさ。この近隣にあるのは人間族の集落ばかりだけど、そうやって付き合いが沢山あるから、エルフ族の村のラスティユも孤立したりしない。なにしろ街道沿いの村祭りに呼ばれるくらいさ!」


「なるほどねえ...使う金のことだけ気にして、なんでも安くあげようなんてせずに、長い目で見て周りとうまくやっていく方がいいってことか」


「まあ、簡単に言えばそんな感じだと思う」


そうか・・・今朝、出発前に俺が村長さんからもらった紹介状と、ここに書かれた泊まれる場所のリストは、ラスティユの村と近隣の村との、そういう長年の付き合いで培われた信頼の上に成り立ってるってことだな。

これは本当にありがたい。

というか素直にすごく嬉しい。


何が嬉しいって、たった一晩を村で過ごしただけにすぎない通りすがりの破邪に、長い長い年月で培った信頼をポンと預けてくれたということだ。

俺がもし、平気で人に不義理をしたり、人の信頼に付け込んで利を得ようと画策するような奴だったとしたら、それが原因でエスラダ村長や、下手をしたらラスティユの村全体が近隣からの信頼を失ってしまうことだって、起こり得ないとは言えない。


この紹介状は、それだけ俺のことを信頼してくれたという証なのだ。

やばい、そんなこと考えてると涙が出そう。


「最初にラスティユの村を作った人たちは、大したもんだなあ」


「そうなんだろうな。なんでも昔、外国から村丸ごとで引っ越してきたらしい。多分、大戦争の時に何かあって元の土地に住めなくなったとか、そういう理由だろうけど」


「ふーん、そうなのか。まあでも国と国の間の行き来もどんどん面倒がなくなって楽になってきてるから、これからはよその国のエルフとかも訪ねてくるようになるかもな?」


「そりゃあ、それこそライノとパルミュナちゃんだってそうだろ? エドヴァルから王都までだって相当な距離じゃないか!」


綺麗に忘れてた。


自分がハーフエルフだっていう設定、じゃない、知らなかった事実が、まだ自分の中に根付いてないんだよ。

なにしろ昨日知ったばかりなんだからさ。


「ま、まあな...でも鏃なんかはともかく、食器なんかは普通に木の器だけで済まさないのか?」


昨夜のような各国エルフ話に深入りすると、色々と答えづらい話題も出てきそうなので、さらっと話題を変える。


「ああ、日常の器はそれでいいんだけどさ、結婚するときは、陶器の食器とガラスの(さかずき)を一揃えするのがラスティユの村の習わしなんだ。これは普通に売ってる物を買うよりも、注文して作ってもらった方がいいから、今回、ついでに四人分まとめて頼んでしまおうと思ってな」


「へー。なんだかいいね...ん? でも四人分ってのは、生まれてくる子供の分も先に揃えちゃうとか、そういう慣習なのかい?」


「ああ、違う違う。俺とミレアロの分に、リンデルとその結婚相手のルシンって女の子の分を合わせてってことだ」


「なんだ、リンデルも結婚するんだったのか! 兄妹二人揃って結婚とは、そりゃ目出度いなあ。おめでとう!」

「ありがとう、ただ、俺がルシンと結婚するのはまだ先っていうか秋以降なんだけどね。家がないと始まらないし」


俺が怪訝な顔をしたのがわかったのだろう。ラキエルが続きを説明してくれた。

本当に俺って考えてることが顔に出やすいんだな。


「今回、俺とミレアロが結婚して、新しく建てた家で一緒に暮らすんだけど、いっぺんに二軒も建てるのは色々とキツい」

「ああ、新居の準備が間に合わないってことか?」

「そんな感じかな...もちろん村のみんなも手伝ってくれるけど、出来るだけ自分たちで建てた方がいいし、まずはラキエルとミレアロの家を建てて結婚式をやって、それが全部片付いてから俺とルシンの家に取りかかる感じだ」


「それを聞くと、半年で家が建つってのも凄くないか? 昨日見た感じだと、どの家も結構立派に見えたよ」

「まあ、最初はがらんどうさ。どの家も、住み始めてから少しずつ手を入れていくんだ。子供が生まれたら部屋を足したり、家自体を大きくして屋根を葺き替えることだってあるよ」


「ああ、なるほどね。街中と違って、そう言うのが自由に出来るのはいいな」


「本当は最初っから四人の二組で一気に結婚式を挙げようかなんて話もあったんだけどね。村長に『お前たちはいいけど、周りが色々と大変だから少し時期をずらせ』って言われてさ。まあ、それもそうだなって」


「で、四人でじゃんけんをして、俺たちが負けたんでラキエル組が先に式を挙げることになった!」

「三回勝負だったからな! 一回ならリンデル組の勝ちだったけど!」

「そうだったな! はっはっはっはっ!」


なんという大らかさ・・・みんな(ほが)らかだなあ。


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