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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第四部:郊外の屋敷
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結界隠しの精霊魔道具


それから数日間、姫様に手配して貰った魔銀のインゴットやらなにやらを使ってパルミュナとシンシアさんが二人でアスワン屋敷に籠もってゴソゴソしていたと思ったら、魔力の漏洩を防ぐ魔道具が完成していた。


俺もほぼ毎日、食料をはじめとした色々な物資を定期便のように別邸や牧場から運び込んでいるので、トレナちゃんやテレーズさん達もすっかり『転移』という概念に慣れたっぽい。


「クライス様、今度いらっしゃる時にジャム用の砂糖を追加して頂きたいのですけれど、姫様にお伝え頂けないでしょうか?」


トレナちゃんは、ホント気さくな感じでいいね。

思えば、初めてポリノー村でサミュエル君と二人尋ねてきた時からずっとこんな感じだよな。


「お屋敷の主様(あるじさま)を便利に使ってしまって誠に申し訳ございません」

そしてテレーズさんは徹頭徹尾こんな感じ。


なんというか、二人ともブレない。


改めて知った事だけれど、この四人のメイドさん達には上下関係は無く、単にテレーズさんが一番年長の経験者だから取り仕切っているだけ、ということらしい。

テレーズさんに言わせると、むしろ日頃の専属で仕えている相手の序列を元にすれば、本来はトレナちゃんが一番発言権があるはず...って事になるんだそうだ。

なんだか不思議。


革袋にいれて運んできた荷物をキッチン脇のパントリーに出してから、パルミュナとシンシアさんが作業をしている二階の部屋に足を運ぶと、ちょうど魔道具の試作品が出来上がったところのようだった。


「コレでいーかな?」

「きっと大丈夫だと思います」


二人が鈍い銀色の円盤を手にしているけど、ゲオルグ君の部屋で見たものよりも一回り小さく、どこかの国の銀貨のようにも思える。


「おっ、例の魔道具ってもう出来たのか?」

「うん、たぶんねー」

「凄いな。さっそくテストしてみるか?」

「じゃー、お兄ちゃんはあっちに行ってて!」

「え、なんでだよ?!」

「女の子だけのひみつー!」


なんだよそれ。

お前、いまこの場にアスワンがいても同じ事言えんの?

という思いが一瞬頭をよぎったが、無論、口には出さずに大人しくその場を離れる。


特に意味も無く、元勇者の部屋に入って椅子に座ってみた。

この部屋の家具は誰も動かしていないので、この背もたれの高い一人掛けソファというかウィングバックチェアは暖炉の方に向いたままだ。

座ると自然に暖炉とマントルピースの上の、いまはなにも掛かっていない壁杭が目に入る。


・・・『これも(えにし)というものの面白さだ』

小太刀を抱えたアスワンはそう言っていたな。


本当にそう思う。

あの泉でのアスワンとパルミュナに出会い、自分が勇者の魂を持って生まれてきたと知らされた事。

いまの自分自身のものでは無い、過去の印象の中にあるドラゴンとの戦い。

あの時は気が付かなかったけれど、あのドラゴンはライムール王国を荒らし回った『悪竜』と呼ばれていた存在だ。

つまり、聖剣メルディアをもっていた勇者の魂は、現在の俺の魂でもある。


アスワンが『あの件については色々と反省している』と言っていた事が一体何なのか今でもサッパリ分からないけれど、実は過去の俺はその当事者だった訳だ。

アスワンが過去の俺の魂に関する話題に触れようとしないのも、きっとそれに関係しているんだろうな・・・


まあ、だからと言って追求したいって事でもない。


それらは記憶とも呼べない朧気な印象として存在しているだけだし、今後の参考にもしようが無いけれど、『人心を集めない方がいい』というアスワンの忠告は間違いなくその件から生じた、いや、むしろ当時の俺の行いを起点にして生じた言葉のはずだ。


それは肝に銘じておかないとな・・・


++++++++++


ソファに沈んで考え事に耽っていると、いきなりドアが開いてパルミュナが飛び込んできた。


「お兄ちゃん、分かったー?」

「え、分かったってなにがだよ?」

「ひゃっほー、大成功!」

「はあ?」

「あの結界隠しの魔道具を動かしてる状態で、私が部屋の中で魔力を放出したのー! それをお兄ちゃんが全く感じ取れなかったって事は、上手く動いたってこーと!」


「おお、そうだったのか! いや本当に全然気が付かなかったぞ」

「いぇーぃ!」

「凄いぞパルミュナ!」

「ほめてー!」

「おう!」


パルミュナめ、『女の子だけの秘密』なんて思わせぶりな事言いやがって、その実験のために俺を部屋から追い出したのか。


後は、コレをシンシアさんに王宮の居室に持ち込んで貰い、自力で帰還用転移門の魔法陣を開いて貰う事が出来れば、いつでも王宮に跳べるし、逆にシンシアさんが大公陛下をここに連れてくる事も出来るはずだ。

・・・もしも本人が来たがるとすればだけどね。


シンシアさんもおずおずと部屋に入ってきた。


「私は明日、お母様と一緒に登城して居室にこの魔道具を設置してこようと思います。ただ、まだ自力でこの屋敷と行き来できる自信は無いので、帰りも普通に馬車に乗って別邸に戻るつもりですけど」


「えー! シンシアちゃんなら絶対にダイジョーブだよ?」


「ありがとうございます。ですけれど、まずは私が帰還用の転移門をちゃんと居室に開けるかどうかがまず最初の関門ですから、それを確認したいんです」


「なるほど...シンシアさんは明日の何時から何時までそこにいるつもりですか?」

「特に決めてはいませんけど、実際の用事がある訳でも無いので、転移門を開けたらそれでいいかなって思ってました」

「居室に、他の人が来る事は?」

「世話係に関しては、通常は当家の従者たちを連れて行きます。大公家から派遣されている部屋付のメイド達もいますけど、こちらから呼んでおかなければ入って来ません」


「じゃあ明日の昼頃に、俺とパルミュナがテスト代わりにこっそり居室に跳んでみるって言うのはどうですか?」

「大丈夫でしょうか? もしも上手く転移門が開けなかったら...」


「その頃合いを見て地下に行って、転移先に居室が増えてるかどうか確認してから跳びます。別邸に戻る時と同じで、跳ぶ前に部屋の様子は大まかに分かりますから問題ないですよ」


「そうですか...」


シンシアさん、ちょっと不安そうだな。

ここと別邸の間はもう何度も行き来してるけど、新しい転移門を自力で開くのは初めてだからな。

いや、それともウッカリ大公陛下に見つかって親孝行に城へ日参させられる羽目になる事を恐れているんだろうか?


「もしなにか不都合があれば気にせず馬車で別邸に戻って貰って構わないし、気軽に考えて貰っていいですよ。どうせ俺もパルミュナも毎日ここに顔を出してるんですから」


「分かりました。では、明日の正午に転移門を開いて居室にいるようにしてみます」


「ええ、それで試してみましょうね」


++++++++++


翌日、あっという間に荷物部屋に運び込まれていた大量の砂糖をアスワン屋敷に運び込んでトレナちゃんに渡した。


この屋敷で過ごしている限り、当面はパルミュナの『甘いもの補給』については心配しなくても良さそうだな。

裏庭や屋敷の周囲には果樹の類いも沢山あるようだし、いざとなったらここでテレーズさんにジャムでも作って貰おう。


別邸への戻りは、屋敷で中身を出した後の空箱を持っていく。

この空箱は、荷物部屋が見かけ上いきなり空っぽになってしまうことを防ぐ為のダミーって奴だ。


何度も使っている内に転移門で消費する魔力はほとんど気にならないぐらいになってきたので、この程度の距離なら往復の頻度は問題じゃないし、四〜五人なら一度に連れて転移できる。


直接牧場に納品された物資を屋敷に運ぶ時は、ついでにスライに声を掛けたりもしたけど、スライ達は最初の出会いからして『犀の魔獣』討伐シーンだったし、俺が勇者だって事をすんなり受け入れたせいか、転移門に関しても『へー、そりゃ凄いな!』という感想で終わった。


この辺りの感覚はポリノー村帰還組と同じで、初っぱなが度肝を抜く出来事だと、後の事は割と平然と流せるらしい。


ただ、屋敷に行っている間の俺やパルミュナは、見かけ上は客間や荷物室から出てこないって事になってしまうので、時間がある限り頻繁に別邸に戻り、庭を歩いたりしてウロウロする。


まさに陽動、これこそデモンストレーションだね。


あまり毎日部屋に籠もっている風だと、体の具合が悪いんじゃないかとか機嫌が悪いんじゃないかとか、家の人に余計な心配をさせてしまいそうだし・・・


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