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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第四部:郊外の屋敷
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攻撃は最大の防御


俺は微かにアスワンに微笑み返す。


「まあね。最近は思い出す事も増えて、自覚も出来てきたと思うよ?」

「ふむ。ならば重畳(ちょうじょう)というものよ」

アスワンは俺に向かっていかにも重々しい仕草で頷いてみせると、今度は不意にシンシアさんに目を向けた。


「ところでシンシアと言ったか? リンスワルドの幼い娘よ」

「は、はい」

「お主からは精霊魔法の気配がしておるし、ちび助共も楽しそうにお主に纏わり付いておる。なにか精霊の技が使えるようにでもなったか?」


いきなりアスワンから問われたシンシアさんがソワソワと挙動不審な感じになってる。


「あ、あの...パルミュナちゃんに指導して貰って...少しだけ精霊の結界を張れるようになりました」

「ほう!」

「その、勝手にすみません...」

「何を言うか。いくら勇者の血を引くと言っても常人には出来ぬ事、むしろ類い希(たぐいまれ)な才能を誇るが良いさ」


「あぁ、ありがとうございますっ!」


「儂にとってポルミサリアでもっとも不思議なことの一つが、どうしてパルミュナは人にモノを教えるのが上手いのかと言うことだな。サッパリ理由が分からん」


「ひっどーい!」


「褒められてるんだからいいじゃないか。なんであれ、俺にとっては自慢の妹だぞ?」

「そーですーっ! お兄ちゃんが褒めてくれたらアタシにはそれで十分なんですー。アスワンが何を言おうとどーでもいーんですーっ」

「コラ、どうでもいいは言い過ぎだろ。礼儀知らずは良くないぞ?」

「えへー」

「わかるだろパルミュナ。大切な自慢の妹だからこそ、俺はお前がみんなに好かれてて欲しいんだよ」

「うん」


「まあ確かにパルミュナは、お主の妹であろうよ...で、話を戻すがシンシアよ。お主は精霊魔法も会得しつつある上、その身体は勇者の血も引いておる。勇者の魂そのもの、というわけではないがな」

「はい...」

「よって、お主もそれなりに精霊の力を受け取ることは出来るであろう」


いや、待ってくれよアスワン。

パルミュナに力を使わせるのは絶対にダメだぞ?・・・

例え大精霊に逆らうことになっても、それだけはダメだ。


「ごく僅かではあるが、儂の力を受け取るが良い」


あ、そっち?


「え、大丈夫なのかアスワン?」

「勇者の魂を練り直すのとは訳が違うからな。存在が掠れるようなことにはならんよ」

「いやでも、また姿を保てなくなるんじゃ...?」

「案ずるな、少々精霊界に籠もるだけだ。それほど長くは無い。それにエルスカインを倒すという目的の可能性を上げる為に、いま出来ることをやっておくべきであろう?」


「ああ、まあ...そうだな」

「それほど構えることも無いさ。さてシンシアよ、ここに来るが良い」

アスワンがシンシアさんを手招きする。


おずおずと近づいたシンシアさんの小さな頭に両手を載せると、おもむろにアスワンは微笑んだ。


「ほう、お主の父親はあの男か...ふむ。それにこれは面白い。いや、お主にとっても丁度良いか...」


言ってる事の中身は良く分からないけど、アスワンの何気ないというか悪気の無い暴露っぽい発言に、シンシアさんの耳が真っ赤だ。

あと、姫様もなんとなく顔が赤いな。


そして次の瞬間、シンシアさんの全身が白い光に包まれた。

ほんの一瞬だったけど、俺がアスワンから力を受け取った時にも白い光に囲まれていたことを思い出す。

もしも、あの時の俺を外から眺めていたらこんな感じだったんだろうか?

自分では結構長い時間だったように思えてたけど、こんなに一瞬だったのかな?


「これで良かろう。特別なことはなにも無いが、これでお主もごく普通に精霊魔法を扱えるようになった。この屋敷の転移門も好きに使えるぞ」


いや、それって十分に特別だからね?


「そ、そうなのですか! 誠に、まことにありがとうございます!」

シンシアさんが堪らず跪いた。

「だから、そのような仕草は必要無いと」

「失礼しました」

「いや構わんがな。かように可愛いらしい勇者がいても悪くは無かろうて...どれ、なにか甘いものでも欲しくは無いか?」


「は、はい?...」


アスワンが軽く手を振ると、その指先には色鮮やかな小箱が現れていた。

それって、よく貴族の屋敷で砂糖菓子とか入れて机上に置いてある細工箱だよな・・・おい、アスワンでさえ上目遣いのシンシアさんにはオヤツをあげたくなるのか?


戸惑っているシンシアさんに問答無用で箱を渡すアスワン。


「お主は元から魔力の扱いに長けている分だけ、複雑な魔法に関しては、むしろライノよりもきめ細かに扱えようと言うものだ」


ですよね・・・

シンシアさんが精霊魔法を自由に使い込ませるようになったら、ひょっとして俺より強いんじゃ?


「だがライノよ、一つだけ言っておくが、恐らくシンシアにはエルスカインは倒せぬぞ?」


ちょっと見透かされた?


「えっ? そうなのか」

「うむ、この娘はまだ幼く、そして優しすぎるが故に、自らの行いに確信を持てぬ時は力を振るえぬだろう。エルスカインとの戦いは、そのギリギリの処にあるという予感がする。それはお主にしか出来ぬ」


「そうだな...なあアスワン、今更だけどエルスカインが何者なのかは分からないのか? 闇エルフの系譜って言っても、その実、どんな連中かはっきりしないんだろう?」


エルスカインが姫様の言ってたように闇エルフの系譜だとして、闇エルフってのは何処の氏族だ?

そもそも、どこに住んでた連中なんだ?

闇エルフって呼び名自体が、後の世に付けられたものだろう?

元の時代には何て呼ばれてた連中なんだ?

知りたいことは多い。


「そこがはっきりせぬのが、なんとも腹立たしい」

「そうなのか? アスワンでも知らない話ってことか」

「元より、世界戦争の時代のことなど儂はほとんど知らん。それに遙か昔は人の世の行いなど興味が無かったしな」

「そうか...」


ちょっと意外だな。


アスワンがどれほど古くから存在しているのか知らないけど、ずっと昔からポルミサリアの守護者だったように思ってた。

それとも、いまはもう微かにしか伝わっていない太古の世界戦争で荒廃した世界を見て、思いを変えたんだろうか?


「色々な痕跡を辿って探ってはいるのだが、あらゆるものが途切れ途切れで散らばっておる。まあ諦めずにこれからも調べ続けて見るさ」

「ああ、なにか分かったら教えてくれ」

「無論だ。さて、そろそろ時間切れだな。儂は行くとしよう」

「今度はいつ会えるんだ?」

「さあな。じらす訳では無いが儂にも予想は付かん。そう先では無いと思うが、いつと言えるものでも無いからな」


「そうか...分かった。とにかく色々ありがとうアスワン。お陰で俺のやるべき事がはっきりしたよ」

「何を言うか。勇者の役目を押しつけたのは儂らの方だぞ?」

「それでも俺は納得してるし、自分の役目に矜持を持ってる」

「うむ。ならば儂も気が軽いというものよ...ではまたな」


そう言うとアスワンの姿が急速に透明になっていき、霞のように消えた。


あ!

以前の勇者って言うが、どんな敵とどう闘っていたのか聞くのをすっかり忘れてた!

あと屋敷のことを色々!


まあ、それ以前にビックリすることの連続だったからなあ・・・

二刀流の小太刀の由来から始まって、まさか昔の勇者がシルヴィア・リンスワルド伯爵の『お父さん』、つまりは姫様やシンシアさん、エマーニュさんたちのご先祖だったなんて・・・


とんでもなく予想外だよ。


++++++++++


皆、しばらくはぼーっとしてる感じで言葉を発しなかった。

姫様は両手に頂いている二本の小太刀を見つめているままだし、シンシアさんもアスワンから貰った寄せ木細工のような小箱をしっかりと抱きかかえている。


「アスワン、大丈夫かな?」

「たぶんねー。しばらくは会えないかもだけど、そんだけー」

「まあ、それならいいけどな。お陰で色々とスッキリしたよ。度肝抜かれることもあったけど」

「昔の勇者と姫様達のことはアタシも知らなかったよー! ホントびっくりだよねー」

「だよなあ...でもなんか納得出来ちゃうけどな」

「わかるー」


「いえライノ殿、それは買いかぶりというものでございますわ」


「そんなこと無いですよ...とにかくこれまでは、とりあえずやれることがドラゴンを探してエルスカイン側につかないように説得するというだけだったけど、今後なにをすべきかがはっきりしたってだけでも十分です」


「それはどのようなことでございましょう?」

「大きくは、いま進めてることと変わりませんけどね。まずはドラゴンに会う必要があるってのは変わりませんから」

「そうですね。これは負けない為に必要なことでございましょう」


「ええ。その次は、エルスカインの目論見を挫くことです。まず、ポルミサリアのあちらこちらに散らばってるだろう『杭』を破壊します。これにはパルミュナ、お前の力が必要だ」

「うん!」

「俺には奔流の流れそのものを広い視野で見ることが難しい。でも、お前なら、何処でどう捩じ曲げられてきたかが分かるような気がする」


「えっとー、たぶん、さっきアスワンが見せたあの絵図を元に杭がありそうな場所を探して、その近くに行けば分かると思う」


「よし。そしたら『杭』が実際はなんなのか...魔道具なのか魔法陣なのか、もっと別のものなのか...とにかく、それを見つけ出して片っ端から壊していくんだ。そして『魔力の井戸』を使えなくする。姫様達も天然の魔力を見ることが出来るから、力を貸して貰おう」


「分かったー! それでエルスカインが何百年も掛けた謀りごとを元の木阿弥にしよー!」


「ガルシリス城の時の比じゃ無いくらいに激昂しそうだよな?」

「だねー! 怒髪天を突いて怒りそー」

「あそこにあった魔法陣を奴は『実験』だといっていた。あれも『杭』の一種だった可能性はあると思う」

「うん、壊しちゃったけど...」

「ありゃあ、それで良かったさ。だけど、杭を壊して魔力井戸を使えなくするだけじゃあ終わりにならない」


「あ、そっか!」


「そうだ。エルスカインがどんな手段で一族に意志を継がせてきたのか、それとも自分の寿命を延ばしてるのか分からないけど、魔力井戸を壊すだけだったらエルスカインはまた何百年を掛けてでもやり直すかもしれない。だから、最後はエルスカイン自体を倒すしか無い。奴を止める方法はそれしか無いんだ」


アスワンが、シンシアさんにはエルスカインを倒せないと言った理由がなんとなく分かる。

例え魔力の井戸を使えなくしたことでエルスカインがどんなに弱体化、いや無力化していようと、それは一時的な状態でしか無いだろう。


きっと長い時間をかけて、エルスカインという存在はいつか復活する。


最終的な解決、将来への禍根を断つには・・・

どんなに非情に思えても、絶対に最後はエルスカインという存在自体を消し去るしか無い。


それは、俺が背負わなければいけない役目だ。


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