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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第四部:郊外の屋敷
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シンシアさんの才能


思ったよりも簡単な技法で・・・ただし手間はもの凄く掛かるけど・・・ホムンクルス対策がなんとかなりそうな気がしてきて、気分が少し明るくなった。


エルスカインに騙されて、永遠の延命に目の眩んだバカな領主自身が自分の意志でホムンクルスになることは防げないとしても、これで『家人がいつの間にかホムンクルスに入れ替わっている』という事態はかなり防げるんじゃ無いだろうか?


シンシアさんの言っていた『魔道士の模範文例集』というか、『宣誓魔法ハンドブック』みたいなモノの配布と、毎月ごとに宣誓魔法を掛け直すルール作りが実現すれば、それだけでリスクは各段に減らせるはずだからね。


どうやら数多くは出せないらしいエルスカインの手駒を、精霊の力に頼らなくても更に減らせると言うか、使いどころを封じられるとすれば、これは大きな一歩だ。

もちろん気は抜けないけど、こちらの手札の少なさを五分五分(イーブン)に持ち込める可能性が出てきただけでも有り難い。


「それと...家や家財、敷地に掛ける防護の魔法も、もっと工夫することが出来るかもしれません」


シンシアさんが魔法絡みの話題を繋いだ。

日頃、母親の前では無口なキャラを演じているシンシアさんも、こと魔法が関係してくると饒舌になる。


「それはモノや場所を守るって事ですか?」


「はい。悪意を持ってなにかを壊そうとする人を防ぐ場合に、宣誓魔法で、そう言う人を近づかせないようにするっていう方法だけじゃ無くて、モノや場所そのものを効率的に守れるならば、人を弾くよりも効果的な場合が多いと思うんです」


「さっきの、部屋に入って良い人と駄目な人を分ける、軽い宣誓魔法じゃ無くて?」

「そもそも本当の泥棒は家人のような宣誓魔法など受けていないので、禁止行為にしておいても意味がありません」

「おぅ。確かに...じゃあ魔法で対象に鍵を掛ける的なイメージ?」

「そうですね」

「だったら結界魔法の類いで、それに触れなくするのと同じにはならないんですか?」


そういうことをしたい時に、普通なら魔法か護符で結界を張る。

あらかじめ術式に魔力が練り込んである護符を使えば、結界を動かした後でその場を離れても効果がある程度続くからだ。

但し、魔獣避けだろうが泥棒避けだろうが、並の護符では強力な結界を保たせられないし、効果を強めれば持続時間が短くなる。


「泥棒避けの結界や魔法の鍵だと、その対象を使う時や部屋に入る時に毎回、解呪しないといけないですよね?」

「術者が毎回解呪して、用が済んだらまた掛け直してって...」

「それは大変なので、普通は貴重品や宝物庫のような特殊な対象の泥棒避けにしか使いません」


「そりゃ頻繁に使うモノにそんなことやってられないですね」


「ええ、例えば書籍とか...本は目の届くところに置いておき、思い立った時にすぐに手に取りたいですけれど、金銭的な価値のある本も多いですから、誰でも触れるようには出来ません」

「中にはそこらの宝石より価値の高い本もあるって聞きますからね...だとすると、人じゃない対象に防護結界を施すみたいな?」


「ただ防護結界だと、とても沢山の魔石を使うか術者自身で魔力を供給しながら結界を動かしていないとダメですよね? でも、一度掛けたらしばらく効果を発揮し続けるようなやり方を編み出せれば、もっと手軽に色々なものを守れるようになると思うんです...しかも、傷つけたりその場から持ち出そうとしなければ普通に使う事も出来る方法で」


なるほど・・・

術者なしの魔力供給なしでも動き続ける防護魔法か。

精霊魔法に頼らずに、そういう手段が上手く使えるようになれば、確かに色々なことがぐっとやりやすくなるよな・・・


「本のページをめくる事は出来るけど、破ったり盗んだりは出来ないみたいな?」

「そうです、そうです!」

「それ魔法自体の開発も大変そうですけど、さらに魔力の供給なしって言うのは難しくないですか?」

「ええ、結界を動かし続けるとかだったら難しいと思います」

「と言うと?」


「そのモノの置かれた空間をそっくり入れ替えてそのまま置いておけば、誰にも触れないように出来るんじゃ無いかなって思ったんです...えっと、それの表面に触れてはいるんですけど、そのモノ自体には触れていないみたいな?」


「うーん、すみません、意味がちょっと分からなくて...」

俺にはちんぷんかんぷんだけど、パルミュナは興味深そうにシンシアさんの話に耳を傾けている。


「行きがけの馬車の中でパルミュナちゃんが真珠玉に掛けていた防護と保存の魔法を見ていて思いついたんですよ。あれだったら一度術を起動しちゃえばずっとそのままの状態です。しかも人を選ばないから、宣誓魔法を受けてない人も含めて、そこに誰が来ても大丈夫になるんじゃないかと」


「へぇ?」


「精霊魔法でモノの劣化を防ぐ時って、人を守る時みたいに対象を包む層を作るようなモノじゃなくて、『違う空間』を他所から持ってきて、それで現世と隔てちゃうんですね!」

「それが現世にあるかのように扱えるけど、実体は別の空間に置かれてるみたいな...?」


「はい。だから、その中では時間も経たないし、すべてが凍った時の中で保たれる...その手法をなんとか応用できないかなって...」


「えーっ!」

それを聞いてパルミュナが吃驚した顔をした。


「あ、違いましたか? すみません...」


「ううん、合ってる! それで正解なの。だけど、アタシは精霊の言葉でしか呪文を喋ってないし、真珠玉の周りに浮かんだ魔法陣にも精霊の言葉しか書かれてなかったでしょ?」


「え、ええ...でも、なんとなく意味が伝わってきたので...」


パルミュナの(まなこ)が大きく見開かれる。


「凄い! 分かったの? やっぱりシンシアちゃんって天才だーっ!」

「いえ、そんな...」


そう言われてみると、俺がアスワンに貰った革袋も、そんな感じで入れたものが保護されているような気がする。

シンシアさんは精霊の防護結界も、ほとんど独力で構成できるようになってきてるし、これはパルミュナの言う通り百年に一人の逸材かも・・・


「ホントーに凄いよ、シンシアちゃん!」

「そ、そうですか?...パルミュナちゃんに褒めて貰えるのは魔道士冥利に尽きますけど...」


ついにシンシアさんまで侵蝕したか・・・冥利。


++++++++++


馬車が館に着くと、本来の御者であるブレーズさんが駆け寄ってきてレビリスと交代した。

レビリスに気を遣ったのか、道中の馬たちの身を案じていたのか?

ブレーズさんと馬たちの様子を見ていると、俺はなんとなく後者のような気がしないでも無いけど、それは言わぬが花か。


ぶっちゃけ、ブレーズさんが馬たちに『大丈夫だったか? 嫌なことは無かったかい?』とか様子を聞いてて、馬たちがそれに『平気だったよー!』とか答えて甘えてるみたいに見える。

まあ少なくとも、心が通じ合ってるのは見れば分かるな。

なにしろリンスワルド領から王都までの道中ずっと、休憩の度にこんな感じだったもの。


「で、どうだったのさ?」


パリッとした御者の制服に身を包んだレビリスを見ていると思わず噴き出しそうになるので、館に入っていく姫様たちの方にさりげなく目を逸らしながら答える。


「まあまあだな。クルト卿やご家族はホムンクルス化されてなかったし、公国軍人、それも治安部隊の指揮官として優れた人物だってのが分かったのは収穫かな」


「治安部隊の指揮官って事は、例の襲撃事件に出くわす切っ掛けになった遊撃班のボスって事か?」

「平たく言えばそうだろうな。細かな指揮系統は分からないけど」

「ふーん、だったら力になって貰えそうじゃ無いか?」


「いや、軍人としての立場があるから、そうそう個人の判断じゃ動けないよ。大公から指令があれば別だろうけど、いますぐ何か手伝って欲しいことがある訳でも無いし」

「それもそうか」

「ああ、それに外部の関係者が増えるとエルスカインへ情報が流れる可能性も上がるからな」


「でも大公陛下が協力してくれると言ってもさ、いまのところ公国軍に手伝って欲しいことって特に無いんだろ?」


「ああ、とにかく情報を集めてからかな? 公国軍以前にシャッセル兵団の連中になにして貰うかも決めないといけないし」

「前に言ってた陽動的な?」

「そっち系になるとは思うけど、かと言って影武者的な本当の『囮』にするわけにもいかないよ」

「まあ...ライノやダンガたちの護衛なしだと危険だろうさ」

「そういう話だな」


エルスカイン相手の囮だなんて、うっかりすれば即座に全滅だからね。

これについては、傭兵団だろうと正規軍だろうと大して変わりは無いと思える。


「実はな、本当は王都に近づくにつれてもっと対人戦みたいな出来事も増えるんじゃ無いかと思ってたんだ。エルスカインの配下の魔法使い達とか、金で雇われたゴロツキや山賊とか」


「そう言や、その手は欠片も出てこなかったな!」


「ゴロツキ相手の対人物理戦闘ならシャッセルの連中に任せてもいいかもとか思ってたんだけど、どうもエルスカインが動かせる『人族の手駒』はそれほど多くないみたいなんだ」

「へえ、やっぱ魔獣専門か?」


「想像だけど、ホムンクルスみたいに完全服従させられる奴じゃ無いと手駒に使えないんじゃ無いかなって思う。で、これも想像だけどニセモノのホムンクルスは一度に沢山動かせないとか?」


「それで表に出てくるのが魔獣ばかりと」

「だけど、さすがに手練れのシャッセル兵団でも魔獣の相手をさせるのはなあ...」

「まあムリだろうさ。剣の腕だけじゃどうしようもないもの」

「だよな」

「それこそ強い弱いじゃ無くってさ、戦い方が違うって奴さ」

「それもあって今のところは色々と保留中だ。ドラゴンキャラバンの編成をどうするかに合わせて考えていかないとな」


「了解だライノ。ちなみに御者役は楽しかったからいつでもやるぜ?」

「あれで楽しかったのか?」


「やっぱりさあ、馬車の中に籠もってるのは性に合わないんだよ...王都までの旅路でもさ、いい馬車だったしレミンちゃんもいたし文句なしに快適だったんだだけどさ、退屈って言うかなんていうか...俺は外にいる方が向いてるよ」


なんか馬車と関係ないフレーズが挟まってなかったか?

いいけど。


「ぶっちゃけ俺もわかるよ。パルミュナも王都の随分手前で退屈して拗ねてたし、俺も本当なら馬車に乗ってるより歩いてる方が好きだな」


「きっと破邪になる奴ってのは、そんなもんなのさ...」


俺なんかよりもよっぽど勇者役が似合ってそうな二枚目のレビリスが遠くを見る目をしながら言うと、まるで破邪が崇高な職業のように思えてきそうだぞ?


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