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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第三部:王都への道
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オットーが残したもの


「でもありがとうなパルミュナ。連絡してくれたから咄嗟にシンシアさんの結界も間に合った」


「どーいたしましてー!」

「レミンちゃんもありがとう」

「いいえ、間に合って良かったです」


ダンガとアサムは、倒れたアサシンタイガーを一匹ずつ調べてとどめを刺して回っている。

さすが南部大森林生まれの狩人だね。

虎の魔獣は非常に頭が良くて、たまに死んだふりをして狩人や敵をおびき寄せ、油断している相手に突然襲いかかるって言う、とんでもない奴がいるからだ。


「それにしてもさー、こいつらどっから出てきたんだろー?」

「そうだ、転移魔法陣を破壊しておかないとな! たぶん屋敷の裏手だ」


姫様達に、もう少しそのまま用心しているように声を掛け、三人で屋敷の裏手に向かう。

「俺たちが来た時には、屋敷の周囲には変な雰囲気はなかっただろ?」

「たぶんねー」

歩きながらパルミュナに確認するが、返事は予想通りだ。


「って言うかー、例の魔道具が敷地のあっちこっちに山ほど置いてあったけど、全部壊したよー?」

「つまり、その時は敷地の何処にも、変なものは隠されてなかったはずだよな?」

「なんかの手段で起動してない転移門がこっそり埋め込んであったとしてもさー、館に結界を張った後は、それを起動できる奴が近寄れなかったはずなんだけどなー」

「だよなあ...」


そんなことを言いつつ屋敷の角を回り込んだ俺たちが目にしたものは、本館の裏口にへたり込んでガタガタ震えているメイドさんが一人・・・


彼女の視線の先にあるのは、本館と使用人棟の間に広がる中庭の真ん中で光を失いつつある転移門と、その中心に置かれているオットーの執事服だった。


「あー...」

「なんだあれ?」

「服かー」

「服ですね」

「服だな」


しかも、その服がピクピクと痙攣して動いている。

生きているかのように、じゃなくて、生きてたモノの断末魔のような感じだから、はっきり言って不気味。


「オットーの着ていた服が依代(よりしろ)だったのか?」

「闇の結界を張ってたようなさー、魔法陣を圧縮した魔道具をポケットにでも入れてたか、布地に縫い込んであったか...そんな感じ?」

「ホムクルスの消滅で起動するとかか?」

「たぶん? だけど込めてある魔力の限界があるから、転移門は一方向の使い捨てで、さっき出てきた数で限界かなー?」

「いや、あれだけ出せれば十分だろ」

「そーね。もう向こう側も閉じてるよー」


今の魔法陣の光は残滓って感じか・・・

そうか、姫様たちの遺体を回収するのは、ゲオルグ青年用に用意していた橋の近くの転移門が使えるって想定だな。


俺はへたり込んだままガタガタ振るえているメイドさんに声を掛けた。

「何があったんだ? あんたがあの服を持ち出したのか?」


「ひっ、す、すみません! ロビーにあの、抜け殻の服が転がってたままで、姫様が降りてらっしゃるのに見苦しいと慌てて片付けて...そ、そのままついでに焼却炉に持っていこうと...」


俺たちも姫様も平気で出入りしてたもんな。

それを見た使用人の人たちが、もう動いても大丈夫だと考えるのは当たり前か。


「で、服を抱えて外に出たら妙なことになったのか?」

「は、は、はい。いきなり服がバタバタ暴れ出したので、怖くてその場で放り出しました」


パルミュナの結界の範囲を出て、込められた魔法が息を吹き返したか。


「そ、そしたら服がそこに飛んでいって魔法陣が...そこから恐ろしい獣が現れはじめて...次々に」


悲鳴を上げてへたり込んだ、と。

まあ、魔獣達に気にも掛けられなくて無事で良かったよ。


「なあパルミュナ、あのデカブツも虎も、一直線に俺たちの方に向かってきただろ。だから、送り込んできた連中は俺や姫様がここにいるって知ってたって事だよな?」

「そーだねー。隊列がここに来た段階で、オットーの目を通じて確認したのかも?」

「ありえるな。と言うか、きっとそれだな」

「それで奇襲してきたんだねー」

「ここで全員皆殺しに出来れば、後はゲオルグ君を取り込むはずだった橋の近くの双方向の転移門に、姫様の遺体を放り込むつもりだったんだろうな」


「殺されたと思ってたら偶然生き延びてて、後からひょっこりって...なーんかエルスカインの考えることってワンパターン!」

「いや、ホムンクルスを造る日数を捻出しないと本人のフリをさせられないんだったら仕方無いだろ?」

「まーねー」


それにしても『ホムンクルスの目』か。


モヤで乗っ取った相手の場合、術者側から『その身体』が見聞きしていることを知覚できるのは、ハートリー村の村長さんの振る舞いからも明らかだけど、ホムンクルスも似たような感じで使えるんだろうか?


俺はあの時、村長さんを操っている相手を『遠くにいるエルスカイン一味』みたいに大雑把な感じで捉えてたけど、今回のようにホムンクルスがハートリー村に紛れ込んでた可能性も高いんだよな。

いまさら確かめようも無いだろうけど。


「でも、オットーの目は使えてたろうけど、カルヴィノの目はエルスカインに届いてなかったと思う。さっき俺はそれを確信したよ。それに、もし見えてたらシーベル城でもっと色々有った気もするしな」


「そーだねー。魂の無いニセモノのホムクルスか、モヤで完全に精神を乗っ取った相手じゃないとそこまで制御できないのかも?」


「しかしホムンクルスや乗っ取られてる奴は見れば分かると言っても、群衆なんかに紛れ込まれてると厄介だよな...」

「だねー。周りに人が増えると気配が薄まる可能性もあるし」

「だよなあ...」


これまでの俺たちの行動のすべてが知られている訳じゃないと思えるから万能ではないんだろうけど、厄介な相手だ。


王都から先の行程を考えると、なにか対策を練っておきたいが・・・


「...いや、お前いつまでレミンちゃんの背中に乗ってるんだよ?」

「だってレミンちゃんの毛皮って気持ちよくって楽ー!」

「やかましいわ、さっさと降りろ」

「平気ですよ?」

「甘やかすとおんぶしてくれって、しょっちゅうねだるようになるよ?」

「ひっどーい」

「構いませんよ?」

「うん、まあ、レミンちゃんがそう言うなら...」

「レミンちゃんの毛皮気持ちいー!」

「嬉しいです!」

「あとパルミュナはスカートの裾を気づかう!」

「はーい」


なんと言うか・・・狼モードのレミンちゃんが巨大なせいで、背中に跨がってるパルミュナが小さく見える。

うーん、幼女が狼に乗ってるとか、そんな童話があったような気がするけど思い出せん。

どうでもいいけど。


前庭に戻ると、ダンガとアサムはアサシンタイガーの死亡確認を終えたようで、倒れているデカブツの脇に移動していた。

シンシアさんはまだ結界を維持していたが、表情には明らかに余裕が生まれている。

結界の中には、一体何が起きていたのか分からず呆然としているギュンター卿と数人の家僕、剣を抜いたまま動くに動けず固まってるままの傭兵達、そして屋敷の窓から前庭を覗いている使用人達・・・


目撃者多過ぎ。


使用人達の方はギュンター卿にお任せするとしても、この三十人の傭兵達に口止めって・・・さすがに無理だよな。

任務依頼とは訳が違う。

あんな、見たこともない魔獣とかアサシンタイガーの群とか、荒っぽい連中にとってはワクワクするような目撃談だからね。

とても連中が酒場で黙っていられるとは思えないよ。


悩んでいると、姫様が声を掛けてきた。

「ライノ殿、いかがでございましょう?」

「もう追撃は無いでしょう。アレを送り込んできた転移門も閉じてます」

倒れているデカブツを指差してながら言う。

「俺も初めて見た魔獣ですけどね...驚きましたよ」


結界を消したシンシアさんがそれを受けて言った。

「恐らくですが、これは南方大陸のさらに南の地域に住む『(サイ)』という獣につならる魔獣かと思います」

「そうなんですか!」

「私も実物を目にするのは初めてですけど、アルファニアの王宮図書館で図版を目にしたことがあります。ただ...牛よりも大きいと伝え聞いていましたが、家ほども大きいとは思いませんでした」


うん、サイズ的にはグリフォンと遜色ないよね、これ。


「結構強烈な奴でしたね。グリフォンを倒せた石つぶてが通じないとは予想外でしたよ」

「だからこそ、これを送り込んできたのでございましょう。グリフォンでは、また、あっという間にライノ殿に倒されてしまうでしょうから」

「まあ、確かに」


それから姫様は、会話に入ってこれないでいるままのギュンター卿の方を向くと、にっこりと問いかけた。


「ギュンター卿が不思議に思ってらっしゃることが多くあることは理解しております。しかしながら、それをお話しするために少々事前のご相談がございます」

「相談事とは...なんでございましょうかな?」

「秘密を守ると言うことについてでございますが、出来れば、ギュンター卿にもフランツ殿と同じ宣誓魔法を受けて欲しく存じます」


「では、兄も受けたと?」

「はい。リンスワルド家とシーベル家は共に手を取り合うと盟約を交わしました故」

「そうですか...承知しました。リンスワルド伯爵家の姫君を疑うなど、努々(ゆめゆめ)有ってはならぬ事です」

「ありがとうございますギュンター卿」


「姫様、彼らはどうしますか?」


俺がスライ達の方を示すと、姫様は少し考え込むような表情を見せた。

スライも他の傭兵達も、非常に宜しくない場に居合わせてしまったらしいことは感じているようで、さっきから一言も喋らない。

慌てて逃げ出そうともしないのは立派だけど。


口を開いた姫様の案はビックリするようなものだった。


「もしライノ殿が差し支えなければ、彼らを雇ってしまってはいかがでしょうか?」

「は?」

「まだまだ王都までは道のりがあります。こちらの傭兵の方々を、その道中の護衛としてライノ殿がお雇いになってみては? もちろん実際の費用は当家で負担しますので」


珍しくヴァーニル隊長の笑顔がお面のように固まっている。

戦場以外じゃ、騎士団と傭兵なんて水と油と言うよりも羊肉と鶏肉って感じじゃないか? 一緒にパンに挟むと味が喧嘩するって感じで・・・

おかずはちゃんと別々に分けようよ。


「えっと、俺が雇い主になるんですか?」


「ここでリンスワルド家が傭兵を雇ったとなれば、口さがない方々の噂の元になりかねません。ギュンター卿のご迷惑ともなり得ましょう」

「それは分かりますけど...」


「そこでライノ殿が彼らを雇うことで、隊列の護衛ではなく斥候として活躍して頂くという手もあるのではと愚考いたしました。その際、雇用契約として宣誓魔法を受けて頂ければ諸々問題ないかと」


ありなのか、それ?


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