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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第三部:王都への道
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傭兵団の役目


先ほどから一連の出来事で動転しているギュンター卿は、姫様を前にしてつい本音を喋ってしまったが、姫様がそれをさらりと流してくれたので、ほっと安堵の表情を見せる。


「それに、その...クルトには二人の子供がおりますが、残念ながら私は子宝に恵まれませんでした。ですので、私が本家の子爵位を継ぐ意味は無いのですよ。


「不吉なことを口にしたくはございませんが、先ほどの...そのオットーの言う計画通りであれば、シーベル卿とゲオルグ殿にもしものことがあれば、ギュンター卿よりもご子息のいらっしゃるクルト卿が候補に挙がる訳ですね」


「もしも自分にお鉢が回ってきたらクルトは激怒するでしょうね。いまからでも養子を取るなりなんなりしろと私に詰め寄ることでしょう」

「それほどまでに...」

「クルトの性格からして、そう思います。母が存命中は、私にもクルトにも沢山の貴族家から縁談が舞い込んでおりました。クルトは自由恋愛に憧れておりましたから、本当に厭がってましたね」


「あら、卿は違ったのですか?」

姫様がちょっと悪戯っぽい声を出した。


「私は、爵位継承を放棄してこの森で暮らすことに賛同してくれる女性であれば、それで良かったので...まあ実際にはそう言う女性は非常に少なかったですし、妻のことは本当に愛していますよ」


「それは素敵なことですわね」


「自分達の子供がいないせいもあって、私も妻も甥のゲオルグ君を我が子のように可愛がっておりました。折々の季節ごとに、ここに遊びに来てくれることが本当に楽しみで...今回は彼の病がいつものような感じではなく、長く続いていると聞いて心臓が張り裂けそうでした」


「ひょっとして、ゲオルグ殿を救う行動というのは、卿が集められたという傭兵団と関係があることでございましょうか?」


「その通りです。あの傭兵たちに、ゲオルグ君が王都へ向かう際の一行を守らせるつもりでおりました」

「騎士団が護衛に付いているのにですか?」

「もちろん、騎士団が傭兵など近寄らせるはずもありません。だからゲオルグ君の一行が橋に近づく前に、そこに潜んでいる暗殺者達を傭兵達に排除させてしまおうと、そういうつもりだったのです」


橋? どういうことだよ・・・

凄く引っ掛かる単語なんだけど?


「オットーの情報では、暗殺者はベルザ川に架かる橋の近くに潜み、なんらかの手段でゲオルグの乗る馬車を橋に落とし、事故を装って殺すつもりだろうと。魔道士たちの密談を本城のものが小耳に挟んだという話でしたが...いま思えば作り話ですね」


「ギュンター卿、恐らくですが...橋や馬車に何らかの魔法を仕掛けておいて川に落とし、乗っているゲオルグ殿を殺害するというのは本当にあった計画でございましょう」


「まさか! ではオットーは真実を?」

「事実ですが、恐らく真実ではありません。確認ですが、傭兵達を雇うというのはオットーの発案でございますか?」

「え、ええ。そうです」

「シーベル卿に警告しても無駄だから、実力で排除するしかない、ということですね」


「騎士団は兄の命令を受けていますから、私の言葉など聞く耳は持たないでしょう。いや、敬意は払ってくれると思いますが、命令の優先度を変えることはあり得ません。それに、騎士団の中にも魔道士に取り込まれている者がいないとも思えず...そんなことで波風立てるよりも、こちらで暗殺者達を事前に排除して、一行は何も知らずに橋を通り抜けてくれれば良いと。それならば護衛騎士の面目も傷つかないでしょうし」


「推察いたしますに、その傭兵達はスケープゴート、つまり生け贄にされるために集められたのでしょう」

「生け贄? 橋の仕掛けにそんなおどろおどろしい不気味な魔術でも?」

「いえ、そうではなく、ゲオルグ殿を殺害した犯人に仕立て上げられる、と言う意味です」

「傭兵達を?」


「襲撃者の様子や一行が橋を通る頃合いについて、傭兵達に嘘を教えることは幾らでも出来ましょう。橋から馬車が落ちた時、そこに素性の分からない怪しい者達がたむろしていたとすれば、生き延びた騎士達はどう思うでしょうか?」


「いやしかし、あの傭兵は私が雇った者たちであり...」


そこまで言いかけてギュンター卿は、姫様の言わんとした意味に気が付いたようだ。

「まさか...私をゲオルグ君殺しの犯人に...?」

「恐らくは、オットーの目論見はそういう話でございましょう」

「ですが傭兵は...」

「傭兵の中に魔法使いが混じっていたと言われても否定できる証拠はございませんでしょう? 事情を知らないものの目から見たら、ただのお家騒動に思えます。子爵位の継承権を持つギュンター卿が家督を狙ったと」


「あり得ない...」


「ギュンター卿が傭兵達を集めていたことは周知の事実。ハーレイの街の者たちとて知っておりました。それに橋では、傭兵達の口を封じる手段も用意していたかもしれません。証言するものがいなければ、卿はどうやって身の潔白を証明されますか?」


「なんという...そんな...わたしがゲオルグ君を狙うなど...」


橋から馬車を落とし、事故に見せかけて暗殺する。

それだけならば、養魚場の橋で姫様の『両親の影武者』が狙われたときと同じだが、今回の場合、橋から落とすのは護衛の騎士団と闘わずにゲオルグ青年を殺すため...いや、死体を行方不明にする為か?

更に、どうやって殺したかの証拠も隠滅して、罪はギュンター卿になすりつける、と。

今となっては、実にエルスカインらしい手の込んだ計画だと思える。


何故、エルスカインが直接的な攻撃よりも、手間と時間を掛けた複雑な謀略を好むのかはさっぱり分からないが。

暴走した魔獣の仕業に見せかけるのが失敗したと分かったら、即座にグリフォンほど強力な手駒を出せたって言うのにな・・・


「その傭兵達は、今どこにいるのですか?」


「出立の合図が出るまで、森の奥に潜んでいるようにと指示してあります。彼らにはすでに依頼内容を伝えて雇用期間中の宣誓をして貰っておりますが、表向きはあくまで森に出現した魔獣の退治ですから」


「では、その依頼は取り消して賃金を払ってあげるのが良いでしょうね」

「そうですね...早めに呼び戻すとします」


ゲオルグ青年の乗った馬車がシーベル城を出発するまで森で待機だったか。

でも、出発せずに済んだってことは傭兵達も死なずに済んだってことだ。

本人達は、なにがなにやらサッパリ分からないだろうけどね。


「えっーと姫様、ちょっとだけ気になることがあるんですけど?」

「はい、なんでございましょう?」

「その傭兵さん達って、姫様が言ったように、事が済んだ後に口封じされる予定だったと思います...その、オットーの黒幕から」

「万全を期すならそうでございましょう」

「で、その方法は分からないですけど、モヤに取り憑かせたのを数人紛れ込ませておくってくらいの手は打ってるんじゃないかと」


「...確かにライノ殿の仰るとおりですね。それは確認の必要があるかと思います」


「ええ。ですのでギュンター卿、お手数なんですが、一応ここに全員を集めて貰えませんか? 何事もなければ、それで賃金を渡して解散ってことでも構いませんから」

「承知しました」


「ただ、もしも敵の手の者が紛れ込んでいたときに警戒されたくないので、彼らには出立準備をして集まるように言って下さい。そうすれば、オットーのホムンクルスが倒されたことには気づかず、計画が進行中していると思うでしょう」


「なるほど...確かにそうですね。家人は先ほど全員家の中に呼び集めましたし、外には出しておりません。屋敷から逃げようとした者もいなかったようです」

「だったら大丈夫でしょうね」

「では、すぐに呼び寄せます」


「それと姫様、ここにもホムンクルスがいたと言うことは、カルヴィノの目的地はやはりこの屋敷だったのでは? ギュンター卿は預かり知らぬことかもしれませんが」


「ええ、わたくしもそう思いますわ」


「カルヴィノというのはゲオルグ君の従者...をしていたホムンクルスですな? では、その者がこの地に逃げ込んでいると?」

「恐らくオットーを頼って。わたくしどもがここを訪れた本当の理由は、そのものを探すことなのです」

「ふむ...この数日間、屋敷に外の者が訪れたという話は聞いておりませんが...オットーがどこかに匿っているとすれば私に知らせてはいないでしょう」


「この屋敷の中にはいませんよ。さっき妹が張った結界があるところにはいられませんからね」


「なるほど、それは心強いです」


ギュンター卿はそう言って両手の人差し指でこめかみを押さえる。

姫様の隊列が到着した途端に怒濤のような展開に巻き込まれて、心理的に『一杯一杯』という感じなんだろう。


同情するよ。

それと・・・ここに来るまで、心の中で勝手にホムンクルス扱いしててすみません。


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