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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第三部:王都への道
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婚約式の二人


ボロ泣きして折角の化粧と髪結いをグシャグシャにしてしまった二人を衣装係のメイドさんに引き渡し、俺とパルミュナは逃げるようにして客室に戻った。


中庭では婚約式と演武大会の準備が突貫で進められていて、昨日の懇親会以上の規模になりつつあることは明白だ。

近隣の街や村の食材は本当に大丈夫なのか?

まあ、城下にはそれなりの規模の街があるようだし、暖かい時期だから心配することでもないのかもしれないけど。


なんにせよ、あと一刻ほどしたらサミュエル君とトレナちゃんの婚約式が始まり、その後はみんなで飲み食いしながらの演武大会だ。


俺とパルミュナは本館から中庭への出口の処に待ち構えてサミュエル君とトレナちゃんを迎え、そのまま姫様とシーベル子爵の待つ宣誓台の処まで連れて行くという役目なんだけど、その途中、お約束の演出として『恋敵の襲撃』というのが男女それぞれにあり、俺たちはその襲撃から二人を守らないといけないらしい。


『襲撃の中身はどんな感じなんですか?』と尋ねたら、シーベル子爵はニヤリと笑って、『その時のお楽しみでございます』と言った。


シーベル子爵も段々とはっちゃけ始めてるよね?


++++++++++


中庭に鐘の音が鳴り響くと、それを合図にサミュエル君とトレナちゃんが手を繋いで中庭に通じる戸口に現れる。


周囲が静かに見守る中で楽団が演奏を始め、戸口の両脇で待ち構えていた俺とパルミュナは手を繋いでいるカップルの両脇に移動し、それから四人が横一列に並んだ形で宣誓台へ向けて歩き始めた。


直前までそわそわしていたパルミュナも、妙に厳かな顔をしてトレナちゃんに歩調を合わせているな。

これまでで最もお淑やかな歩き方だと言っても過言ではない!


サミュエル君もさっきの緊張しきった表情は消え去り、なんとも清々しい顔つきになって堂々と歩みを進めている。

腰に差しているのは用意されていた儀礼用の剣ではなくて、さっき俺がプレゼントしたオリカルクムの短剣だ。

なんだか、ちょっと嬉しいね!


こういう式典に当事者として参加するなんて生まれて初めての経験だけど、一歩進むたびに、隣にいるカップルの幸せな気持ちが波のように伝わってきて悪くない。

うん、本当に悪くないよ、こういう気持ち。


ちょうど宣誓台までの真ん中辺りに来たところで、急に音楽の調子が変わった。

どうやらこれが『恋敵の襲撃』の合図らしい。

両脇に居並ぶ観客の中から、リンスワルド家使用人の女性陣がわらわらと飛び出てきて俺たち四人を囲む。

そう言えば旅団に随伴してる人たちって騎士関係を除くとほとんど女性だもんな。

むしろ僅かな男性家僕の肩身が狭いくらいの勢いだから、襲撃役には事欠かないだろう。

目つきがマジな娘も何人かいる気がするけど、きっと気のせいだ。


皆、お揃いの編み籠を腕に掛けたスタイルで周囲を取り囲んだ女性陣は、口々に自分の方が幸せになるのだと言いつのっている。

なるほどね! 

恋敵やその連れ合いを貶すんじゃなくて、『自分の方が幸せになるから今に見ていろ!』的なセリフを浴びせかけるのか・・・

身体的な『自分の女性らしさ』をアピールするような、なかなか際どいセリフも飛んで観客から笑い声が上がったりするが、これなら、列席の関係者も誰一人として不愉快な気分になったりはしないだろうし、余興として悪くない。


口調に真剣さを感じ取れる娘もいる気がするけど、きっと気のせいだ。


これをパルミュナがどう撃退するのかと思ったら、トレナちゃんを庇うように一歩前に出ると、襲撃者達に向かって『みんなも幸せになれば、サミュエルとトレナの幸せも増えます。沢山の幸せをありがとう!』と言い放った。

それを聞かされた襲撃者達は円陣を解いて、通路の先に一列に並ぶ。


さっき戸口の両脇待っているときにシーベル子爵がパルミュナの耳元でなにか言ってたのは、このセリフを教えてたのか!


アレ?

待って、俺はなにも教えて貰ってないぞ。

あんな気の利いた台詞なんてアドリブで言う自信は無いからな?


女性陣が並ぶのと入れ替わりに男性陣が出てきた。

もちろん全員リンスワルド家の騎士団員だ。

パルミュナの例に倣ってサミュエル君の前に出つつ、さてと、なににどう言い返せばいいのかな? とか考えていたら、全員揃ってサラッと剣を抜きやがった。


「スタイン殿、我らが憧れのトレナ嬢を独占しようとする罪は重いぞ、覚悟のほどはいかに!」

「覚悟はいかに!」

一人がそう言うと、他の騎士たちも一斉に声を上げた。

それから、一番手前にいた最初の騎士が剣を振りかぶって向かってくる。

すごい大振り。

ものすっっっごい大きな振りかぶり。

これで避けなかったら失礼って言うぐらいこれ見よがしなモーション。

なるほどね。

こういう余興か・・・付き合おう!


「邪魔立てするな介添人! 立ち塞がるならばまとめて斬り捨てる!」

「俺は絶対に退かん! 喜んで我が友サミュエルの盾となろう! 好きなだけ打ち込んでくるがいい!」


もちろん、一人目の騎士が振りかぶった剣の太刀筋は最初から横に逸れるコースを向いていたけど、それを承知でカッコ良く宣言してサミュエル君を庇うように立ち塞がる。

たぶん、こういう返し方でいいはず・・・


向かってきた騎士は俺から遠く離れた地面に剣を打ち付けると、うなり声を上げながら勝手に転がった。

それを見た観客から大きな笑い声が響く。

役者だなあ。

そもそもシーベル家から借りてる儀礼用の剣だから刃も付いてないけど。


「お見事! このお方を介添え役とするサミュエル殿も立派な武人。ならば、我らも喜んでトレナ嬢の隣を譲ろうぞ!」

「おおっ!」

残りの騎士たちも賛同の声を上げ、さっきの女性陣達の向かい側にやはり一列に並ぶ。

男女の襲撃役が全員並び終わったところで、音楽が元の調べに戻った。

これでまた、四人が歩き始めていいという合図らしい。


宣誓台に向かって右手に女性陣、左手に男性陣の騎士たちが並んでいる処に差し掛かると、女性達が手に提げていた網籠の中から沢山の花びらを掴み取って、俺たちに向かってまき散らし始めた。

青い空に色とりどりの花びらが飛び交ってなんとも美しい。

左手に並ぶ騎士たちは抜いた剣を両手で捧げ持ち、通り抜ける四人に敬意を表す。

剣と花の道か・・・いかにも騎士の婚約式って雰囲気だ。


舞い上がる花びらの中を粛々と進んで宣誓台の前に到着すると、俺とパルミュナは教えられていた通りに二人の両脇から離れて宣誓台に背中を向け、ここまで歩いてきたコースを見やる。

これは、若い恋人達が歩いてきた婚約までの道のりを振り返って確認しているという意味がある・・・と、さっき聞かされた。

パルミュナは素直に『へー、そーなんだー』と感心していたが。


サミュエル君とトレナちゃんが、宣誓台の前に置かれたクッションの上に膝をつくのが視界の片隅に映ると同時に、凜とした姫様の声が響く。

俺たちもそれに合わせて宣誓台の方へと向き直った。


時候の挨拶のような少し固めの婚約式開始宣言に続いて、二人へ宣誓の決意が問いかけられる。


「サミュエル・スタインとトレナ。あなた方は互いを唯一無二の婚約者と認め、やがて結婚するその日まで忠義と貞節を固持し、その道を守り合うことを、この場にて、皆の前で誓う決意がありますか?」


「はっ、このサミュエル・スタイン、トレナ嬢と共に歩き共に暮らす日を待ち望み、万難を排して信義を守り抜くと誓います!」


「はい。わたくしトレナは、サミュエル・スタイン殿の生涯の伴侶となるべく、その妻となる日までたゆまぬ研鑽を積むことを誓います」


二人が順に決意を宣誓すると、シーベル子爵が大声で宣言する。

「二人の決意、立会人として、このシーベル子爵フランツ・ラミングがしかと見届けたり!」


その次は俺とパルミュナの番だ。

「介添人は二人の歩みと決意を見届けております!」

良し! 綺麗にハモったな・・・なんか嬉しい。


「若き二人の婚約の決意を、今日この場のすべての人がその目と耳に焼き付けたことでございましょう。お二人の介添人であるライノ・クライス殿とパルミュナ殿、立会人であるシーベル子爵フランツ・ラミング殿、そしてわたくしリンスワルド伯爵家のレティシア・ノルテモリアが証人となり、ここにサミュエル・スタインとトレナの二人が婚約を誓ったことを認めます。生きとし生けるものすべてからの祝福を二人に!」


「うぉおおおおっー!!!!」


観客達が一斉に歓声を上げてどよめく。

リンスワルド家とシーベル家の騎士団が勢揃いしてるからね、なんというか勢いが凄いのだ。


宣誓が終わると二人が立ち上がり、見守る観客達に深々とお辞儀をする。

これで二人は主君も認めた正式な婚約関係となり、結婚式の準備が整うまで誰も邪魔立てできない。

もしも何処かに、二人の結婚に文句を言いたい奴がいるとしたら、逆に結婚式の当日まで待って異議を唱えるしかないのだ。

まあ自分の命をかけてそこまでやるヤツは普通いないけど。


姫様とシーベル子爵がこちらに歩み寄り、今度は立会人ではなく私人としてお祝いの言葉を告げた。

『襲撃者』たちもその場に集まってきて、口々にお祝いを述べる。

さっきは緊張していて気が付かなかったけど、襲撃者の女性陣も中々綺麗に着飾ってるな。


「みんな綺麗だしカッコイイねー!」

パルミュナが素直な感想を述べると、シーベル子爵がそれに答えた。


「当然ながら襲撃者役は男女ともに全員が独身者だと決まっております。つまり、あの場に出てきたという事は、自分が独身でまだ決まった相手がいないと言う周囲へのアピールでもある訳ですな」


なるほど!


騎士は貴族ではないから恋愛の自由度は高いし、メイドや使用人の方々はもちろん庶民だから言うまでも無い。

婚約式に便乗して...というのは失礼か。

でも、『お相手募集してます!』ってアピールするには丁度いい機会だって事だな。


そして、みんなにお礼を言う二人の笑顔が本当に清々しいね。


パルミュナが施した『精霊の祝福』の効果が、すでに出まくってるんじゃないかって思うくらいだよ・・・


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