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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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俺がハーフエルフ?


「だから気づいてなかったでしょ? 自分がエルフ族の血を引いてるってこと」


「まさか? ってか、いや、それ、マジなのか? 冗談で担いでるんじゃなくて?」

「ぜんぜんマジ」

「なぜ分かる? っていうか、お前は...知ってたのか?」


「エルフの血筋だってこと自体は、初めてライノを見た時から気づいてたよー。だから、あの泉でもエルフの姿であなたの前に現れたのにさー...まあ、本人がそれに気が付いてないって、ちゃんと分かったのは一緒に歩き始めてからだけど」


「えええぇぇ...えっと、なんか、ビックリしすぎて、こう、言葉が出ない...ぞ」


「精霊でなくても、よく見れば誰にでも分かるんだけどね」

「そうなのか? いやでも、なんで分かるんだ?...俺もやっぱり先入観で...耳しか気にしてなかった、のかな...」


「うーん、ライノが破邪にならずに、生まれた農村でずっと暮らしてたら、今頃は誰か気が付いてたと思うよー? きっともう恋人もできてただろうからさー」

「恋人ができると気づくのか? なんで?」


と無意識に突っ込んでしまってから、つい妙な想像をしてしまう俺。

ひょっとして女性(の形をしてる存在)に聞くべきじゃないようなことだったか?


やばい。


「目をね、瞳の奥をじーっと覗き込むと分かるの。エルフ族はみんな、瞳の芯の部分の縁取りが二重になってるのねー。でも、恋人でも無い他人の目をそんなにじーっと覗き込むことなんて、普通はないでしょー?」


無罪です!

パルミュナの返答に、ちょっとホッとした・・・


「あー、それはまあ、そうだな...そんな他人の目を覗き込んだことなんて、ないわ」

「でしょー。田舎の農家に綺麗な鏡なんてなかっただろうから、自分で自分の顔をちゃんと見たこともなかったんじゃなあい?」

「うん、家に鏡なんてなかったな」


「やっぱりねー...元々エルフでも耳先の尖ってない部族ってそれなりにいるけど、そういう人でも目の奥を見れば分かるのよ。見分けるのは耳よりもそっちー」


「そうかあ、そうなのかあ...エルフはみんな目がそうなってるのか」


「うん、純エルフじゃなくても、エルフから枝分かれした種族ならそうなってるねー。コリガン族とかエルセリア族とかもそー。だから、姿がどうでも瞳の奥に二重のリングが見えたら、エルフ系統の種族か、エルフの血が入ってるってこと」


「なるほどなあ...」


「よっぽど血が薄まってると分からないかもしれないけどさー、そもそもハーフエルフって、ハーフエルフ同士や人間族との間で子供ができないからねー。だからエルフ族と人間族の間では、どっちの血も結局は混ざり合わずに濃くならないのよー」


「じゃあハーフエルフは、普通のエルフとの間の方が、子供に恵まれやすいのか?」


「うーん、むしろエルフとの間なら普通に子供ができるけど、人間との間やハーフエルフ同士だと滅多に子供が生まれないってことかなー。可能性ゼロじゃないけど...これ、男女がどっちでも同じー」


知らなかった....

本当に何も知らなかった。


一瞬、なんで自分で気づかなかったんだろうって思ったけど、考えてみると『エルフの特徴』というか、エルフ族ってどう言う人たちなのかは、俺自身も大して知らないままだったなあ...。


あの村長のアルフライドさんじゃないけど、それこそ『耳先がちょっと尖ってて、年寄りでも見た目の若い、少し長生きな人たち』って程度の認識だ。

あと、魔力が強い代わりに子供ができにくいから種族全体の人数が少ないらしい、くらいか。

とてもじゃないが、大精霊のことを『興味がないことを知ろうとしてない』なんて馬鹿にしてられないぞ...


ん? すると、あの村長さん、俺がパルミュナから『パパ呼ばわり』された時に、俺の顔をまじまじと見たのは、ひょっとすると瞳のことを知ってたからなのかな?

部屋も食事も世話になれたんだから、今更どっちでもいいか...。


「人間主体の国に住むエルフ族は、同族で固まった郷に暮らす人が多いのはソレが理由なのよー」


パルミュナの説明によると、もちろんエルフも他の種族と同じように普通に人間中心の国にも混じってはいるが、最終的な婚姻関係というか、子供を欲しいと思えば同族から相手を選ばざるを得ないことが多いので、エルフ同士のコミュニティと完全に縁を切ってしまうことが難しいのだと。


つまり、エルフは排他的だとか人間と交わるのを避けるとかいうのは勝手な人間側のイメージで、実際は結婚と子作りのことを考えると、エルフ同士で固まって暮らさざるを得ないだけ、ということだ。


獣人系の種族あたりと大して変わらん事情だな。

むしろ獣人族系統よりも見た目が人間族とほとんど変わらないだけに、排他的な印象がついてしまったのかもしれない。


俺がそういうと、パルミュナはコロコロと可愛く笑った。


「人間族は、エルフ族が神秘的だとかわからないとか、人間から距離を置いてるみたいにいうけどさー、本当は逆ー」


「逆って何が?」


「エルフ族の方は、それほど人間族を離れた相手だと思ってないけど、人間族の方がエルフ族を遠ざけてるの。避けてるって感じー?」


「え、なんでそう思うのさ?」


「うーん、人間の判断基準はよくわからないけど、アスワンの話だと、人間って同族だろうと他種族だろうと、自分より優れてるものには近づきたくないんだってー」


「あ? ああ、そういうことなのか...」


「でねー、人間の目から見ると、エルフは、男も女も綺麗だし、寿命も長くてずっと若いままだし、魔力量が多いから魔法の得意な人も多いし、ってことで、かなわない相手なんだってー。だから、出来るだけ近寄りたくないんだってさー」


「なんだよ...じゃあ『エルフは同族だけで固まって人間と交わろうとしない』なんて言っておいて、本当は人間の方がエルフを避けてるわけか...」


「そーいうことになるねー」


なんだかなあ・・・


うーん、それにしても複雑な心境。

今日の今日まで、自分は人間族だって疑うこともなかったからなあ。


いまとなっては確かめようもないことだけど、俺の育ての両親は人間族だったはずだよなあ。

生みの親のことは、何一つ知らないと言っていたし、エルフに関係する話題が家族の間で話された記憶はないように思う。


だけどパルミュナの話からすると、少なくとも俺の生みの親のどちらかはエルフだったということだよな。


はあー。

なんだろうこの気持ち。


まあ、幼い頃だったから気づいてなかったとか、育ての親は本当は何か知ってて、俺が大きくなったら教えるつもりだったとか、『空想』はいくらでもできるけどなあ。


真相は、あの日、魔獣と一緒に消えたままか・・・

なんだかモヤモヤする。


++++++++++


どうにも頭の中がぐるぐるして、考えがまとまらない。


というか、自分にエルフの血が流れてると分かったところで、それで明日から何かが変わるという訳でもないし、差し迫って考えるべき事が有る訳でもないけど、なんかスッキリしない。


パルミュナも特に話しかけてこないし、そのまま二人でぼーっと岩の上に座って谷向かいの山並みを眺めながら時間を過ごした。


しばらくして、再び斜面の上の方からガサゴソと薮をかき分ける音が近づいてくると、先ほどと寸分違わぬ場所からラキエルが出てきた。

弓と矢筒以外にも落としてるものがないか、念のために逃げてきたルートをトレースしてきたんだろう。


さすがエルフ! と一瞬思ったが、実は俺にもその血が流れてたんだよな・・・なんだか変な気分だ。


ラキエルは片手に二本の弓を束ねて持ち、同じく二つの矢筒を肩から下げていた。すでに弓の弦はどちらも外してある。

一つは、大きくてかなり強そうな弓ではあるけれど、ウォーベアが相手じゃ致命傷は厳しいだろうな。

もう一つの弓はコンパクトでシャープな感じだ。こっちはせいぜい、鳥や小動物専用って感じじゃないだろうか?・・・


ああ、そうか。

きっと兄弟で役割分担して、獲物に合わせて弓を使い分けているんだな!

なるほど賢いなあ・・・でもこれって、どちらがより活躍したかとか関係なしに、獲った獲物をちゃんと分け合える間柄だからこそ出来る戦術だ。

もちろん、俺も師匠とはそんな間柄でいられたと思うけれど、一人旅になってかれこれ一年以上の身としては、ちょっとこの二人が羨ましい。


「降りてくる前に、弓の弦は外してしまったよ。あの魔物がもう一頭出たって、こんな弓じゃどうしようもないし、さっさと駆け降りてあなたの後ろに隠れた方が懸命だからなっ! あっはっはっはっはっー!」


と言って大笑いしている。

なんて豪快かつ爽やかな笑い方なんだ。

俺はなんとなくこのエルフの狩人が好きになってしまった。


「お待たせして済まなかった。では、案内するよ」

「ああ、よろしく頼む。ところで、ここからあんたたちの里まではどの位の距離なんだい?」

「近いよ。大人の足でのんびり歩いて一刻もあれば着くかな?」


ふむ、だとすると、ザックリした勘では本街道へ出るまでの中間地点って感じかな? 

座って待ってた時間を加味すると、これから慌てて本街道へ急がない方が得策だ。


「いま弟さんが人を呼びに行ってるんだろ? 荷車があるとしても、コイツを持って帰るなら出来るだけ手伝う人数が多い方がいいんじゃないか? 俺たちはそれまでここで一緒に待ってても構わないよ?」


「えっ、そうかい? でもなんだか悪いなぁ...」


「構わないよ。どうせいまから急いでも、本街道に出る頃には日が暮れる。あんたらの里で泊めてもらえるなら、その方が有り難いし、それだったら急ぐ理由もない」


「そうか、じゃあ念のためにお願いするかな。多分リンデルもしばらく前に里についてるだろうから、荷車を引いてくる連中が着くまで、あと一刻ちょっと、ここで待つ感じになると思う」


「ああ、じゃあそうしよう、そうしよう」


俺とパルミュナは一旦上げた腰を、再び同じ岩の上に下ろした。


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