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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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双子の狩人


二人のエルフの青年は、並んで片手を上げて挨拶しながら近づいてきた。


実際の年齢は分からないけど、見た目的には俺と大して変わらないくらい若い。もっとも、見た目的に俺と変わらないのは若さだけで、向こうの二人は美形なエルフだが。


まだ二人ともかなり息が荒いな。

相当な距離を逃げてきたのかもしれない。

なんとか逃げ延びられたのは、この魔獣の巨躯が藪を抜けるスピードよりも、二人の方が身軽に走れたからだろう。


その点では、山道に出てしまったのは悪手だったのかな?

いや、最初はこっちに向いてたってことは、逃げるコースの算段があったのかもしれないし、ひょっとすると俺たちの存在が、それを邪魔した可能性もあるか・・・


「どなたか知らないが、おかげで命拾いしたよ。本当にありがとう」


「偶然、ちょうどいい場所にいれたからな。あと少し、俺たちの歩きが早くても遅くても、お互いに不味かったかもなあ。それにあんたたち、俺たちがいるのを見て逃げるコースを変えてくれただろう?」


「あのまま谷筋を駆け降りて、川に入ればなんとか逃げられるかもしれないと考えていたんだがな。でも、どのみちきっと間に合わなかっただろう」


「いやあどうかな? なんにしても俺たちを巻き込まないように計らってくれたことは分かってる。その勇気と心遣いに礼を言うよ」


「礼を言うのはこっちだよ...何しろこれに追われてたんだからな?」


そう言って二人はすぐ傍に倒れている魔獣の方を見やった。

首を落としてるから、血の流れ出し方がひどい。

すぐに雨でも降ればいいが、このまま一晩放っておくと、匂いで他の獣たちも呼び寄せてしまいそうだな。


「とにかく、あなたがいてくれて本当に運がよかった。感謝する。俺の名前は『ラキエル』だ。こっちは、双子の弟の『リンデル』。二人とも、この先の里で狩人をやってる」

そう言って手を差し伸べてきたので握手する。


「ラスティユの村のリンデルだ。ありがとう」

弟さんの方も礼を言いながら握手の手を差し出してきた。

双子の兄弟か、どうりで判断も息もあってるはずだ。

確かに、ほとんど同じ顔だな。

美形だけど。


「俺は『旅の破邪』をやってる、ライノ・クライスだ。こっちはパルミュナ」

「パルミュナよ。よろしくねー」


お? 今回はパパって言わないのか?

流石に相手が本物のエルフだと俺が親のわけないってバレるよな。


「あなたたちは兄妹かい?」

「そうよー。お兄ちゃんと一緒に『キュリス・サングリア』に行く途中だったのー」


あれっ?

今度はそういう設定なの?

それも無茶じゃない?

ここまで人っ子一人いなかった山道だよ?


ていうかパルミュナ、本気で俺と一緒に王都まで行くつもりなのか?


「王都か! それはまた随分と遠いな。いや、何にしても、あなたたちが通りかかってくれて、本当に命拾いしたよ。でなければ、俺も弟もここで死んでいたと思う」


弟の方も頷いている。

兄妹設定の方はスルーでいいのか?


「しかし強い人だなあ...破邪なら魔獣の相手は慣れてるんだろうが、それにしても、このデカブツを一瞬で切り裂くとは本当に驚いた」

「ああ、全くだ。俺も兄貴も覚悟して剣は構えたけど、こんなの、どこにどう切り掛かったらいいのか見当もつかなかったよ」


「まあ、たまたま当たり所が良かったのさ。それよりも、この魔獣は、この辺りに時々出るのか?」


魔鍛オリカルクムの刀のことに突っ込まれても答えにくいので、ちょっと無理やり話を変える。


「いや、初めて見た。俺が知ってる中では、これまでにこの山で魔獣が出たことはほとんどないと思う。この辺りにいる獣で危ないのといえば、普通の熊と狼ぐらいだな」


「ああ。この魔獣だって名前も知らない奴だよ」

「そうか...こいつは『ウォーベア』っていう魔獣で、凶暴さで有名なやつだ。まあ運が悪かったってところかな?」


つい先ほどのパルミュナとの会話が頭をよぎる。


これはやっぱり精霊たちの言う通り、あちこちで凶悪な魔獣の発生が増えてるって証拠だな・・・いまのところはまだ個人的な疑念に過ぎないから、それをこの二人に告げるべきかどうかは悩ましいが。


大体、山郷の狩人っていうのは、それほど遠くへは行かないものだ。


具体的にいうと、特に狙ってる獲物がない限り、泊まりがけで狩に出るってことさえ滅多にない。

日帰りできる範囲でも十分に沢山の獣を狩れるから、遠くまで行く必要性が薄いし、それに遠ければ遠いほど、獲物の肉を持って帰るのも大変になるからな。


主に換金するための毛皮狙いで、一人で山中に小屋を立てて長期間、自給自足で暮らしているような『猟師』と、村人の需要をそこそこ満たせばいい里の狩人では、そういう日常の暮らし方からして違うのだ。


「いや、魔獣と出会ったのは運が悪かったけど、あなたに助けられたのはとても幸運だったから、差し引きはプラスさ」

と、弟さん。


「全くだな。どうだろう、せめて少しはお礼ができればと思うんだが、一緒に俺たちの里へ来てもらうことはできないかい?」

と、お兄さん。


里って、きっとエルフ族の集落だよね?

俺とパルミュナがエルフの兄妹設定とかで里に行って大丈夫かな?

嘘ついているのが後でバレると、あまり印象が良くない気がするぞ。


いまは二人とも興奮状態だから細かなことを気にしてないんだろうけど、『細かいことを気にしない』って姿勢にかけては右に出るもののいない大精霊の話とか、いつまで鵜呑みにしてくれることやら。


「ところで、このウォーベアだったっけか? これはどうする?

ここで解体して、持てる肉だけでも運んでいくかい?」

「そうだなあ...こいつの肉は食えるから、本当はそうしたいところ山々なんだけど、このままここで捌くのもなあ...」


いくら人通りが少ないとはいえ、道の真ん中でデカい魔獣を捌くのは常識的に気が引ける。

すでに盛大に路上に血を流しているのに、この上そこらじゅうに利用しない部位の残骸を撒き散らしていたら、間違いなく他の獣を呼び寄せてしまうだろう。

この道を後から通るかもしれない人にとっては迷惑千万だ。


なんとか四人で頑張って谷の方へでも落としておくとするか・・・そこらの木を切り倒して梃子にすればどうにか動かせるかな?


「だったら、これを俺たちに売ってくれないか? 一度里に戻って、持って帰れるように荷車と人を出すよ。一緒に里まで来てくれれば、その代金も払えるし、なんなら肉をいるだけ持っていってもらってもいいし、ちょうどいい。どうだろう?」


思わずパルミュナの方をチラリと見ると、ニコニコして軽く頷いているから、そのプランで問題ないってことだろう。

本当か? 

本当に大丈夫なのか? 

後で揉めても責任は取らんからな?

だけど、魔獣の処理を考えると妥当なプランではある。


「うーん、じゃあ、お言葉に甘えて、あんたらの里に伺うとするか」


「よし! 決まりだ」

「あ、そうだ。申し訳ないんだが、できれば、ちょっとだけ待っててもらえないか?」

「うん? いいけど」

「すまないな、実はあの魔獣から逃げる時に、二人とも尾根の上で弓を置き去りにしてしまったんだ。戻って、それを取ってきてもいいだろうか?」

「ああ、そういうことか。もちろんだ。狩人には大切な弓だろ? 休憩がてら、ここに座って待ってるから、慌てずに取ってきてくれよ」


あの魔獣からダッシュで藪の中を逃げる時に弓を背負っていたりしたら、あちこちに引っかかりまくて大変なことになっていただろう。

道に出る前に捕まっていた可能性もあるから、咄嗟に弓を捨てたのはいい判断だ。


「ありがとう。じゃあ俺が弓を取りにいくから、リンデルは一足先に里にもどって、客人がくると伝えてくれ。それに荷車と人の手配を頼む」

「分かった。ラキエル、俺の弓と矢筒を頼む」


俺たちを見つけた瞬間に逃げる方向を逆向きに変えたことといい、この双子は判断力が優れてるな。

あの時、二人のどちらも遅れることなく、ほとんど同じタイミングで踵を返したから、二人とも同時に同じ判断をしたんだろう。

そう考えると双子だからというだけでなく、考え方も似ているんだろうな。なかなか息の合ったコンビだ。


「急がなくていいよ。今日中に本街道に出なきゃいけないってわけでもない」


気遣いっぽい言葉をかけつつも、つまり、さりげなく『今日は里に泊めてもらえるのかな?』と、お伺いを立ててみる俺。

この様子だと里で食事くらいは出してくれそうだし、もしウォーベアの解体に付き合ったりして時間を食うとしたら、それから慌てて本街道に出ようとしても仕方がない。


「そうか、だったら今日は俺たちの家に泊まっていくといいよ!」


有り難い。

どうせ街に行けないなら、彼らの里で泊めてもらう方が何かといいだろう。兄妹設定がちょっとだけ気になるけどさ。


++++++++++


ラキエルは先ほど出てきたところから再び斜面を登っていき、リンデルは逆に山道を里へと走っていった。


俺とパルミュナは、さっき倒したウォーベアからそれほど離れていない場所で、適当な岩を見繕ってそこに腰掛けた。

最初は、パルミュナがウォーベアの毛皮の上に腰掛けようとしたので慌てて止めたがな。


「座るのはやめとけよ。死んだ獣からは、付いてたダニやらノミやらが新しい宿主を探してわんさか出てくるぞ?」


「えーっ、やだー!」


パルミュナはほとんど座りかけていた腰をバネのように跳ね上げると、慌ててウォーベアから距離を取った。

精霊の作った体でも、ダニやノミに食われたら痒くなるのかな?


「そりゃあ魔獣だって、血と肉があることは普通の獣と変わらないからな」


それはともかく、だ・・・


「なあパルミュナ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「なにー?」

「考えてみるとあの双子はさ、パルミュナが口を開く前に、俺たちに『兄妹か?』って聞いてきたよな。なんでだ?」


「んー、アタシはねー、途中から『ライノが気が付いてない』ってことに気が付いてたよ?」


「....どういう意味だよ?」


「ライノは自分にエルフの血が流れてるって、知らないでしょ?」


「はあっ!? 何言ってんだお前!」


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