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1日

「は~今日も大漁、大漁!ミーシャが手伝ってくれたおかげで早めに終わったよ~」

「とんでもないですわ。メアリー様の方が手際がよく、30分も早く自分の分も収穫し終えたではありませんか」

「私は慣れているからね~。ミーシャも初めてにしてはすごく早かったよ。いい農家のお嫁さんになれるよ」

「農家に嫁ぎ先はありませんが……褒め言葉として受け取っておきますわ」

「ここでは超褒め言葉だよ。ああ、お腹すいた。早く朝ごはん食べよ」

「その前にお風呂に入りましょう。服も手もドロドロですわ」


朝風呂に入って、ご飯を食べる。ご飯を食べた後は身支度を整えて、今日の予定の再確認していると時間になり、、王都の大通りの青果店を営む商会が野菜を取りに来た。


……。


「メアリー様、おはようございます」

「おはよう、エドモンド。野菜は今朝収穫したものを倉庫に置いているのでもっていってください。ああ、納品書にサインお願いします」

「かしこまりました。ではこちら代金です」

「……はい、たしかに。それで、そちらの方は?」


エドモンドはいつも秘書の人と荷物運び要員の若い衆と合わせて4~5人でくるのだが、今日はその秘書の代わりに見慣れない男性を連れていた。


「ああ、こちらはブルーム商会の……」

「ギガスと申します。王女様にお会いできて感激しております」

「そうですか。それで、ギガスさんはどんな御用でこちらへ?エドモンドさんの付き添いというわけではなさそうですが」


私の離宮はセキュリティの観点と、そもそも初対面が好きではないので、なるべく一見さんはお断りしている。それに、誰でもウェルカムな体制を取っていたら、無農薬野菜を求めて契約をしに来た商会でごった返しになり、今ではお父様が認可した機関や商会との取引のみにしてもらっているのだ。


「メアリー様が育てている質のいい野菜をこのギガスの商会でも取り扱いたのだそうで……私も何度かお断りしたのですが……」

ギガスはエドモンドの話を遮り、自分を売り込みたい気持ちが先走るように自己アピールをはじめた。


「エドモンド商会より大きくはありませんが、王都郊外でレストラン経営を中心に行っております。貴族向けの料理を出すレストランへの開店に向けて、どうしても王女様が育てている野菜を仕入れさせていただければと思い、エドモンド様に無理をいって機会を与えていただきました。食材へのこだわりと、王女様が育てる野菜のよさを伝えていければと思いますので、何卒機会を頂ければと思います」


まるで越後屋のような小狡い笑みを浮かべている。なにを考えているのかはわからないが、なんとなくいいことを考えていないことは明白だ。

なにが狙いなのか……。まぁ、でもそれ以前にこの離宮で作れる野菜の数にも限度があるし。今の取引先での納品で手一杯だ。


「申し訳ありません。今は取引する商会や機関は決まっておりますので、それ以外に野菜を卸すつもりはありません。ここまで御足労頂くくらい、うちの野菜に情熱を抱いていることには感謝の念が絶えませんが……現状は無理ですので、どうかお引き取りください」


ここまで丁寧に、はっきりと言えば頷くしかないだろう。

……と思ったのが考えが甘かったようで。ギガスはなおも諦めが悪くごねる。


「ギガスさん、メアリー様も困っていますので、どうかこの辺でご容赦ください」


さすがのエドモンドさんも止めに入る。普通商人は取引相手をライバルでもある他商会に商会しないものだと思っていたのだけど。どうもエドモンドさんはギガスに恩があるようで……。困ったように止めに入るあたり、どうしてもこの無茶なお願いを聞かなければいけない理由もあったのだろう。


商人同士の繋がりは大切だし。同情するよ。

ここは私が心を鬼にしても、エドモンドさんに飛び火しないようにしっかりと追い払わなければ――。


「――なにごとです!王女様の御前で騒がしいですよ」


とちょっときつめな言葉を口にしようと口を開こうとしたが、丁度会計作業をお願いしていたミーシャが2階から降りて来た。


私の書斎にやってきたミーシャは私の対面に座るエドモンドさん、ギガスを威圧するように睨む。これが普通の女の子であれば、ギガスもエドモンドさんも無視して話しを続けるだろう。


しかし、ここにいて、貴族が纏うドレスを身に着けている以上、彼らより高い身分の女性であることは瞬時に判断できたようで。冷水をかけられたようにぴたりと言葉を止めた。


キっと一瞥すると、ミーシャは「昨日の納品された分の金額の会計作業が終了したので確認お願いします」と書類を渡してくれ、「失礼します」といって私の隣に座った。


えっと……ミーシャさん?なにをするの?


疑問を余所にミーシャは話を進めた。


「さきほどから話を聞いていましたが、ギガスとやら。あなたが相手にしているのは一塊の商人ではありません。この王国のなかでも高い身分にいらっしゃるお方です。それを除いても断っている相手になおも食い下がる卑しさ……恥を知りなさい!」

部屋中に波打つミーシャの喝。ギガスは年端もいかないミーシャの喝に体は鯉のように跳ねた。


「しかも、正式な手順を踏まないで謁見しておいて、無礼の数々。打ち首になっても仕方のないことなのですよ!王女様を軽んじているのですか!?」

「そんなことは滅相もありません!しかし、王女様のお野菜をうちでも扱わせていただければ、その一心で……」


ギガスはなおも言い訳をする。自分の経営のためにあの手この手を尽くすのは間違っていないけど、それで人に迷惑をかけては目も当てられない。


「エドモンド。王女様と懇意にされている商会なので、大目にみますが、懇意にしているとはいえ限度があります。親しき者にも礼儀あり、あなたがしていることは無作法なことと気づいていますね?」

「はい、私の連れが申し訳ありませんでした。彼の商会はうちのお得意様でして、苦境の時に何度も助けられた恩があり、断り切れませんでした」

「どんな事情であれ、あなたの事情をこちらに持ち込むことはお門違いですわ。野菜の納品は済みましたので、これ以上用がないのであればお引き取りくださいませ。やむを得ない事情があるのであれば想定外の来訪者も受け付けますが、今後もこういったことがあれば、あなたとの取引も考えなければいけません。……わかりますね」

「はい。申し訳ありませんでした。ええっと……」

「ミーシャ。アレクレス公爵家のミーシャ・アレクレス家と申します」

「「――っ!?それは、本当に大変申し訳ございませんでした!」」

ミーシャの家はスカーレットと匹敵するくらい、この国にいれば聞かない日はないくらい有名だからね。驚くのは無理ないか。


「ギガスさん、もう十分でしょう。私ではこれ以上あなたの力にはなれません。……メアリー様、ミーシャ様、ご迷惑をかけて申し訳ございませんでした」

「気にしていませんが、今後はこのようなことがないようにお願いしますね」

「はい……では本日も納品して下さりありがとうございました」


ギガスは渋々とした様子で、エドモンドさんはびくびくとした様子で去っていった。

書斎に取り残された私たちは新しい紅茶を注いでもらい、一服することにした。


「……申し訳ございません。出しゃばった真似をしてしまって。メアリー様が困っている様子だったのでいてもたってもいられませんでした」

「そんなことないよ!ちゃんと断ったのにしつこかったあのおじさんが悪いんだから!」

「でも、大切な取引先なのに、貴族の権威を使って追い払うような真似をして迷惑をかけてしまいました。どうか謝罪を受け入れてください」

「悪いことしてないんだから謝らないでよ!というか、ああいう相手はああいう断り方で正解だからいいの!たまにいるんだよね、ああいう輩。だから、ミーシャがきちんと断ってくれて助かったよ。ありがとう。……はい、この話終わり!お昼過ぎちゃったけど、紅茶飲んだらお昼たべよ!」

「……ふふ、そうですね。少し遅いですが食べましょうか。お昼はこちらに持ってくるように伝えましょうか」

「うん、お願いできる?そうだ、離宮の裏山で取れたアケビがあるからデザートで食べよう!ついでに伝えて来てくれる?で、午後はすることがないから、一緒に下町にいかない?」

「はい。では、それも合わせて伝えてきますね」


私は書類の確認をするために書類に目を通し、ミーシャは使用人に伝えるために一時書斎を退室した。それからお昼を取って、約束通り、下町に繰り出した。


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