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いざ本城(王城)へ

今日やるべき予定を済ませた後、王城……いわゆる本城へと向かった。突然のアポイントだったけど、事が事なので、すぐに予定を入れてくれたお父様。謁見の間を守護する兵士は私の姿を見ると、しずしずと頭を下げ、謁見の間に続く扉を開いた。


すると、玉座にはすでにお父様の姿があり、その眼前にはこの国の宰相であり、ミーシャの父親でもあるハンスの姿もあった。


「お父様、お久しぶりです。3ヶ月振りくらい?」

「いや、 4ヶ月だ。おまえは中々顔を出さないからな。息災であったか」

「もう元気すぎて。畑仕事に精を出し過ぎてぶっ倒れそうです」

「……その言葉使いどうにかならんか。気品がない」

「今更でしょう。外行きの時は気を付けますけど、今は別に気にしなくてもいいかと」


ハンスもミーシャも私の言葉使いは気にしていない様子だし。口うるさい王妃もここにはいないし。一番話やすい喋り方の方がしっくりくるのだ。


「私の話はこれくらいにして。経緯は聞いてます?」

「おまえが昨日出してくれた手紙と、エリアスの話、そして学園長の話もな……」


口頭でも一応簡単に婚約破棄までの経緯をお父様に伝える。ミーシャ嬢の父親であるハンスは刻まれている眉間の皺をさらに深くさせ、お父様は話が進むにつれて血色が悪くなる。


「今回の話を精査するに、完全にうちの愚息がミーシャ嬢に無礼を働いたようだ。ハンス、うちの愚息が申し訳ないことをした」

「この国の王たるもの、下々に向けてそう簡単に頭を下げないで下さい。そうされてもこちらが困るだけですので」


許す、と言わないあたり相当にハンスも今回の件に憤っているのだろう。自分の娘の幸せのために組まれた縁談が、貴族としても女としても瑕を負う自体となってしまったのだから。


この国の既婚、または婚約関係を結んだ女性に対しての評価というのは以外と厳しい。少しでもスキャンダルがあれば、その女性になにかしらの原因があったとしても昔ながらの感性を持つご婦人からすれば、ミーシャは貴族の女性としては不適切な女だと白い目で見られることは明々白々だった。


「たまたま居合わせたメアリー様が庇ってくれたおかげで、想像以上の風評被害は抑えることができましたが、これでミーシャは普通の令嬢のような縁談も、貴族としての幸せな生活も送りづらくなりました……ミーシャ、これから、おまえはどうしたい?」

「え?」


王様の前で本人の意志を聞くというのはなかなか勇気がいる行為だ。どんな理由であれ、この場の最高権威に君臨する王ではあるが、今回に限ってはその王側に不始末がある。


さらに理不尽な理由でミーシャは瑕物にされてしまった。王族に過失がある以上、王の体裁として保つためにも、ミーシャがいうことは、王として、1人の父親として聞き入れなければいけない。


この場に限ってこの行為も不敬との一言で片付けられないのだ。なかなか食えないことをするな、ハンス……。ま、あの我儘なお兄様がどうなろうと知ったことではなけど。


お兄様に泣かされたミーシャ嬢には幸せになってもらいたいし。


「……私は」


王妃になるために今まで生きて来たミーシャ嬢はこれからどうしたいのか、まだ意志が固まっていないのだろう。だからか、しばらく彼女が考えるための沈黙が訪れる。


お父様もハンスも彼女の答えが出るまで物音ひとつ立てず、決定を見守る。


そして、意志は決まったとミーシャは顔をあげた。


「……これから、どうしたいのか、まだわかりません。でも、エリアス様との件がこうなってしまった以上、婚約破棄がアレクレス家のためになると思います。……具体的にどうするかは、またお時間を頂けますか?」


王を前にして気丈に振舞えるその精神は感嘆する。私は王はお父様なので、緊張しないけど、普通だったら緊張で声が震えて答えられないか、無理に答えを出すもん。


「わかった。こちらにできうる限りの要求は答えるつもりなので、じっくりと考えるとよい。息子の件は本当にすまなかった。できる限り、社交界に広まる噂は対処すると誓おう」

「よろしくおねがします。多少なりともミーシャに落ち度はあれど、今回のことは王子の行動は行き過ぎていますので」

「ああ、こちらからもよく言い聞かせて置こう」


話も終盤に入り、世間話混じりに今後のミーシャの身の振り方についての話題になる。


「それで、ミーシャ、うちにはいつ返ってくる?私はいつでもいいのだが、その……な」

ハンスは歯切れが悪くいい澱む。その言葉に決断しきれない曇った表情でミーシャは頷いた。

「お母様ですよね……今回の縁談、お母様は大切にされていましたので」

「ああ、昨日の一件から不機嫌でな。おまえの顔をみると今にも暴れそうな雰囲気なのだ。……おまえのことを考えるとしばらくは顔を見せない方がいいのかもしれない。……すまんな、頼りない父親で」

「とんでもありません、お母様の心中を察するに至極当然の反応です。……となると、しばらくは家に帰れそうにありませんね」


と困ったように言葉を零すミーシャ嬢。だったらうちに泊まれば?と首を傾げてみる。


「よろしいのですか?」

「うん。うち人少ないし、部屋余ってるし。普通に暮してもらう分には問題ないよ」

「しかし、ご迷惑ではありませんか?」

「全然!同世代の女の子と生活する機会も滅多にないし!ミーシャ嬢がよければうちにおいでよ。メロスもアレスもなついてるし、気持ちが定まるまでうちで生活しなよ」


ミーシャ嬢は涙を零し、膝をついた。え?そんなにショックだった?

「ありがとうございます……!ここまで優しくされると思わなくて……ずっと、1人だったから、誰かに心配されることが嬉しくて、ほっとしたら涙が溢れて……」


縦ロールの整えられた金髪が肩が揺れる度にさらりと流れ、サファイアの瞳は涙でより煌めきが増す。


「ずっと涙を我慢して、強い自分を演じ続けてたんだね。いいよ。ここにはお父様たちと私しかいないし。泣いて、いいよ」

こういう時は涙が枯れるまで泣かせるのが一番だ。お父様もハンスもここでのことを言いふらすほど口は軽くない。


ぽんぽん、と背中を優しく撫でると、ミーシャはしばらくの間、胸の中に顔を埋め、涙が枯れるまで泣いた。


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