獣声
「センドウさん、遅いな…」
黒髪のハンサムな男が、とある駅の前で待ち合わせをしている。
彼の名は藤原卓郎。ロックが好きな少年だ。
彼は、友人のセンドウユウジを待っているのだ。
「また道を間違えたかな?」
卓郎が心配していた、その時だった。
黒いハットを被り、黒いジャケットを着た男がやって来たのだ。
「センドウさん!」
卓郎は飛びあがって喜んだ。
だが、それはセンドウユウジではなかった。
男はニヤリと笑って、こうつぶやいた。
「ああ、あいつか。あいつなら私の研究所にいる。お前も来るか?」
卓郎は走って逃げようとしたが、回り込まれてしまった。
「おっと。逃げていいとは言ってないぞ!」
男が獣のような唸り声をあげた。すると、
男は黄色い獣毛が生え揃ったトラの獣人に
変化した。
「嫌だ、助けて…」卓郎は抵抗しようとしたが、恐怖のあまり身体が動かなかった。
「安心しろ、殺しはしない。」
男は卓郎の手を握った。すると、卓郎は眠ってしまった。
「ここは、どこ?」
目が覚めると、卓郎は謎の研究所の床に座っていた。
「僕は一体何を…」
卓郎は右を向いた。黒いハットを被った男が座っていた。本物のセンドウユウジだった。
「卓郎、すまない。俺のせいだ…亅深いため息をつくセンドウを、卓郎は優しく慰めた。
「センドウさん。早くここから出よう!」
卓郎とセンドウは、研究所の扉を思い切り
蹴った。すると、扉は音をたてて壊れた。
「やった!」卓郎とセンドウがハイタッチをした、その時だった。
「お前らは、私の大事な研究材料。逃がしはしない!」
黒いハットを被り、黒いジャケットを着た男が現れた。それは、卓郎が駅で見たあの男と同じだった。
「卓郎に近づくな!」
センドウが声をはりあげた。その目つきは
いつもの優しい目つきとはかけ離れていた。
「お前、私に指図する気か?亅
男は獣のような唸り声をあげて、トラ獣人に変化した。
「お前がその気なら、俺も本気を出す!」
センドウは獣のような雄叫びをあげた。
すると、身体が変化していく。
腕に黒い獣毛が生え揃い、爪は鋭く尖った。
口には鋭い牙が生え、頭は人から狼のものになった。
センドウのいた場所には、黒い獣毛の狼獣人の姿があった。
「センドウさん、頑張れ!」
卓郎は怖がるどころか、ワクワクしている。
「あまり戦いは好きじゃねえんだが…」
センドウは手から光の弾を放ち、トラ獣人を吹き飛ばした。
「ぐはっ!」トラ獣人は吹き飛ばされた勢いで研究所の壁に激突してしまった。
「トラのくせに、弱っちいな!」
センドウは苦笑いを浮かべている。
「わかった。私の負けだ…」
トラ獣人は人間の姿に戻った。
センドウはトラ獣人だった男を睨みつけた。
「ひえっ!?」男は正気に戻ったのか、たちまち逃げ出した。
「センドウさん、強いんだね!」
卓郎の言葉に、いつもはクールなセンドウが笑みを浮かべていた。