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あめのおんがく  作者: 水上 小夜花
4/4

4.再び雨

 僕が漸く、ピアノを弾いてみようかな、と思えたのは、最後に弾いたあの雨の日からひと月半も経った頃だった。


 この日もまたひどい雨で、屋根に当たって響き続ける水の音に、僕はうんざりしていたんだ。


 ふと思い立って、黒いピアノ椅子に座り、カバーを外し、指を乗せる。



 ———ポーン———



 ああ、この音だ。そうだ、うん。ピアノの音だ。


 この「ラ」の音に、すーっと、引き込まれて。


 自分の周りを取り囲むようにまとわりついていた、嫌な雨から解放される。



 やっぱり僕は、ピアノが好きだ。


 久しぶりに弾く曲は、ベートーヴェンの悲愴、2楽章。


 ベートーヴェンは耳が聞こえなくなっていく絶望の中でこの曲を書いたようだけど。


 僕は、聞こえることが、嫌になっていたんだ。


 でも今は、聞こえてよかったと、思う。


 やっぱり、音楽って、素晴らしい。



 僕が曲を弾き終えると、いつの間にピアノの下にいた彼が僕のそばに擦り寄ってきて、前脚で鍵盤をぽんっ、と押した。


「君も、音楽を、感じているのかい?」


 結局、僕にとっての音楽は何か、僕にはわからない。


 でも、今彼が出したその一音は、とても愛おしかった。


 猫が弾くピアノの音は、僕にとって、確かに音楽だった。






 雨の日にピアノを弾いてから、先生はまた毎日ぼくに演奏を聴かせてくれる。


 先生は雨が嫌いみたいだけど、そのおかげでまたピアノを弾きたいと思ってくれたみたいだから、ぼくは雨がちょびっと好きになった。


 あの後も、ぼくはたまにピアノを弾く。


 先生は嬉しそうに、ぼくの演奏姿を見ていてくれるんだ。


 ぼくは先生のピアノの方がずっとずっと好きだけど、先生はあんなに喜んでくれているし、もしかしてぼくも、なかなか上手に弾けてるのかな?


 なんてね。


最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。

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