あこがれのノコ生主
ヨミとめいはパソコンで映画を観ていた。
「やっぱり宏巳監督のサンダーバードはいつみても名作だわ」
エンドロールになった画面を前にめいはハンカチで涙を拭いた。
「はぁ?なんだこの辛気臭い映画は。ちょっと貸してみろ」
ヨミはサイトを変えた。
「またノコ生主?」
ノコ生主というのは今、中高生の間で流行っているノコノコ動画を配信している人のことだ。
「黙ってみてろよ。おもしろいぜ」
ヨミは再生ボタンを押した。
「おぃっす!どうもツァムだぜ」
ノコ生主でとりわけ大人気のツァムが新発売のバララを持ってはしゃいでいた。
「ツァムさんじゃないの。こんなの十分見てたら飽きちゃうのによく観てられるわね」
つまらなさそうにしているめいにヨミは不機嫌だ。
「いいから黙ってろって。この超丁寧な食品レビューがおもしろいんだぜ」
ヨミは再生時間一時間の動画をパソコンの画面にかじりついてみていた。
(こんなのちょっとした映画じゃないの)
その後、日が陰ってきた時分に二人は買い物に行った。
帰り道、ヨミは嬉しそうにツァムの魅力を語った。
「ほんと好きね」
ヨミは急に立ち止まり買い物バッグを落とした。
「ちょっと、卵が割れちゃうじゃない」
「おい、あれ見ろよ」
指差した先に紛れもなく一人で買い物に行こうとしているツァムがいた。
「やだ、近所だったの。声かけようかしら」
彼のところに行こうとしためいを引き留めた。
「お前はにわかだろ。そこは俺が行くべきじゃん」
荷物を押し付けられ、めいは口をとがらせた。
「ヨミの意地悪」
「おうい、ツァムさん」
ヨミはさっそくツァムに声をかけた。
サングラスをかけた坊主の男は嬉しそうだ。
(女性ファンがきたやで。これは余裕で恋に発展するやで)
「おいっす、今日はオレに告白しに来たやでか?」
初対面でいきなりの発言に引いた。
(こいつ、妙にイキリやがって・・感じ悪い)
「オレでオ●ニーしたらいかんで」
背筋が凍りついたヨミは思わず顔面パンチをくらわせた。
「イキッてんじゃねぇ!じゃがいも野郎が!」
めり込んだ顔を戻しながらヨミの方を見た。
「あれぇ?声が低い・・って」
今日は新月だった。
「お・・男!?お・・おかあさぁん!」
ツァムは腰を抜かし、サングラスを落としたままどこかに逃げていった。
「背骨のない奴め」
男になったヨミはその姿を見届けた。
それから数日後。
「そういえば最近ツァムさんの動画見てないわね」
メイはパソコンでツァムのページを開いた。
「あ、すっかり忘れてた。昨日更新したんだな。それにしても再生時間が極端に短いな」
今回はたったの三十秒だった。
ヨミはさっそく再生ボタンを押した。
ツァムは落ち込んでいた。
「あんの・・ボク、人が信じられなくなりましたので引退します。いやぁ、なんででしょうね。では、さよならさよなら」
力なく笑う彼のサングラスから光るものが流れた。
「ありゃあ・・引退か。人が信じられないってなにかあっただろな」
するとルルがタブレットを持ってやって来た。
「ふたりとも、面白いノコ主みつけたわ」
タブレットで太った男が元気よく挨拶をしていた。
「やあ、ぼらぞうです。今日は新発売のバララを食べるよ」
「マジ?こいつ面白そうじゃん」
ヨミはルルからタブレットを取り上げた。
「ちょっと返しなさいよ。まだちゃんと見てないんだから」
二人は取り合いをした。
(もう、懲りないんだから)
めいは呆れた顔でそれを見た。