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Howling Moon  作者: 椿屋 ひろみ
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ボーンフェイス

荒れ果てたアヤカシ界の砂漠で旅人姿の男がいた。

ズタ袋のような全身を覆う麻のマントを風に靡かせ遠い目をしていた。

「ここも随分臭くなったな。三日放置した魚の死骸の匂いがする」

そう言いながらさっきからそこはかとなく漂う禍々しい空気を感じた。


「そこの旅のお方」

男が振り向くと女が水瓶を抱えて立っていた。

か細い腕に燿る金の腕輪より美しい彼女は微笑みかけた。

「水をいかがですか。喉がお乾きでしょう」

「それじゃあ遠慮なく」

男はリュックから盃を取り出し彼女に渡した。

ゆっくりと水瓶を傾け水を流し込んだ。

「・・!」

清らかな水からどす黒い飛沫が見えたので、思わず男はその手を掃った。

盃から勢いよく水が零れ、それがかかったサボテンが真っ黒に枯れた。

「おいっ何するつもりだ」

焦った男は呆然と立ちすくむ女に怒鳴りつけた。

女は急に笑いはじめた。

「この砂漠はとっくの昔に死んだのに水があるものか!愚かな男よ」

彼女の顔が豹変し、目が真っ黒に染まったのを見た男はマントを脱ぎ捨てた。

女は一瞬怯んだ。

・・そう、彼の顔が立派な角を生やした牡鹿の骸骨だったのだ。


「おや?キミはベーゼだったのか。困ったな」

彼はやけに余裕ぶった口調で応えた。

それに反し、上半身の各筋肉が山のように隆起し、真っ白な煙が立っていた。

「キャリスめ。大人しくぶっ壊れたらよかったのに」

女も負けじと黒い煙をあげた。

すると背中からタールのような腕が現れた。

「へぇ、これはこれは。それにしても腕が十本ぐらい多すぎやしないか?」

ボーンフェイスは数えるふりをした。

さっきまでか弱い女の姿をしていたが急に筋肉が盛り上がり、みるみるうちにボーンフェイスと対格の男に変化した。

「実はな、俺自身は十字架族なんだ。ベーゼは生えている腕だ」

「そうか、訳わかんないですな」

ボーンフェイスは十二本腕の男をまじまじと眺めた。

彼は鼻で嗤った。

「わからないならそれでいい。ここでお前は死ぬからな・・!」


男は彼の顔面を鷲掴みし、砂漠に自生する茨に突っ込んだ。

棘で全身の皮膚が破れ、血塗れの状態で呻いた。

「ざまあみろ!」

狂気の笑いをあげながら一ダースの腕でタコ殴りした。

ボーンフェイスは起き上がれるわけもなく茨の海に沈められさらに苦痛の声を上げた。

「冥土の土産に教えてやろう。俺の名前はヨゼフ・メンゲルだ」

「メンゲルか・・覚えておくよ」

血塗れなのに声はやけに落ち着いている。

嫌な予感がしたメンゲルは身を引こうとしたが既に遅かった。


するとボーンフェイスの口から大きな目玉状の忠霊が現れた。

「奇遇なことに拙者も相棒を身体の中に飼っているんですよ」

急に現れた光に目が眩んだメンゲルはもがいた。

その隙にボーンフェイスはダイヤモンドを粘土のように砕く拳を握りしめ、アッパーカッターを送った。

「ぐはっ」

黒い血を吐きだしたメンゲルは倒れゆく間、彼の眼窩に埋もれた悍ましい目を見た。

(まずい・・こいつ)

底知れぬ命の危機を感じたメンゲルは震えながら体内のベーゼを翼に変えた。

「覚えてろ!次は確実に壊してやるからな」

鷲のような翼を羽ばたかせ飛んで行った。


それに手を振り見送ったボーンフェイスは溜息をついた。

「また相手しなきゃいけないのか。めんどくさいな」

マントのほこりを払い、また被った。

「さて、次はどこに行こうか」

ボーンフェイスの旅は続く。

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