美馬 伝三郎
ヨミは健太と近所の川で釣りをしていた。
朝から釣り糸を垂らしているがまったく釣れずヨミは大あくびをかいた。
昼下がりの炎天下の中、帽子は被っているが暑さに二人はうだついた。
「どっかの店でアイス買わないか?喉が渇いてしゃーない」
「そうだな。オレも丁度それを思ってたところだ」
健太は竿をそのままにして二人はスーパーに行こうとした。
「おいっそこの若い者!」
後ろから声がしたので振り向くと紺の甚平を着た中年がかんかんに怒っていた。
「なんだよ、このオッサン」
悪態をつくヨミにさらに怒った。
「オッサンとはなんだ。自分で広げたものはちゃんと片付けなさいっ。まったく最近の若い者は」
「少し離れるだけだからいいだろ、うるさいな」
そう言って二人は渋々釣り道具を片付けた。
「まったく、なんでオッサンって口うるさいんだ」
歩くたびに融けてくるゴリゴリくんを齧りながらヨミは不満そうだ。
「まだマシな方だぜ。オレがガキの頃なんかぶん殴ってくるじいさんもいたからな」
「マジで?」
アイスを食べ終え、再び釣りを始めると釣り糸の付近から異様に大きな泡が出た。
「まさか大物!?」
二人がかりで吊り竿を引くと激しい水しぶきがあがり、ざざ虫状のベーゼが現れた。
生理的に嫌悪を感じる姿の化け物を前に健太は口をあんぐり開け、失禁した。
「これってまさか最近テレビでやってるあれか?」
(まずいな・・健太に俺の変身見られたくないんだけどな)
二人にジュースを持って行こうとしためいは遠くで敵が見えたので駆けて来た。
「ヨミ、どうしたのよ」
じっと固まるヨミにめいは待っていた。
「おい、健太」
「な・・なんだ」
健太は振り向いた。
その勢いでヨミは彼の鳩尾を殴った。
「ぐはっ」
健太は白目をむいて倒れた。
「すまない。ちょっと気絶してくれ」
その様子にめいは怒った。
「ひどいことするわね」
「仕方ないだろ。これしかなかったんだ」
そして二人は変身のキスをした。
「こないだは消えやがったが今日こそスッキリするぞ」
「ストレス発散みたいに言わないのっ」
紅月剣からめいの呆れた声が聴こえた。
さっそくヨミは高く飛び、ベーゼの頭を斬り付けた。
「よっしゃ」
首が取れた敵は胴体をくねらせ暴れている。
「これでとどめにするぞ」
ヨミは心臓に焦点を向け剣を構えた。
「なんだとっ」
ベーゼの切り口から白い液が流れ八つに分かれた頭部ができた。
「さっきより強くなってるじゃねぇかよ!」
復活した敵は得意げに咆哮をして襲いかかった。
抵抗もむなしくヨミは吹っ飛ばされ地面に打ち付けられた。
「しまった!紅月剣が」
剣は彼女の遠くで刺さっている。
「戦いの最中に武器を捨てるとは間抜けな奴だ」
ベーゼは最悪な引き笑いをした。
「よし、まずはこの剣から壊すとするか」
脚をくじいたヨミはそこまで歩くことすらできなかった。
(まずい・・めいがやられる・・)
「こんなか弱いお嬢ちゃんを痛ぶるなんざ、いい度胸じゃねぇか」
その声で敵の動きが止まった。
「お前は誰だ」
例の中年がゆらりとやってきた。
「ワシは昭和の世から旅役者をやっておる美馬 伝三郎、ここに見参」
歌舞伎口調で紅月剣を拾い、鮮やかに見栄を切った。
そしてふとヨミの方を向きにやりと笑った。
「お嬢ちゃん、怪我はなかったか?」
「俺はお嬢ちゃんじゃねぇ!」
「人間の分際で殺してやる!」
怒り狂ったベーゼは伝三郎を襲おうとした。
「おっさん、危ない!」
ヨミは目を伏せたが、なんと伝三郎は敵の頭に軽々と飛び乗った。
「ヤマタノオロチ、このヤマトタケルが相手になるぞ」
立派な紅月剣を持ち、完全にヤマトタケルの気分になっていた。
殺陣を心得ている伝三郎は無造作に攻撃する敵を華麗に斬っていった。
その様子をヨミはぼんやりと眺めた。
(なんだかわからないけど、ベーゼとまともに戦ってやがる)
ふと敵の首元に光るものを見つけた伝三郎はそこまで向かおうとした。
「倒されてなるものか!」
それは敵の急所だった。
死に物狂いで彼に咬みつこうとするがひらりと交わした。
「こいつは宝刀の天叢雲剣ではないか!?」
紅月剣を振りかざし、見事に急所に突き刺した。
敵はのた打ち回りついに黒い煙を上げて消えた。
やっと目を覚ました健太は仁王立ちする伝三郎が視界に飛び込んできたので驚いた。
「こらっ男のくせにこんなときに伸びている奴がいるもんか!情けない」
いきなり怒られ、まったくなんのことだかわからなかった。
「このオッサン、旅役者なんだってよ。すげー強いんだぜ」
「嬢ちゃんに誉められると弱いな」
なぜかヨミにデレデレの伝三郎に首を傾げた。
そして伝三郎は彼に芝居のチケットを差し出した。
「一度芝居を観に来なさい。男たるものを魅せてやる」
「ははっ・・ありがとうございます」
完全に話に取り残された健太は苦笑いしながら受け取った。
誰も気づかないが、釣竿には魚がかかっていた。