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Howling Moon  作者: 椿屋 ひろみ
2/24

銀の盾

「いってきまぁす!」

ヨミとめいは家のドアを開け、元気よく外に出た。

辺りは夕日が沈みかけて翳りが見えている。

「二人とも気を付けるんだよ」

テルは手を振り見送った。


「あーあ、なんでボスとお留守番なのさ」

ルルは後ろに手を組み、つまらなさそうにした。

「本当はボクたちが縁日でいろいろ買うからお金を使いたくないんでしょ」

上目使いでララがテルに言った。

「えーっそうなの!?ケチっ」

図星だったテルは不平を言う二人に拳骨をおみまいした。

「さっ晩ごはん食べるぞ」


そう、今日は夏休み最後の花火大会だ。

朝顔柄の浴衣を着ためいは会場でもらったうちわを扇いだ。

「やっぱり、いっぱい人が集まってるから暑いね」

ふと隣を見るとヨミが消えていた。

「あれ?ヨミ」

めいはきょろきょろ辺りを見回した。

「おい、こっち来いよ。穴場見つけたぜ」

ヨミが手招きするところまで人ごみを掻き分けた。

(まさか、こんなとこ絶対多いに決まってるのに)

そこは酒を呑んで裸踊りする酔っぱらいに引いていた空間だった。

顔を真っ赤にしためいはヨミの手を引いた。

「とりあえずここはやめよう」

「嘘だろ、せっかくオッサンの裸踊りとコラボで観れるのに」

(もう、男の子って・・バカなんだから!)


二人はゆっくり花火を観れるところをしばらく探した。

屋台で買ったリンゴ飴を舐めながらヨミは呟いた。

「どこも人だらけだな。こんなにたくさん人間を見るのは生まれて初めてだ」

「そう?通勤電車なんてこれよりもっとすごいんだから」

「なんだよ、つーきん電車って」

「高校生になれたらわかるわ」

「こうこう?なんだそれ」

ヨミは頭からハテナを飛ばした。

その様子をめいは眺めた。

(そうか、あの子の将来のことなんて考えたことなかった。これからどうなるのだろう)


すると空が五臓六腑に沁みる重い音を立てた。

「始まったわ」

薄黒い空を見上げると五色に染められた菊のような光が舞い散った。

それを見た周りから歓声があがった。

「すげぇ・・これが花火か」

ヨミは目を輝かせた。

それからいろいろな色形の花火が途切れることなく夜空を描いた。


「あれなに?」

子供の声が聴こえた。

すると空から真っ白な巨大な鳥が数百の群を連なり襲いかかってきた。

逃げ惑う人々、壊される屋台。

ガスボンベが爆発し大火事になった会場は騒然となった。


「畜生!こんな時にベーゼか!」

逃げる群衆からはぐれないように二人は手を握った。

「マジでツイてないぜ」

「ほんとにね」

ヨミはめいに変身のキスをした。

バトルスーツを身を纏い、紅月剣の先を敵に向けた。

「早いとこたた斬ってやる!」


一方、めいはさっそくマンションの屋上を渡りながらベーゼと戦った。

ひとつ斬ってもまた現れる敵に悪戦苦闘した。

(こんなの一人じゃ無理!)


何十匹かやっつけてもなお襲い来るので、とりあえず逃げることにした。

敵を倒すだけで体力の殆どを奪われたのに建物の屋根を飛び続けた。

「あっ・・」

踏みそこなっためいは地上八階のマンションから落ちた。


キラキラと輝く逆さまの空を背に強い風を受けた。

(あんな大勢の敵、一人でやっつけるなんて無謀だったわ。こんなときにルルちゃんとララくんがいたら)

悲鳴も湧き上がらないほど疲労困憊していたので、抵抗することなくそのまま逆さまに堕ちていった。

(私、死んじゃうのかな・・)


目を瞑ると体がふわりと浮いた。

「え?助かったの」

キュルキュルと音がするので下を見ると銀色の円盤が猛スピードで回転していた。

「まさかUFO!?」

目を丸くし起き上がると円盤が急発進をしたので、バランスが崩れめいは尻餅をついた。

「動くな・・遅かったか」

さっきまでいなかったはずの、鋼鉄の鎧を全身に纏うずっしりとした出で立ちの大女がめいの目の前でぼそぼそと言った。

褐色の肌は瑞々しく、長い銀髪が風に靡いている。

めいは彼女の美しさにぼんやり眺めた。

「あなたは誰?」

猫のような目がこっちを向いた。

「銀武」

寡黙な女はまた前を向き、集団で襲い来るベーゼを睨み付けた。


敵は彼女たち目がけて落下速度よりも速く飛んできた。

「きゃあ!」

めいは目を伏せた。

銀武は巨大な盾<銀影盾>を召喚し敵に投げつけた。

旋回する銀影盾は数百の敵をひとつ残らず包み込んだ。

「・・すごい」

ぎゃあぎゃあ鳴くベーゼを閉じ込めた盾の前で銀武はゆらりと立ち、両手の拳を合わせた。


「闇に蠢く悪の影、聖なる鋼鉄の胎内で砕け散れ」


盾の隙間から花火のような眩い光が放たれた。

敵は断末魔の叫びをあげ盾ごと消えた。


めいは銀武の見事な技に圧倒されていた。

(敵に何一つ触れずに倒しちゃった・・強いわ、この人)

「ありがとうございます!」

気後れしためいは我に返りお礼を言ったがすでに彼女の姿は消えていた。


「あの人は仲間・・かな?」

めいは元の世界に戻ることにした。


元の姿に戻った二人は騒然とする会場を抜け出し家路を歩いた。

「まったく、今回は変な敵だったぜ。俺がとどめを刺そうと思ったら敵がぱあっと消えやがった」

ヨミはくやしそうにした。

「これね、銀色の鎧を着た女の人が倒したの・・すごく強い人だった」

「マジ!?と、いうことはこの街に十字架族がいるっていうのか。そいつを仲間にしたら心強いな」

めいは彼女の姿を思い返していた。

「・・そうね」

(あの人、冷たい表情をしてた。本当に仲間になれるかな?)


「そういえば、夏休みの宿題おわった?」

めいの一言にヨミの顔が引きつった。

「お・・おわったぜ。7月までにぜんぶ片付けてやった」

空笑いするヨミをじと目で見た。

「押し入れに片付けても終わったと言わないんですけど」

「すまんっめい様、手伝ってくれ」

ヨミは深々と頭を下げた。

「もう、仕方ないんだから」

二人は家に帰って夏休みの宿題を片付けましたとさ。

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