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メイド服


 恥じらうパトリシアを心ゆくまで楽しんだ後も、オレにはもう一つ楽しみが残っている。背後からとぼとぼついてくるパトリシアはまた後でいじめるとして、今オレが意識を注ぐべきなのは、リーリだ。


「おはようございます、エドガーさま」


「うん。おはようリュカ」


 食堂にはいたのは、きちんと姿勢を正して座るリュカだけだった。だが、彼女もとても気分が良さそうで、凄く血色が良い。そこに、


「おっはようさーん!」


「おはよう!」


 喜色満面のアヤさんと団長が、扉をばーんと開いて入ってきた。もう心の底から楽しそうで、それを見ただけでオレの期待値が振り切る。リーリはどれだけ可愛い格好をさせられているのか。日頃悪態ばかりつかれている礼に、せいぜいからかってやろう。そしてとうとう二人に続いて、リーリが入ってきた。


「おうリーリ! さてさてどん、な……」


 ニヤついた顔のまま、停止してしまった。オレの言葉は最後まで形作られることなく、空中で霧散する。


「そ、そんなに……見ないでくれ……」


 リーリはまず、髪型が違っていた。いつもサイドテールにしている黒髪は、三つ編みのツインテールにされていて、こめかみから耳にかけても編み込みがされてある。そしてその上に白のカチューシャをしていた。きりっとした目元や眉は可愛らしくメイクされているようで、頬や唇にも紅が入っている。雰囲気が断然柔らかい。

 それだけでも十分破壊力抜群なのだが、着ている服がさらに凄い。

 肩や胸を出した挑戦的な服をふりふりの白いエプロンがおおい、首筋の赤いリボンが可愛らしさを強調する。膝上十センチ以上のミニスカートは、ひらひらとしたフリル付きだ。黒いニーソックスはリーリの脚の美しさをこれでもかと際立たせ、生まれる絶対領域が眩しい。純然たるメイドの服の黒と白を可愛さを主張するためだけの演出材料とし、散りばめられたフリルでそれを高次元にまで昇華させている。


「凄い! リーリとっても可愛いいです! よく似合ってるし、やっぱりこうでないと!」


「お綺麗ですよリーリさん!」


 リュカもパトリシアも、感動したように瞳をきらきらさせながら黄色い声を上げている。二人してきゃあきゃあ言いながらリーリの周りをぐるぐる回る。あ、ダメだパトリシア。そんなにはしゃぐとスカートが、スカートがひらひらして……!


「パティちゃん、リューシちゃんがスカートガン見しとるで」


「っ!」


 アヤさんが呆れたようにパトリシアに声をかける。パトリシアは真っ赤になってスカートを抑え、オレを睨んできた。可愛い。

 しかし、リーリの変わりようだ。これではパトリシアに負けず劣らずの可愛さだ。普段ぴしりとした格好をしているだけあって、そのギャップが凄まじい。あやうく落とされそうになった。


「ふ、ふん! どうせ貴様は私をからかうつもりなのだろう!? ほら、どうた! 好きにあれやこれや言えばいい!」


「あ、お前ちょっ、寄るな!」


 リーリが開き直ったような表情で顔を近づけてくる。そのせいで胸元が強調されて、どこに目を向けていいかわからなくなってしまう。しかし、オレのこの不用意な言い方で、リーリは酷く傷ついたような顔をした。


「あ……。いや、自分でもわかってる。似合ってないよな。すまない」


「そ、そうじゃなくて! お前胸! 胸をだな!」


 縮こまってしまったリーリは、片手を胸にあてる。それだけなら良いのだが、それを胸に押し付けるようにするものだから、服が余計胸に食い込む。


「お前! わざとやってんのか!」


「な、何がだ! 私は一生懸命だな……!」


 一生懸命オレを誘惑してきてんのか。もうそう考えちゃうぞ。それで良いのかお前は。すると、


「ちょっとリーリ……」


 団長がリーリの肩を叩き、耳元でなにかごにょごにょ話す。それがまだ途中の段階で、リーリはぼん! と、火のついたように顔を赤くする。


「き、貴様……! この変態が!」


「今のお前に言われたくねぇよ!」


「な、な、な……! なら貴様はずっと私をそんな目で見ているのか!」


「……べ、別に?」


 顔を背けてしまった。これでは自分から白状しているようなものだ。当然リーリはさらに顔を赤くして喚く。それを団長がやれやれといった風に羽交い締めにしていた。いや、だからさ、そんなことされるとまた胸に目がいってしまうだろ。団長のことだからわざとやってる可能性がある。しかし、そんな収集のつかなくなった食堂に喝を入れるような声がこだまする。


「もう! 良いからお食事にしますよ!」


 声を上げたのはリュカだ。不機嫌そうな態度でつかつかと自分の席まで歩いていって、どかりと座った。


「さあ早く!」


「ど、どうしたんだ?」


「あぁあ。リューシちゃんがリュカちゃん怒らせた」


「ええ!? オレ?」


 アヤさんがオレに責任をなすりつけてくる。首をかしげる。何かしたかな。ついさっきまではあんなにはしゃいでいたのに、急にぷりぷりしてしまった。


「おや、今朝はリーリは随分と変わった格好をしているな。何かあったのか?」


 そして魔王も食堂にやってきた。すぐにリーリの異常に気がついて声をかける。


「いや、魔王様、これは……」


「何も言わんで良い。どうせアヤの悪戯だろう」


 流石魔王。よくわかっている。しかしその後、困ったように佇むリーリに目をやって、


「だがよく似合っている。リーリも良い女になったな。これは男どもが放っておかんだろう」


「め、滅相もない」


 何やら凄く恥ずかしいことを言ってる。


「出た。初代天然タラシ。リューシちゃんの先輩やね」


「なんでオレ!?」


「自覚がないのは困ったものだ」


 アヤさんと団長は、そんなことを二人で言い合って席についた。

 オレ達が食事に興じている間、ずっと居心地悪そうに頬を染めて給仕をしているリーリとパトリシアは、それだけでなんかオレを熱くさせてくれた。

 リュカはその間ずっとじっとりとした目でオレを観察していた。











 また本を借りようと思って書斎に入ると、パトリシアが脚立に乗ってシャンデリアを掃除していた。時々ふらつく彼女は、見ているこっちがハラハラさせられる。掃除に集中しているようで、まだオレに気づいていない。


「手伝おうか?」


 出来るだけ驚かせないよう小さな声で話しかけたつもりだったが、パトリシアはびくりと肩を揺らすと、バランスを崩して脚立から落ちそうになる。


「うおっ!」


「うわっ!」


 なんとか耐えようとしていたが、立て直すことは出来ず、そのまま空中に身を投げ出す。それを、何とか下でキャッチした。


「っと、危ねぇ。大丈夫か?」


「は、はい。ありがとうございます」


 パトリシアを横抱きにしたまま一息つく。本当に危なかった。


「ごめん。急に声かけたりして」


「あ、いえ。私がいけないんです。ちょっとぼーっとしてして……それで、あの……」


 腕の中のパトリシアは、かぁっと赤くなって小さくなる。


「その、恥ずかしいです……。今は、し、下が不安ですし」


「ああ、そうか。そうだったな」


 オレの腕の中で小さくなるパトリシア。この子本当に男の子なのかな。身体は華奢だし、体重も軽い。どこか柔らかさもあって、ぱっと見の見た目だけでなくもっと深いところまで女の子だ。これはこれで生命の神秘だよなぁ。神様というやからは一体何を考えているのかな。まあオレも楽しいから良いけど。


「あ、あの……? エドガー様?」


 いつまでたっても自分を解放してくれないオレに、パトリシアも怪訝な表情だ。羞恥で頬が赤い。


「なぁパティ」


「は、はい。何でしょうか?」


「スカートめくって良い?」


 パトリシアの男の子の部分を確認したのは一度だけだ。あれは実は真夏の夜の夢だったのではないだろうかと言う疑問が湧いてきたのだ。季節は夏ではないが、人間は時として早とちりをしてしまう。パトリシアも実は女の子な気がする。


「な、な、な、何を! 何をおっしゃられるのですか! ダメにきまってます!」


「いやでもさぁ、本当に男の子なの? 日を追うごとにパティが女の子にしか見えなくなってくるんだよ」


「私は男の子です! も、もう! 早く下ろして下さい!」


 パトリシアはいやいやをするように脚をバタつかせ、手でオレの胸を押す。でも全然力を感じない。抵抗しているつもりだろうが、それが逆にオレの劣情を煽る。その時、


「おいパトリシア、随分時間がかかっているようだが……って、貴様! 何をしている!」


 ふりふりのメイド服姿のリーリがやってきた。扉から顔だけ出したリーリだったが、状況を見てすぐに駆け込んでくる。


「いや、パトリシアのスカートめくろうと思って」


「本当に何をしているんだ貴様は!?」


「リーリさん! 助けて!」


 何か本気で嫌われそうなので、これ以上は我慢することにする。ゆっくりとパトリシアを床に立たせると、彼女は逃げ出すようにリーリに抱きつき、その背に隠れた。震えながらオレを窺っている。


「メイドへの狼藉は許さないぞ!」


「いや、単純な興味だよ。だってパトリシアってどこからどう見ても女の子じゃん。はっきりさせるためにはスカートめくるしかないだろ」


「……確かに」


「リーリさん!?」


 一瞬オレにそそのかされそうになったリーリに、パトリシアが悲鳴を上げる。だがその声でリーリも正気に戻った。くそ、おしい。


「そ、そんな甘言には騙されないぞ! パトリシア、ここは私がやる。お前は少しでも早くこの変態から離れろ!」


「は、はい!」


 そう言うと、パトリシアは書斎から逃げ出していった。残ったのはオレとリーリだけだ。だが、彼女はオレから目を離すことなく扉をかばうように立ち塞がっている。それは小動物を守る飼育員さんの目だ。


「分かった分かった。今日はもうスカートめくらないよ」


「今日からずっとだ!」


 オレはもう諦めたと言うのに、リーリは掃除に取り掛かろうとしない。まだ疑っているようだ。仕方ないので、代わりにオレが脚立に上ってシャンデリアを掃除する。


「ほら、本当にもう追っかけたりしない。シャンデリア掃除するんだろ?」


「……そうだ。どけ。貴様のやり方だと埃が取りきれない。私がやる」


「ほい」


 リーリと掃除を交代する。すると、予想外の物凄い光景が眼前に展開された。

 オレの目線と同じ高さに、リーリの短いスカートの裾があるのだ。彼女が手を伸ばしてシャンデリアを拭くたびに、お尻がひらひらしてスカートが揺れる。右に左に、時に上下に揺れるそれは、抗うことを許さない絶対の引力となってオレの目を引きつける。リーリの白い太ももの裏側が綺麗だ。だが、


「ふむ。思ったより汚れているな。これは他の部屋のシャンデリアも点検し……て……」


 一息ついたリーリが、真下に置いてあるバケツに視線を落とした。そこで、自分の状況に気がついてしまった。彼女の秘所がどれだけ危うく、また煽情的になっているかを理解した。


「き、きっさま!! そこで何を見ている! いや、見ていた!?」


「べ、別に! オレはシャンデリアを見てただけだ!」


「つまり視線を上げていたのだな! この変態が! 縛り上げてくれる!」


「落ち着け!」


 脚立から飛び降りて襲いかかってくるリーリから、全力疾走で逃げることになった。


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