初VS淀子
学校の昼休み。
それは私が唯一、あのバカどもと別れて休める時間だ。
昼飯を食い終わると、老眼鏡を掛けてラノベを読み始める。
私は重度のスマホ老眼なので、老眼鏡を掛けないと近くの文字が読めない。
そのせいか、クラスメイトからよく言われることがある。
『貧乳の眼鏡っ娘とか需要ないよ』と。
まあ言いたいことは分かる。大体二次元キャラの眼鏡っ娘は巨乳が多いのだ。
だがな。そいつらも私も好きでかけてねえから。
あのバカで眼鏡フェチなクソ作者が老眼設定付けただけだからな。
と言いたくなることもあるが、メタ発言は世界を壊しかねないので、発言は今のところ控えている。
なので、家にいるよりはマシだが、老眼鏡のことを弄られてちっとも休めない。
現に今も。高一にして既にボインな眼鏡っ娘のクラスメイトが私を見て笑っている。
因みに一人でラノベを読んでいるだけの昼休みを過ごしている、というこの様子から見れば分かる通り、私には友人がいない。
多分、クラスメイトから見た私の印象はこうだろう。
浅井初――十五歳・帰宅部・処女(の中の処女)・友達無し・堅苦しそう・非モテ・バカな姉と妹を持つ・クラス内での注目度0
本当は真面目だと言われたいのだが、堅苦しいと評価されてしまう。
まあでも私は自分のことを真面目だと思ったことはないので、そもそも何も言われない方が一番良いのだが。
注目度0は、まあ仕方ないことだろう。
私は圧倒的に、キャラが薄すぎる。多分小説や漫画だと、女子生徒Aで終わってしまう程に。
だが逆に。
「ぐわあああああああああああ!」
甲高い叫び声。廊下からだ。
恐る恐る出てみると、右拳を突き出す淀子姉さんと、顔面を押さえて悶絶する同級生がいた。
そして淀子姉さんの後ろには数名の女子生徒が「うおおおおおおお!」という叫び声を上げて、舞い上がっている。
なんだこれ。
「あーアレ? 淀子っちとタイマン張りたいって希望する子がいて、どっちが勝つかなって見てたら、淀子っちが一瞬で倒しちゃってさー」
「いや止めろよ! 死人でたらどうすんだ!?」
「死人?」
そう。こいつらは知らない。
この淀子姉さん。実は一度元ボクサーのヤクザを殴り飛ばした上に、警察署まで引きずっていったことがあるのだ。
だからそれ以来江代はどうか知らないが、私は淀子姉さんを他の人間と喧嘩させることを何より恐れている。
この話を高校の皆に話したことは一度たりともない。
姉さんだけが皆から恐れられるだけならともかく、私まで変な目で見られれば迷惑だ。
勿論観客の中に、江代もいる。
「さーて。お次は誰?」
淀子姉さんは顔を動かして、次の相手となり得る相手を探し始め、私を見てピタッと止まった。
「え、遠慮しときまーす」
私はクラスに戻ろうとするが。
「いいね! 淀子と初どっちが強いのか見てみたい!」
いや! 確認せずとも、あいつが本気で戦ったら私死体決定だから!
いやああああああ! 死にたくなぁぁぁぁぁぁぁい!
「レディ――ファイト!」
うわああああああああ。始まってしまったあああああああああ!
取りあえず昼休みが終わる前に逃げ切ればいいんだ!
そう思い立ってから、淀子姉さんのいる方向とは真逆の所に逃げ始める。
そしてポケットからは、バカ姉妹に対抗する為のエアガンを取り出す。
BB弾が入っていることを確認し、右手に持つ。
先輩どものお世話にはなりたくないので、二階には上がらず、一階の踊り場で待ち伏せた。
一瞬にして階段に接近してきた姉目掛けて、両手で二回発砲する。
二発のBB弾が一直線に進み、階段を駆け上がる姉のおでこに命中した。
が、まるで痛そうにしていない。
それどころか、興奮しているようにも見える。
観客も続々と階段の近くに集まった。
「行けー! 淀子! 地味過ぎる妹ぶっ飛ばせぇぇぇぇぇ!」
あーもう! 姉さんよりガヤの方が殺しやすいから殺したいんだけどッ!
こうなったら、封印していたアレを使うしかないッ!
私は左手をポケットに突っ込んで、ある物を取り出した。
それは――。
「さすがに姉さんでも、この鉄球を喰らえばまともに立てまい!
喰らえええええええええええええええええええ!」
私は野球選手の如く、鉄球を振りかぶって、淀子姉さんの顔面に投げた。
勿論外すことなく、顔面に命中し、集中を切らせて階段から落ちると思っていた。
「ハハハ! 淀子姉さん! どうやら今日は私の勝ちみたいだなァ!」
だが姉さんは落ちず。
鉄球が割れると同時に、私は笑えなくなった。
姉さんの顔は傷一つなく、認めたくないが普段はかなり美人な姉の顔は、仁王のような凶相に変貌していた。
「どうした? 笑えよ初」
笑えるか! 鉄球を顔面で割る女子高生とか、ベ〇ータでも多分笑えなくなるわ!
姉さんは思い切り、私より頭上に飛翔し、高速のドロップキックを放った。
足の裏は私の頬にめり込み、踊り場の壁に激突する。
壁には大きなヒビが入り、私はそのまま動けずに気を失った。
――やべえ、死ぬかも。
はい。松野心夜です。
主人公にバカで眼鏡フェチなクソ作者と罵られた心夜です。
別に気にしてないもん・・・・・・(グスン。
次回を、うぐっお楽しみに・・・・・・。