どうも初めまして、私達三人のバカです。
現在時刻は午後六時。
本来ならば私は帰宅部なので、午後三時のホームルームが終われば帰れる筈だったが、教育相談によって二時間のタイムロスを課され、終わった一時間後にこうして家の門の前に立っていた。
学校から家までは電車を利用しなければ帰れないので、取りあえず五時三十五分発の電車に乗らざるを得なくなり、五〇分頃から駆け足で家まで来ており、クタクタだ。
私の名前は浅井初。とある高校に通う一年生だ。
彼氏はいない。何せ通っている高校が女子校なので、校内で男に会うことは無い。
私はドアを開けて、帰りの挨拶をした。
「ただいま」
母親である浅井市も、玄関に立って私の帰還を出迎える。
「おかえり。晩ご飯まだだから、部屋でゆっくりしててね」
どうやら父親はまだ会社から帰ってきていないらしい。ローファを脱いで鞄片手に、初は部屋がある二階へと向かう。普通ならばこういう時、部屋で好きではない勉強を気分転換しながらやるか、好きなことだけをしながら部屋で夕食の時を待つだろう。
だが私には、そう出来ない理由がある。
いつものようにノックをして、鞄片手にドアを開けると、広めの部屋に二人の制服姿の女子高生がいた。
だが彼女らの行動は、とても普通の高校生とは思えない奇抜さだ。
まず極普通なスタイルをしている、赤いブレザー姿の美少女(世間一般から見てどうかは分からないが、少なくとも初を含めた三人の中で一番の美少女)が、大きな足音を立てながらドタバタと全速力で部屋中を走り回っている。彼女は私の姉たる浅井淀子。
そして抜群のスタイルを持つ、緑のベストを着用してネクタイを着け、スラックスを穿いた美少年と見まごう中性的な少女が、今日もどこの漫画かゲームをパクったか分からない台詞を延々と喋り続けている。彼女は妹の浅井江代。
ここの家の長女である淀子、三女の江代、そして私次女、初は、容姿や性格こそ全くバラバラだが、同じ日に生まれた三つ子だ。
共通していることと言えば皆中学時代に内申点が足りず、唯一共学の名門公立校での受験を無理だと言われ、偏差値が一番低い女子高に行かされたことと、全員帰宅部、処女、彼氏募集中ということだけである。
そして、多分一番の問題児たる長女・淀子は今日も――
「おかえりィィィィィ、初ゥゥゥゥゥゥ! 遅かったわねェェェェェェ!」
私に激突した。
◇◇◇
数分後。
先程の激突から回復した私は、バカ二人を取りあえず一発ずつ殴り、正座させた。
私はオカンの如く腕を組んで二人を睨んで言う。
「おいてめーら。いい加減にしろ。第一話からこれはまずいだろ」
二人は嫌々「すみませんでした・・・・・・」と返す。
こんなやり取りは一週間に一度ぐらい起こる。
あー、めんどくせー。
今日は教育相談で色々とめんどくさい質問を受けたからこんな茶番早く終わらせたいのだが。
「んで、この小説で何するか決めたの?」
その質問に対し、淀子姉さんが右手を挙げる。
「はい。こんなクソ小説だらだら続けていてもつまらないんで、作者もろとも死んだほうがいいと思います」
その答えに対し何も言うことなく、私はこのバカに拳を振り下ろす。
頭を押さえながらさっきのように、「すみません」と言う。
次いで江代が挙手する。
「はい。とりあえずこれは男子の中高生向けなんで、バトルものとかどうだい、シスター?」
「何と戦うんだ説明してみろ中二病」
自分では格好いいつもりで作ったポーズで、江代が静かに反論した。
「巨人と戦うとか」
「お前今すぐその作品の作者に全裸で土下座してこい!」
先程まで頭を押さえていた淀子が、フラフラと頭を上げた。
「ねえ初。あんた女の子の癖に随分派手なこと言うね」
「家でドタバタと走っている女子高生に言われたくねーよ!」
畳み掛けるように淀子の発言は続く。
「てか毎日思うけどアンタのツッコミうるさいんだけど。というか親もこの状況を良しとしてるんだから――ワガママいうならどこの家の子にでもなっちゃいなさい」
「うっ」
それを言われてしまうと、私は何も反論出来なくなる。
私が脱力している隙に、江代が玩具の木刀を取り出して抜刀した。
「じゃあ取りあえず、私を苛めた初を相手にアクションものでもやろうよ淀姉」
淀子姉さんは言われた瞬間、クローゼットから木の槍を用意した。
二人は揃って私を睨む。間違いない。多分本気で私と戦う気だ。
えーいこうなったら、私もこの物語が崩壊する覚悟で戦うきゃ無い!
彼女達へのお仕置き用にポケットに入れてある、エアガンの二丁拳銃――その片方だけを取り出して右手で構える。
そして薄々パクリだと思いながらも、高らかに言う。
「ハッハッハ、私と戦うつもりか。これ以上この物語を崩壊させてたまるかッ!」
言い終えてから数秒後に動いたのは――淀子姉さんだ。
柄を長く持ちながら、切っ先に相当する部分を私に向けて勢いよく駆け出す。淀子姉さんは運動神経がよく握力も女子高生とは思えない程高い為、三人で喧嘩した時にはほぼ百パーセント、彼女に軍配が上がる。
下手に避けようとすれば、限界まで加速した木の刃によって私の胸は突かれるだろう。
私は勢いよく右手で早撃ち(クイック・ドロウ)した。
しかし照準を誤り、淀子姉さんの胸ではなく、木の槍の切っ先に着弾して威力を殺される。
お互い胸や頭を狙っているが、基本私達浅井三姉妹の喧嘩は、殺し合いの一歩手前まで行くのが常だ。故に全員、学校でスケバンはおろか、男子の不良が襲ってきても勝てる自信はある。
そのまま槍の切っ先は私の体を貫きはしなかったが、私を壁へと吹き飛ばした。この痛みも、殺し合いの一歩手前の喧嘩を何度もしている私には慣れていた。
次に飛んできたのは、江代の木刀による唐竹。私は彼女の前額部に向かって銃弾を撃ち込む。
今度は綺麗に命中し、木刀を落としながら崩れ落ち、私はニヤリと笑う。
よし、この調子でクソ姉貴を――
「ガハッ」
それは紛れもなく私の口から出た声だ。淀子姉さんは既に私の背後へと移動し、思い切り背中へと切っ先を突き刺したのだ。私はそのまま前方へと倒れる。
江代が私より先に立ち上がって、今度は私ではなく、淀子姉さんに向かって抜刀術を使用した。木の刀身の腹は淀子姉さんの腹にクリーンヒットし、彼女を壁へと激突させた。
江代は姉さんを見下ろしながら、低い声で言う。
「淀子姉さん。一人を狙ってもつまらないし、バトルロイヤルでもしない?」
「やってくれたわね妹よ。望む所じゃい!」
だめだァァァァァァァ!
背中を押さえて顔を上げることしか出来ない私には心で叫ぶことしか出来ず、バカ二人の乱闘を回復するまで見ていた。
江代は右手に持った柄を後ろの方に移動させ、足を開き、左手を切っ先より少し斜め下の峰部分に添える。どこかで見たことのある構えだ。
淀子姉さんの方は何か必殺技を繰り出そうとしたようだが、諦めて普通に江代の見たことのある突き技に対応しようとしている。やはり槍を使うキャラが漫画とかにいなさすぎて諦めたのだろうか。
十秒後。両者は動き出した。
江代はそのまま滑るようにして、淀子姉さんとの距離を縮め始める。
淀子姉さんは長い柄を両手で構えて、滑走した。
そのまま一瞬にして、木刀の切っ先は木槍の先端部分に吸い込まれ、競り合いが始まる。
実際は見えない筈だが、火花が散っているように見えた。
勝負を制したのは――淀子姉さんだ。
弾かれた木刀が押し入れに吹き飛ばされて落下し、江代がそれを見ている隙を狙って、淀子姉さんは木槍の先端を腹に叩きつけようとした。
しかし。
淀子の木槍の先端が江代の腹にあと数センチでめり込みそうなところで、ドアが開いた。
「あんたたち、御飯よ。下りなさい」
母は目の前の状況を見て、何もツッコまずにそれだけ言って、ドアを閉めた。
その後に江代に突き刺そうとした槍を床に置いてから、何事も無かったように姉さんが言った。
「ご飯、食べようか」
いつも喧嘩は、こんな感じで終わるのだ。
フリースキル・ファンタジーを読んで下さっている皆様は久しぶり、それ以外の方は初めまして、虚心夜です。今回は三つ子を主人公にしたギャグ小説を書いてみました。
短編投稿していたこの小説を一旦削除して、長編という形で出すことにしました。
次の回も既に出ているので、後で是非ご覧下さい。