散歩
冬。
クリスマスも終わり、あともう少しで冬休みになりそうな時期のこと。
私は特に何も考えず一人で散歩していた。
特に目的地などない。軽い運動だ。
それに散歩は、色々な景色が見えて中々楽しいものである。
例えば、こんな景色も。
「ん?」
制服屋のショーウィンドウに張り付いているのは、見覚えのある制服を着た女子中学生だ。
彼女達は私が通う女子高の赤いブレザーを着たマネキンを見ながら、はしゃいでいた。
本当ならばそんな偏差値低い高校入んない方がいいよー、とか言って止めた方がいいのだが、そんなこと言って彼女達の夢をぶちこわすのも可哀想な気がするので、適当にスルーする。
さーて、次はどこに行こうかな?
と――。
・・・・・・・。
「うわあああああああああああああああ!」
私の視線の先に見えたのは、赤いブレザーを身に纏う母親そっくりの美少女が、今日も元気に喝上げしている所だ。
無視して行こう。
次は本屋に立ち寄った。
私は女子向けの官能小説を一人で読むのが好きなのだが、それが姉さんや妹にバレたらどういう目で見られるか分からんので、基本的に三つの工夫をしている。
一つ。一人で本屋に行くこと。
二つ。好きな漫画やラノベの下に隠しておくこと。
そして三つ目が――
「ようマイシスター。ここで何をして――
バン、とすかさずスカートのポケットから取り出したエアガンで江代のこめかみに発砲した。
三つ目の注意点。
もし官能小説を探している時に家族や友人にバレそうになったら、すかさず気絶させておく。
私は江代が目覚める前に買い物を終えると、駆け足で別の場所に駆け出した。
次に向かったのは総合スーパー。福引き券があるので、それを使いに来たのだ。
「次の人、どうぞー」
私はガラガラのハンドルを右手で握って、一回転させる。
玉の音がガランガランと鳴ってから、外れの白い玉が穴から転がり落ちた。
「参加賞のたわしでーす!」
店員のお姉さんがベルを鳴らしながら、笑顔でたわしを手渡す。
やっぱ運悪いな、私。
「次の人、どうぞー」
次はどうなるか気になるな、ちょっと見ていこうか・・・・・・って、琴柄!?
白い髪に女子にしては高い背丈、そして姉さんに勝るとも劣らない美貌を持つ、希望大好き著作権ギリギリ少女琴柄凪はガラガラのハンドルを片手で握りながら、ハンドルをゆっくり一回転させると、一等賞の黄色い玉がコロンと穴から落ちた。
「大当たり!! 貴女には冬休みハワイ五泊六日の旅が与えまーす!!」
店員さんもはしゃぎながらベルを鳴らし、琴柄にハワイ旅行券を手渡す。
琴柄もいつものように笑顔で呟く。
「やっぱりボクはついてるね。
お、初さん」
「よ、よぉ琴柄。すごいじゃん、ハワイ旅行なんて」
「運だけが取り柄だし、これくらいはね」
まあ元ネタがあの人だし仕方ない。
「そういや、家族ってどんな感じなの?」
「うーん、お父さんとお母さんだけかな。兄弟とか姉妹とかいないから、キミがうらやましいよー」
いや、あんな姉妹持つくらいならむしろ一人っ子の方がよかったけどな。
「じゃあね、初さん」
「おう。じゃあな琴柄」
琴柄がスーパーを後にしたのを見届けてから、私も歩き出す。
最後に向かったのはいつもの公園。
いつものベンチに座り、噴水の音を聞きながら心を落ち着かせた。
思えばこの公園、小学一年生の頃から来ていたなぁ。
あの二人のことで疲れた時やいじめに遭った時、この噴水広場で水が流れる音を聞けば、全て綺麗に忘れていたものだ。
多分自分がババアになっても、私はここに足を運ぶだろうと確信している。
そういや小四の頃、ここの公園を大型スーパーに変えることに関しての住民投票が行われたんだけど、両親に泣きながら反対に投票してと頼んだことがあった。
――ここは、思い出の場所だから、ってね。
「・・・・・・・」
私は笑顔を作ってから、本を入れたビニール袋を持って立ち上がった。
そのまま公園の外へと歩を進め――
「ぐほあっ!」
私は何者かのスライディングによって転んだ。
って倒れてる場合じゃねえ、官能小説を回収しない、と――。
!?
ね、姉さんんんんんんんんんんんんんんんん!
顔を上げると、悪魔のような顔で官能小説を持つ姉さんの姿が見えた。
「ねー初―。こんなこと親やクラスメートにバレたらお終いだよねー」
コイツ、クズだなホント。
「上等だてめー。さて勝負だゴラゥァッハ!!」
姉さんの右拳が一秒も満たず顔面に放たれ、私は竹とんぼのように回転しながらコンクリートに直撃し、そのまま気絶した。
――なんで、こうなるの?
松野心夜でーす。冬ですね。
僕は温かい部屋でぬくぬくと小説を書いております。
今回はシリアス中心で、ギャグをちょびちょび入れるという仕様にしました。
次回はもうネタが決まっております。今度はなんと、あの男が再び現れます。
誰かは第八話を見れば分かるよ!