リバウンド
俺は医大生志望の松岡浩児。
最近受験もひと段落し、漸く落ち着いてきたところである。
だが悩みが一つ。
もう自分が珈琲屋のキャラなのか浅井三姉妹のキャラなのか分からなくなってきたということだ。
多分コラボキャラの中では、一番出演しているつもりだし、初の代わりに主人公も何度かやり、今では変態が淀子と俺とか、寿奈と俺というカップリングを考えている始末である。
こう言っちゃなんだが、俺は二人に対して恋愛感情など持ち合わせちゃいない。
さて、そんな俺だが。
今はよく分からない場所にいた。
珈琲屋でも寮でも、受験校でも予備校でもない。
ただただ真っ白で、永遠にその空間が続いているように感じる世界にいた。
そして自分の背には、何かの絵が書かれた大きい扉。
しかも、地面に着いているのではなく、浮いているのだ。
「つか、ここどこ?」
『よう』
後ろから掛けられた声。
振り向くと、そこには何かがいた。
男なのか女なのか、子供なのか老人なのかも分からない。
自分と同じくらいの身長の、白い何かがいた。
もし黒い靄が掛っていなければ、空間に溶け込んでいそうな人影。
あまりにも不可思議なそれに、俺は問いかけた。
「誰?」
すると人影は、陽気にこう答えた。
『おー! よくぞ聞いてくれました!
俺はお前達が世界と呼ぶ存在。
或いは宇宙、或いは神、或いは真理、或いは全、或いは一・・・・・・』
自分を真理と名乗る人影。
最後に、それはこう告げる。
『――そして俺は、お前だ』
言い終えると同時、背の扉が開く。
中からは、闇の手が伸び、俺を捕らえ。
「え、ちょまっ・・・・・・なんだこれェェェェェ!?」
そのまま扉に引きずり込まれた。
『ようこそ、身の程知らずのバカ野郎。
真理を見せてやるよ』
物凄い量の情報を、頭にぶち込まれた。
自分の生きて来た十九年間の記憶に、それ以外の知識も。
頭が割れそうだった、だが唐突に理解した。
これが真理だと。
頭が割れそうになり、体が全て崩壊する寸前に、俺はそれを見た。
俺に手を伸ばす、くる〇んの姿を・・・・・・。
「く〇みん・・・・・・〇るみんッ!!」
再び俺は、あの空間に戻された。
『どうだった?』
そう問いかける真理。
俺がここに来る前何をしたのか知らないが、くるみ〇に会う為に何かをしたらしい。
もう一度行きたい、もう一度会おうと俺は真理に希う。
「お願いだ、もう一度見せてくれ!」
『あーダメだね』
気だるそうに答える真理。
「えー」
『これだけの通行料だと、あれしか見せられない』
「通行料?」
そう問い返すと、真理はこう答えた。
『等価交換しなきゃね』
真理に変化が起きた。
今まで真っ白だった腕に、人間の両腕が生え。
それに反比例するように、俺の両腕が消えたのだ。
「え、どゆこと?」
『等価交換だろ? なあ、松岡浩児』
「ァァァァァァァァ!!」
そこは、珈琲屋『ろーれらい』だった。
何だか知らないが、あの世界であった出来事がそのまま反映され、俺の両腕が消えていた。
取り敢えず、物凄い痛かった。
「え、つかどうしてこうなったァァァァァァ!?」
「そ、そこのフラスコの小人に・・・・・・」
淀子の声が聞こえた方を見る。
しかし、そこにいた淀子はのっぺらぼうだった。
促された通りの方向を見ると、そこには黒いまりものような物体がフラスコの中にあった。
紅い一つの瞳と、黒い両手を持つ。
「ほ、他の被害者は・・・・・・?」
寿奈を見る。声を出しているようだったが、全く聞こえない。そして、片足も消えていた。
良平は視力、翔は体全てを持っていかれたのか服だけがあった。
店長の遠藤に至っては。
「ばなな」
知識を持っていかれたのか、頭の悪い人になっていた。
「真理は残酷だ。
身の程を弁えず死人を蘇らせ、
松岡、くる〇んに触れる事を求めた者は、その乳を揉む為の腕を持っていかれ。
淀子、イケメンの彼氏が出来ることを求めた者は、自分の美貌を持っていかれ、二度とモテることが出来なくなる。
寿奈、スクールアイドルでトップを目指そうと努力した者は、踊り、歌う為の足と声を持っていかれ。
良平、世界の平和を望んだ者は、視力を持っていかれ、その未来を見ることが出来なくなってしまった。
翔、愛する者の温もりを求めた者は、温もりを感じぬ姿にさせられ。
遠藤、おいしい珈琲を作る為の知識を求めた者は、知能を持っていかれ、二度と料理が出来なくなる。
人間が思い上がらぬよう、正しい絶望を与える。
それが、お前達人間が神とも呼ぶ存在、真理だ」
「いや今回に至ってはお前のせいだからな!?」
「兎に角、私があれを消し去るわ」
のっぺらぼうの淀子が立ち上がる。
そしてそのままフラスコを、片手で握りつぶした。
「ば、ばぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁなぁぁぁぁぁ!」
こうして、ホムンクルスは消えた。
でまあ、この後。
作者が賢者の石を使って皆を元に戻しましたとさ。
めでたしめでたし。
「オチ作れないからって強引過ぎだろッ!?」
「知らね」