三姉妹と制作会議
土曜日の昼。浅井家。
この小説が遂に記念すべき十話まで達したことを祝おうと、私達だけでパーティを始めようとしていた。
「かんぱーい!!」と私はソーダで満たしたグラスを思い切り突きつけたのだが。
淀子姉さんと江代はどんよりとした表情をしながら、乾杯もせずに飲み物に口を付け始めた。
「おい! 乾杯もせずに飲むな!! そして折角十話まで来たのにてめーら何どんよりしてんだよ!!」
「あのさー初。嬉しいのは分かるけどさ、この状況がおめでとうと同時に何を意味するか分かるか?」
え? 私がそれに対して答える前に、姉さんが続きを言い始める。
「確かに私達は十話目まで来て、あの何度もやり直しが続いて人気がた落ちの『フリースキル・ファンタジー』みたいにならず、閲覧数2000超え、ユニークも1000超えということでそれなりに人気の作品になってきたわけだけど。
いいか。小説っつーのはギャグ漫画と違って文章だけでしか笑いが取れない。あのおっぱいとメガネと年上フェチのアホ作者も所詮学生だから爆笑ネタを文章なんかで作れるわけがない」
「作者もお前にだけは言われたくないと思っている気がする」
「つまり」と姉さんは私に人差し指を向ける。
「アイツもそろそろネタが尽き始めてるのよ!」
え、そういうこと?
「まあだから、今日の話では一話みたいに、これからの浅井三姉妹のバカな日常をどうするかを議論しようと思う」
シナリオ会議かよ!! つーかこの話丸々会議に使うの!?
「じゃあ今回は私、淀子が司会・進行を務めようと思う。
意見のある人」
はあ。意見出すかあ、と手を上げる私。
「はい、初。言ってみろ」
「まあ一番手っ取り早いのは、近頃の流行を取り入れることじゃない?」
「却下。著作権的に危ないネタは使えないし、それはただのパクリだ」
著作権的に危ないのはお前だよ。
次に挙手したのは江代。
「じゃあ次の話から語り手を変えるというのはどうだい? こんな冴えないマイシスターではなく、クールでパーフェクトな私が・・・・・・
「させねえよ!!」
私は言いながら、江代の腕をへし折るべく思い切り引っ張った。
「おいおいおいおい。やめてくれよマイシスター・・・・・・」
「――まあ語り手変更はありかもね。この貧乳地味子に主役を任せて良いのかと思うし」
呆れた目で私と江代を見ながら、姉さんが呟く。
「つかさぶっちゃけて良い? 初、それに江代、アンタらの考え方じゃどの道ネタは尽きるんだよ。もっと物語そのものの方向性を変えた方がいいんじゃない?」
「ジャンル変更は読者が混乱するからやるな! タイトル詐欺になるだろうが!」
「いいじゃん。タイトル詐欺とかジャンルが変わっていった奴は沢山あるよ。ドラ〇ンボールとか最初は悟〇がボール集めるまでの話なのに、いつの間にか死人が出た時はボールが集まっているのは当たり前になっていて、ベ〇ータやらフ〇ーザやらセ〇やらブ〇とかと戦ってたじゃん」
どさくさに紛れて怒られるネタぶっ込むのやめてくんない!?
私が心の中で叫ぶと同時に、姉さんは続きを呟き始める。
「じゃあジャンルを変えるなら、主人公とストーリーも変えないとな。
よし、アイデア思いついた。こういうのどう?」
部屋の照明が消え、何故かスクリーンが下りて、それに映像が映し出された。
――私の名は、浅井淀子。
――普通より、ちょっぴり美人な花の女子高生。
――だけど私が通う学校は、普通じゃない。
――その高校に入る条件は一つ。容姿と体型が共に美しくあること。その選ばれた人間の一人が私なのだけど、その高校には、私なんかとは比べものにならない美少年がいた。
――だが、今日がその人との出会いになるなんて、私は全く気付いていなかった。
場面が変わり、淀子ともう一人の少女が何かの列に並ぶ映像が映し出される。
――「淀子、あの人まだ来てないの?」
――「来ていないみたい」
――今日がその人のサイン会。順番を待つべく、最後尾に並んでいたんだけど・・・・・・。
――「きゃあっ!」
――私は後ろから来た子に突き飛ばされて、列の外に飛ばされてしまったんだ。
――そこに、私に向かって一本の手が伸びてくる。
――その手を差し伸べたのが、例の美少年だった。
――それが、私と彼の恋の始まり。
――『浅井淀子の恋の日常』。
「おい姉さん。これはどういうことかなあ?」
「え、何が?」
私は思いきり息を吸い込んだ。
「姉さん以外の既存キャラが一人も出てねえじゃねえか!
タイトルもちゃっかり変えやがって!
てめーこんな性格じゃねえし!
却下だ! 却下!」
次にまた江代が挙手する。
「ふっ。私はマイシスターの映像を見ている間に思いついたぜ。こんなのはどうだい?」
――その時。一人の人間が、犠牲になった。
――「初!!」
――それは私、浅井江代が巨人に復讐すると誓った瞬間でもあった。
――その出来事から三年後。私は巨人に一撃で葬れるという伝説の剣を手に入れる。
――私はその剣を片手に、民に叫んだ。
――「ブ〇〇〇ア人よ。動じることはない」
――少女の反逆が、今始まる。
――『✝進撃の緑剣 ――反逆の江代――✝』
「出来るかァ! 危ないネタが仕掛けられている上に、何で私がエ〇ンの母親の立ち位置にされてんの!?」
「つーかル〇〇〇〇ってただの厨二向けアニメだしね」
やめろぉ、苦情くる!
もうここは主役が終わらせなくては。そう思い、私は再び息を吸い込んだ。
「じゃあ結論を言う! 現状維持! 終了!」
「おい! ふざけんなよ初!」
「知らね! はい終了!」
私はそう言うと部屋を出た。
松野心夜でーす。
浅井三姉妹のバカな日常、第十話です。いやー、これは僕の作品の中ではそれなりに続いているから、奇跡ですね。
ま、取りあえず。十話ということで、ここで一区切りついた感じですね。
記念すべき十話目のネタがこんな感じですみません。
(あれ、でも十の倍数になる度におんなじようなネタやればよくね?)←おい。
まあそれは冗談として、今後もこの話をよろしくお願いします!
それではフリースキル・ファンタジーか次の浅井三姉妹で会いましょう!