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神獣の子~英雄の過ごす日々~  作者: 達
第4章 白霧に轟く雷鳴
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第8話 裏の事情

 

 ユーゴたちがバルドムを発見する少し前……




「レアス先生たちまだかな?」


「少し時間がかかるんじゃない。先生結構な魔力を使ったみたいだし」


 横を歩くノルマニーが相変わらず抑揚のない声でそう返した。

 バルドムは改めてクラスメイトであるノルマニーの横顔を見つめる。

 肩で切りそろえられた蒼髪は美しく、芸術的にまでに整った顔立ちは見ているだけで紅潮していまいそうだ。


「なに?」


 バルドムの視線に気が付いたノルマニーがこちらを向いた。

 宝石のような蒼色の瞳と視線がぶつかる。


「な、なんでもないっ」


 そう誤魔化して再び前を向く。

 顔が心なしか熱い。赤くなっていることをノルマニーに気づかれていないか心配になる。


 ――本当に綺麗な顔だなぁ


 心の中でそう呟くが、今の自分たちの仕事は重要なことだ。

 特異点と呼ばれる神力の溢れる場所の確認。

 何かあればすぐに引き返してユーゴへ伝えなければいけない。


「レアス先生たち凄かったね。ケルベロスを倒しちゃったよ」


「先生が凄いのは知っている。あたしが驚いたのは、あの赤髪の冒険者の方。バルドムの師匠らしいけど、昔から強かったの?」


「強いけど、僕も本気で戦った所を見たことないから……勝手に師匠とか呼んでるけど、全然届く気がしないよ」


 苦笑いでノルマニーにそう答える。

 ユーゴの本気はまだ見たことがない。

 闘術と火属性の魔術が得意だと言っていたが、今回はまだ火属性の魔術を使っていない。


「まぁ腕の立つ冒険者はいくらでもいるから、その中の一人か」


 ノルマニーが勝手に納得した様子で、足取りを早める。


「そんなに急がなくても、特異点が逃げないよ?」


「……ねぇバルドム。もしも特異点を見つけたらどうする?」


 少し前を歩くノルマニーがそう問いかけてきた。

 こちらを振り向かず足を止めない。


「ユーゴ師匠たちに伝えるよ。そういう指示だ」


「バルドムは師匠に認められたくないの? あたしたちだけで特異点を塞がない?」


「あんまり前のめりな考えは良くないって、さっき学んだから遠慮しとくよ。ノルマニーが無茶するなら、止めるのも僕の役目だ」


 ハッキリとそう答えた。

 攻撃のことばかり考えていて、オーガに殺されかけた。

 ユーゴが助けてくれたようにノルマニーが前に行くのなら、止めるのが自分の役目だと言い聞かせていた。


「そう……優しいアナタらしい」


 こちらを振り返らず、ノルマニーはそう答えた。

 小さな背中からは並々ならぬ決意を感じる。

 突然天馬の国行きたいと言い出したり、森の中に消えたり、最近は少し自由が過ぎる。

 まるで何かに焦っているようにも見えた。


 ――もしもの時は僕が止めないと……


 バルドムは右拳をグッと握り決意を新たにするのだった。










「見つけた……」


 ノルマニーは目の前にある光景にそう呟いた。

 巨大樹に囲まれた森の中で一本だけキラキラと光を放つ樹があった。

 白い光を反射しながら輝きを放つ巨大樹に駆け足で近づく。


「ノルマニー! あんまり近づくと危ないかもしれないよ!」


 後ろからバルドムの声が聞こえる。

 しかし今はその静止も聞かずに、輝きを放つ巨大樹の目の前へ。

 改めて対峙すると、その樹の不思議な気配に圧倒される。


 まるで生き物と対峙しているかのような感覚。

 神力が溢れる特異点とは少し違うようだが、目的の物が近くあると確信した。


「はぁ……はぁ……ちっとも聞いてくれなんだね……走って息が上がったよ……」


 いつの間にか隣に並んだバルドムが息を乱していそう言った。


「大丈夫? さっき消費した魔力回復してないんでしょ。無理はよくない」


「だからって……ノルマニーを置いてはいけないよ……ふー」


 バルドムは徐々に呼吸を整える。

 額の汗を拭い、彼自身も不思議な感覚を放つ巨大樹と対峙した。


「これ……なんの声だろ?」


 バルドムがそう言って、巨大樹に手を添えた。


「何か聞こえるの?」


「うん……お前を待っていた? 何を言っているんだろ?」


 バルドムが自身の言葉を聞いて苦笑い。

 しかしノルマニーには直感的に確信した。


 ――まさか……バルドムが……!?


 次の瞬間、巨大樹が白き光を放つ。

 ビリビリと大気を揺らして、次第に輝きを増していく。

 目を細めて巨大樹を見上げるノルマニー。


 初めて見る神力が溢れている。

 魔力ではなく、より強い波動を感じる白い光は、聞いたことのある神力の特徴にそっくりだった。

 しかし特異点ではない。


 何かを媒介にして神力が溢れている場所を特異点と呼ぶからだ。

 これは光の中心にある『とある道具』が発している。


 ――これが神器の覚醒


 噂には耳にしたことがある。

 眠れる神器が適応者を見つけた時、白色の神力を放ち覚醒すると。


「声が……あなたは誰だ!?」


 バルドムが顔を上げてそう叫んだ。

 どうやら神器からの声が直接脳に届いているらしい。

 事実、ノルマニーには何も聞こえない。


 ――あれは……!


 白色の光を放つ巨大樹から、光の柱が昇る。

 そして白い光の固まりがバルドムの方へと方向転換。

 まるで天からの流星ようにバルドムへと真っ直ぐ伸びていった。


「バルドム!」


 隣に居る男の子の名前を呼ぶが、まるで何かに魅入られたかのように彼は自身に向かってくる白い光の固まりを見つめていた。


 そして光がバルドムに直撃。


「うわっ」


 あまりの勢いにバルドムが背中から激しく倒れた。


「大丈夫?」


 倒れる彼にそう問いかけるが、返事は何もない。

 息はしているから、命に別状は無さそうだ。

 何か身体に変化があるかと隅々まで観察。


 ――これは……ブレスレット……?


 そして先ほどまでとは明らかに違う点を見つけた。

 白い銀のような物質で創られたブレスレットが右の手首に巻かれていたのだ。

 どうやらこれが今回の騒動を引き起こした神器らしい。


「これさえ手に入れば……どうする? バルドムを説得して……」


 ノルマニーはブツブツと呟き、自身の考えに思考を張り巡らす。

 今、自分の立場で何が最善なのかと。


 ――どうにかして神器を外せないだろうか……


 ノルマニーはそう思い、バルドムの右手首に装着された白銀のブレスレットに手を伸ばす。

 そして人差し指が触れた瞬間だった。


「っ! なに?」


 ビリッとまるで電撃が走ったかのような衝撃が人差し指を襲った。

 すぐに触れた手を引っ込めるが、不気味なブレスレットの胎動はとどまらない。

 やがて胎動は気配を帯びて、プレッシャーをノルマニーへとかけてきた。


「あぶないっ」


 ノルマニーが大きくバックステップ。

 倒れるバルドムとの距離を空けた。

 理由はブレスレットから溢れた白い炎。

 まるで生き物のような意志を持つ炎が一つの形を織りなす。


『キサマカ……』


 男性とも女性ともとれる中性的な声。

 頭に直接響くその声は、先ほどバルドムが聞いていた声だろうか。


「あなたは何者なの?」


『ワタシはナニモノでもない……』


 そう言うと人型の炎は右腕をノルマニーへと向けた。

 右腕が輝き、白い炎が襲いかかって来た。

 サイドステップで炎の柱を避ける。


「いきなり攻撃なんて物騒ね」


 ノルマニーは掌を合わせて魔力を練り上げる。

 たぶんユーゴたちはまだ来るには少しかかる。

 相手は神器に宿る何かの意志だろう。

 つまり屈服させることが出来れば、神器が制御下になるかもしれない。


 ――手抜きはしない。全力で叩く!


 そう決心したノルマニーは掌から氷の剣を精製した。

 触れれば凍てつく氷剣は最も得意な魔術でもある。


『ナルホド……キサマもカ……』


 人の形をした炎が僅かに揺らめきそう呟く。


「悪いけど、一瞬で終わらせる」


 ノルマニーは氷の剣に魔力を流しながら、その場で一回転。

 回転切りの要領で斬撃を魔力で延長して辺りを切り裂いた。


『グッ』


 炎の化身にも斬撃がしっかりと直撃した。

 腹部には氷が付着していた。


「隙ありっ」


 ノルマニーは一歩で炎の化身との距離を詰めた。

 そして氷の剣で相手の腹を貫いた。


『スバラシイ……』


「お褒めの言葉どうも」


 炎の化身にそう返して、ノルマニーは手に握る氷の剣に魔力を流した。


「黄昏の氷瀑《トワイライト・アウト》」


 次の瞬間、氷の剣が爆散して炎の化身を粉々に吹き飛ばした。

 とりあえず落ち着いたことに「ふぅ」と息を吐いた。

 倒れるバルドムに近づいて、再び観察するが何も変わった様子はない。


 謎の化身を倒してもどうやら使用権が譲渡されるわけでは無いらしい。

 無駄な戦闘だったことに少しだけ肩を落とす。

 神器の入手は失敗してしまった。しかしまだ手はある。


 そう思った直後、背後から足音が聞こえた。

 どうやらユーゴとレアスが追いつてきたらしい。


 ――切り替えて。今のあたしは学院の生徒


 そう自身に言い聞かせて、ノルマニーは足音のする方へと振り返るのだった。


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