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神獣の子~英雄の過ごす日々~  作者:
第2章 代行者たちの宴
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第13話 応戦と迎撃


「ルフ……?」


「起きた? どこか痛むところはない?」


 身体を起こしたソプテスカは、ピリッと後頭部に走る痛みを感じた。

 どうやら頭部への衝撃のせいで意識を失ったらしい。

 右手に魔力を集めて、治癒魔法をかける。

 数秒もすれば痛みも引くだろう。


「ここは?」


「城の地下……そう思うには広すぎるわね」


 ソプテスカの問いにルフがそう返した。

 ソプテスカはもう一度、自分が居る場所の周りを見渡す。

 黒い煉瓦が敷き詰められた床。

 広さ的には謁見の間くらいの部屋は、壁に掛けられたロウソクで灯りを確保していた。


「わずかに魔力に近い物を感じるから、多分生み出された空間みたい。イメージ的には迷宮に近いけど……あのドアなんて怪しさ満点だし」


 ルフがそう言って部屋の壁に設けられたドアを指さす。


「生み出された空間なら、術者を止めれば出られるかな?」


「推測だけどね。ただ、サヴィトス国王の姿もないし、メツテルたちの姿もない。早く合流しないと」


 ルフの放つ雰囲気がグッと引き締まる。

 流石は数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者だ。

 戦闘モードに入った時のオーラは、神獣の子にすら匹敵しそうだった。


「ルフの見立てでは戦況はどう?」


「向こうの言い分が本当なら、神獣の子と同等がそれ以上の隠し玉がある。そうすれば分はこっちに不利かな。一応確認するけど相手は殺してもいいの?」


「発言が物騒ですよ。情報が欠落しているので捕獲が望ましいですが……もしもの時は仕方ないでしょうね」


 ソプテスカは立ち上がり、拳を握って力をこめてみた。

 問題なく力が入る。

 自分への治癒で予想以上に魔力が削られたこと以外は正常だ。


「ソプテスカは後衛であたしのサポート宜しく」


「高名な流星の女神との即席パーティですね」


 その言葉に笑みを返すルフ

 彼女が腰にぶら下げた両手剣を抜いた。


「まずは正面から行くわよ」


 二人で正面の扉を開けた。

 そこには同じような空間が広がっている。

 

 ――もしかすると一緒の部屋が続いているだけ?


 二人で別の部屋に入る。

 すると扉がバタンと閉じた。

 閉じ込められた。そう直感した後、すぐにどうすればいいか分かった。


 部屋の真ん中には、門番とでも言えばいいのか、石で身体を造られた人型の魔物が存在している。

 人と同じくらいの大きさで、こちらに気がついたのか瞳に赤い光が宿った。


「エレメンタル……まためんどくさい魔物を……」


 ルフが両手に持った剣を構える。


「ルフ。破弓で射抜けないの?」


「周りの影響のせいか、魔力で矢を上手く精製できない。制御を誤ればこの空間に影響するかもしれないから、あんまり使えないと思う」


「ならばエレメンタルは相性が悪いですね」


 石と魔力の補助が加えられた強固な体躯を貫くのは苦労しそうだった。

 関節の隙間に剣を通せばあるいは……


「念の為だけど今通った扉は?」


 ルフに言われて後ろの扉のドアノブを握る。

 動かそうとするが、全く動じない。

 やっぱり閉じ込められたらしい。


「ダメだわ。封鎖されてる」


「エレメンタルを倒せば開くんだろうね」


 ルフが剣を握った両手に力を入れる。

 どうやらまずは一直線に突っ込む気らしい。


「行くわよ!」


 声と同時にルフが動いた。

 桃色の髪を揺らして、一気にエレメンタルとの距離を詰める。

 相手はようやく動き出すが、すでに立ち遅れている。

 先制打はもらった。


 エレメンタルが片足で床を踏んだ。

 すると相手を中心に衝撃波。

 後方に居るソプテスカの頬にまで伝わる衝撃に、ルフの身体が宙に弾き飛ばされる。


 エレメンタルが真上に来たルフの身体に向かって腕を振った。

 普通なら直撃コースだったが、次に聞こえたのはゴトリと石の腕が床にぶつかる音。

 ルフは自分に向けられたエレメンタルの石腕を一撃で切り落とした。

 空中に居て不安定な状態で、石の縫い目に正確に刃を通す技術。


「流石です」


 流星の女神の名は伊達じゃない。

 エレメンタルの頭を足場にしてルフがバク宙。

そのまま床に着地。

 同時に方向を変えて、敵に再度近づく。

 

 そして二撃。


 エレメンタルの残りの腕と頭が床に落ちた。

 胴体がフラリと傾き、深く倒れ込んだ。

 圧倒的。そんな言葉が浮かぶ。


「手が痛い……」


 ルフがそう言って剣を鞘にしまう。

 彼女は自分の手首に掌を当てて、感触を確かめている。


「治しましょうか?」


「まだいい。肝心な時に治癒魔法が使えないと困るでしょ?」


「逞しいことね。冒険者は」


 その言葉にルフが鼻で「ふん」と一蹴。

 眉間に皺を寄せているから、「分かっています」と言いたそうだ。


「ソプテスカ。じゃあ次の部屋に……」


 ルフが言葉の途中で短剣を片手だけで抜いた。

 振り返りざまに剣を水平に振ると、「キン!」と金属音が響く。


「流石だね。流星の女神さん」


 相手はニヤリと口端を吊り上げる。


「ユピー・デーメテクトリ……いつの間に?」


「さぁ?」


 ルフにそう返すと、ユピーが大きくバックステップ。

 二刀使いのはずなのに、片方の長剣しか抜いていない。


「不意打ちなら一刀でいいと思ったんだけどなぁ~」


 ユピーはそう言って、手に持った長剣を眺める。

 残念そうな表情は、逆に言えば自信があったらしい。


「あたしも舐められたものね。不意打ちでやられると思われるなんて」


「まさか。最大限の警戒をしているよ。ボクたち(・・)の障害になるのは、流星の女神だけだし」


「もしかして私は眼中になしですか?」


 ソプテスカが両手を床について魔力を流す。

 紫色の魔法陣が部屋の床に広がり、相手動きを制限する結界を発動させた。

 もちろん対象は敵であるユピーのみだ。


「さすが五か国でも屈指の法術使い! 戦う王女! 『秘宝の再来』の名前は伊達じゃないね!」


 身体が重そうなユピーが楽しそうに叫ぶ。

 既にこちらが有利だ。しかしソプテスカは違和感に気がつく。


 ――魔力が乱れてる?


 結界を発動させている魔力が乱れている。

 いつもよりも多めの魔力を使い、乱れを戻すが長時間の発動は避けた方が良さそうだ。


「大人しく投降してくれたら嬉しんだけど?」


「するわけないよ。こんな楽しい機会、そうないんだからさ!」


 ルフにそう返したユピーの視線がこちらに向く。

 厳密には自分の後ろだ。


「無防備ですね。ソプテスカ王女」


 後ろから声。

 殺気を含んだ気配に背筋が寒くなる。

 身体を半身にして、片手で防御結界を展開させた。

 振り降ろされた長剣を半透明の壁で防ぐ。


「良い反応ですね。とても王女とは思えない」


「メツテル……!!」


 背後から長剣を振り降ろしたのは、メツテル・デーメテクトリ。

 どこから現れたのかは重要ではない。

 問題なのは、二人で足止めをして来たことだ。


「美しい顔を歪めるなんて、僕の妻にはふさわしくない」


「安心してください! 誰もあなたの妻になどなりませんよ!」


 防御結界を展開している方の手をグッと握る。

 受けた衝撃を相手に跳ね返す術だが、メツテルが上へと飛んだ。

 自分を追い越し、ルフも通り過ぎてユピーの横へと着地した。


「兄様フラれたね」


「全くだ。一考の余地もない」


 やれやれとメツテルが肩を竦めた。


「僕の妻になってくれれば、今すぐにでもここから出られますよ?」


「しつこい男は嫌われるだけよ」


 ルフが両手に短剣を握り、二人に向かって構える。

 相手も二人だが両方が近接タイプ。

 後衛向きの自分が居るこちらの方が不利かもしれない。

 

 ――それにこの部屋……


 ソプテスカの額から流れた汗が頬を伝って床に落ちる。

 思った以上に魔力の消耗が大きい。

 恐らくこの迷宮全体に何か特別な魔法がかけられている。

 使用者の魔力を乱すような作用らしい。

 ルフの破弓も、自分の法術も、繊細な魔力制御を必要とするがゆえに、この場所では使いづらい。


 それも込みで相手が来ていたなら?


「想像以上に緻密な計画のようですね」


「随分と弱気なのね。しつこい男を堂々とぶっ飛ばすチャンスよ」


 ルフが自信満々の口調で言った。

 それを聞いたメツテルが「ふん」と鼻で笑う。


「美しい姿からは想像できないくらい、過激な発言ですね。流星の女神ルフ・イヤーワトル?」


 メツテルが長剣を再び構える。

 身体に馴染んだその姿に鍛錬を普段から積んでいると察した。


「兄様! 本気でやってもいいよね!?」


「もちろん。相手は流星の女神。手抜きが許されるような相手じゃない」


 目を輝かせたユピーが両手の長剣の柄を合わせる。

 白い光を放った長剣は二つが柄で繋がり、左右の両方に刃を持った一本の剣となった。


「これが双竜剣の本来の姿だよ! 滅多に見られないんだから!」


 剣をグルンと回して、ユピーが自信に満ちた表情で言う。

 白い刀身は魔力を宿しているらしく、僅かに輝きを放っていた。


「ソプテスカ。自分の周りに結界を張って。二人はあたしがやる」


 ルフの声に余裕はなかった。

 ユピーが持つ双竜剣の放つ魔力がそうさせているらしい。

 本気で戦わないとマズい。

 他人を守っている余裕はない。

 そう判断したのだろう。


「兄様とボクを一人で止めるなんて、随分と自信家なんだね! 流星の女神様は!」


「別に。そうするしかないから、そうするだけよ。御託はいいからかかって来なさい」


 ルフが片手の短剣の切っ先を動かして挑発。

 それを見たユピーがまずは動いた。

 同時にソプテスカは掌を合わせて、自分の周りに結界を展開する。

 半透明の壁に包まれて隙を伺う。


 状況に応じてルフの支援をするつもりだが、彼女の戦いの邪魔にならないことが最優先だ。

 魔力操作が難しいこの部屋では、悔しいことに自分はあまり役に立たない。


 ――口惜しいけど……ここはルフに任せよう


 そう思って両手に短剣を持ったルフを見つめる。

 まずはユピーが振り降ろした刃をバックステップで躱した。

 二本の剣を連結させた双竜剣の長さは、ユピーの小柄な身体を遥かに上回る大きさだ。

 その証拠に振った時の剣の重さで双竜剣の切っ先が床にめり込む。

 ユピーが抜こうとするが、砕けた煉瓦の破片が邪魔で上手く抜けないようだ。


「華奢なあんたが振る剣じゃないわね!」


 隙を見つけたルフが右手の剣で突きをユピーに繰り出す。

 ユピーは首を横に捻り短剣の切っ先を避けると、身体を反転させながら踵で床にめり込んだ双竜剣を蹴りあげた。

 反動でめり込んでいた刀身がルフの顔面めがけて振り上がる。


 ――なんて自由な戦闘スタイル……


 まるで踊りのように舞う姿は芸術と呼ぶに相応しかった。

 ルフは残りの左手の短剣で双竜剣の刃を受け止めると、身体ごとフワリと後方に飛んだ。

 相手の威力を正確に受け止めて後方の飛ぶことで受け流したらしい。

 数秒のやり取りの判断とそれについて来る技術。

 改めてルフの強さを再認識した。


「凄い! 凄い! そんな防ぎ方をするなんて!」


 興奮状態のユピー。

 ルフが床に着地した直前に今度はメツテルが動く。


「やはり厄介な存在に違いないようだ」


 メツテルがルフを狙って長剣を縦に振り降ろす。

 ルフは両手の短剣を交差させて長剣を受け止めた。


「ぐっ……」


 歯を食いしばるルフの唸るような声。

 すぐに弾こうにも、着地した直後を狙われたせいで下半身を整えられていない。

 それに異常はそれだけではなかった。


「魔力制限のかかったこの部屋でよくそれだけ動けるものだね。しかも左手はさっきのユピーの剣を受けた時に、感覚を持っていかれたね?」


「だから?」


「状況はかなり悪いと言うことさ!」


 メツテルが長剣を握る手に力をこめる。

 ルフが交差する両手の剣が徐々に押されていく。

 どうやら左手が痺れて一時的に感覚を失っているらしい。

 このままでは力に押し切られてしまう。


 ――助けないと……


「させないよ!」


 メツテルを飛び越えて、ユピーがこちらに接近してくる。

 白銀の双竜剣の刀身を勢いよく振り上げた。


「はぁあ!!」


 振り降ろされる刀身。同時にソプテスカは結界に込める魔力を増やすが、上手く作用しない。

 この部屋に魔力に対する影響に心の中で舌打ち。

 しかも結界に刀身が触れると魔力が吸収されていく。


「これが……!!」


「そうだよ! 双竜剣は触れた物の魔力を吸収するのさ!!」


 ユピーがさらに力を入れて結界に刀身を押し付ける。

 防御結界の耐久値が徐々に削られていく。

 このままでは突破されるのは時間の問題だった。


「この部屋でボクたちは魔力の制限は受けない。それどころか強化されているくらいだ。どっちが勝つかなんて明白だよね!!?」


 ユピーの勝ち誇ったような笑み。

 確かに有利な状況を作られた。

 不利なのは明白。しかし負ける気はない。


「……ただで魔力を垂れ流しにしていたわけじゃありませんよ?」


「なんだって?」


 ソプテスカは残りの魔力を使い果たすつもりで床に両手をついた。

 魔力を部屋全体に回して、迷宮を生み出している結界自体に干渉する。

 たぶん今頃城の中では、自分たちが姿を消して大騒ぎになっているだろう。


 結界の突破が出来ずに困っているかもしれない。

 だったらこちらから道を開ける。

 何度もこの部屋で魔力を使い、迷宮を生み出している結界の分析も同時に行っていた。

 今なら数人入るだけの穴を開けることだって出来る。


「何を企んでいるのか知らないけど無駄なんだよ!!」


「そうでもありませんよ?」


 真上から男の声。

 男がユピーに向かって大剣を振るうと、彼女が回避の為にバックステップ。

 目の前に降り立つは、竜の国が誇る騎士団の男。


 茶髪の髪を揺らして、青年が高らかに叫んだ。


「ヴォ―テオトル・アルパワシ。王妃様の命により参戦させて頂く!」


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