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神獣の子~英雄の過ごす日々~  作者:
第2章 代行者たちの宴
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第3話 王族と冒険者

 久しぶりに入った謁見の間は、ひどく静かだった。

 見上げると首が痛くなるくらいの天井から吊られたシャンデリアが俺たちを見下ろす。

 城で宴会をやる時は、この部屋で行うと聞いたことがある。

 だから設計上もかなり大きく造られたらしい。


 部屋の中にはメイド服を着た使用人の女性が数人だけ。

 本来なら王を護衛するはずの騎士の姿は見えなかった。

 城全域に敷かれた赤い絨毯が足元から真っ直ぐと伸びている。

 その先に用意された椅子に座る初老の男。


 フォルとヴォ―テオトルは両端へと身体を避けた。

 あとは俺たち自身で進まないといけないらしい。

 何度も顔を合わせ、言葉を交わした男の元へ足を踏み出す。

 敷かれた絨毯のせいで鳴らない足音を数回繰り返して、目の前へとたどり着いた。


 焼けた灰のような白い髪を揺らして、同色の瞳で俺を見下ろす。

 赤髪の自分の姿が彼の瞳の中に映る。

 僅かに緩んだ男の口元、そして言葉が紡がれる。


「久しぶりだな。ユーゴ君」


「お久しぶりです。国王様」


 軽く会釈した俺を真似てか、ルフも横で頭を下げる。

 相手はソプテスカの父親にして、この国の王だ。

 今となっては、俺が竜の神獣の子だと知る数少ない人物の内の一人。


 腰に付けた長剣の腕前は、達人クラスとか。

 最近は無いらしいが、若い頃は騎士団と共に前線へと赴いていたらしい。

 先に身体が動くのは、娘のソプテスカに受け継がれていた。


「おはようございます。父上」


「ソプテスカ。朝から長い散歩だったな」


「ユーゴさんとルフが来ると思ったら、居ても立っても居られなくて♪」


「あまり騎士団の者を困らせるな。貴様は王族なのだぞ」


「はい。十分承知しています」


 甘すぎやしませんか、国王様?

 いやこれが王家の普段の会話なのだろう。

 自由奔放で勝手気まま。

 だけど国を思って身を捧げる。

 それが竜の国(この国)の王家である。


「ルフ・イヤーワトル。君とも久しぶりだ。最近実家へは帰っているか?」


「いえ。神獣祭以降は戻っていません。色々と面倒が増えると嫌なので」


「そうか……君の両親が心配していたぞ。時には顔を見せてあげるといい」


 国王様の言葉にルフが小さく頷いた。

 竜の国と人魚の国は、昔から友好な関係にあるからギルドマスターであるルフの父から何か言われたらしい。

 何だかんだで自分の娘が大好きなギルドマスターだもんなぁ。


「さて! 積もる話もあるだろうが、朝飯にしようぞ!」


 謁見の間に国王の声が響く。

 椅子から立ち上がり、踵を返した彼が奥へと消えていく。

 俺たちが朝飯を食べたかどうかなんて関係なし。

 ただ食べたからと言って、断る勇気が俺に無いのも事実だった。


「相変わらず自由な人だなぁ」


「あんたがそれを言うの? あたしから見れば、竜の国の出身者は皆自由人よ」


「失礼ですねルフ。私は少なくとも常識人です」


「「……」」


 ソプテスカのボケか本気なのか分からない発言に、返す言葉が見つからない俺とルフ。

 常識はあるかもしれないが、行動がその枠に収まっていないことが多いと思う。

  この王女のことを常識人の一言で済ますのはどうにも腑に落ちなかった。


「まぁでも、誘われた飯を断るのは男がすたる。折角だし食おうぜ。色々(・・)聞けそうだしな」


「はぁ……状況を考えれば仕方ないか」


 ルフが諦めたように呟く。

 因みにソプテスカはもうすでに奥へと向かっていた。

 多分この食事で俺たち二人を呼び寄せた理由が聞けるのだろう。

 厄介事の匂いはプンプンだけど避けることも出来ない。

 ルフでなくてもため息したくなる。


 ソプテスカの後を追って謁見の間の奥へ進む。

 城の使用人らしきメイドさんが扉を開けてくれた。

 壁が一面ガラス張りで太陽の光が部屋へと降り注ぐ。

 中から見下ろせば王都の景色を一望できる部屋は、重要な客人を招いて食事する時に使われるらしい。

 以前ソプテスカ(王女)がそう言っていた。



 真ん中には大理石な長テーブルで複数人が腰かけることが出来る。

 国王とソプテスカは既に腰かけており、俺とルフも並んで座ることにした。


「ユーゴ君は酒がいいか? 娘からもよく飲むと聞いているが」


「ええ、もち……」


 言いかけた瞬間、俺の足をルフが踏んだ。

 あまりの痛みに口を閉じた。

 そして踏まれた意味を考える。

 一応横目でルフを見るとジト目の彼女と目が合う。

 どうやら昼から酒は許してくれないらしい。


「お酒以外の適当な物で……」


「遠慮しなくてよいぞ? 我と君の仲ではないか」


「大丈夫です国王様。このバカは少しお酒を控えるべきなんです」


 せっかく国王様が良いと言ったのに、ルフが即刻それを却下する。

 昼から飲むお酒はまた格別なのに……

 一人肩を落とす俺を見て、ソプテスカが口元に手を当てて笑っていた。


「ルフったら、将来は鬼嫁になりそうですね」


「仕方ないでしょ。放っておいたらいつまでも飲んでいるんだから」


「君も苦労しているようだな」


「ご察しの通りです国王様」


 四人で適当な会話をしていると料理が運ばれてきた。

 魔物の肉や畑で取れた野菜、最近出回って来た米で作られたおにぎり。

 大理石のテーブルに所狭しと並ぶ料理の数々に思わずヨダレが出そうだった。


 料理が並ぶ終えた所で使用人たちは部屋から居なくなった。

 結局今部屋に居るのは、王族の親子と俺とルフの四人だけになってしまった。


「さぁ存分に食べるがよい!」


 国王様の合図に『いただきます』と返したい所だったが、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 何故ならこの朝食を貰うともう後に戻れないような気がしたから。


「どうしたのだ? 今から存分に働くのだ。食べないと力が出ないぞ」


「やっぱりそうですよね。俺たち二人を王都に呼ぶなんて、厄介事の様な気がしましたよ」


 俺の言葉に国王が腹を抱えて笑う。


「ハッハッハ! 流石だな! 我の考えなどお見通しと言うわけだ!」


 椅子から落ちるんじゃないかと思うくらい、国王の身体が後ろに反り返っている。

 ソプテスカが止める様子が無いから、いつもこれくらい反り返っているのかな。


「ごめんなさい二人とも。だけど今回はちょっと厄介なのです」


「そうだな。娘の言う通り、少し我らも困っている」


「それで呼び出す理由は分かりますが、どうしてユーゴ(この呑兵衛)を婚約者に仕立て上げたのです?」


 ルフの一番気になっていた部分を聞いた。

 渡された手紙に記載のあったことだ。

 もちろん俺には記憶の無い話。


ソプテスカ()に求婚の話があるのか知っておろう? 父としては婚約相手くらい自由に選んでほしい。だから本人に任していたのだが……」


「何度断っても諦めない方が居て、断る理由にもう『婚約者が居ます』と答えちゃいました♪」


 ソプテスカが『テヘ』と舌を出しておどけてみせる。

 思わず嘘をついたとはいえ、この話の流れで俺が呼ばれた理由は一つしかないことに頭が痛い。


「それで相手が婚約者に会いたいと言って、俺が呼ばれたとか?」


「ご明察! だから君でないといけない。ちなみに今夜、この城で社交界を開催する予定だ。当然相手の貴族の者も来る。あとは適当に相手してくれ」


 作戦が定まっているようで定まっていなかった。

 しかし今回婚約者に仕立て上げられた俺としては、一番気になることがある。


「その貴族とは何者ですか? 王族が無視できないとあれば、それなりに大きい貴族であることは想像できますけど」


 俺の問いに国王は顎に手を当てた。

 そしてニヤリと口元を緩める。


「武器の流通などを仕切っている『デーメテクトリ家』だ。あそこの息子は、ルフ()と同じ古代兵器を使うとの噂もある」


 指摘されたルフの表情に僅かに力が入る。

 彼女が背中に背負う黒い弓、『破弓』と呼ばれる古代兵器。

 神獣がまだ神と崇められるよりも以前、古代人たちが作製した武器たちの総称を古代兵器(そう)呼ぶ。


 使用者を選ぶ物から、誰でも使える物まで形も能力も様々と言われている。

 絶対数が少ないため、詳しいことは何も分からない。

 知っている者たちの認識ですら、『強力な武器』と言ったところなのだ。


 そんな古代兵器を扱う者との対面か。

 あんまり難のある奴じゃなければいいな。

 心の中でそう願い、目の前にある木のコップを手に取った。













 国王との朝食を終えて、城から伸びる街へと繋がる階段をルフと歩く。

 ソプテスカは公務があるらしく、食事が終ってからメイドさんたちに連行されていった。

 とりあえず今日の夜、城に来るまでは自由時間だから、俺の行く先はある程度決まっている。

 お昼前の暖かい日差しに湧き上がる眠気。

 気がついたら、欠伸が出ていた。


「だらしない顔ね」


 欠伸をかみ殺して、横を見るとルフが冷ややかな視線を投げつけていた。


「ソプテスカたちの依頼をあっさり承諾したのが、そんなに不満か?」


「ギルドの依頼は渋るくせに、ソプテスカの頼みはあっさり聞くんだと思って」


「そりゃ、知り合いが困ってるからな」


 クツクツと笑っているとルフが大きなため息。

 俺だって面倒事には巻き込まれたくない。

 だけど今回ばかりは、事情が少し気になる。


「込み入った事情があるんだろうな。流星の女神すら王都に呼び寄せるくらいだ」


「それで今からギルドに行くの?」


「情報が集まるならギルドだろ」


 国王は何も言わなかったが、今回王都へ来ることになった手紙はルフ(・・)に渡された。

 婚約者の役割を与えられたのは俺にも関わらずだ。

 つまりソプテスカたちには、俺だけではなくルフにも(・・)王都へ来てもらわなければいけない理由があった。

 この話には何か裏がある。それは確定的だ。


 そしてその話は城では出来ない。

 先日俺たちが解決した教会の子供たちを巻き込んだ貴族の事件。

 あんな事件があった直後に城へ貴族たちを招待するなんて、どう考えても怪しい。


 国王が俺たちに隠し事?


 国家機密など言えないことも当然あるだろう。

 しかし呼びつけておいて詳細を言わないような人じゃない。

 つまり王族(向こう)には何か言えない事情がある。

 そんな裏の情報を含め、多彩な情報が集まる場所がギルドだ。


「有益な情報を集めに行くかね」


「ついでに依頼の一つでも受けたら?」


 断固辞退したくなるような提案だった。


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