表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神獣の子~英雄の過ごす日々~  作者:
第1章 月下の遠吠えと修道女
1/70

プロローグ

 目を覚ますと、少しだけ懐かしい感じがした。

 ベッドの上で上半身を起こし、欠伸をすると身体の節々が伸びて気持ちが良い。

 視線を横に向けると、白いシーツに身体を丸くさせる女の子の姿があった。


 一定の間隔で揺れる小さな肩と細い桃色の髪。

 普段はポニーテールにしているから、こうして解いている姿を見るのは夜だけだ。

 窓から差し込む月明かりに照らされ、彼女の顔に影ができた。


「黙っているとホント美人なのにな」


 勝手な感想を述べて、彼女の頭を優しく撫でた。

 指の間をサラサラと桃色の髪が流れていく。

 起きている時に聞かれたらどうなることか。

 考えるだけ恐ろしい。


 彼女と知り合ってもう三年。

 お互いの性格はよく知り尽くしている。


「もうすぐ満月か」


 窓から見える月は、雲一つない空に輝いていた。

 そのせいだろうか、懐かしい夢を見た気がした。

 かつての『同志』たちは元気にしているだろうか。


 三年前、世界に現れた神獣の子。


 この世界で神と崇められていた魔獣『神獣』が育てた子供たちにして、規格外の力を持つ五人。

 竜、狼、人魚、淫魔、天馬。

 それぞれの神獣を神と崇める国があり、神獣の子もまた各国に散っている。


 竜の神獣の子である自分を以外は……

 気がつくと竜の神獣の子供として転生していた。

 だから人間として生きると決めた自分を、他の神獣の子はどう思っているだろう。


 本気で命を奪い合った。

 共に手を取り合い、困難に立ち向かった。

 そして一緒に世界を救った。


 懐かしい。今振り返ると本当に懐かしい記憶だ。

 世界を壊そうとした魔帝を倒す為、神獣に育てられた俺たち五人。

 神獣たちは俺たち個人の遺志を尊重してくれたが、全員が人間の味方をすることを決めた。

 理由はバラバラだ。だけど俺たちは一つの目的の為に一丸となった。


 戦場に響く爆発音も、木霊する悲鳴も、鼻に纏わりつく血の匂いも。

 決戦の前夜、皆で飲んで騒いだ記憶も。

 全てが遠い過去のように思えた。


 懐かしいと思うのは本音だ。

 だけど今の自分に後悔も無い。

 神獣の子として生きるのではなく、人として生きることを選んだ。

 誰かに称賛されるのではなく、一人の女性と生きることを決めた。

 これでよかったと胸を張って言える。

 それは本当だった。


 世界を旅して、冒険者ギルドで小遣いを稼いで酒を飲む。

 現地で知り合った人たちと朝までバカ騒ぎ。

 そんな日常が俺は好きだった。

 だから魔帝を倒して三年間は、そんな日々を送っていた。

 時々隣で眠る彼女に小言を言われるのも、すっかり慣れてしまった。


 他の連中は各国で頑張っているらしい。


 五か国の関係を良好にして、魔物の脅威から人々を守り、恒久的な平和を実現する。

 そんな壮大な目標を抱いていらしい。

 一般人には到底ついて行けない話だった。


 まだ夢半ばで実現は遠い未来だとか。

 世界を変えるのは、世界を救うよりも難しいらしい。

 皆頑張っているんだなぁと勝手に思う。


「明日もノンビリしたいな」


 本音を呟き、再びベッドで横になる。

 世界を救う為に育てられた神の子供。

 そんな大層な肩書きなんて、自分には必要ない。


 生きる為には金と余裕が必要だ。

 世界を救った英雄のくせに、そんな現実的なことを考えている事実が、今は無性に笑えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ