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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第四部 運命の聖女編
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第四部 第3話 ハーレム勇者の資質


「アオイ……将来はオレのお嫁さんになってくれっ」

「イクト君、嬉しい……伝説のハーレム勇者みたいに浮気したらヤダよ」

「分かってるって……そうだ、指切りしよう」


『ゆーびきりーで、約束ー!』


 イクトとアオイの可愛らしい結婚の約束……小さな子どもならではの罪のない指切り。幼稚園就学前の約束なんて、大きくなってしまったら覚えていないという人も多いだろう。

 だが、イクトは転生者という特殊な魂の持ち主……記憶は断片的ながらも地球で高校生として生活していたことや、異世界にて勇者として選ばれていたことくらいは認識しているスーパー幼児だ。そのため、このプロポーズも本気で行なったものである。

 彼の肉体がまだ小さな幼な子だからなのか……それとも潜在意識の中に眠るハーレム勇者としての資質がイクトの人生の舵を狂わせるのか……?


 幼稚園に通い始めると同時に、アオイ以外の少女とも、知り合いになり……幼いながらも俗に言うフラグを順調に構築していく。それは、新たなハーレム勇者への第一歩の始まりだった。



 * * *



 イケメン幼稚園児イクトの朝は、他の子に比べてちょっぴり早起きである。人一倍身だしなみに気を使うイクトは、西地区幼稚園の園児の中でも1、2位を争うモテ男だ。

 リビングにある全身ミラーの前で、細かく自らの容姿を確認するイクトは幼いながらもすでにナルシストへの片鱗が見え始めていた。


「ふう、身だしなみの確認よし……エステル、どっかおかしいところないかな?」

「大丈夫だよ、今日もバッチリ決まってるねイクト君」

 日課となっている守護天使エステルと全身ミラーの前での確認作業。イクトにとっては、自意識を磨くとても大切な時間である。


 水色の上着と紺色の半ズボンに黄色い帽子というありがちな幼稚園児ファッションをいかにクールに着こなすかが勝負どころ。


「イクトー、そろそろお迎えのバスが来るわよ。支度は済んでる?」

「すぐ行くよ、じゃあエステル行ってくるからっ」

「気をつけてね、イクト君。神のご加護がありますように」

 玄関ドアをお母さんに開けてもらい、爽やかな朝の日差しを浴びながら数分家の前で待つと、淡い黄色のバスが見えてきた……西地区幼稚園の専用バスだ。


 オシャレにカットされた焦げ茶色の前髪をナルシスト気味に揺らして幼稚園バスに乗り込む。


「おはようございまーす!」

「……! イクト君お早う。今日は私の隣に席に座るんだよね?」

「ズルイ、今日のイクト君とお隣になるのはあたしなんだからぁ」


 イクトが登場するだけで、心なしかマセた少女達の小さな修羅場が発生する。日常茶飯事と化してきているやりとりに、担当の先生が優しく子どもたちをなだめる。

「ほらほら、バスを出発させないといけないから仲良く席に着きましょうね」

「はぁーい」


 伝説のハーレムとまでいかないものの、同級生や保護者たちの間でイクトは謎のモテ系幼稚園児として名を馳せ始めていた。


『もしかすると、イクト君はハーレム勇者の生まれ変わりなのではないか……』



 魔獣復活により、多くの冒険者が犠牲になった魔法変動から数年……生まれ変わった冒険者はイクトだけではなかった。


「イクト君! おままごとのお父さん役がいないので、イクト君やってくださるかしら?」


 そう言ってイクトに親しげにおままごとに誘うのは、清楚系美人白魔導師マリアの生まれ変わりと思われる、1歳年上の美少女マリアだった。

 お外でのフリータイムは全学年同時に解放されるため、年上のマリアとも遊ぶ機会が多い。

 マリアは黒髪の清楚な美少女で、ハッキリ言ってイクトの好みのタイプである。本当は男の子の幼稚園児なら、イクト以外にもいるので別にイクトに頼む必要はないのだが……。


「うん、いいよ! えへへ……今日のおままごとはどんな職業設定にしようか」

 イクトもまんざらではないようで、マリアの夫役を引き受けた。

「そうね、昨日はギルド所属の剣士と魔法使いの夫婦って設定だったから……。今日は、オーソドックスに会社勤めの夫と専業主婦の妻という設定にしましょう。うふふ……イクトさん、早く起きてくださいな……ご飯できたわよ!」

「うーんむにゃむにゃ……おはようマリア。おや、朝食のいい香り……今朝は和食か。味噌汁、炊き込みご飯、だし巻き卵、焼き魚……手作りの漬物まで!」

「ええ、愛する夫のためですもの……食べさせてあげるわ。あーん」

「あーん……えへへ、マリアはいい奥さんだなぁ」


 鼻の下を若干伸ばしながら、ヘラヘラとおままごとをエンジョイするイクト。だが時折、結婚の約束を交わしている幼馴染のアオイのことが脳裏にチラつく。


『イクト君、浮気しちゃダメだよ! 約束だからね……』


(ヤバイ……そういえばアオイと指切りしているんだった。浮気しちゃダメだって……けど、おままごとくらいなら浮気のうちに入らないだろう)


 魔族一族に生まれたアオイは、一見すると普通の人間族と変わらない外見だがやはり種族が異なる。残念ながら魔族御用達の幼稚園に入園してしまい、イクトと同じ幼稚園には通わなかったのである。


(オレはこうしてアオイのいない寂しさを紛らわせているだけなのかもしれない。けれど、別にマリアたちと小さな子ども特有の遊びを楽しんでいるだけだし……悪いことをしているわけじゃないんだ。もっと、堂々と遊ぼう)


 イクトの心の中では、幼稚園での遊び仲間は浮気のカテゴリーに入らないという解釈に落ち着いた。アオイがこの様子を見たらどう思うかは定かではないが。

 罪悪感を振り払ったおかげで、アオイの目を気にすることなく、他の美少女達と楽しい幼稚園ライフをエンジョイする事に……。


 もちろんハーレム状態……である。生まれ変わったイクトの仲間はマリアだけではなかったからだ。


「おーいイクト。おままごとが終わったら、次はアタシとサッカーしようぜ! このサッカーボールまだ新しいんだ」

 そう言って明るくイクトをサッカーに誘うのは、金髪美人エルフアズサの生まれ変わりと思われる、エルフの美少女アズサだ。

「分かったよ、アズサ。じゃあマリア……次はアズサ達とサッカーするから、観戦してて」

「うん、応援しているね」


 アズサはスポーツが大好きで、大人しい印象のエルフ族にしては活発でおてんばだ。イクト達が暮らす西地区にはエルフ専用の幼稚園はないため、同じ幼稚園に通っている。

 ちなみに絵に描いたような美少女金髪エルフで、やはりイクトの好みのタイプである。


 すると、やり取りを静かに見守っていたのか……イクトと因縁の深い人物がもう1人現れた。


「イクト君、次は私とお花で冠作る約束したでしょ! サッカーとお花どっちにするんですの?」

「えへへ……ごめんよエリス。じゃあ、エリスはオレが勝ったときのために、お花で冠を作りながらマリアと一緒に観戦しててくれ。あとで、2人でゆっくり遊ぼう」

「もう、仕方がありませんわね……サッカーに勝てるようにおまじないをしてあげますわ」


 ちょっぴりヤキモチを焼いている美少女は、神秘系美少女神官エリスの生まれ変わりと思われる、銀髪美少女エリスだ。

 エリスは、由緒正しいハロー神殿の神官一族の縁戚にあたる。生まれつき霊感に優れており、すでにご神託を受けるための専門的な修行を行っているという。そんな彼女も、普段は西地区幼稚園に通う普通の園児……もちろんイクトの好みのタイプである。


 どの美少女もみんな好みのタイプなので、イクトの好みのタイプがバラついて見えるかもしれない。だが、イクトは美少女ならわりと誰でも好みのタイプなのだ。


 このポリシーのなさ……まるでスマホゲームRPGの主人公のごとく寄ってくる美少女を次々と遊び仲間に引き入れていく姿は、他の素直になれない園児から見ると羨ましい限りであった。イクトは自分に素直な幼稚園児なのである。

 さらに、今回はまだ女アレルギーの呪いがかかっていないため、女の子と楽しく遊んでも健康を保っている。つまり、どんなに女の子とコミュニケーションを取っても元気な状態でいられるのだ。



 * * *



「イクト君、また明日ねー」

「うん、また明日ー」


 ブロロロロ……。遠ざかるスクールバスを見送り、ホッと一息つく。

 何度か修羅場になりかけながらも、うまく立ち振る舞い平和にその日幼稚園が終わった。


「今日も楽しかったな……」


 まるでハーレムの構築のために、幼稚園に通っているかのような錯覚すらしそうである。だが、世間が考えているよりもまだ肉体年齢に合わせてピュアな心を保っているイクトとしては、かつて冒険した仲間達の生まれ変わりと再会できただけでも嬉しかったのだ。


 イクトが家に入ろうとした瞬間、そこにタイミングよく占い師が通りかかった。もしかしたら、ただ単にイクトが帰ってくるのを待っていたのかもしれないが。


「そこの幼稚園児……お主、ハーレム勇者の資質が目覚めてきているぞ。伝説のハーレム、世界平和のハーレムを謳いながらも次第に内輪で女同士の確執が出来ていく……おお、不吉じゃ! 悪いことは言わん……今通っている幼稚園から転校して、前世の仲間たちとの因縁から離れるのじゃ。女アレルギーを発症したくなければな」

「前世の因縁……転校って言われても……オレまだ幼稚園児だし、自分の意思で転校なんて決められないよ」


(オレの前世が女アレルギーだって、どうして知っているんだ。やたらリアルに指摘してくるな……ハーレム勇者の資質って。まさか、この占い師オレの前世が異世界転生ハーレム勇者だってことに勘付いて、わざわざここまで来たのか?)


「やめて下さい……あやしい勧誘はお断りです。それに、この子はまだ幼稚園児なんです……お友達と普通に遊んでいるに過ぎないわ」

 すると、お母さんが心配してオレを家の中に入れた。

「気をつけた方が良いぞ……運命の相手を1人に絞るのじゃ。さもなければ、再び不幸がそなたらに降りかかるじゃろう」


 パタン……急いで玄関のドアを閉めるが、まだ外で何か話しかけているようだ。


「ふぅ……びっくりした」

「イクト、気にしちゃダメよ。お父さんが、伝説の勇者様から名前を頂戴したのが良くなかったのかしら? 明日からは、守護天使のエステルちゃんも一緒に幼稚園に付き添ってもらいましょう」


(不吉か……ハーレム勇者って、この時代じゃ不吉な存在なんだな。ちょっと明日からは自重していこう)


 その日の夜は、テレビ番組でも女アレルギーの特集が組まれていたり、伝説の勇者の謎に迫るとか、勇者の生まれ変わりを目撃したとか、生まれ変わりに魔獣を討伐させようとか……。

 前世の素性がバレると、良からぬ展開になりそうな情報を多く目にした。


(もしかしてこれが、不吉なフラグってやつなのか。さすがに幼稚園児の年齢で魔獣討伐なんてできっこないよ)


 気にしないように……と言われたものの、あまりにも前世の指摘が当たっている気がして不安になるイクト。

 けれど、お母さんがイクトの好物である美味しい手作りオムライスを作ってくれて、占い師の言ったことなんて、その日のうちにすっかり忘れてしまったのである。


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