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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第四部 運命の聖女編
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第四部 第2話 初恋とプロポーズ

 

 オレの名前は結崎イクト、スマホRPGが趣味のゲーム好き高校生……だったはずだ。

 ある日、ひょんなことからスマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』の舞台になっている異世界アースプラネットのハーレム勇者として召喚されてしまった。

 今となっては、それが異世界転移だったのか異世界転生だったのかすら定かではない。分かることは、まるで自分自身がゲームの中のアバターとしてごく普通に肉体を持って生活できていた……ということだけだ。


 そして、おそろしことに一夫多妻制の異世界でハーレム勇者であるオレは……よりによって生まれ持っての女アレルギー持ちだった。


 旅の途中、ふと訪れたエルフの里で……呪われし女アレルギーが発症し……ついに帰らぬ人となった。


 しかしながら、ゲームオーバーにはならず……正式にこの異世界に生を受けることになってしまう。まさかのゼロ歳児からの人生のやり直し。



 すなわち、もう一度勇者としてリアルに人生をプレイし直すことになったのである。


 前世の記憶持ちという意味で意識が覚醒し始めたのは3歳の誕生日。オレの傍には、転生前から付き添ってくれている金髪守護天使のエステルが、ふわふわと見守っていてくれた。

 守護天使はどうやら両親にも見えているらしく、何かあると「エステルちゃんイクトをお願いね」とベビーシッター代わりにしていた。


「ねえ、イクト君……肉体を得るまで数年かかったけれど、魂が星として漂っていた頃の記憶はある?」

 エステルは時折、2人きりになると魂としてさまよっていた頃の記憶の有無を尋ねてくる。守護天使としては重要な事項なのだろうが、あいにく肉体を失ってからの記憶部分は曖昧だ。


「ううん……生まれる前のことは、何となくしか覚えていないや」

「そっか……でもね今の暮らしがあるのはイクト君があの世で頑張って転生できるように努力したからなんだよ。それは、覚えておいてね」


 どうやら、オレは転生するまで結構な年月をかけた様子。幸い、地球で高校生として生活していたという記憶や勇者として冒険していた頃の記憶は断片的に持ち合わせている。だが、いわゆるあの世での記憶や転生するまでに魂として漂っていた頃の記憶はほとんど失われているのだった。



 * * *



 転生したオレの両親は、アースプラネット西地区の再奥で静かに暮らしている民間人。もしかしたら強力な攻撃魔法や剣術を使いこなせるのかもしれないが、今のところそういった様子はない。


「あら、マッチの火がつかないわね……大気に宿る炎に精霊の……小さな火の粉を我に与えよ……」


 ぼうっ! 魔法結界用のキャンドルに、小さな火がつく。

「わぁ……お母さんって、火の魔法が得意なんだね」

「日常で役立つものしか最近は使わないけど……ほら、いい香りが漂ってきたわよ」

 お母さんは、元魔法使いらしく小さな炎をともす魔法をときおり使っているが、週に一度家のリビングで使用する魔除け結界発動用のキャンドルに火をつける時くらいしか活用していないのだ。


「おっ今日は、教会の見廻り当番だな。帰りがちょっと遅くなるけどお母さんもエステルもイクトのこと頼んだぞ。お腹の赤ちゃんのこともあるし、無理しないようにな」

「ええ、行ってらっしゃい……気をつけてね」

「いってらっしゃい、お父さん」

「お気をつけて……神のご加護を」


 お父さんに関しては、かつては冒険者だった事やたまに所属教会の依頼で近所の見廻りをしているくらいしか情報がない。


 自宅は一軒家で、緑色の屋根のこの辺りにはよくある西洋風の家だ。結構広めの庭があり、家庭菜園のスペースとなっている。自給自足までとはいかないが、茄子やジャガイモなどを時折収穫し調理されて食卓に並ぶ。

 まだ小さいので遠くへ移動する機会もあまりないが町の様子を見たところ、西地区の中でもかなり田舎のようだ。

 今日は青空が澄んでいて、思わず庭へと出てみた。庭に咲く黄色い花に蝶々がひらひらと舞ってくる。春風が吹き、平和に感じたが……。


 ブイーン、ブイーン!

 突然、辺りに警報音が鳴り響く。

『アースプラネット中心地区で、魔王軍と勇者一行による大規模な戦いが起きました。強力な呪文による影響が考えられます。念のため、民間人は各シェルターに避難して下さい』


「大変! イクト、エステルちゃん、地下室に避難するわよ」

「わっっ」


(勇者一行……? 今はオレ以外にも勇者として戦っている人達が増えているのか)


 オレは身重の母親に抱っこされて、家の地下室に避難した。意外なことに、地下室の方が地上の住居スペース部分より広くなっている。もしかしたら、ここが本来の生活スペースなのでは? と疑うほどだ。


 たくさんの非常食、ベッド完備の就寝スペース、書斎には立派な机、リビングスペースにはテーブルと少し大きめのソファー、そして本棚には魔導書や剣術の教則本がギッシリ。思っているよりもずっと高度な魔導用の杖や戦闘用の剣も揃っている。


 オレの両親は、本当はどういう人達なんだろう?


「いざとなったら、お母さんが守ってあげるからね」


 そう言って、お母さんは魔導師の杖を握りしめながら、オレの頭を優しく撫でてくれた。


『民間人の皆さんは、万が一に備えて避難シェルターで過ごして下さい。繰り返します……』


「ねえ、お母さん……しばらくここで生活するの?」

「シェルターはね、いざという時に備えてきちんと生活が出来るように食料や武器を保管してあるの。この町は、激戦区からはかなり離れているからいきなりモンスターが襲ってくることはないだろうけど……心配しなくてもいいわよ」

 普段は優しく大人しい印象のお母さんがこういう時は、頼もしく見える……だが、お母さんは現在妊娠中なのだ。日増しにお腹が大きくなっていくお母さんには、あまり無理させたくない。

 すると、エステルがオレたち親子を安心させるかのように、お祈りを捧げてくれる。

「私も一応守護天使の端くれ……神様にお祈りしてこの家の平和と安全を守るように努力するからね」


 身を寄せ会うように静かに数日間過ごすことになった。オレたちが地下シェルターにいる間、お父さんは一度も家に戻らなかった。

 モンスターの脅威から街を守るためには市民の誰かが見廻りをやらなくてはいけない。誰かがやらなくてはいけないことなのは分かっている……けれど、やはり心配だ。


「ねえ、お父さん……なかなか戻らないけど大丈夫かなぁ?」

「お父さんは、冒険者だった頃所属していたギルドの中でも運が良いことで有名だったそうよ。だから、きっと大丈夫……ちゃんと帰ってくるから」



『戦闘の終了を確認しました……』



 安全宣言が出てようやく地上に出られるようになったものの、常に警戒体制なんだそうだ。


 しかし……なんでこんなに治安が悪いんだろう。


 現在、3歳児のオレにできる情報収集の限界はテレビニュースだ。テレビの特集によると、現在の魔王は見たことも聞いたこともない別の異世界からやってきた魔獣で、昔の魔王一族である真野山君ことグランディアは、とっくの昔に天に召されたそうだ……。


「そんな……真野山君まで天に召されていたなんて……」


 オレは、かつて恋心を抱いていた真野山君がもうこの世にいないことを知り、ポロポロと泣いた。


「イクト君……もしかしたら真野山君も転生しているかもしれないよ。また会えるよ……きっと」

「うぅ……けどさ……やっぱり哀しいよ……」


 徐々に明らかになる社会情勢は、思っていたよりもずっと魔獣に有利なものだった。正確には魔獣と呼ばれているものは、主体的な意思のあるものではなく人々の邪悪な心を察して起動する召喚獣のような存在なんだとか。つまり、人間族や魔族、エルフ族などの多種族間に生じていた亀裂やわだかまりの結果が現在の魔獣の支配下を生み出したのだろう。


 その証拠に……魔獣が封印されていた千年の間にもそれぞれの種族戦で幾度となく争ってきたのだから。



 * * *



 守護天使エステルの言っていたことは当たっていて……妹アイラが産まれてしばらくしてから近所に引っ越してきた真野山葵まのやまあおい君の生まれ変わりである、美少女アオイと出会うのであった。


「イクト、良かったわね。同世代の子が近所に引っ越してきて!」

「イクト君っていうんですか……ふふっアオイと仲良くして下さいね」


 アオイは青髪ショートボブの可愛らしい女の子で、どこからどう見ても真野山君の生まれ変わりだ。パッチリとした大きな瞳、白く透き通る肌、整った鼻筋や唇。

 現在のアオイは、眠りについていた真野山君の魂と肉体が完全復活するというご神託を受けた特別な魔族だが、ごく普通の民間人として生活しているそうだ。かつての魔王一族の遠戚に当たる若夫婦が、新しい両親なんだとか。


 しかも今回のアオイは呪われていないので、正真正銘完全な女の子である。


 転生後、はじめての恋愛対象との出会いに胸が高鳴る。可愛い……可愛すぎる……これが初恋というものなのか?


「イクト君、アオイです。はじめまして! 仲良くして下さい」

「よっよろしくなっアオイッ」


 オレとアオイはご近所ということもあり、毎日のように遊ぶようになった。転生してきて本当に良かった。魔獣との戦いに怯えるばかりの暮らしが続くのかと思われたが、アオイの身体に宿る本家魔王としてのオーラがモンスターを従えるのか……次第に治安は良くなりモンスターに襲われる民間人の数は減っていくのであった。


(アオイ……いつ見ても無茶苦茶可愛いな。オレのこの熱い気持ちを素直に伝えてハーレム勇者の呪縛から解放されよう。うん、それがいい)


 或る日、オレは自宅の庭に咲いていた一輪の青い花を手に、アオイにプロポーズした。


「アオイ……このお花アオイにあげるよ……青くて、綺麗で……アオイに似てすごく可愛いから……。なぁアオイ、大きくなったらオレのお嫁さんになってくれ!」


 アオイは美しい青い花を受け取り、優しく……しかし遠い昔に何処かで見た事があるような、憂いを秘めた瞳で花を見つめた後、可愛らしくにっこりと笑った。


 まるで、将来のことを見透かしているかのような儚げな表情だった。


「イクト君……嬉しい。大きくなったら結婚しようね、約束だよ……伝説の女アレルギー勇者みたいにハーレム作っちゃダメだよ。アオイ、そんなことされたら本物の魔王になっちゃうからっ」

「うん、約束だ。指切りしようっ」


 オレとアオイは結婚の約束を交わし、オレは今回の人生こそはアオイ一筋に生きると心に決めたのである。


 だが、幼少期の約束ほどもろいものはない。幼稚園に通うようになったオレは、前世で旅を共にした清楚系美人白魔法使いマリア、金髪美人エルフアズサ、神秘系美少女神官エリスの生まれ変わりと再会し、ハーレム勇者への第一歩を踏み出すのであった。


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