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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第三部 転生の階段編
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第三部 第23話 エルフの里の温泉で


「ようこそ、エルフの里へ! 勇者様をエルフ族はみんな歓迎いたしますわ!」


 修道院を出て森を抜けると、光の回廊がまるでオレ達を導くかのように現れた。そして、回廊を抜けた先には一面の花畑……そこはエルフの里だった。

 RPGでは妖精族の代表格として取り上げられることも多いエルフ……。前回のゲームでは金髪美人エルフのアズサが仲間だったが、記憶がみんなリセットされてしまい、出会いも1からやり直しだ。

 今のところ、旧パーティーメンバーで合流出来ているのはマリアとミーコの2人だけだ……アズサは元気だろうか? やはり、記憶を一旦リセットされた状態なのだろうか。


「へぇ……修道院の抜け道からワープエリアがあったんですね。地図上だと、エルフの里は結構遠くの立地のハズだけど……」

「都合よく、ワープエリアがあったおかげで冒険の初期早々に、エリアを移動できたってわけか。前の冒険では、そのまま23区を目指したけど同じルートを巡ってもクリア出来なさそうだし……取り敢えず散策してみるか」


 すると、シスターマリアが嬉しそうに話し始めた。

「実は……私の学生時代の友人がこのエルフの里にいるんです。アズサっていう子なんですけど……元気にしているかしら?」

「宿屋が決まったら、アズサさんの自宅を訪問してみるといいよ」

「えっいいんですか? ありがとうございます。私の記憶が確かなら宿屋はあっちです。行きましょう!」


 リセットデータの中でも、マリアとアズサは友人設定なのか。ちょっと、安心してしまった。



 * * *



 全体的に、ナチュラルな木製の家屋が並ぶエルフの里。歩道には花のアーチがあちこちにありメルヘンチックな雰囲気である。住人のエルフ達は、皆民族衣装に身を包みふわふわとしたスカートを靡かせて動きまで軽やかだ。

 妖精族の里なので当然なのかもしれないが、まるで遠い異国に遊びにきたかのような錯覚をしてしまいそうである。だが、地図上の所在地はネオ関東のようだ。


「にゃー、エルフの里は、何だかお花や蝶々がたくさんいて楽しいところですにゃ。ここでしばらく遊ぶのにゃ」


 猫耳メイドのミーコも猫的な本能がくすぐられるのかエルフの里が気に入ったようだ。ひらひら飛んでいる蝶々を、興味深そうに目で追っている。

 エルフの里の入り口から徒歩10分ほど……可愛らしい丸い形のドアに、おとぎの国そのものの妖精がいかにも住んでいそうなパステルグリーンの葉っぱをあしらった屋根。

「ここがエルフの里の宿屋か、宿屋の見た目まで可愛いな」

「さすが妖精さんの営む宿泊施設って感じですね。早速入ってみましょう」


 カランコローン!

 大きなドアを開けると、ベルの音がロビーに鳴り響く。来客に合図に、エルフの美少女が1人現れる……ここで働いている従業員なのだろう。

「ようこそ! エルフの宿屋へ……あれっもしかしてマリアちゃん? 久しぶり、元気だった?」


 宿屋の受付係として勤務している従業員……どうやらマリアの知り合いのようで……。

「アズサ……元気そうで何より……。紹介するわね、勇者イクト様と旅仲間のなむらさんいミーコさん」

「うわぁ、初めまして! アズサと申します。よろしくっ」

 金髪の髪を花で飾り、ふわふわひらひらした民族衣装風のワンピースを着たエルフ……それは、かつて共に旅を続けたエルフ剣士のアズサだった。


「ど、どうも……ハジメマシテ……?」


 可愛い……あまりにもキャラが違くないか……誰だこの美少女は?


 オレのかつての仲間のアズサは、超がつくほどの美人だった……。が、ヤンキーギャンブラーキャラのせいか、ちょっとケバめのメイクととがった露出度の高い服装で、可愛いという感じではなかったのだ。


 でも今、目の前にいるエルフのアズサは確かに仲間のアズサと同一人物なのだが、いかにもおとぎ話に出てきそうな、清純そうな可愛らしいエルフなのだ。

 キャッキャ、うふふと談笑する声色まで萌え萌えしている……。


「マリアちゃんが遊びに来てくれて、アズサ嬉しいな。冒険の途中で疲れてると思うし……ゆっくり休んでいってね。勇者様……あとで冒険のお話を聞かせてくださいな……なんてっうふふ!」


『ドキン!』


 あまりにもキュートなアズサにときめいてしまうオレ……。でも、あのアネゴヤンキーキャラのアズサも魅力的だったので、ちょっと複雑な心境だ……ってオレは一体何を考えているんだ?


 萌え萌えしたアズサにお部屋を案内され、これまたキュートなエルフルームに荷物を置いた。花柄の壁紙は、押し付けがましくない程度に室内を彩り癒しの空間を演出している。

「ふう……なんかオレだけ1人部屋で悪いかな? でも、女の子と同じ部屋に泊まるのは気がひけるし……仕方がないか。贅沢だけど、部屋を満喫させてもらおう」


「みゃーみゃみゃー」


 すると、どこから入ってきたのか猫がベッドの上に飛び乗り……スヤスヤと眠ってしまった。


「あれっ……猫が入ってきちゃったみたい……どうしよう」

「いいよ。オレ猫好きだし……猫だってふかふかのベッドでたまには休みたいんだろう」


 そんな会話をしていると、先ほどまでまったりくつろいでいた猫が目を覚まし、オレとアズサにじゃれてきた。


「にゃーんにゃーん!」


「きゃっ! 猫ちゃんダメ!」

 アズサの髪留めが気になるのか、飛びかかってきた猫を傷つけないように捕獲して宥める。

「コラ! 猫……アズサに迷惑かけちゃダメだろ?」

「みょーん」


 グラグラ……ドサッ!


 猫に飛びつかれた勢いで、オレとアズサはベッドに倒れてしまった。ちょうど、オレがアズサを押し倒しているような状態になってしまっている。


「ゴ……ゴメン! えっと……そんなつもりじゃ……」

「イクト君……!」


 オレとアズサの距離……もとい顔がものすごく近い。ほとんどキス間近な距離感といっても過言ではない。それにしても、エルフって無茶苦茶肌がキレイだな。内側から発光するような頬やうなじの艶めきに、吸い寄せられそうになる。

 アズサは以前どうしてケバめヤンキーキャラだったんだろう? ナチュラルにしていても、こんなに可愛いのに……。


 ギシリ……ベッドが音を立てる……まるでこれ以上近づいてはいけないと警鐘を鳴らすかのようだ。

 ドキドキばくばく……お互いの心臓の鼓動が感じ取れるくらい密着している。


「イクト君……いけません。年頃の若い男の人と接近しちゃダメって……アズサ、お嫁さんに行けなくなっちゃう」


 ピュアモードの可愛らしいアズサにそんなことを言われて、ちょっとショックなオレ……。


「えっと……ゴメンね! わざとじゃないんだ」

 さっとベッドから離れて、再び距離を置く。緊張で流れ始めた汗をぬぐい、平静を装うことに。ふぅ……危ない……これ以上密着したら女アレルギーで発作を起こしていただろう。

「……でもアズサ、イクト君なら……お嫁さんになりたいかも……だってイクト君、カッコいいから……きゃっ、アズサ、何を言ってるんだろう? ゆっくり休んでくださいね!」


 パタパタパタ……。


 あまりにもキャラクター設定が変わってしまったアズサに動揺しつつも、ドキドキしてしまう。

「アズサ……変わったな。いや、あれが本来のエルフ族の少女アズサなのか」



 * * *



 そして……いつのまにか陽が落ちて夜になった。

 エルフの里は、天然の温泉が有名らしい。幸い男女の風呂は別々だが隣り合っていて、風呂上がりに女性とすれ違う危険性もある。女アレルギーであるオレは女性のいなさそうな時間を見計らって、1人で入浴させてもらったのだが……。


「イクト君……いる? さっきお仕事が終わったの!」


 いきなり、アズサが温泉に入ってきた様子。男女の風呂を隔てる竹の柵があるものの、ビックリして胸がドキドキする。若い男との接近はダメなんじゃなかったのか?


 ちゃぷん! アズサが温泉に浸る音が柵越しに聞こえる。世間話を竹の柵越しにフレンドリーにしてくるアズサ。


「えっと……アズサ……若い男と接近しちゃダメなんじゃ……?」


「……好きな男の人は別なの……アズサ、イクト君に一目惚れしちゃったみたい」

 柵越しでも分かるくらい恥ずかしそうな声で、突然告白してくるアズサ。

「えっ……一目惚れだとッ?」

 まさかの告白という想定外の展開に混乱するオレ。


「イクト君……すぐに、冒険の旅に出ちゃうんでしょう?」

「ああ、魔王を討伐しないといけないし」


 アズサは、思いつめた声色で何かを真剣に考えているようだ。

 そうこう話しているうちにお互い温泉から上がり、浴衣姿で軽食コーナーに向かい、一緒にコーヒー牛乳を飲む。アズサは浴衣姿もよく似合う。コーヒー牛乳を飲み干したアズサは、決心した様子で再び驚きの告白をしてきた。


「あのねイクト君……もしよければ、アズサと結婚して子どもを作って欲しいの! エルフ族は人間と恋をした場合、一緒に里を出るか結婚して赤ちゃんを作るかしないと認められないの! アズサ……気が弱くて冒険出来ないし、せめてイクト君の赤ちゃんが欲しいなって、ダメかな?」


 そう言って迫ってくるアズサは、ものすごくキレイで可愛くてオレは思わず流されるまま……。


「そ、その……オレなんかでよければ……」


「本当? 私と赤ちゃんを作ってくれるんだね……アズサ……嬉しい! イクト君大好き!」


 と言いながら、無邪気に抱きついてくるアズサに、オレの女アレルギーゲージは一気に振り切れてしまい……。


 ドキンドキンドキンドキン……ブチっ!


 オレは、今までにないほどの絶叫をあげながら『超突発性型緊急女アレルギー』に見舞われ、エルフの里の夜間救急病院に緊急搬送されたのであった。


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