第三部 第15話 妹の親友の初恋は……オレ
いきなり始まった、恋愛ゲームアプリドキドキデートメロドラマ。異世界アースプラネットのネオ立川駅北口周辺で女の子に告白されると、その女の子と結婚できるというゲームアプリだ。
本来はただのジンクスだが、異世界アースプラネットの勇者であるオレの場合は、本当にそのゲーム内で告白してきた女の子が伴侶になるようで驚きの展開である。
困ったことに、突然乱入してきたマリアがドキドキ度は120パーセントで1位。ただ単に結婚相手が何らかの形で運命付けられているならともかく、ゲームの数字を元に運命の人が決まってしまいというのは、ちょっぴり腑に落ちない。
しかも、マリアと結婚した場合の幸福度は25パーセント……。別にオレだってマリアのことは嫌いじゃない。普通に見れば美人で清楚で優しくて……典型的なギャルゲーのヒロインと云っても過言ではない人物だ。しかも、スリムなスタイルに似合わずFカップ巨乳の持ち主……どちらかというと、お嫁さんになってくれるなら喜ぶ展開だろう。
だが、マリアは普通の清楚系ギャルゲーヒロインではなかった。
マリアの特異体質……その名も【ギャンブル依存症】だ。アズサからの話が本当なら、猫に変化させられた際に、パートナーとなったエルフの少女をギャンブルの道へと誘い家庭崩壊まで巻き起こしたとか。
このマリアエンドを回避するには、他の女の子に告白させなくてはならない。
* * *
とりあえず、マリアの好感度を下げる方法を調べよう。
ピッピッ!
アプリ内の攻略キャラ情報ページから、マリアの特徴を探る。
【攻略キャラクターマリア】
清楚系美少女白魔法使いのマリアさん。黒髪ロングヘアの清楚な容姿ですが、見た目に似合わず実はギャンブル好き! そんな彼女の好みの映画は、ギャンブル映画かアクション映画です。
意外なことにマリアさんは、難しい映画は苦手なようです。経済や史実をテーマにした難しい映画を見ると、嫌われてしまうかも。
つまり、マリアと経済映画を見ればドキドキ度が下がってフラグ回避だ。この手のゲームでわざわざ好感度を下げるプレイヤーもいないだろうが、これも幸せの為である。
さっそく、どの映画を鑑賞するか検討中のメンバー達に声をかける。
「あのさ……オレ、経済映画が見たいんだけど」
「経済映画? 珍しいジャンルを選ぶね。イクト君って結構インテリなんだね」
「お兄ちゃん、経済に興味あるの? なんか意外っ」
目を丸くして、率直な感想を述べる真野山君とアイラ。
「ああ、うん……なんていうか興味が湧いたっていうのかな。ほら、オレ達って冒険の初期の頃はお金のやりくりで苦労したじゃないか? 特にネオ立川に来るとその時の事を思い出すんだよ。せっかく、良さそうな映画がやってるし……勉強も兼ねて」
普通、デートで経済映画を見る人は少なそうだが、これも不幸回避のためだ。
「確かに、もう一度冒険することになった時のことを考えて勉強しといたほうがいいかもな」
「そうですわね、私はその時のことをよく知りませんが……経済力は大切ですものね。賛成ですわ!」
アズサとエリスは、経済映画の鑑賞に賛成の様子。
「じゃあ、他のみんなも良ければそれで……」
「うん、これも冒険者として必要な知識かも。行こう! お兄ちゃん」
隣では大人気映画『スターホース』を上映しているのでだいぶKYなデート選択だろう。
【鑑賞後】
「ふふっ。すごく面白かったね! お兄ちゃんありがとう!」
「経済映画って難しいイメージだったけど、富豪の人生の紆余曲折が細かく描かれていて、感動したよ!」
「最近は、経済映画ブームが到来しつつあって、書籍もベストセラーがいくつか出ているそうですよ! 原作も読みたいです」
経済映画と聞くと難しいイメージがあったが、株の難しさや人生の波が上手く描かれていて、かなり面白かったな。得した気分だ……フラグ回避のための選択だったが、かなり良い経験をしてしまった。
ピコピコポイーン! デートクエスト終了です。それぞれのドキドキポイントが加算されます。
「おっ? さっそく数値が変化しているな……どれどれ……」
スマホでみんなの好感度を確認すると、それぞれドキドキ度が上昇したようだ。
問題のマリアのドキドキ度はどうだろう?
データによると、経済や史実がニガテとあったが。
テレレレテレレレレーン!
『マリアのレベルが上がった』
『マリアは株に興味を持ち始めた』
『マリアのドキドキ度が10上がった!』
「何ィ⁈ 好感度がなぜか上がっている?」
マリアに嫌われるために経済映画を選んだのに、映画の内容が面白すぎてマリアの趣向が変わってしまった。
すると、ポイントが上昇した影響によるイベントが発生! みんながお土産を購入している間にマリアに呼び出されて二人っきりに……。
目の前には頬を赤らめながら上目づかいで告白さながらに、感動を伝え始めるマリアの姿。
うっ……可愛い……このままでは、オレ自身がマリアに落ちてしまいそうだ。
「イクトさん……私、お金を増やすにはギャンブルしかないと考えていたんです。でも、株に挑戦すればもっと増やせるんですね。イクトさんは、この映画が私に必要なのを分かっていて……感動しました! 今日から私、デイトレーダーを目指します!」
「おいおい、影響受けすぎだろ? 大丈夫なのか」
モンスターレースで大損ばかりしているマリアに株の才能があるように思えないし、もっと破滅的なルートが待っているに違いない。どうしたら?
仕方がない……次はマリアのニガテな昼食をメニューに選んで、ドキドキ度を下げるか。再び、データを確認して対策を練る。
【マリアさんの食の好み】
『マリアさんは鳥の唐揚げやトンカツなどの、揚げ物やお肉料理が大好き。ヘルシー趣向のメニューはニガテです。ヘルシーメニューデートに誘うと、嫌われてしまうかも』
つまり、ヘルシーメニュー専門店に行けばマリアの好感度を下げられる……これだ!
オレ達は、駅ビルのレストラン街に向かった。
【ヘルシー専門店菜食主義屋】
「今日は、定番の洋食レストランはやめてここで昼飯にしよう」
「菜食主義? へぇ珍しい。お兄ちゃんお肉好きなのに……」
「おっ菜食料理か……エルフの里は菜食中心だからアタシは慣れてるけど、マリアはいいのか?」
菜食料理専門店の向かいには、マリアの大好きな肉料理専門店がある。
「はい……そろそろダイエットしたいし、菜食料理に挑戦しますっ」
意外なことに、やる気を見せ始めたマリアに嫌な予感がしつつも店内へ。
運ばれてきたのは、大豆ミートで作ったという鳥の唐揚げそっくりの揚げ物料理と、その他たくさんの野菜料理だった。
「おいしー! お兄ちゃん、この大豆料理、鳥の唐揚げそっくりだよ!」
アイラはもちろん、楽しそうに鳥の唐揚げ風大豆料理を食べる女性陣。
「大豆なのに、言われなければお肉だと思っちゃう……美味しすぎますわ」
「エルフの里でも、大豆ミート扱ってくれないかなぁ」
「今度、自分でも大豆ミート料理作りに挑戦したいな」
「菜食料理って大豆から、鳥の唐揚げそっくりなメニューが作れるんですね! すごく美味しいです……私ダイエット中はこの菜食料理オンリーにします!」
案の定マリアがものすごく喜んでいる……もちろん、ドキドキ度も上がってしまった。
この菜食料理の店は、大豆ミートという肉のような食感の低カロリー料理がウリらしく、ダイエット中で鳥の唐揚げをガマンしている女性に大人気らしい。
さらに菜食料理自体かなり味がよく、しかもたくさん食べても太らないので、女性受けはかなり良いみたいだ。
それぞれの好感度がグングン上がっていくものの、未だにトップはマリアである……。心なしかマリアが頬を赤らめて、こちらを見て照れ始めている気がする。この現象は?
緊急イベントが発生するフラグのようで、スマホ画面がピンクに点滅している。
【ドキドキモード最大】
ドキドキモードが最大になると、女の子の頬が常に赤くなります。思わぬラブハプニングが起こるかも。デートの後にもしかしたら告白される可能性も……。
思わぬラブハプニング? これ以上、マリアとフラグ立ててどうするんだよ? しかも告白なんかされたら、引き返せなくなるじゃないか。
オレはマリアの好感度を下げるのではなく、ターゲットを他の女の子にしぼり、他の女の子とのエンディングを目指す作戦に変更した。
でも一体誰にターゲットを絞れば?
* * *
「ありがとうございましたー」
楽しく食事が終わり、みんなで駅ビル内のショップで買い物することになった。
すると、洋服屋にどこかで見たことのある美少女の姿が。サラサラの黒髪にややつり目がちの大きな瞳……華奢な体つきは思わず抱きしめたくなりような可愛らしさ。
「……なむらちゃん!」
そう、アイラの親友でアイドルユニット『アイラなむら』のなむらちゃんだ。冒険者としてのメンバーではないため、ステータスは不明だが、今回のデートアプリは基本的に仕様が違うはず。
このタイミングでフラグが立つという事は、なむらちゃんも攻略対象なのだろうか?
「イクトさん……おひさしぶりです」
いつもクールで無表情っぽいなむらちゃんだが、心なしか頬が赤い……これは?
スマホ画面を確認するとそこには驚きの情報が。
【妹の親友なむらちゃん】
クールで無表情な彼女ですが、実はあなたが初恋の男性……ドキドキ度はぶっちぎりの150パーセント……あなたが勇気を出せば、なむらちゃんと幸せな結婚生活が保障されています。
【結婚後の幸福度100パーセント】
「なんだって⁈」
なむらちゃんの想定外のドキドキ度の高さに、オレの胸にもドキドキとした動揺が走るのであった。