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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第三部 転生の階段編
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第三部 第7話 エルフの里の純粋な幼なじみ達


 大魔王を勇者イクトが成仏させた後、イクト達パーティーはしばらく旅を休み、それぞれの生活に戻った。

 異世界アースプラネットと現実世界地球は、ゲートで往き来できるようになり、アースプラネットは気楽に行ける地球人達の新しい観光地として大人気だ。特にアズサの故郷エルフの里は、注目を集めていた。



 * * *



 アズサの住んでいる地域は、エルフの里の中でも観光需要の高い地域だ。今日も人間の観光客の姿がチラホラ。小さな子供を連れた若夫婦が里の中を駆け回る我が子の様子を愛おしそうに見つめている。


「ここがエルフの里かぁ。すごい、自然がたくさんだね! ほら、ここの通りなんかお花畑見たい」

「うふふ、本当ね。せっかくだし記念写真を撮りましょう! すみませーん、あの私たち家族の写真を撮って欲しんですけど……いいですか?」

 コンビニに向かう途中で、突然声をかけられるアズサ。大して急ぎの用事でもないし、まぁいいだろう。

「ええ、いいですよ。シャッターは……はーい撮りますよ……チーズッ!」

 ガシャガシャ!


「ありがとうございました!」

「エルフのお姉ちゃんありがとう!」


 観光客の人間に写真を撮って欲しいと頼まれるのもだいぶ慣れてきてしまった。ただ、写真を撮る時の掛け声がチーズなのは、かなり古い人間界の流行らしいが。アズサ一家の中では、未だに掛け声はチーズなので気にせず使わせてもらっている。


「……そうだ、コンビニでファッション雑誌とお父さんの胡麻せんべいを買わないと……」


 かつては閑散としていた地元のコンビニも観光客でいっぱいだ。紙コップや除菌シートなどのレジャーに役立ちそうなアイテム、サンドウィッチやおにぎりを手にした人間たちがレジの前で列を作っている。ピクニックでもするのだろう。

 ちょっとしたおつかいのつもりだったのに、随分と時間がかかってしまった。だが、そもそもエルフの里は平和すぎて暇を感じていたので少し人間と接するくらいでちょうど良いのだ。


『ありがとうございました!』


 コンビニで無事に目的の品を調達して帰路へ。お母さんが心を込めて育てたガーデニングの花の調子を確認しつつ、玄関へ。


「ただいまー。胡麻せんべい買ってきたよ」

「おおっアズサ。父さんの好きな胡麻せんべい、ちゃんとあったか。お釣りの500円はお小遣いにしていいからな! はっはっはっ、休みの日はこの胡麻せんべいがなくてはなっ!」

「うん、ありがとう」


 好物である胡麻せんべいを無事にゲット出来てご満悦の父の背中見送り、アズサも一旦自室へ。


「ふう……それにしても平和だな。冒険もボランティアも調合師の資格試験の勉強も終わっちゃったし……本当にやること無いや」

 気が抜けてしまいカントリー調のベッドにゴロンと横になる。何となく購入したファッション雑誌をパラパラとめくり、気を紛らわせる。


 何か他にも良い情報がないかとスマホでネットサーフィンをするが、可愛らしいキャットフードの宣伝動画が開始されるだけだった。


『可愛いキジトラマリアちゃんの猫缶シリーズ! キマイラにだって負けないぞっ』

『にゃおーん!』


「キジトラマリアか……うち、猫いないしな……。もういいや」

 噂によると、かつての親友マリアは美しい白魔法使いの姿を捨てて猫としtr人生を再始動させているらしい。

 猫缶のCMに胸が痛んでしまい、よそのサイトを検索する。


 ネットサーフィンにも飽きて、再びファッション雑誌をパラ見。欲しい洋服もいくつかあったが、そもそもエルフの里には人間族のブランドショップは展開していない。購入したければ、エルフ族の異空間ゲートをくぐり、人間族の世界へ出て電車を乗り継ぎ都会へと繰り出さなくてはいけない。あとは、ネット通販か? 


「たまには、地球の大学に顔だしてみようかな? でも休学しちゃってるしなぁ」


 アズサはもともとアースプラネットと地球の両方に家や戸籍を持っているので、昔より生活しやすくなった。が、冒険の仲間で親友のマリアが猫耳族になったり、後輩エリスが神殿に復帰してアズサは少し寂しい気持ちになっているのだ。


 エルフの里に戻ったものの、自然環境を守る活動がメインの民族であるせいか、野鳥を観察したり、植物を育てたり……。この間も幼なじみのエルフが手作りクッキーのお茶会に招いてくれたが、皆可愛らしい典型的なエルフ民族でギャンブラーなアズサは少し浮いている気がした。


 そろそろお昼ご飯の時間だ……たまには自分が料理でもするか。お母さんと妹はボランティアの手伝いで夕方まで帰ってこない。作るのはお父さんの分と自分の分だけだし、さほど手間ではないだろう。

 大きなフライパンで器用にチキンライスを作り、その後で卵をふんわりと混ぜながら焼いていく。


「おっアズサがお昼を作ってくれるのか? オムライスかな?」

「うん、もうすぐ出来るからまってて」


 集中力に欠けたせいかちょっとケチャップが多めになってしまった。けれど食べてみると意外にイケる。それなりに美味しくできたオムライスを完食し、洗い物を済ませる。手際よく片付いたおかげで、また暇だ。


 仕方がない……テレビでも見るか。


「あーあ、マリアは猫だし、エリスは忙しそうだし、ギャンブル仲間も一時解散になってつまんないなぁ」


 今でも、パカパカとしたヒヅメの音やファンファーレが聞こえる気がするのに、肝心のギャンブル仲間が一緒じゃないとつまらない……おかげでレース場にもしばらく足を運んでいない。


 そう言いつつも現在も実家のテレビでレース中継を見ながら、レース新聞片手にソファーでゴロゴロしているのだが。


「ちっハズレかっ」

 アズサは自分の賭けたモンスターが負けてしまい、いつものセリフを独り言で言ってみた。だが、いつも相槌を打ってくれるマリアや新しい競争モンスターの情報を仕入れてくれるエリスがいないと、むなしい気持ちになるだけだった。


 しばらくすると、予定より早くお母さんと妹が帰宅。やたら笑顔の妹ミーナの様子を不思議に思っていると嬉しい情報が届いた。


「姉さん、エルフの族長の提案で次の休みの日に、エルフの里で初めてモンスターレースを開催するんですって。エルフ杯という名前になるそうよ。姉さんレース好きでしょう? 家族や幼なじみ達みんなで観戦しましょう」


「……エルフ杯……だって? 族長、ナイス! なんだ、この里に何が足りなかったのか分かっているじゃないか!」

「良かったなぁアズサ。せっかくのお祭りだし、みんなで楽しもう」


 エルフ民族はモンスターレースをやらない人が多かったけど、これを機に新しいギャンブラー仲間を増やしたいものだな。

 純粋無垢な幼馴染達が、レースに関心を持つかは定かではないが、可愛いモンスターの競争を応援すると説明すれば彼女達も喜ぶだろう。

 もしかしたら、今後も一緒に観戦に行ける程度には興味を持ってくれるかもしれない。



 * * *



 モンスターレース当日、天候にも恵まれレース日和となった。


「アズサちゃん! 今日は、誘ってくれてありがとう!」

「可愛いモンスターが競争するのを応援するんだよね? ドキドキしちゃう!」

「わわー! 人がいっぱいだよ! エルフ族もレースに興味があったんだね!」


 モンスターレースを一緒に観に行こうと誘うと可愛いモンスターが観れると幼馴染のコノハ、スミレ、カエデは喜んでOKしてくれた。

 レースという名前を聞いて、フリフリヒラヒラのレースつきファッションにしたようだ。

 エルフ族は純粋無垢という特徴があるため、露出度の高いミニスカなども上手く着こなすものが多い。もちろん、ひらひらレース付きファッションも得意ジャンルで、皆よく似合っている。


 受験して都会の寄宿舎学校で一時期暮らしていたアズサとは異なり、ずっとエルフの里で育ったせいか相変わらず純粋無垢だ。

「ねぇ、アズサちゃんってこのモンスターレースっていうのすごく慣れているんでしょう? おススメのモンスター分かる?」

「えっ? そうだな、無難に情報誌で人気のモンスターが最初はいいんじゃないかな?」

「情報誌ね……今コノハちゃんが買いに行ってくれてるよ。たっのしみー」


 アズサはこの無垢な幼なじみ達をギャンブラーへの道に引っ張ることに少し罪悪感を覚えていたが、こんなに喜んでくれるなら誘って良かった。ギャンブルも依存症にならず、楽しくやればいいだけなんだろう。この幼馴染達なら大丈夫だ。


「おまたせー! バンバン勝てるイケイケな情報誌なんだって」

「ははは……」


 だが、アズサは気づいていなかった。自分もかつては、ギャンブルをやらない世間知らずな典型的なエルフ族だったことに……。


「あっ、屋台でたこ焼きが売ってる! みんなで食べよう!」

 露店のほかほかのたこ焼きをみんなで分けて食べる。外食というと、自然派に偏りがちなエルフ族だがたこ焼きはずいぶん気に入っているようだ。

「んーっ美味しくてクセになっちゃう!」

「いろんな食べ物が楽しめるのもレースの魅力だね。この炭酸ジュースも美味しいなぁ」

 そして、珍しく飲み物は炭酸飲料をチョイス。だいぶ、人間族の文化に馴染んできている。


「アズサちゃん! 情報誌以外ではこのレース新聞っていうので、モンスターのデータをキャッチするんだよね? 実はアタシ一番強そうなのにお小遣い賭けたんだ! 当たるといいなぁ!」

「えっコノハちゃんズルい! 私もこの1番可愛いモンスターに、貯金全部賭けちゃおう!」


(全額……貯金を掛けるだと……! なんか、もしかしてアタシ以上にギャンブラーの素質があるんじゃ……いや、気のせいか)


 この純粋無垢な幼馴染達が、想像を絶する変貌を遂げるとは、まだアズサは気づいていなかった。



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