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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第三部 転生の階段編
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第三部 第4話 猫神社へ


 黒猫ミーコの猫ちぐらを奪い、勝手にくつろぐ謎のキジトラ猫……。何かを必死に訴えるミーコの様子は猫語の分からないオレにも大変さだけは伝わってくる。さっきは、お友達の猫と仲良くとか平和ボケ的なセリフを言っていたオレだが、もしかしたら勝手にこのキジトラ猫が部屋に侵入してしまったのかもしれない。

 しかも、我が家の猫ちぐらはインターネット通販でも有名な人気商品で、予約をしないと手に入らない代物だ。その大切な猫ちぐらを奪われたミーコの気持ちをもっと察するべきだったか?


「にゃぁーん、にゃにゃーん!」

 心なしか、涙目で訴えるミーコの頭を優しく撫でてやり、侵入してきたキジトラ猫を部屋から追い出すべく距離を詰める。すると、足元にスリスリとすり寄ってきて可愛さアピールをしてきた。

「うっ……このキジトラ猫……結構可愛いな……。ノラかと思ったけど、人間に媚びるテクニックを身につけてやがる。もしかして、以前どこかで飼われていた猫なのかな? だとしたら、元の飼い主を探してやらないと……」


 オレの気持ちがすぐにキジトラ猫に靡かないのに気がついたのか、キジトラは再び猫ちぐらにもどり、ここで暮らしたいにゃんと言わんばかりにアピールし始めた。まるで、この猫部屋の主人か何かのような風格さえある。本来的には、この猫部屋はミーコのための猫部屋のはずだが。


 その正体が仲間のマリアだと気がつかずに、キジトラ猫の今後をウンウン唸りながら検討し始めた。


「このキジトラ猫……何で、うちの中に入ってきちゃったんだろう? 」

「……イクト君、非常に申し上げにくいけど、このキジトラ猫……マリアさんなんだって」


 マリア……? マリアといえば、オレの仲間で見た目は清楚系白魔法使いの中身ギャンブラーだ。まるで、絵に描いたような黒髪清純派の美人であるため、幾度となく雰囲気に飲まれそうになり婚約者カッコカリという状態までこぎつけられてしまった女性である。一夫多妻制の異世界で育ったマリアにとっては、順番はそんなに気にしないからオレに嫁ぐ気でいるらしく、嬉しいような迷惑なようなそんな存在だ。


 あれが、中身も見た目通りの清楚で真面目な女性だったらどれだけ良かっただろう。巨乳でスタイルは良いし、美人だし、料理は上手いし……あれでギャンブル狂いでなければ……喜んで……。いや、今は猫の方が重要なんだっけ。この猫とマリアがなんか関係があるのだろうか?


 さっきまで、猫語で必死に訴えてきているミーコと話し合っていた真野山君。元魔王様という職業柄、動物やモンスターの言葉が理解できる真野山君ならミーコが何を訴えていたのか分かるのだろう。よっぽど衝撃的な内容だったのか、真野山君の美しい顔が、心なしか青ざめている。

 まさか、このキジトラ猫……捨て猫とか? それで、優しい真野山君が同情して……? いや、でも今はこの猫はかなり元気そうだし、これから良い飼い主を探せばいいだけの話である。それにマリアとの関係がイマイチはっきりとしない。


「えっと……ごめん真野山君、よく聞こえなかった。マリアが連れてきた猫? それとも、マリアが飼ってる猫? どっちにしろ、行く場所がないってことなのかな。数日間くらいなら、うちでも保護できるだろうけど流石にもう一匹猫を飼うのは大変そうだし」

「ううん、イクト君。ショックかもしれないけれど、落ち着いて話を聞いてね……。このキジトラ猫が、マリアさん本人みたいだよ……」


「……本人?」


 オレが真野山君の言っている言葉の意味を理解するためには、キジトラ猫の顔をジッとみる事が大切だろう。キジトラ猫の額には、マリアのイニシャル『M』の文様がクッキリ見える。ご丁寧にイニシャルを刻印した状態で猫に変身したのだろうか? オレとふと目が合い……ようやく理解してもらえたと安心したのか、キジトラ猫マリアは自信ありげにニャアと鳴いた。いや、ひと声鳴かれたところで状況はあまり変わっていないのだが。


「うにゃにゃーん!」


 活動開始……と言わんばかりに、猫マリアは我が物顔で部屋の中を物色し始めた。狭い部屋ながらあたりを探るべくキョロキョロしたり、なんとも落ち着きのない猫だ。

 このミーコの猫部屋は、元は納戸で物置として使っていた。だが、ミーコを飼うようになってから納戸兼猫部屋である。そのため家族の持ち物はほどほどに、ミーコの寝床である猫ちぐらや遊び場のキャットタワー、爪とぎなどがこの部屋に置かれている。


 敢えてこの部屋の特徴を挙げるなら、昔使用していたパイプベッドが壁際に保管されていることくらいだろうか。今は、人間の使用者が部屋にいないためベッドの布団はしまってあるが、つい最近までは下宿人として滞在していた神官エリスが寝室がわりに使用していた。

 その間は、エリスとミーコが1人と1匹のルームシェア状態で使用していたのだ。人間のエリスが猫ちぐらやキャットタワーは使わないだろうし、ミーコもさほど気にならなかった筈だ。仕事の関係で異世界に戻ってしまったエリスがいなくなり、再びミーコ1匹の猫部屋になったわけである。


(まずいな、この状況……もし万が一猫マリアを流れで預かって、そのあと元の人間状態に戻ったら……この部屋を自分の寝室として使い始めて……最悪そのまま、この家にマリアが居ついてしまう。いや、でも本当にこの猫がマリア本人なのだろうか……)



 猫マリアが今度はガソゴソと、引き出しや収納を荒らし始めた……まるでなにか、金目のものを漁るかのように……。


「……この猫……マリア本人だ……このふてぶてしい態度、額のMの文字、間違いない。なんでこんな恐ろしいことに?」


 ミーコが再び状況説明と言わんばかりにニャアニャア、真野山君に何か話している。


「マリアさんね……ミーコちゃんが猫耳族の占い師さんからもらった魔法の猫耳ヘアバンドを、ギルドにあるミーコちゃんのロッカーから出して、勝手につけたそうだよ。人間がつけると、一生猫耳族になるんだとか……」

「魔法の猫耳ヘアバンド? なんでそんなものをマリアは被りたかったんだ。それってメイド喫茶の店員が、猫耳メイドに変身するために装備するやつだろ? それとも、マリアはメイドに転職する気だったのか?」

「さぁ? ごく普通の人が装備するならともかく、マリアさんは修道院で修行を積んだ白魔法使いだよ。どうして、人間が被ったら呪われるって気がつかなかったんだろう? 高度な白魔法使いなんかは、呪いを解いたり蘇生の呪文を行えるはずなのに」


 どうせ、マリアのことだから可愛いものを身につけてみたいとか、思いつきで妙な行動を起こしたのだろう。理由なんか考えていても仕方がないか。そもそも、計画的に生きていける人だったら、法科大学院進学のために借りたお金を全部ギャンブルと飲食で使い切るなんて馬鹿なことしないだろうしな。


「うにゃにゃにゃー、にょーん」

 イクトさん、私のことを飼って! 大方、そんな感じのことを猫語でしゃべっているのだろう。どうりで、人間に媚びるのが上手い猫だと思ったよ。最近まで、オレと同じ人間だったんだから……いや正確にはマリアの人種は異世界人か。もしかしたら、微妙に人間とは体質やなにかが違うのかもしれない。ああ見えても回復魔法や防御魔法を使えるし。


「にょーん、にょーん、ごろごろ」

 いわゆる猫好きであるオレにとって、中身がマリアとはいえ結構可愛いキジトラ猫にスリスリと甘えられて悪気はしない。思わず愛くるしい喉を撫でてやりたい衝動に駆られるが、それは巧みな罠というものだろう。ここは、厳しく接するしかないか。


「……あのなぁ猫マリア。お前……勝手に、ミーコのロッカーから物色して魔法のヘアバンドを装備したんだろ? バイト中なのに別のことに気を取られて……今回の事だって自己責任だよ。猫耳族が持っているヘアバンドなら、異世界なら猫人間として生活できるだろう? これを機にアースプラネットに永住して、もう地球には来ない方が身のためだな。普通のノラ猫と間違えられて、何か大変なことになる前に帰れよ!」


 オレは心を鬼にして、この家に飼ってもらう気全開の猫マリアに冷たく言った。猫語は理解できないし、マリアみたいな性格の猫が家にいたんじゃ気が気じゃない。さっきも何か引き出しを物色していたし、元が人間なだけあって普通の猫とは違う……油断ならない猫だ。


「にゃーん、にゃにゃにゃーん」


 ペットの黒猫ミーコがオレにニャーニャー訴えてくる……。

 ギルドのロッカーを漁られて被害に遭ったのは、ミーコのはずだ。別に今回の猫化はミーコのせいじゃないんだから、責任感じなくていいのに。


「ミーコちゃん、これは半分は自分の責任だから、マリアさんを助けてあげたいって……。立川市内に猫の神様を祀る猫神社があるから、そこで神様に相談したいって、今からいく? まだ時間もあるし、神社も開いているはずだよ」

 真野山君に猫語を通訳してもらい、立川市内にある猫神社の存在を知らされる。

「猫神社か、そういえば噂で聞いたことがあるな。でもあの神社は、迷い猫が無事に家に戻ってくるご利益があるんじゃなかったっけ? それとも、猫耳族が参拝すれば別のご利益があるのかな」

 

 猫の神様にお願いすれば、ヒントくらいはもらえるのだろうか?


「にゃーん、にゃーん!」

「分かったよ、ミーコは優しいな。じゃあ……さっそく猫神社に行こうか」



 * * *



 地元である立川駅北口に向かい、周辺地域を移動出来る路線バスをターミナルで待つ。近所だから、普段はあまり意識しないが相変わらず立川駅周辺は人が多い。バスを待つ間、猫用のカゴに入れられている猫マリアがニャーニャー鳴いていたが、めんどくさいので無視した。もう一つの猫カゴに入れられているミーコは、あんなに大人しいのに。



 バスに揺られ猫神社付近で降りると、そこには狛犬ならぬ狛猫が、オレ達を迎えてくれたのであった。

「にゃー、猫神社へようこそにゃー」と、はっきりとした人間語の挨拶とともに。



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