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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第二部 前世の記憶編
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第二部 第10話 悪役令嬢の想い


 このお話は、女アレルギー勇者イクトの前世女好き勇者ユッキーと、彼に恋したカノンという美しい令嬢の物語である。



 * * *



 伝説の勇者ユッキーは、魔王と和解をして世界を平和に導こうとしている一風変わった勇者だ。他の自称勇者達は、武力によって相手を屈服させることをこの戦いの目的としている人ばかり……。いくら、種族が違うからといっても、抵抗していないか弱い女性や子供まで巻き込むような人は信用出来ない。

 だから、すべての種族に優しく平等で、真の平和を目指して旅を続ける勇者ユッキーは多くの女性にとって、眩しく偉大な人に思えた……たとえ、彼がごく稀にみる女好きだとしても……。


 魔王城にほど近い高レベル地域を攻略していたユッキーご一行、今日の宿は中規模ながら食事が美味しく会話も弾む。パーティーメンバーはみな女性でしかもそのほとんどが勇者ユッキーの妻というポジションを獲得していたが、ここは一夫多妻制の異世界だ。しかも伝説の勇者ともなれば嫁はもらい放題……結構な大所帯である為、バトル面では戦力にならないメンバーもちらほら……。


「ふう……だいぶ戦闘がきつくなって来ましたね……この辺りで一度メンバーチェンジを行った方がいいのかしら?」

「私も、補助呪文を一生懸命覚えていますけれど、そろそろレベルが限界ですわ。せめて良い装備が手に入れば……」

 白魔法使いのマリアと神官エリスが度重なる戦闘を危惧し始めた。彼女たちは花嫁の中ではかなり優秀な部類で魔法が達者なメンバーである。これはマズイ……オレは、冒険者向け雑誌の情報でゲットした伝説の武器防具を仲間達に装備させてハーレムの解散を防ぐ手に出た。


「その話なんだけど……みんな、次の目的地はかの有名なゴスロリドール財閥のお屋敷だ。噂では旧魔王一族の血を引いているらしく人間族として生活しているものの、本来は魔族だという……そして、旧魔王城で保管されていた伝説の武器防具を保管しているんだとか……ビジネスが順調にいけば種族は気にしないという貴重な財閥だ。ぜひ、当主にお会いしたいと思うんだけど……」

 次の目的地はやや迂回してゴスロリドール財閥のお屋敷に決定……伝説の武器を譲ってもらえなくても、オートクチュールで何か良い装備を作ってもらおう。あの財閥は服飾デザインで有名だし、武器防具制作でも権威として知られている。


「お話は理解できました……確かにゴスロリドール財閥は、このアースプラネットでも珍しい種族フリーの財閥です。ですが……本当にあなたが財閥と関わりたいのは勇者活動の為ですか?」


 思わずぎくっとして肩が震える……夕食のカルボナーラのパスタを思わずこぼしそうになるのもポーカーフェイスでごまかして麺を飲み込む。ふう、危ない危ない……。

 さすが、最初の妻でありこの旅路の古株でもあるマリアだ……鋭い質問である。


 そう……この超女好きのオレがルートを変更してまでゴスロリドール財閥に行きたい理由はただ一つ……新しい女当主の美女カノン嬢に会う為だ。オレの手元にある冒険者向け情報誌には、美しいカノン嬢が一生懸命財閥の宣伝をしている姿が写っている。若い頃は、魔族系の家柄という理由で悪役令嬢といじめられたとか、差別のない世の中を目指しているとかそんな感じの記事内容だったので、平和を目指すオレと気が合うと思ったのだ。


 緋色の髪をゆるく巻き髪にしてゴスロリドレスに身を包むカノン嬢はまるでお人形さんのよう……こんな美しい女性を放置していいわけがない……オレは伝説のハーレム勇者なんだ……!


 美しい悪役令嬢カノン……君のハートはオレがいただく……。


 より一層イケメンになる為に、美容院でスペシャルトリートメントと縮毛矯正、カリスマ美容師によるヘアカットを依頼して新品のイケてる勇者ファッションに装備を変更……これもカノン嬢のハートを手に入れる為だ。



 やる気全開のオレは半ば呆れ気味なハーレム要員たちを説得して、カノン嬢と面会するためにゴスロリドール財閥へと足を運ぶ。

 伝説の勇者という肩書きはいつも偉大だ……超大手財閥の執事に丁寧に迎えられ、当主との面会許可がおりる。


「はじめまして、カノン嬢……あなたほど美しい女性をオレは見たことがない……よろしければ少しお話でも……」

「えっ……わ、私でよければ、いつでもあなたのお話を聞いてあげないこともないわよっ」


 目一杯イケメンモードでアタックを開始……カノン嬢は箱入り娘で純情なのか、ツンデレ気味に照れながらオレに心を開いていった。何気ない会話や食事を数日かけて楽しむ……運良く社交パーティーが開かれてダンスのお相手まで出来ることに……ほとんどの出席者が一斉にオレとカノン嬢に注目している気がした。当たり前か……こんな美しい女性を相手にダンスが許されるなんて、勇者の特権ってものだ。

 しかも、カノン嬢の方からオレに愛を告げて来た……これは運が良い……2人っきりになった時を見計らい、お屋敷のテラスでそっと口付ける。


「カノン……好きだよ……愛している……今夜は、オレに全てを委ねてくれないか?」

「ユッキー……私、こう見えても……男の人に身を委ねるの初めてなのよ……優しく……してね」

 月明かりが見守る中、抱きしめあってキスを交わす……ロマンティックな夜にはこんなロマンスが相応しい。お約束のラブな展開にオレは恋愛的勝利を確信していた……この時までは……。



【令嬢カノンの日記】

 好きな人ができた。

 銀髪のサラサラした美しい髪と程よく大きな澄んだ目、整った輪郭、均等の取れたスタイル、クールに見えて人懐っこい性格……彼の名前はユッキー、伝説の勇者で異世界アースプラネットの救世主様。


 彼は魔王討伐の旅の最中に、我がゴスロリドール財閥に訪問してきた……古代より伝わる伝説の武器防具がゴスロリドール財閥に保管されていると噂を聞きつけてきたのだという。

 残念ながら、ゴスロリドール財閥に保管されていた武器防具は伝説の品ではなかった。どうしよう……用事がなくなったらユッキー様はまた冒険の旅に出ていってしまう……まだ、彼に想いを伝えていないのに……。

 私は勇者ユッキー様に一目惚れしてしまい、なんとか彼を引きとめようとした。


「ユッキー様、ゴスロリドール財閥では週末に舞踏会を開きますの。各国の有力者が多く集まります。そこでなら、伝説の武器防具の情報も得られるかもしれません。あと少し屋敷に滞在して舞踏会に出られてはいかがかしら?」


「舞踏会? オレみたいな庶民が出てもいいのかな? ダンスだって踊れないし……」

 なんだか、意外……こんな素敵な人が社交界に出席したことがないなんて……それとも勇者様が育った異世界には社交界に出席するような風習がないのかしら?


「私がお教えしますわ、それにあなたは伝説の勇者様なんだから、もっとご自分に自信をお持ちになって」


 私は勇者ユッキー様と舞踏会に出て、かろやかなダンスを踊った……みんなが私とユッキー様に注目しているみたい。当たり前か……相手は伝説の勇者様なんだもの……悪役令嬢と揶揄されていた私なんかを相手にするなんてきっと誰も思っていなかったんだわ。

 パーティーをこっそり抜け出してテラスで語り合う。そしてその晩私は勇者ユッキーに愛の告白をして、恋人になることができた……だけど、ユッキーには既に、結婚の約束を交わした女性たちが数名いた。一緒に旅をしている女性たち全員が、彼の伴侶だという。私は勇者ユッキーに、他の女性と縁を切って私とだけ夫婦になってくれるように頼んだ。


「ねえ、ユッキー……私と婚約するなら他の女性たちとは離縁して欲しいの……ゴスロリドール財閥の遺産は莫大で、相続権を他の女性の子供達にも渡る可能性があるなら一族の人達に私達の結婚は許してもらえないわ」


 私はユッキー様と別れたくなくて彼の手を思わず強く握った……けれど彼はすごく困った顔をして……そして苦しそうに私の手を離した。


「遺産か……どうしよう……今旅をしている彼女達は旅の大事な仲間でもあるんだ。エルフ女王の娘や貴族の隠し子……伝説の神官一族の末裔だっている……それに、オレは1人きりじゃ勇者として冒険をこなすことが出来ないんだ。苦楽を共にした仲間達……遺産のためだからといって簡単に縁を切ることはできないよ……」


 今思えばひどい事を私は言ったのかも知れない。アースプラネットは一夫多妻の国だ……彼らのハーレムは世間に認められた正式なものだった。

 元修道女の女性やエルフ族の女性は、自分の居場所を捨てて嫁いだとかで、戻るところなんかないそうだ。神官の娘に至っては、伝説に則った結婚である為、帰らされたとなったら身の危険もあるのだという。けど、私がその事を知ったのは彼が私の元を去った後だった。


「そう、そうよね……ごめんなさい……あなたが愛している女性は私1人じゃないものね……ユッキー様は、女好きで、お調子者で……だけど本当に心根の優しい勇者様だもの」


 あの根がお人好しで優しい女好きの勇者ユッキー様が、連れ添った旅の仲間である彼女達と縁を切ることなんか出来るはずないのだ。



 勇者ユッキーはゴスロリドール財閥を去り、魔王討伐に向かった。でもそのうち彼は私の元に帰ってきてくれる……そんな風に私は考えていた……自分に都合のいいように。


 ある日勇者ユッキー様が、魔王の娘グランディア姫と婚約したというニュースを聞いた。しかも他の女性たちと違い、正妻として迎えるという。


「どうして? 私の時は結婚を拒否したのに……」

 魔王の娘との結婚も、一夫多妻制を維持しながらのものなので、他の女性たちと縁を切るように言った私とは少し違うかもしれない。


 世間は魔王の娘との婚約を絶賛していた……テレビのニュース特番では世界平和のハーレムがついに成就と連日放送、スポーツ新聞や情報誌でもユッキー様の花嫁特集などが組まれて、どのように彼が世界を平和に導いたかが特集記事となっていた。


「さすが伝説の勇者様だ。魔王を暴力で討伐するのではなく、ご自身が魔族の姫君を妻にされることで戦争を終わらせてしまうとは……ただのイケ好かないイケメン勇者わけじゃなかったんだな……中身までイケメンとは参ったよ」

「聞くところによると、勇者ユッキー様はエルフ女王の娘とも結婚されるとかで、エルフ族とに対立が無くなったのもユッキー様のおかげなんだってさ。すごいよなぁ、これが噂の伝説のハーレムかぁ」

「それだけじゃないぞ! 由緒正しい転職で有名なハロー神殿の1人娘とも婚約しているとか。これからはオレ達庶民でも自由に転職できるようになるんだってさ……オレ達庶民に自由をもたらしてくれているんだぜ。今までの勇者とはひと味違うよユッキー様は」


 他にも伝統のある聖堂のシスター見習いを側室に迎えることで、教会からバックアップを受けているとか様々な噂が流れていた。


「ああっゴスロリドール財閥はこの世界で1番のお金持ちなのに……私だって彼の事をすごく愛しているのに……どうして私は必要とされなかったのだろう……こんなに好きなのに……!」

 部屋でひとりきり閉じこもって、涙をこぼす生活を送る私を見かねた執事が、私に一言告げた……まるで悪魔の囁きのように。


「またあの魔王一族ですか……本来なら、あの魔王の玉座は我がゴスロリドール財閥のものだったのです……ですがあの古代龍が玉座と不死鳥を奪い、魔王の座を取ってしまったのです。伝説の勇者ユッキー様の正妻になるのも本当ならカノン様……あなた様なのに……」


「えっ……そんな……私が本当はユッキー様の正妻になれたというの?」


 私は次第に、古代龍の一族を憎むようになっていた……いつしか私の心から、種族の壁を越えて平和な世の中を作りたいという気持ちが小さくなっていった。しょせん、強い一族には誰も叶わないという悲しい現実を突きつけられたからだ。そして、魔王の座を我が一族から奪った古代龍を倒すチャンスを伺った……でも、最強と言われた古代龍を倒せる魔族が存在するはずもなく、送り込んだ刺客はみんな煉獄のブレスに消されていった。


「どうすればいいの……」


 私は……チカラではない何かで、彼ら古代龍一族を倒す方法を考えることにした。



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