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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第二部 前世の記憶編
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第二部 第9話 前世との違い


 丑の刻参りをしてまで、夫の浮気癖を治そうとしたグランディア姫。願いむなしく、夫の女好き勇者ユッキーは一生ハーレムをエンジョイし、グランディア姫は短命に終わった。


「これが語ることの出来るあなた達の因縁と前世の話。私、夫に言ったのよ……もし生まれ変わっても、あなたに会いにいくからその時まで浮気しないで、女アレルギーになるように呪うからって……結崎イクト君、貴方は一体どんな人生を歩むのかしら……」


 次第に遠ざかるグランディア姫の陰……ああそうか、これは夢だったのか。

 あの女好きでどうしようもない勇者ユッキーがオレ自身の前世かどうかは別としても、夢という形で過去の勇者の記録を知ることが出来たのは同じ勇者としてラッキーなのだろう……多分。


 伝説のハーレム、世界平和のハーレム……異世界アースプラネットに伝わる一夫多妻制伝説を他人事のように考えていたオレだが、異種族間の結婚によって種族争いが収まったことは事実のようだ。


 けれど、その一夫多妻のハーレム結婚に馴染めなかったのがグランディア姫ということなのだろう。無理もないか……だって姫は、ごく普通幼馴染ユッキーのことを好きになっただけで伝説のハーレム勇者に惚れたわけじゃなかったのだ。


 大人達から見ればただの政略結婚だったのかもしれないが、グランディア姫は初恋の男性との恋愛に一生懸命だった。ごく普通の女性のように恋をして、ごく普通の結婚生活が送りたかったのかもしれない。



 * * *



 夢の中なのに眠い……けれどカチコチと時計の音が聞こえる……まるで目を覚ませと何かに訴えられているようだ。時計の音はどこから聞こえるのだろう……オレって今、どこで眠っているんだっけ? 自分の部屋? いいや、もっとどこか違う場所のような気がする。


「はっっ……夢……だったのか……。あれ、グランディア姫は……? オレに語りかけていたはずなのに……成仏しちゃったのかな……姫はどうして短命で亡くなったんだろう……」


 病院のベッドで目を覚ましたオレは、思わず起き上がりあたりをキョロキョロと見渡す。すでに消灯時間を過ぎている雰囲気だ……短期間入院であるため、奮発して個室に入院しているから他の病室の様子や患者の様子はよく分からないが、廊下から気配を感じないしおそらくみんな眠っているのだろう。

 

 取り敢えず自分の周囲の様子だけでもはっきり見たいと思って、サイドテーブルに置いてあるランタンの灯りをつける。


 ポッとオレンジ色の柔らかい光がベッドの周りを照らして思わずホッとした。カチコチと鳴り響く音の正体は壁にかけられたアナログ時計が原因のようだが、ランタンの灯りだけじゃ時間を確認できない。

 

 サイドテーブルにはランタン以外にも自宅から持ち込んだ私物が数点置いてある。確かデジタル時計もここに……ガサゴソとサイドテーブルの上に置いた籠の中をさぐりデジタル時計を発掘。


 手にしたデジタル時計の時刻を確認して、タイミングの悪さに思わず背筋が凍る。


【02:00】


 丑三つ時というやつだ。

「嫌な時間に目が覚めたな……これもグランディア姫の呪いか? 真野山君を大人の女性にしたような綺麗な人だったけど、あんな清楚な外見で呪いの儀式を行うとは……人は見かけによらないな」


 まだ、胸がドキドキする……まるでほんとうに自分の前世の罪を見せつけられたような罪悪感……ふと気がつくとサイドテーブルには小さなメモが残されていた。


『まだイクト君の具合が悪いようなので帰ります。ゆっくり休んでください、お大事に』


 可愛らしい丸みを帯びた女子力高めの文字は見覚えがある……おそらく超美少女に見える男の娘の真野山君の文字だろう。初めて真野山君の文字を見た時は、文字まで少女っぽくて驚いたものだが今では不思議に思わない。だってグランディア姫に瓜二つだもんな……いくら子孫だからといって姫様に瓜二つの男の娘なんていないだろう……やはり真野山君は、本当は……。


 ランタンを手にして病室の様子をさらに伺うと、昼間ここにいたはずの不死鳥のヒナもいない……もしかして、真野山君が連れて帰ったのだろうか?


 シーンとした暗い病室で、オレは前世の夢を振り返った。いろいろ嫌な夢だったな。

 オレの前世と推測される女好き勇者ユッキーの夢、まさか本名まで同じ結崎イクトだとは思わなかった。顔もオレとそっくりだった。


 あえて違いを挙げるなら髪の毛の色はユッキーは銀髪、オレは黒に近い栗色なのでそこが決定的な違いだろうか? 

 地球出身の日本人だというのに銀髪だなんて、きっと地球では目立って仕方がなかっただろう……自分の容姿に自信がある様子だったから本人は気にしていなかったかも知れないが、地球の日本より異世界の方があの髪色は目立たないだろうな。


 美形の象徴とされる銀髪だが、海外ならともかく日本人として生活するのは結構大変だったはずだ。それとも異国の血が流れているハーフか何かなのだろうか……白髪という年齢でもないだろうし。


 生まれつき銀髪のユッキーにとっては、銀髪が珍しい地球の日本にいるよりも多種族が住まう異世界の方が馴染みやすいはず……暮らしやすさもあってユッキーは異世界で花嫁をたくさん娶ったのか? 地球へは戻らずに異世界で定住して子孫をたくさん作るなんて地球に未練のある人間にはなかなか出来ないだろう。


 それにもっと驚いたのは、ユッキーのハーレムメンバーがオレの仲間数人に、そっくりだったことだ……マリア、アズサ、エリスと名前も同じだった。


 ユッキーの仲間達の性格は、最初の頃はオレの仲間達とまったく別人格に見えていたが、次第にオレの知っているマリアやアズサ、エリスの性格に近づいて行った気がする。

 特にエルフのアズサは最初は世間知らずの箱入り娘だったのに、あんなにヤンキー系お姉さんキャラに変貌するとは……人って変わるんだな。いや、正確には人間族じゃなくて妖精族のエルフか……もしかしたらオレの仲間のアズサにもあんな感じの典型的な純粋エルフ時代があったのかも知れないが……。


 だけど彼女達はオレの仲間達とは何かが違う……おそらく家出同然で勇者に嫁いだので、覚悟のようなものがあるのだろう……ユッキーが浮気しようがなんだろうが、決して離れなかったし同じハーレム要員の仲間同士で助け合う雰囲気すらあった。

 それに比べると、容姿が似ているというだけでオレの仲間達は何だかお気楽そうな雰囲気だ。


 幼馴染のカノンそっくりの悪役令嬢の存在にも驚いた。

 美しい幼馴染に密かに淡い想いを抱いているオレにとって、そっくりな前世のラブシーンは見たくないものだ。


「ユッキー……大好きよ……この世界で一番お金持ちの私があなたに愛の告白をしているんだから……もっと喜びなさいよねっ」


 高飛車ながらも頬を赤らめて告白する令嬢カノンは恋する乙女そのもので……幼馴染のカノンが別の男に告白しているように見えて胸が苦しくて仕方がなかった。

 

 だけど美少女なのに自分に自信がなく、悪役令嬢という肩書きを嫌がっていた幼馴染のカノンと、令嬢としての生活を存分に楽しんでいる悪役令嬢カノンはまるで違う人生に見えた。

 容姿、家柄、名前が同じだけで、冷静になってみれば大事な幼馴染とはどう考えても別人である。それに、あのシャイな幼馴染のカノンだったら、もっと恥じらいながら……とオレは浮かんできた邪なイメージを首を横に振り一生懸命燃焼する。


 オレだって、ユッキーとは似ても似つかない性格だ。


 オレは自分の前世と推測される、ユッキーについていろいろ考察してみた。

 確かに女好きでオレから見ても嫌な男だった……一夫多妻制をいいことに、ハーレムライフをエンジョイしすぎていた。グランディア姫と婚約中に魔王城でちゃいちゃしていたかと思うと、次の日にはマリアと甘い夜を過ごしていたし……。


 さらに次の日にはアズサやエリスとも何やらいちゃついていた……そんな薄情な奴である。切り替えも早いし手も早い……あれが俗に言う女好きというものだろうか。


 恋人いない歴を更新中のオレには到底真似できない……きっと女アレルギー持ちでなくても、あんなに女性に対してハッスル出来る男はそうそういないだろう。割愛されているだけで、きっともっとイチャラブシーンが満載だったはずだ。


 恋愛というのは、1人の相手とじっくり育むものだと思っていたロマンチスト派のオレにとっては、美人なら誰でもハッスル可能なユッキーの気持ち自体、理解できなかった。


 グランディア姫に会うために異世界にやって来たなら、姫一筋で冒険の旅を続ければ問題なかっただろうし、途中で気が変わって冒険の初期に出会ったシスターマリアを嫁にしたなら、ずっとマリアを大事にしていけばよかっただろうし……なんで次々と女性を嫁にしてしまったのだろう……。前世とはいえ、所詮他人ということだろうな。


 あのあとユッキー達がどうなったのかも、イマイチよく分からなかった。途中までユッキー視点で物事が進んでいたのに、後半からグランディア姫視点に変わってしまったからだ。

 グランディア姫は短命だったので、きっとその後のユッキー達のことをイマイチ把握できていないのだろう。以前、神官エリスが伝説の勇者は元の世界に帰って行ったと言っていたし、伝承がバラバラで真実がよく分からない。

 姫のペットである不死鳥がどうして姫の結婚式に立ち会えなかったのか、魔王がどうして突然姿を消したのか? 本当はその部分がかなり重要なのではないだろうか……。


 おそらくグランディア姫の生まれ変わりと推定される真野山葵まのやまあおい君……。

 真野山君に初めて会った時は一目惚れというか……恋が始まるんだと思っていたが、性別が男だと言われてショックを受けてそういう気持ちを持たないようにしてしまった。

 でも、真野山君はオレの前世の正妻グランディア姫にそっくりだし、実際にグランディア姫の孫にあたる人物だ。そしておそらく本当の性別は女性なんだと思われる。


 不死鳥が姫と呼んでいたし、小動物は性別に敏感だから、不死鳥が姫と呼ぶ限り姫なんだろうな……。だとすると、何故彼女は男として育てられたのだろう……やはりグランディア姫と何か関係あるのだろうか……何故姫は短命だったのか?

 本当に呪いや寿命で亡くなったのか……それとも、誰かに殺されたのだろうか。


 オレはある重要なことを見落としている気がしたが、睡魔に負けて眠ってしまった。

 現在魔王の玉座に座る美しい悪役令嬢の前世と推測される人物は、あの中で1人だけ勇者ユッキーの妻にならなかった……本当の悲劇はそこからはじまっているという事に……。



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