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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第二部 前世の記憶編
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第二部 第7話 正妻の決意


 女アレルギー勇者イクトの前世で、伝説のハーレム勇者ユッキー(結崎イクト)は伝説のハーレムの預言の勇者は自分だと主張することで、魔王を説き伏せた。



「伝説のハーレム、世界平和のハーレム……魔族の姫君であるグランディア姫を正妻として迎える事で、この世界平和のハーレム計画は完全なものとなり、グランドフィナーレをとなる……。すべては、神の手によって、初めから計画されていたのでしょう。所詮、オレはただの人間の勇者……ですが、女性への愛を全力で全うする事で神が望む世界平和を成就することが出来るのです」


「勇者ユッキー……お前がそこまで言うのなら、我が姪っ子グランディアをお前の嫁にやろう。グランディアは実の両親を早くに亡くし、魔族にしては攻撃呪文が使えるわけでもなく、チカラが強いわけでもなく……本当にただの少女なんだ」


 魔王様からの意外な告白……グランディア姫は、魔族としてはいわゆるエリートからは外れる少女なのだろう。魔族の長となる家系にも関わらずチカラが強いわけでもない、魔法も使えない……そんな普通の少女が幼い頃に両親を亡くしたら……命の危険も……。


「……そういえば、地球にいた頃も見た目が美しいだけで魔法を使っているところを見たことがないな。そっか……グランディアは魔族というだけで、普通のか弱い少女……」

「ああ。だから、グランディアの命を狙う者が魔族の中にもいてな……地球へと避難させたんだよ。それで、お前と出会ったわけだ……たしかに運命なのかもしれないな。養子として育てたものの、特別なチカラを持たない彼女が不憫でならなかったが勇者の花嫁として世界を平和に導けるのなら、グランディアの体裁も保たれるだろう」


 感慨深そうに、天井を仰ぐ魔王様の表情からは安堵の色が伺える……グランディア姫の魔王一族としての体裁を保ってやることが、親族として唯一出来る事なのかも知れない。


「魔王様……いや、お父様……オレ、グランディア姫のこと大切にします。政略結婚でも、勇者としてでもなく、幼馴染として……女好きでどうしょうもない男だけど……グランディアを守れるように……」


「そのセリフ、姫にも言ってやってくれよ。あの子を安心させてやりたいんだ」


 その日の夜は、魔王様と勇者の間で男同士の長い話し合いが行われた。話し合いに立ちあった参謀役の白キツネも、勇者ユッキーのあまりの女好きぶりに呆れながらも姫の幸せを心の奥底から祝った。

 こうして、魔王様と勇者ユッキーの間で魔族の姫君グランディアを正妻に迎える約束が交わされたのだ。



 数日が経ち、これでひと安心とホッとする魔王と勇者。

 魔王は自分の養女(本当は姪っ子)のグランディア姫が勇者の正妻に収まれば、姫の将来は安定すると考え、勇者ユッキーもグランディア姫を正妻に迎えれば法的に魔王様に訴えられることもないと考えていた。


 チカラも弱く魔法も使えないというグランディア姫にとって、それが1番の幸せだろう……と。

 男たちは結局、社会的地位や体裁しか考えていなかったのだ。


 そんな考えの魔王と勇者……グランディア姫がいわゆるハーレムというものを……他の女性も花嫁として存在しているということを嫌がっていることに気づかなかったのである。



 * * *



 魔王の城に留まること1週間……話し合いが終了し、平和を約束するとともに勇者ユッキーと姫との婚約が内定した。


 赤い勇者のマントをまとい金色のサークレットを額に装備した勇者ユッキーが、魔王城を我が城のように闊歩するようになって久しい……。見張り役の兵士とユッキーがすれ違うと、どちらともなく挨拶が交わされる。

「ユッキー様、今日もお勤めご苦労様です……グランディア姫との婚約も内定おめでとうございます!」

「ありがとう。君もこれまで見張り役大変だったね……今まで、人間の魔王討伐チームが君たちの仲間を傷つけていたらしいけど、これからはこの僕がそんなことさせない。すべての種族のみんなが仲良く幸せに暮らせる……それがこの世界平和のハーレムの計画なんだ」


 初めはユッキーを警戒していた魔族の衛兵達も次第に、世界平和のハーレム計画を受け入れるようになっていた。

 すべての種族をまとめ上げるカリスマ性がユッキーには備わっていた……ただ単にすべての種族の女性を花嫁にするため、種族関係なく付き合いを良好にしていただけなのだが、その活動が結果として世界平和へと導いていた。


 ユッキーが魔族からもちらほらリスペクトされるようになった頃、正式に婚約が発表され人間と魔族間の争いは休戦が決定する。


「グランディア姫……オレと結婚すれば、もう他の反対派の魔族に怯えることもなくなる。魔法が使えなくたって誰も君を責めないよ。一緒に幸せになろう……! 魔王様も祝福してくれてる……オレ達は運がいいな」

「ユッキー……嬉しい……ねえ、しばらくはここにいるんでしょう? あの女性達とはもう会わないのよね? 花嫁は私だけなのよね?」

「えっそれは……人間族ともエルフ族とも、獣人族とだって結婚することで世界平和が保たれるんだ。その事情は理解できるだろう? でも、2人きりでいる間は姫だけがオレの花嫁だよ!」

「……そうなんだ……やっぱりハーレムを解散することは出来ないのね……」


 婚約後、朝晩を姫とともに過ごしてしばらく婚前恋人ライフをエンジョイすると、姫は妊娠。魔族医師の診察が終わると、すでに安定期に向けて部屋を移動する準備が進んでいた。

 そして、勇者としての任務を再開することになったユッキーとしばらくの間、離れることになった。


「姫様、妊娠おめでとうございます……出産準備のため部屋を移動するようにとの指示です……」

 慌ただしい中、旅支度を済ませたユッキーを見送ることになった姫……彼も仕事があるのだ仕方がない……と自分に言い聞かせるが、あからさまに他の女性と連絡を取っている雰囲気……姫の予感が当たっていれば、しばらく会っていないハーレムメンバーとエンジョイするつもりなのだろう。


「分かったわ……ユッキーは……人間族の仲間に報告に行くのね……仕方がないわよね」

「姫……きちんと身体を休めて元気な赤ちゃんを産むんだぞ……じゃあ、行ってくる……愛しているよ!」


 絶世の美少女と謳われている可愛い姫との婚前ライフも満喫したし……たまには人間界で羽を伸ばすのもいいだろう。スッキリした気持ちで、ユッキーは久しぶりに自分のハーレムへ……。


「久しぶりにマリアやアズサ、エリスたちとハーレムライフをエンジョイしようっと! テコ入れもしたいし、また街で新しいハーレム要員を探さないとな! おっマリアだっ」

 ハロー神殿のロビーでまったりしていたマリアを発見し、思わず後ろから抱きしめる。久々のFカップ巨乳の感触を服越しに楽しみながら甘える女好きのユッキー。

「きゃっいきなり抱きしめられても……もうっ甘えん坊なんだからっ。おかえりなさい」

「あはは、仕方がないだろう! 久しぶりに会えて嬉しいんだからさ……ただいまマリア、今夜は目一杯イチャイチャしようなっねえキスしてもいい?」

「もう人前なのに……みんな見てるわよ……仕方のない人ね」

 

 その後、再び始まるハーレムライフ……マリアといちゃつき、アズサとベタベタし、エリスとも……全員ユッキーの正式な妻なので本来は問題ないはずだが……いろんな女といちゃついている噂はあっという間に魔王城で静養しているグランディア姫の耳にも届いた。



 * * *



「ユッキー……やっぱり人間界で他の女性達と遊んでいるのね……これが世界平和のハーレムなの? ただ単にいろんな女の人と楽しんでいるだけじゃないっどうして私のことだけ愛してくれないのかしら?」


 ここから悲劇が始まる……姫は自分以外の女性とも側室という形で、結婚する勇者ユッキーのことが許せなかった。魔力もなければチカラも弱いと噂の姫だったが、いつしか魔王城の地下に眠る古文書を読み漁るようになった。


 姫が呪文を必死に覚えようとしている姿を見て、母親としての自覚が目覚めたくらいにしか考えなかった魔族達。

 あたたかい気持ちで魔法の勉強をする姫を見守ってくれたおかげで、姫は禁断の魔法書庫にもフリーパスで入室できるように……。


「姫様は、お腹に赤ちゃんができてから魔法を覚えようと頑張っているらしいのう……感動して思わず禁断の部屋の鍵をあげちゃったんじゃよ。魔力を持たない姫様でも、もしかしたら1つくらい魔法を覚えられるかもしれんなぁ」

「まあ大賢者様……でも姫様はいったいどんな魔法を使えるようになりたいのかしらねぇ。変わればかわるものですね」


 だが、姫は正確には魔法の勉強をしているわけではなかった……実は浮気防止の呪いを必死に調べていたのである。そして、姫は魔法の才能がないわけではない……ただ単に興味が今まで湧かずに一切勉強しなかっただけなのだ。


 だから、魔王様も含めてすべて魔族が気づかなかったのである……姫の潜在魔力が現存している魔王一族の中でもずば抜けて高いという事実に……。


「ピィ! 姫様……無理なさらないでください。姫様のお腹には、勇者の赤ちゃんがいるのですっピッ! お身体に触りますっピッ!」

 姫の体調を心配する、虹色の羽を持つ小鳥(不死鳥)。女好きの勇者は姫と婚約してすぐに姫を妊娠させ、生まれる子供は勇者と魔王一族のハーフである。

 史上稀に見るハイスペックな世継ぎができると喜ぶ魔王様……すべては、勇者ユッキーの思惑通り事が進んでいるように見えた。


 姫があの伝説の呪いの書物を発見するまでは……。



「この本は何かしら? とても強力な魔力を感じるわ……私を呼んでいるの? 私でも実行可能な内容だといいのだけれど……」


【女アレルギーになる呪い】

 この呪いは、自分の夫の浮気ぐせが治らずに悩んだ某国の姫が、カリスマ陰陽師に頼んで伝授してもらった強力な呪いである。


【用意するもの】

 呪う相手の写真か絵

 呪う相手の名前を書いた紙

 白装束(一式)

 ロウソク数本

 鉄輪もしくはハチマキ

 ワラ人形

 五寸釘

 木槌

 呪符

 お面(用意できれば)

 数珠


【呪い方】

 草木も眠る丑三つ時に、某有名神社の境内にある大木の周辺をぐるぐる回りながら、呪文を唱えます。ワラ人形に、相手の写真と相手の名前が書いてある紙を重ねて、五寸釘で木に打ち付けていきます。この儀式を1週間毎晩続けましょう!


【ポイント】

 白装束を着て、できれば頭にハチマキ(鉄輪だとなお良い)をつけ、ロウソクを二本立てて呪いファッションで儀式に挑戦すると効果的です。素顔を見られないように、お面を被ってひと工夫するのも良いです。


【儀式後】

 儀式が成功すると帰りの道中、黒い和牛に遭遇しますので優しく和牛を見守り、またぎながら帰宅しましょう。


「……もう私にできるのはこれしかない……」

 パタン! 本を閉じて決意を固めるグランディア姫……。



 * * *



 姫はペットの小鳥(不死鳥)が心配して制止するのを無視し、現実世界地球のゲートをくぐり、古都にある某有名神社の境内にある大木に向かった。

 すでに安定期に入っていたため、気分転換の散歩という設定で外出した姫を誰も疑わなかったのである。


「久しぶりの現実世界地球……こんな形で戻ることになるなんて……」


 グランディア姫は地球でも有数の超有名観光地古都の景色をぼんやりした気持ちで眺めた……本来なら楽しい観光で遊びに来たかった。

 観光用の人力車に乗りながら、可愛い舞妓さんや楽しそうな若者達を眺める。姫は複雑な心境だ。


 古都にある呪いのグッズ専門店で、白装束やロウソクを買って着々と準備を進める姫。すると偶然居合わせた神主さんが、姫が呪いの準備をしていることに気づき注意をしてくれた。


「お嬢さん……もしかして呪いの儀式をされるんですか? 悪いこと言わないから、やめておきなさい。人を呪わば穴二つと言ってね、呪いは自分に返ってくるんですよ」

「……ご忠告ありがとうございます……でも私もう、あのどうしょうもない女好きと婚約してしまいましたの……しかも私のお腹には赤ちゃんが……もう引き返せないのです」


 神主さんは『せめてお腹の赤ちゃんが呪われないように』とお守りをくれた。古都の名物八つ橋を食べて時間が来るのを待つ姫。


 夜の帳が下りた頃……姫の心は少しだけ迷ったが、呪いを決行することにした。



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