第二部 第1話 不死鳥復活、新たな冒険
みなさんこんにちは! もしくは初めまして。
オレの名前は結崎イクト。高校一年生で現在16歳。
身長172センチ、体型はやや痩せ型、生まれつき栗色の髪がトレードマーク、自分で言うのもなんだがそれなりにイケメンである事を自覚している、ナルシスト気味の高校生だ。趣味は現代人らしくスマホゲームをプレイすることで、特にRPGが大好き。
通っている学校は公立ではあるが中高一貫校なので、中学三年生の頃は同い年の学生が受験勉強を頑張っている間にも、スマホゲーム三昧だった。高校生になってからは、インターネットのバイト収入で得たお金を種銭に課金もチマチマしている。
『よぉーし! 久々に欲しいタイプのレアキャラが10連ガチャのメインに入っているな。この女の子のキャラクターかなり強そうだし、可愛いし……ガチャやってみるかっ!』
その後、本当に欲しかったレアキャラがゲットできたか否かは、皆さんの想像にお任せする。まぁ、スマホゲームのレアリティの高いキャラクターがたかが10連を1度回しただけで出ないことはユーザーなら誰もが知っているだろう。
収入を得た事で自分の欲しい洋服や財布などの小物を、若者らしく揃えられる喜びを覚えた頃にはじめたのが課金だ……。今では少し、後悔している……貯金しておけばって思うシーンも何度かあった。友達と買い物に行った時も……。
『イクト! このカバンセールだってさ。元値はそれなりに高いけど、半額セールなら手が届きそうだし、お前に似合うんじゃないか? そろそろ新しいのに替えたいって言ってただろ?』
『へぇ、このカバン結構オシャレだな……使い心地も良さそうだし……って、半額でも1万円かぁ。うーん、この間課金で使っちゃったから、このカバン買うほどの余裕ないや。節約しないと……もう少し安いものなら……』
『? そっか、課金が原因で節約中か……まぁ、お前ってイケメンのくせに女アレルギーで彼女作れそうにないもんな。もったいないぞっ、オレがお前の外見だったら女の子を誘ったり、もっと容姿を活用するけどなぁ。カノンちゃんだっけ、お前の幼馴染の……あの子絶対お前に気があるって! 1度くらいデートすればいいのに』
『実は、カノンに1度だけ女アレルギー克服のためにデートに誘われたんだけどさ、外出先で倒れちゃって……』
『……そっか……女アレルギーというより、女の子を意識しすぎて緊張しやすいのかもな。ゲームに走る気持ちも分かるけど、これを機に自重しようぜ』
『う、うん……そうだよな。自重か……あーあ、ゲームの中では女の子と普通に喋れるし、お金だってたくさん貯めてるのに……』
そして、ふと考えてしまった……ゲームの中で貯まっているギルドクエストで稼いだ通貨が自分の本物のお金だったら……と。いっそのことゲーム世界が本当の世界だったら……なんて、ごくたまに考えてしまった事もあるかもしれない。
なんやかんやと、男友達と食事をしたり雑談したりとそれなりに楽しく過ごして帰宅。だが、親しい友人から忠告を受けてなんだか気持ちが晴れない。
『はぁ、ついに言われちゃったよ……これを機にスマホゲームを自重とか……そうだよな。いつまでもゲーム三昧じゃ将来不安だし』
ピロピロピーン! 噂をすればなんとやらで、スマホからゲームの通知音だ。
【新クエスト実装のお知らせ……レアガチャに最新アイテム登場! このイベントクエスト限定の装備も……急げっ】
なんだか、楽しそうだ……ダメだとわかっていても自宅のベッドでごろりと寝転がると、ついスマホゲームのアプリ画面を開いて、ゲームをプレイしてしまう。今日だけは、せめてこのイベントクエストくらいはプレイしてもいいだろう。
『イクト君、また一緒に冒険しようねっ絶対だよっ……。沢山のクエストを2人でクリアして、ギルドランクを上げて、貯金をして家を買ったら……。いつか、2人で一緒の家に住んで……ううん、何でもない』
『もちろん、これからもずっと一緒にいようなっ。オレ達なら、きっといいパートナーになれるよ、公私ともに……なんて』
『もうっイクト君ったらっ』
スマホの画面の中では、可愛らしい少女が優しく微笑んでクエスト達成のお礼のアイテムとともに握手を求めてきた。正確には、オレ自身ではなくオレのアバター相手に握手を求めているんだが……オレのアバターは、一緒に冒険をした少女と妙に親しげで、まるでこれから恋人になるかのような予感を感じさせる雰囲気だった。
その後も連続でクエストを行えるくらいの体力ゲージが残っていたが、なんとなく気分が乗らなくて思わず画面を切り替える。
プツッ! タイトル画面に戻ります。
パタン、ややくたびれた焦げ茶色の手帳型スマホカバーで画面をシャットアウトし、ぽすんとクッションの上に置いてスマホを手放す。
「はぁ、いいよなぁ冒険者ギルドのメンバーは……クエストこなして生活出来て、オマケに彼女も……リア充めっ」
嬉しいような、哀しいような複雑な心境だ。
所詮オレ自身ではないアバターに嫉妬しても仕方がないが、なんとなくごろりと起き上がりお茶を用意して、再び休憩モードに入る。結局ゲームは、最初のイベントクエスト初級レベルしかプレイしなかった……レアアイテムだとか、限定装備だとかは手に入らないだろう。
でも、それでもいいのかもしれない……ゲームの中のアバターがどんなにいい装備をしていても、現実のオレは欲しかったカバンを買うことが出来なかったのだから。
こちらは、現実の女性とは会話をするだけで心臓がバクバク鳴るほどの、女アレルギーの持ち主だ。楽しいはずのゲームで、じわじわと受ける精神的なストレス……もうそろそろ本当に、スマホゲームを卒業して将来について真剣に考える時期なのだろうか。
なんせ、妹との日常での会話も女アレルギーが、いつまで経っても治らないオレの将来を案ずるものばかりである。
『イクトお兄ちゃんは、女の子と接近したり話すだけでも女アレルギーが起きちゃうから……もし、将来も結婚相手が出来なかったら、妹の私がお兄ちゃんの食事を世話してあげるねっ』
『アイラ……お前、オレの事そこまで重度の女アレルギーだと思っているのか……いや、このままだとそうかな』
ありがたいけれど既に将来を決めつけている妹に若干の不満を抱くような、そんな会話が日常的に行われるようになった。
その後も、何度かスマホゲームを卒業して現実の幼馴染のカノンとデートしようと試みたことが何度かあったが、すべて呪われし女アレルギーで倒れてしまう結果に終わった。
『もういいや、カノンがどんなに可愛くても、何度デートに誘ってくれても所詮オレは女アレルギー……。今、プレイできるゲームを存分にやれるだけ楽しもう……これが、オレの青春なんだ』
可愛い女の子の仲間を増やして、イケてる装備を揃えて、縦横無尽に冒険者ライフを横臥しても良いだろう……。まあ、ただの疲れた時の現実逃避的な妄想だったのかもしれないし、なんだかんだ言って自分の容姿に自信のあるナルシストなのでこんなアホな想像ができたのかもしれないが……。
どうやら、オレの深層心理的な奥深くにあるわずかな願望が神様に覗かれていたらしい。
『起きてください、勇者様……勇者イクト様……』
最近まで女アレルギーである事以外は、これと言って特筆することの無い人生を送っていたけれど、何かに呼ばれるように、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク』に転移してしまい、伝説の勇者として異世界を平和に導く役目を任される。
清楚系美人賢者マリア、キュートなミニスカ猫耳メイドのミーコ、オレの実の妹でありいっしょに異世界に転移した魔法少女のアイラ、金髪ヤンキー系美人エルフ剣士のアズサらを仲間に加えて、さらに神秘的な美少女神官に逆プロポーズされるなど、順調にハーレムライフを送っていた。
紆余曲折を経て、異世界と現実世界が融合し、すべての世界は平和になったように見えたが、実は新たな冒険が待ち受けていようとは……。
そんなわけで、これからはオレの新たなハーレムライフ……もとい勇者としての使命を果たすための激動の第2部である。
* * *
【ご当地魔法少女リナ&ミコ第1話】
「ジュエルを集めて不死鳥が復活するって本当?」
「ええ! ジュエルと不死鳥は魔王城の玉座を操るチカラがあるの! だから、絶対悪いヤツらに渡しちゃダメよ!」
「うん! 分かった!」
現実世界地球の東京都多摩地域にある某大型病院の一室……。
入院中のオレは某特撮ご当地魔法少女の第1話録画をなんとなく見ていた。別に萌えオタになったわけではない。
魔法少女アイドルとして再デビューした、真野山君の可愛い姿を見て急性女アレルギーを発症し、短期入院したため、真野山君に手渡された録画を参考のために見ていたのである。
真野山君はまだ自分の持ち歌がなく、ライブでカバー曲を歌ってショッピングモールを中心に営業ライブを行っていた。真野山君のカバーしている曲の原曲や作品を知るための資料なのだが……。
「萌えジュエルを集めて不死鳥が復活するって本当?」
「ジュエルと不死鳥は、魔王城の玉座を操るチカラがあるの!」
……ジュエル? 不死鳥? 気になるセリフだ。
不死鳥のイメージイラストが何度も番組内で紹介されており、不死を象徴する金と虹色の羽が印象に残る。
この作品は異世界アースプラネット製作の特撮ものであるせいか、魔王城とか玉座とか、オレ達の冒険に身近なキーワードがたくさん出てくる。でもジュエルと不死鳥という言葉は初耳だ。もし実在しているものなら、早く回収した方が良さそうな気がする……。
「この特撮ドラマに出てくる萌えジュエルって、本当に存在してるの?」
お見舞いに来ていた神官エリスと賢者マリア、エルフのアズサに聞いてみた……が。
3人は顔を見合わせ、「アースプラネットに伝わるおとぎ話ですよ」とエリスが優しく答えた。
マリアは不死鳥復活の儀式を実践したことがあるらしく、「私、小さい時にそのおとぎ話を信じて、オモチャ屋でジュエルを集めて儀式をしてみたんですけどね……ダメでした! 懐かしいなぁ」と小さい頃の楽しい思い出話として明るく語り始めた。
「アースプラネットってファンタジー異世界だから、もっと伝説の生き物がたくさん居るのかと思ってたけど……案外その辺は普通なんだな」
オレの率直な感想に……。
「まあ、ファンタジー異世界って言ってもだいぶ文明が進んでるからな! アタシ達エルフ族も、大昔は人間族と付き合いがなくて幻の生物扱いされていたらしいし……意外と不死鳥もその辺を飛んでるかもしれないぜ!」
と、エルフ族のアズサがオレの肩を励ますようにポンと叩いた。
『コンコンコン!』
「はーい! 起きてますよ、どうぞ」
カチャッとドアが開く。
「失礼します! 結崎君のお見舞いに来ました……あっみなさんも来ていたんですね! お久しぶりです!」
「おにーちゃん元気になった?」
「……お見舞い……メロン持ってきました」
病室にやって来たのはアイドルマネージャー白キツネのプロデュースで再デビューを果たした、真野山葵君とオレの妹のアイラ、アイラの相棒なむらちゃんの3人だ。
真野山君は超美少女に見えるが男の娘だそうで、相変わらず本当の性別は不明だが、春っぽいベージュのトレンチコートにリボンタイ付きのシャツとハーフパンツという女の子っぽいファッションで現れ、もはや普通の可愛い女の子にしか見えなかった。
妹のアイラは現役中学生アイドルらしく、ライトグレーのパーカーにフリル付きのパステルイエローのワンピース、アイラの相棒であるなむらちゃんはゴシック風のブレザーとスカートのセットアップでお嬢様スタイルだ。
なむらちゃんが大事そうに持ってきてくれたマスクメロンを見て、マリアが目を輝かせている。
「メロン! なむらさん、ありがとうございます‼︎ さあ、みんなで食べましょう!」
高級そうなマスクメロンを受け取り、仕切り始めるマリア……それオレのお見舞いなんだけど。
みんなでメロンを分けながら、元魔王の真野山君にもジュエルと不死鳥のことを聞いてみた……が。
「聞いたことはありますけど、おとぎ話なのかなぁ。懐かしいです!」
ニコッと可愛らしく答える真野山君、元魔王様の真野山君までおとぎ話だと考えているなんて……やっぱり本当に不死鳥は、おとぎ話なのか。
「そういえば、ショッピングモールで営業ライブをしていたら、魔族のオモチャ屋さんにこれもらったんです。新しいジュエルオモチャの試作品! よろしければ結崎君にあげます」
キラン! と輝く美しい手のひらサイズのジュエル。
イースターエッグのような模様が描かれていて、贈り物として喜ばれそうだ。
「ありがとう……いいのこれ?」
「はい! 元魔王のボクより、伝説の勇者がジュエルは持つべきですから……オモチャですけどね」
真野山君からジュエル(のオモチャ)を受け取ると、ジュエルがピカリと光った。
パキパキ……ぱりん!
まるで本物の鳥のタマゴが割れるようにジュエルが割れる。
「ピイ!」
オモチャのジュエルから出てきたのは、金と虹色の羽根を持つ……さっきまで何度も見たイメージイラストそっくりな……小さな不死鳥のヒナだった。
このヒナ鳥との出会いが、まさかの前世の因縁の記憶を蘇らせて、オレを新たな冒険の旅へと導くことになるのである。