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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第一部 異世界は人気スマホRPG編
44/355

第44話 元魔王様の新たな人生

 

 家出している内に魔王の座を令嬢カノンに奪われ、地位も実家も人気も無くした元魔王真野山君……。


 気がつくと大人気だったはずの自分のトレーディングカードは、半額ワゴンコーナー送りになっていて新たな女性魔王カノン姫が大ブレイクしていた。実家の古城に戻ろうにも「部外者の方はお引き取りください」的なことを衛兵に言われ、文字通り門前払いだった。


 おかげで、自分の部屋に置きっぱなしのゲームソフトやコスプレ衣装の回収すらできなかった。


『手のひら返し……か。あーあー……なんだよ、みんな……』


 自らの家出が原因とはいえ、今まで将来を約束された魔王として苦労をしたことがない真野山君にとっては、世間の風当たりの強さが身にしみた。


「ボクってワガママなのかな……あんなに魔王になるのが嫌だったのに、ここまで元部下達に冷たくされるとあの魔王の玉座が懐かしくなっちゃう……」



 * * *



 辛い現実に打ちひしがれながら、現在の居住地である現実世界東京都立川市に帰還。ちょっと遅いが、ATMでお金をおろして生活費を……と考えたが、今月から魔王としての収入が入ってこないのだ。


「そっか、カノンって子が新しい魔王になったから、ボク……もう魔王としてのお給料もらえないんだった。どうしよう……」


 若者特有のちょっとした家出のつもりだったのに、本当に家を出ることになってしまうとは……。

 現在時刻は20時、ビルが並ぶ街の夜空には控えめに小さな星が見える。本当は立川駅周辺のデパ地下で何か贅沢な弁当でも購入して帰りたかった。

 だが、魔王の収入というものを失った現在……今後の金銭的事情を考えて100円均一ショップで買い物を済ませ帰ることにした。


「えっと……あっ缶詰のカレーがある! これ、美味しいんだよね、これとお米で……あっでもダメだ。今日お米炊いてないし、レンジで温めるタイプのお米を買う余裕もない……インスタント麺にするしかないのかな」


 今後迫り来る経済的な困窮を想定して、1食100円で済むインスタント麺を購入する真野山君。


 本当に節約した食生活がしたい場合は、1ヶ月分の白米を購入して自炊でカレーを作るなり、工夫した方が良いのかもしれないが、家にある白米はあとわずか……。

 だからといって、新たに今月分の白米を購入する余裕すら持ち合わせていなかった。


「ただいまーって、誰もいないよね……。当たり前か、ボク自分で家出したんだもん。ふう、なんだか精神的にすごく疲れちゃったな」


 立川駅から徒歩15分程にある1DK家賃7万円の賃貸マンションに戻り、電気代節約のため灯りを1つだけつける。

 暗いマンションの部屋で、お湯を沸かし麺に湯を注ぎ、3分後無言で割り箸を割り100円ショップで買ったしょうゆ味のカップ麺をすする。


 静まり返る暗い部屋、ズルズルと麺をすする音と時計の針のカチコチとした音だけが辺りに響く。


 テレビをつければ、気がまぎれるのかもしれないが……。試しに、ちょっとだけチャンネルを回して様子を見るが早速カノン姫を大プッシュするCMが放送されていて、思わず消してしまった。

 カノン姫無双の現状で、異世界アースプラネットと交流を深めている現在の地球の番組はどうしても見たくなかった。


「せっかく和もうとしているのに、カノン姫のことばかり……いろいろ思い出しちゃうじゃないか。あの場所はボクの場所だったのにな」


 みんな散々ボクのことを世界一可愛いだの、嫁にしたいだの、あなたの為なら死ねるだの言っていたクセに……。

 飽きたらポイ捨てというひどい仕打ち、自分を捨てた者達への悔しさと哀しみゆえか美味しいはずのカップ麺のスープが、何故か涙としょうゆの味が混ざったように感じられる……ボクの心が泣いているのだろうか?


 これが、今日の元魔王アイドル真野山葵まのやまあおいの夕食だ。


(収入源が無くなってしまった。これからは貯金を切り崩して生きていかなきゃいけない……もうアプリゲームのガチャを課金することすら許されないのか)


 アプリゲームのガチャで、欲しいアイテムが手に入るまで課金し続けることが趣味だった真野山君……。課金したカネは、もう2度と戻ってこない。


 ガチャ三昧だった頃の自分の行いがこんな形で返って来ようとは……。そういえば、経済担当大臣にしょっちゅう注意されていたような……。


『また、スマホゲームとやらですか、アオイ様。課金ばかりしていてはそのうち後悔しますぞ! あなた様にはもっと勉強することがあるはずです!』

『もう、最近の人はみんなスマホゲームをプレイしてるんだよ。ボクだって年頃らしく、スマホゲーのガチャを思う存分楽しみたいんだっ』

『いつか、覆水盆に返らずになっても知りませんぞ! いざという時のために貯金くらいしなくては……アオイ様っ』

『わーい! 新しいガチャが来てる、この激レア新キャラが出てくるまで課金しちゃおっと』


 覆水盆に返らず……口うるさい経済担当大臣が課金しまくる真野山君によく説教していた格言が、頭の中で聞こえた気がした。



 * * *



『ピコピコポロリンポーン……!』


 淋しい夕食が終わりに差し掛かった頃、真野山君のスマホに電話がかかってきた。しょうゆ味のカップ麺をすすっていた割り箸を置き、スマホの画面を確認する……。


 元部下のアイドルマネージャー白キツネからだ。彼も魔王軍から抜けたのだろうか?

 本当は誰とも会話したくない気分だったが、無視するわけにもいかず、電話に出ることにする。


 白キツネのセリフはとても残酷なものだった。

『どうだい? 突然の部下からの手のひら返し、世間の風当たりの強さは?』

 クールな声でスマホ越しに囁く白キツネ……そんなことを聞きにわざわざ電話を?


『悔しくないかい? 見返してやりたくないかい?』

 真野山君の気持ちを知ってか、白キツネが真野山君を煽る。だが、真野山君にはもう現役魔王時代の自信は無いのだった。


「そんなこと言われてもボク1人じゃ何もできない……ボクは無力な元魔王なんだよ」


 すっかり弱気になった元魔王様の返事に、白キツネはフッと笑って言った。


『魔王様トレーディングカードコスプレコレクションB……。メイド服に浴衣衣装……なかなかいいトレカだったよ。特に魔法少女のコスプレはよく似合っていた』

「でもそのトレカはもう、半額ワゴンコーナー送りだった……。もうボクには価値がないんだ……」


 落ち込む元魔王真野山君……その時、真野山君の自室のトビラがキイと鳴った。

 小動物の影……美しい白い毛並みに赤い瞳の高貴なキツネ、それはまさしくスマホで会話中のハズの白キツネの姿である。


 瞬間移動呪文……いつの間にか真野山君の自室に上がりこんでいた白キツネ。思わず息を呑む真野山君の目の前に立ち、白キツネは一言告げた。


『僕と手を組んで、魔法少女アイドルとして再デビューしないか?』



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