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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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ハロウィンデート編5:ルーン会長と過ごす10月31日【後編】


「まぁまぁ! あなたがイクト君。ルーンの母です。よろしくね」

「父です。ルーンと仲良くしてくれてるんだね……ははは! てっきり兄のランターンみたいなインテリ風を連れてくるのかと思いきや、案外アクティブな感じの若者だな」

「ど、どうもはじめまして。えっと、ルーン会長はオレの双子の姉と同じ寄宿舎の女子校出身で。姉もいろいろとお世話になっていて……はい。よろしくです」


 ルーン会長にご両親は30代前半の容姿で『見た目が止まっている』そうで、ハーフのカップルである国際的なビジュアル。だが、日本語はベラベラで結構グイグイくる感じのアグレッシブな雰囲気だ。

 そのノリノリのご両親とは対照的に、ルーン会長は借りてきた猫のように大人しい。レースの白襟にダークブラウンのクラシカルなワンピース、黒いストッキングとヒールが大人びたファッションも相まっていつもより美人度アップ。メガネはヘアバンドとしては使わず、今日はクラッチバッグにしまってあるそうだ。


(ルーン会長……メチャクチャ可愛くて美人で……ホテルのお客さんもみんなこっち見てるし。こんなに綺麗なルーン会長と、いきなりご両親込みでデート出来るなんて。オレって今回のハロウィンで、女運をほとんど使っているんじゃ……)


 トキメキでドキドキする胸を抑えつつ、待ち合わせ場所の一流ホテルのラウンジで一杯1,500円くらいのコーヒーを飲みながらお話しをする。その後、ホテル最上階の高級レストランで景色を眺めがら食事会……ハロウィン仕様のコースセットを頂きながら面接は続く。


「そうなの……双子のお姉さんがうちのルーンと先に仲良くなったのね。ええ、それで……ああ、お姉さんの方はもうご結婚されて。まぁ!」

「おや、食事が来たようだな。今日はルーンの誕生日でもあるからね、私達の奢りだからイクト君も遠慮なく食べてくれたまえ」

「はっはい。ありがとうございます」


 次々と運ばれてくるコースは、おそらくもっとも豪華なプランだ。鯛のムニエルやキャビアの飾りが豪華なスモークサーモンなど、黒毛和牛のステーキは最高ランクでご両親の奢りでなければオレとルーン会長の年齢で食べるのは躊躇するレベル。


「じゃあルーンの19歳の誕生日を祝って……おめでとうルーン!」

「うふふ。ルーンおめでとう」

「ルーン会長、おめでとうございます」

「あ、ありがとう……」


 タイミングよく運ばれてきた誕生日ケーキのろうそくを消し、本格的に食事会が開始。大人ムード溢れるコース料理と思いきや、流石にハロウィンメニューだけあって、かぼちゃやコウモリを意識した飾りが可愛らしくて和やかだ……ちょっぴり癒されつつ会話は続く。


「ルーンはね……メガネキャラを貫いているように錯覚しがちだけど、実はそんなに視力は悪くないの」

「あっそういえば、ルーン会長は頭にヘアバンドのようにメガネを装備しているだけで、魔法を使う時以外はメガネをかけていないですよね」

「何故、視力がそれほど悪くないのに魔法使用時にのみメガネが必要なのか、など謎が多かったが。父さんは聞いて驚いたよ……。イクト君は、もうルーンから事情を聞いているかね?」


 世間話から始まり、話題はルーン会長がいつもヘアバンド代わりのつけているメガネの話題に。サ終に向けて伏線を全力で回収するらしいので、その辺りの秘密も判明するようだ。


「このメガネは、パソコンから発生するブルーライトを防止する役割なんだ。スマホRPG異世界で魔法を使う時にも、何故か魔法の粒からブルーライトが発生しているそうで。欠かせないアイテムとなってしまった」

「あっ……そういう事情だったんですか! 全く気がつかなかった!」


 今明かされるルーン会長のメガネ事情……お兄さんのランターンさんもメガネだし、てっきり視力の関係だと思っていたが。


「ふふっそんなこと言って……本当はお兄ちゃんに憧れてメガネにしたのよね」

「お、お母さん! もうっ……」


 そういえば、今回の誕生日祝いハロウィンの食事会に兄のランターンさんの姿はない。もしかして、あのレストラン受付付近に飾られているカボチャランタンが……と思ったが、この時期はカボチャランタンだらけなので『兄さん』がどれなのか判別は難しい。

 ルーン会長のお兄さんは、不思議とこの時期だけカボチャランタンに変身してしまうのだ。あまり深く追求しなかったが、何か理由があるのだろうか。だが、食事中の会話は魔法の話などはほとんど出ずに、ランターンさんの秘密は不明な状態……。

 そのまま幕を閉じるかと思いきや、ふとルーン会長のお父さんが遠い目をしてランターンさんへの感謝の思いを述べ始めた。


「死者である我々が、こうしてハロウィンの日だけでも肉体を持てるのは全てランターンの魔法のおかげだ。ランターンがカボチャランタンの姿に変化する代わりに我々は『人の姿』に戻ることが出来る」


 そろそろ食事会もお開き……というところで、ルーン会長のご両親に活動限界が来たようだ。ルーン会長のご両親は、本来ならば交通事故で12年前に……亡くなっている。

 眩い光に包まれながら、魂に戻りつつあるご両親がルーン会長に最後のメッセージ。


「私達夫婦が事故で死んだのはルーンがまだ幼い頃でね……あまり思い出がないの。それで、息子のランターンが身を呈して……でも、その魔法も今年で終わり。ルーンは来年ハタチになる……大人になったら子供のためのハロウィンタイムは過ごせない」

「イクト君、今日は我々のわがままに付き合ってくれてありがとう。我々はルーンが結婚する姿は見れなかったが、なんとなく将来への不安は消えたよ。ランターンも……ありがとう。ルーン、素敵なレディになるんだぞ」


 キラキラと光になって消えていく両親に、ルーン会長は気丈に返事をするが……最後は涙声になって……言葉が続かなかった。いつも頼れるお茶目な天才賢者ルーンは……本当は寂しがり屋の大人になりきれていない等身大の女の子だ。


「お父さん、お母さん……! 私、頑張って2人に恥じないように、素敵な女性を目指すから……だから……ううっ……ひっく……」


 どうやってルーン会長に声をかけていいのか分からなくて、無言で背中をさする。こんな時、萌子だったらもっと気がつくのだろうけれど、ルーマニアでリゲルさんと新婚生活中の萌子は長いことこのゲームにログインしていない。正確には、萌子たちは国外に引っ越したため、もうこのスマホRPGをプレイ出来ないのだろう。


 入れ替わるようにどこからともなく、現れたのは兄のランターンさんですでにカボチャランタンではなく、金髪碧眼のメガネイケメンの姿だった。


「イクト君、今日はありがとう……僕からもお礼を言わせてね」

「いえ、僕も貴重な記念日をご一緒させていただいて……嬉しかったです。けど……本当にオレで良かったんですか?」


 本当にこんな大切な日の相手が、オレなんかが相手でよかったのだろうか? クエストの延長線上で、人生の大切な記念日を共にしてしまって……。だが、ひとしきり泣いて落ち着いたルーン会長から出た言葉は意外な一言だった。


「ふふっ。実はね……私はちょっぴり『男アレルギー』なんだ。女子校暮らしが長かったせいか緊張でカチコチになる時があるんだよ。でも、萌子さんにそっくりなイクト君相手なら、かろうじて平常でいられる。だから、キミでよかったんだ……ありがとうイクト君! さあ、そろそろ出ようか」

「ルーン会長……はいっ」


 その表情は、先ほどよりも少しだけ大人びて見えて……ちょっぴり大人の階段を登り始めたことを実感させられた。



 * * *



 肌寒くなってきた高級ホテルの屋外広場では、ハロウィンイベントの真っ最中。賑やかな音色とともに『トリックオアトリート』の声と仮装の人々。雰囲気に飲まれそうになっていると、一応デート中のオレ達に気を遣っているのかランターンさんがお暇の合図。


「兄さん……?」

「賑やかだね。明日まではハロウィンのイベントを行うらしいから、それまで悔いのないように楽しむと良いね……じゃあ、僕はこの辺で。ハッピーハロウィン!」

「ハッピーハロウィン。ランターンさん。ルーン会長……その、オレで良かったら。これから『ハロウィンデート』の続きしませんか?」


 ほんの少しだけ勇気を出して、ルーン会長に改めてデートのお誘い。出来るなら、『萌子の弟のイクト君』ではなく、フィルター抜きのオレを見てほしい。


「……! イクト君……ええ、是非!」



 オレが差し出した手にルーン会長の細い手が、そっと触れた。最後になるであろう異世界でのハロウィンは、まだほんの少しだけ続くのだ。


 ――あなたにも……ハッピーハロウィン!


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